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良し悪しの色とりどり  作者: 黒檸檬
一章 能ある鷹は爪を隠す
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7. 何もせず帰りたい時もある


 学校生活は非情である。

 春休み明けで頭は鈍っているというのに、新学期2日目にして授業が行われる。これを非情と言わずして何と言う。頼むから誰か授業日程を変更してくれ。


 当然、無理だと分かっているが心の中ぐらい文句を言っても、構わないだろう。

 表現に規制がかかる事は暫し起こりうるが、思想良心は自由だったはずだ。

 

 にしても、初っ端は現代文か……

 教卓を見ると、うちのクラスの担任がいる。俺にとっては去年と同じ担任。まぁ1年間教わった限り、割と嫌いじゃない。


「いつも黒板ありがとね。さて、じゃあ、試験の説明ね。噛み砕きまくって言いますと、今年度は三次試験まであって、一次試験はかくれんぼ、二次試験は知識力、三次試験は各々でバトルって感じ。もちろん途中で負けちゃうと脱落しちゃうから気をつけて」


 前日の板書が残った黒板を消した生徒に礼を言った後、試験について説明しだした。どうやら現代文の授業で学活の続きをするらしい。


「かくれんぼで人数がかなり絞られるはずだから気をつけること。あと相手を殺すのはダメ、警察行きね。うーん、大事な事はこのくらいかな? 何か質問ある人いる?」


 当然の事ながら殺してはいけないらしい、俺の能力は攻撃向きじゃないが、気を付けよう。


「せんせー、さっきから気になってんだけど、かくれんぼってなにすんの?」


 いまいち名前を思い出せない陽キャラの男が敬語を一切使わずに喋り出した。

 個人的には陽キャか嫌いだが、俺も『かくれんぼ』の内容を多少気になってたので、有難い。


「あんまり言えないんだけど、何個かの会場にチームごとで別れて、そこで隠れてる先生を見つける感じかな。偏差値の低い高校の先生だからって、侮ってると負けちゃうよ。先生は強いからね。それと桐島きりしま君、次敬語使えなかったら現代文の強制補習だから、覚えとくように」


「なんだと……」


「うん? あれ? 敬語・・じゃなかったようなー」


「すいません……で、した」


 あぁ、桐島きりしま 雄黄ゆうきって奴はこいつか。俺なんぞに回ってくる世間話にも登場する程、有名な馬鹿だった。話の内容は、授業を脱走しただ、髪を染めて家に帰されただ、物を壊しただと様々だ。

 よく見れば集会で騒いでるのも、あの顔だった気がするな。不幸な事にクラスメイトになってしまったが出来れば、関わりたくないものだ。

 

 どうでもいい事はさておき、『かくれんぼ』の内容を聞かされた教室ではコソコソ話が始まっている。


 俺の前後の女子も例外ではないらしい。


紅里あかりちゃんは人探すの得意?」


「え……どうだろ」


 誰でもこんな反応だろうな。

 人を探す事に得意、不得意を初めて意識する方が一般的。

 まぁ、この能力溢れる世界なら、持ってる能力によっては意識している奴もいるかも知れないが


「だよね、普通に人を探すなら出来そうだけど試験ってなると難しそうだよねー」


「それに、かくれんぼは小さい時以来やってない……」


 小さい時は俺もやったなぁ。流石にかくれんぼ等の軽い遊びをする友達ぐらいは居たさ。逆にその時居なかった、そして今も居ないのは、それ以上をする友達だからな。

 友達の家にお泊まりとかした事ないですよ、はい。


「もしかして今日の授業で……」


「しませんよ。説明が終わったので普通に授業をします」


 葉月はづきさんの発言を聞いていたようで、先生は授業をすると宣言した。


 流石に、かくれんぼ、はしないよな。そう、前の女の子に、聞こえるよう口にしてやりたいが、既に耳が真っ赤に染まっている。

 大方、本人は小声で喋ってるつもりだったのだろう、それが先生に聞こえていて、返事が帰ってきた事に恥ずかしがってる。


 まぁ前の女子は葉月さん、なのだが。

 

 これは仕方ない面もある。彼女の声は周りより少し音のトーンが違う。そのせいか真っ先に聞き取れてしまい、よく先生に注意されてる。

 少々特徴的な声なのだが、俺は嫌いじゃない。


「では、現代文の教科書を出して」


 担任の先生は現代文の先生だ。

 先程、生徒の敬語を指摘したあたり、他人の言葉には時折厳しい。

 

「ページは、34かな。目次は各自で目を通してくださいね。最初なので多分、簡単な文章ですね、じゃあ桐島君呼んでください」


 指名したのは、敬語が出来てないと注意された奴にだった。この先生のこうゆう所が良いんだよな。


「えっ、聞いてませんでした。何ページですか?」


「ーー34ぺージです」


 一瞬の沈黙。その後の言葉は、僅かに怒り気味なのを感じる。しかし表情はご機嫌そうで、怒ってるような声は、演技だったようだ。


「もう、仕方ないですね。私が全部読みますから。みんな、くれぐれも寝ないでくださいね」


 どうやら、呆れてしまったようで先生が全部読んでくれるらしい。俺に回ってくるのは厄介なので、助かった、ありがとう陽キャラ君。

 


「現代の女性はみんな⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」



*****



「はい、これで終わりですが……結構寝ちゃってるよ。一時間目はこれで終わりですけど、残りの時間はしっかり受けてください」


 葉月さんは手の動きからして絵でも描いてた筈だ、じゃなかったら今頃寝てる。

 篠原しのはら 紅里あかりは如何だろうか。寝ている雰囲気は感じなかったが、後ろを振り向く勇気は俺には無く、分からなかった。分かったところで如何ということは無いのだけれど。


「あー、疲れた。ねむ、ねむい〜。紅里ちゃん寝なかった?」


「ふぁ⋯⋯。うん、ぎりぎり大丈夫だった」


 授業が終わり、休み時間になった途端後ろの席へ葉月さんは歩み寄って、世間話の始まり始まり。


 さて、2人の世界を邪魔しないよう、御手洗いにでも行きますか。


*****


「かくれんぼがしたかったなー。それだったら眠くならないし、楽しいにね」


「そうだよね、試験当日が不安。そういえば先生ってどんな能力なの?」


「あー、佐川さかわちゃんは使えないよ。去年、自己紹介してた時能力はないって言ってた」


「なんか、悪い事聞いちゃったね」


 意外だった。能力が授業に織り込まれた結果、今時の教師は能力を教える為に、みんな能力を使えるものだと思っていた。

 そもそも、教員試験で能力の暴走など、不測の事態への対応力を測るテストがあると聞いた事があるけど、噂は噂だったのかな。


 私がこの二日間見た限りでは、あの先生はどこか飄々としてて、只者ではない感じだったのに、気のせいだったのか……


「っと、そろそろ次の授業だー。ありがたい事に午前授業だからがんばろ!」


「そうだね、あと三時間寝ないように頑張る」


「うっ、具体的な数字を言われるとつらいよ……」


 ごもっともだ。言い出した私も「辛い」と感じてきた。これは悪いことをしてしまった……


「ごめん……」


「ううん、気にしないで。とにかく耐えよう」


「そう……だね」


 お母さん曰く、私は寝ている時に鼻をピーピー鳴らしてる事があるらしい。

 これは死活問題である。朝シャンをして眠気が覚めた筈だったのに、もう既に眠い。弱った……鼻の音を聞かれてしまったら死ぬしか無い……。

 絶対に寝まいと心に決めて、残りの授業に挑む私だった。


*****




「はー、やっと終わった! やばい、久々の授業がつらい!!」


 疲れて壊れ気味の葉月さんの大声が、教室に響く。 

 相変わらず、響く声で、クラス中が発言元の彼女を見ている。

 中には騒がしさに苛立ちを覚える者もいるにはいるのだが、過半数を占めるのは同感する者で、彼女がクラスで相当好かれているのが、目に見えて分かる。


「葉月さん、また騒いでる。帰り学活するから座って、座って」


 普段なら静かにならないはずの教室も、はやく帰れるからか。すぐに大人しくなった。


「今日の連絡、配布物は特にないけど明日について一個。明日はやりたい人は模擬戦しててもいい事に決まりましたー。参加者は体育館か格技棟に9時に集まってね。参加しない人は見学しえもいいらしいよ。以上! 今日は終わり、解散!」


 さよならの礼をせず終わるのは、最初の頃は違和感満載だったが慣れれば、全く気にならないな。

 どちらにせよ、学校が終わったので帰ろう。急いで帰ろう。家が俺を待っている。


「紅里ちゃーん、模擬戦には出るの? 私は出ないけど」


「やめとく、でも見学はしたい……かな」


「情報収集は大事だもんね。御盾君は? っていないし、ほんと帰んのはやすぎ」



 俺は終わった瞬間に教室から出ている。呼び止めても時既に遅い。


 ぼっちは何故か歩くのが速い。

 俺は基本ぼっちで、歩くのは速い。既に自転車に乗って校門を出ようとしている所だった。

 何処かに寄り道する必要は無いな、さぁ帰ろう。


 こうゆう所が友達が増えない理由かもな、とは考える時もあるが……なんか早く帰りたいじゃん?



「まぁ、いいや。じゃあね! またあしたー」


「うん、橙火ちゃん、じゃあね」

 

 今日は親睦会のようなイベントはない普通の日常。

学活をやって授業を受けて、何事もなく1日が終わっていった。



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