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良し悪しの色とりどり  作者: 黒檸檬
一章 能ある鷹は爪を隠す
5/18

5. 普通に親睦会

 

 家に帰る人、教室に残る人、新学期早々部活に励む人、三者三様な放課後を皆が過ごす中、俺達は教室を出てった。


 話の流れで今日は親睦会を開く方針で固まったのだが、行き先は決まってない。

 まぁ、所謂、陽キャラの葉月はづきさんが仕切っているのだ、歩きながらでも決まるだろう。

 それに提案した当人である葉月はづきさんは、俺と転校生。もとい篠原しのはら 紅里あかりを有無を言わせず連れ出したので、行く当てはあるのだろう。


 転校生の呼び名がフルネームなのは、俺の中で未だ、呼び方が決まってないから。

 もっと言うと、なんて呼んだらいいか分からないから。それだけである。


「ほら、紅里ちゃん転校してきたばっかじゃん。ここら辺の案内もしてあげたいし。ねっ、良い考えでしょ、紅里ちゃん?」


「うん、引っ越してきたばっかで、全然分かんないから助かるよ」


「こう、言ってますが御盾君、何か言いたいことでもありますか?」


 思考を読まれてるのか? 内心、俺の意見を聞かずに話が進んでくなーと、僅かな不満を抱いていた。

 これも、短くない付き合いのせいか。そう思えば葉月さんとの関係性が続いた証拠みたいで、こそばゆいな。


「いや、何もありません」


 まぁ、いつも通り素直に言わないが


 その後は、俺には目もくれず、女性陣は案外気が合うのか盛り上がって、無事に行き先も決まったようだった。

 そんな2人を邪魔しても悪い。その後ろを、見失なわない程度に距離をとって歩いた。


*****



 御盾みたて 灰十はいとが女子2人の後ろを距離をとって歩いている時には、こんな話もあった。

 当然、この距離で彼には聞こえてない。


 知らない話というのは、人伝で語られる他、知る手段は無いだろう。

 故にこの先、彼には知ることの出来ない話がここにある。ちょっとした話ではあるけれど。


「好きな食べ物って何?」


 いくつもお互いの事を聞いて、話してを繰り返す中で、好きな食べ物という無難な話題に落ち着いた。


「フレンチトーストとかホットケーキとか甘いものかな……橙火ちゃんは?」


「よくぞ聞いてくれました、あたしの好きな食べ物はチョコレート!! 基本甘いのが好きなの、一緒だね 、ふふ。今向かってるカフェにデザートたっくさんあるからお楽しみに」


「それは楽しみ」


 ふと、近くに男の子。確か御盾君がいない事に気づいて、私は後ろをチラッと振り返る。

 私達から、ちょっと離れて歩いてる姿が見えた。どうしたのかと不思議に思う。

 それを見てしまった私は何を思ったか、彼を自然と気遣っていた……


「あ、でも、御盾君はカフェでいいのかな……」


「いいの、見た目がほんの少し厳ついけど、彼も甘党だから」


「ーーーー甘党なんだ」


 見た目に反した属性に、純粋に驚いてしまう。それに、私達の小さな共通点を嬉しく思う。


 自己紹介をしあった時も、彼は必要の無い自虐を織り交ぜてたっけ。


 ーーーーーー面白い人だなぁ。


 ほんの少し興味を抱いてしまう。


 どこかに私と同じ部分があって、でも全然違うんだろうとも思ったりする。

 特段、彼の事を知り尽くしてる訳じゃ無く。何の根拠もない感想。

 その感想に、色恋沙汰のかけらは無いにしても、彼とは仲良くしてみたいと勝手に思っていた。


「御盾君って、どんな人なの?」


 だから聞いてしまう。


「うーん、皆んなも知ってそうなのは、定期テストの順位が高くって、結構頭が良いとかかな。あーそれは違うか。本人が言うには頭が良いってより、記憶力がいいんだってさ。ま、確かに頭が良かったら、世渡りも上手いはずだもん、友達が極端に少ないなんて有り得ない」


「それでも凄いね。記憶力が良いって羨ましい……。私、覚えるの苦手」


 物の場所とか、教科書を家に忘れるとか、昨日のご飯だとか、何しようとしてたっけとか、そんな些細な事を指して言ってない。

 覚えてられないのは、例えば去年。前の学校で私がしたこと。事の始まりと終わりは覚えていても、中が思い出せない。

 思い出に靄がかかったようで、どうにか記憶から取り出そうとしても、出てきてくれない。向き合わせてもらえない。

 

「私の記憶力だって凄いから、特に歴史系に至っては遥かに上を行く記憶力の無さ、に自信があるよ!」


「あはは……」


 彼女らとの付き合いは余りに短すぎて、苦笑いを浮かべるしかなかった。


「あとは、意外と気遣いの良いとこが救われないのよねー」


「えっと、どうゆう意味?」


「あはは、分かんないよね。彼のはね、人が気づきもしない気遣いと、人の気にしない気遣いしか出来ないっぽいの。コミュ障による一種の完成系みたいねー」


 あぁ、分かった……

 この距離感、私達から離れて歩く理由はそこにあるのか。

 橙火ちゃんの話を聞いて出た、勝手な推測であるけれど。これは気遣い、一緒に歩くのが嫌とか、まして見られるのが嫌とかじゃなく。


 一緒に歩いて私達の会話に邪魔をしないため。放課後という、ある意味特別な時間に、男女が一緒に歩いてるのを見られてあらぬ誤解を招かないため。


 もしそうなら、杞憂だとも思う。

 今時、放課後に男女が一緒に歩く姿は珍しくない。それに、邪魔なのは転校してきた私の方だろう。元々の2人の関係性があって、そこに入り込む形になった私こそが邪魔であるはずなのだ。


 ここで、思い至る。

 そうか、杞憂する姿になのか……

 共通点。まだ覚えている自分の能力によって起こってしまった、前の学校での終わりのおはなし。

 それを理由にして、今でも全力を出そうとしない私。

 もしかしたら、杞憂なのかもしれない。前の学校が悪かっただけで、新しい学校では受け入れてもらえる可能性だってあり得るのだ。

 けど出来ない。杞憂は恐怖によって生まれ出る。

 失敗による恐怖が行動を縛り付けてくる。


 きっと彼も一緒。杞憂は恐怖から、恐怖は失敗から、頑張って間違えて、それで折れた同類。


 だから、興味がある。彼が気になる。

 違うか、同類であって欲しい私の醜い仲間意識なのかな…………

 


 これは、単なる推測。

 既に心の折れている女の子が語る妄想。

 妄想と言えど、そこに間違いは無く、御盾 灰十も失敗した側の人間である。


 つまり、同族の彼が心を開ければ、簡単に篠原 紅里と友達になれる。それを言いたかった。



*****



 約10分程、自転車を押し歩く。長らく会話に花咲かせる2人を遠目で眺めながめていたが、どうやら目当ての店に辿り着いたらしい。

 なるほど、ここならデザートに食事、飲み物はカフェらしいコーヒーだけでなく、ソフトドリンクもある。

 俺の意見は聞かれていないが、悪く無い場所選びだった。ここには、試験に備えて話しておきたい奴もいるしな。


 「ついたよ〜」


 想像とは違った古風なカフェの前に橙火は足を止めて紹介している。目的地に着いたなら、2人を待たせる迷惑はかけられないので、早歩きでなんとか追いついた。


 そして、年期の入った扉を開き俺達は中へ入る。店内は外観とはうってかわって綺麗で現代風の内装といった感じだ。


「いらっしゃいませ」


 篠原 紅里が店内を観察していると、執事のような姿をした端正な顔立ちの男性店員が声をかけてくる。

ーーーその声に何らかの惹きつける力を感じ気分が悪くなった


「大変申し訳ございません。私自身能力の制御が未熟でして……」


 謎の嫌悪感を感じてしまった私に、店員さんは随分慣れた事のように、謝罪をする。


「この店員、魅了とか言う悪趣味な能力持っててな、その癖使いこなせてないんだよ、この歳で。嫌なら【保護】しますよ」


 手を出しながら、俺は説明と提案をしてみる。こんなの柄じゃないが……。女子が嫌な顔をしていたから、人によっては心を痛めもする。

 彼女はその提案に乗って、手を差し出した。

 優しく触れて、彼女の全身を【保護】する。

 奴と会う時はいつもやってる事。自分の身体で慣れている。手を起点にして、スムーズに全身を覆うような【保護】をかけて、手を離す。


「はやく席に案内してよ〜あたし結構限界、座りたい……」


「申し訳ありません、橙火様。ではこちらへどうぞ」


 店内に入ったのに全然席に座れなかった事に待ちきれなくなった橙火が不満げに呟く。

 その文句を奴は逃さず、丁重に対応した。

 何故、葉月さんにだけ様付けなのかと、聞いたことはあるのだが、話を流されたので理由は知らない。


「では、御注文がお決まりになったらお呼び下さい」

 

 メニューが差し出されて席に着く。左右2人ずつ座れるテーブル席に、葉月さんと篠原 紅里が隣り合わせ。当然、俺は1人で座る。


「なににしよーかな」


「何が美味しいんだろ」


「逆向きじゃ見にくい…」


 各々がメニューを眺めてるが、俺だけ反対側に座ってるので逆さで見辛い。もう1つメニューがあってもいいと思うが、奴なりの嫌がらせなのかもしれない。


「よーし、あたしは決めたよ」


「私も決まった」


 急かすように主張した女性陣、まだ決まっていない

俺は当然焦っだが、まぁ、あまり悩まず「俺も」と声を出しておく。それを聞いた葉月さんは先ほどの店員を呼んで、


「あたしは、ホットチョコとチョコパフェ!」


ーーーーチョコ好きと豪語するのに相応しい注文を


「私は、ブレンドコーヒーとホットケーキで」


ーーーー少し大人っぽさも混じった注文を


「俺は、ココアとミルフィーユで」


ーーーー甘党らしく統一感はない注文を


「かしこまりました。ごゆっくりお過ごし下さい」


 店員は注文を受け調理場へと華麗に向かって行ったが、その姿はどう見ても執事にしか見えない、テキパキとした動きだった。


「珍しく声出してたね、なんかあったの?もしかして練習したの?」


 普段はコミュ症を存分に発揮し、注文を聞き返される事が多々ある俺に向かって葉月さんは揶揄ってくる。

 きっと、不治の意地悪な性格故に自然と毒が出てしまっているのだ。彼女自身に悪気はない。そうしておこう。


「気のせいだろ、一応言うが練習はしてない」


「そうなの……でも、コミュ症は治したほうがいいよ」


 今日、1番の真面目な声色で彼女は言う。こう見えて葉月 橙火は、彼の事を本気で心配しているのだ。そんな思いとは裏腹に御盾 灰十は恒例の「意地悪か」と呆れ、ため息をつきつつ。余計な一言を呟いてしまう。


「はぁ……余計なお世話だ」


「あー、なにその言い方。ひどーい! いくら、あたしでも傷つく!」



「ーーーー悪い、言い過ぎた………すまん」


 かなりあっさり俺が先に折れ、言葉を選びつつ謝る。まったく、彼女相手に俺は弱いな。


「ちょっと怒った。御盾君抜きでガールズトーク始めちゃうからいいもん! ねー紅里ちゃん」


「……え? 私はいいけど、いいの?」


 お邪魔虫のような状態だったから、篠原 紅里は静かに2人の話を聞いていたが、突然話を振られてしまった。


「いいの、いいの、御盾君が悪いんだから! それより紅里ちゃん家どこらへん? 遠かったら途中まで送らなきゃだし」


「えっと、小野田公園ってとこの近くなんだけど、ごめん、此処からの帰り道は分からない……」


「あぁ、あの公園……こっから割と近いよ。このカフェにして正解だったよ。道は教えたげるから大丈夫!」


「ありがとう。じゃあ帰りはお言葉に甘えて送ってもらいますね」



 宣言通りガールズトークが始まってしまい、敵だらけのテーブルになってしまったから俺は席を立つ。


 向かった先は「スタッフ以外立ち入り禁止の部屋」だ。ここには先程の魅了持ちの店員が今まさに、休憩している所だったが、俺は御構い無しに邪魔をする。


「なぁ、まだか? 暇過ぎて死にそうなんだが」


「私は今、休憩中なのだが……。それ以前に君には立ち入り禁止の文字が読めないのか?」


 勤務中には、執事のように振舞っていた彼だが、休憩中だと少し態度が違う……御盾が相手だからなのか、彼は気を許しているようだ。


「ガールズトークが繰り広げられてて、場違いな気がしたから逃げてきた」


「君の性格には呆れる。彼女らと友人なら君も混ざればいいだろ、私とは普通に喋れるじゃないか。しかも自分から進んで……」


「いや、お前は男だ。一応知らない仲じゃないから平気なだけ、そんな事は置いといてくれ。ちょっと頼みがあるんだ。伝導体の金属と、絶縁体の物と、半導体の金属の砂を用意してくれないか? なるべく早く頼む」


 戦闘時、俺は能力である【保護】の新たな使い方を模索していた。そこで目をつけたのが砂だ。普通の砂を【保護】する。【保護】するのは砂自体じゃなく、砂と砂同士の結合部分。それを繰り返して一本の棒にして武器にする算段だ。

 そして、今回は電気を使う篠原 紅里との相性を考えて3種類の金属を要求した。


「3種類か……まったく、面倒だ」


「悪い。あと1人のメンバーが今日決まったんだ。文句なら葉月さんに言ってくれ」


「なら構わない。彼女にも考えがあっての行動だろう」


 相変わらず、こいつも葉月さんに甘い。案外気が合うのもそこが所以かもな。


「ーーーーでは3日後に店に来てくれ、それまでには完璧に揃えて置こう」


「あぁ、頼んだ。3日後からならこっちの調整も余裕で間に合いそうだ」


「そうか。そろそろ、テーブルに先程の注文が来ている頃だろう」


 見た目執事の奴は遠回しに早く出て行け、と言わんばかりに部屋から俺を追い出そうとする。

 言わずもがな用事は済んだ。当初の目的だった暇つぶしも果たしたので俺は背を向けて右手を振った後、部屋を後にした。


*****


「どこ行ってたの? もうミルフィーユ来てるわよ」


「悪い、ちょっと用事をなーー待て、どうして俺のミルフィーユがちょっと減っているのか説明を頂きたいのだが?」


 葉月さんが注文が来てることを優しく教えてくれて、油断した俺は気付くのに一瞬遅れてしまう。


「ごめん、美味しそうでちょっと貰っちゃった笑」


「ーー実は私も……ごめんなさい」


 予想もしてなかった2人目の容疑者の自白に肩をすくめて、最早癖である溜息をつく。


「まぁ過ぎてしまったことは仕方ない。その代わりに一口頂く」


「えー、しょうがないなー。けどあたしの使ってるスプーンで食べなさい! それならいいよ」

「もう一口分、置いてあるから。ほんとごめんね」


「そうなのか、ありがと、美味しく頂きます。葉月さんのは……遠慮しとく」


「なんでよーいいじゃん間接・・でも。あたしは気にしないよ」


 いかにも思わせぶりな態度で葉月 橙火は、またもや意地悪を開始した。しかし灰十にとっては慣れたものだ。


「いや、俺が気にするから無理」


「ーーーーずるい、そんな事言われたら……あたしの負けじゃない」


「はぁ……」


 意味が分からん。軽口に軽口を重ねるいつもの事だろうに。そもそも、途中で恥ずかしがるならこの種類の揶揄いは正直やめて欲しい。平静を装うのにも苦労するんだ、こっちは。

 

「大人しく食べよ! ね?」


「そうだなーーうん、そうしよう」


 明らかに動揺してしまい変な空気になったのを当人で直していく。

 決して、残念がっている訳では無い。クレープは食べたかったな、スプーンは……当然自分ので。


「あっ、そういえば2人の能力は正式になんていうの? お互いの能力を少しは知りたいなと思って」


 篠原 紅里れ変な空気を直すため努力する事になってしまう……。一応、インクと保護と聞いてはいたが薄っすらとしか知らないので、本人はいい質問をしたと思っている。


「俺のは【保護】。触れたものを保護するってだけだ」


「あたしのは……インクかな書いたものとかが、空中に残ったりするの」


「へー、2人とも珍しいよね。前の学校ではそんな能力の人いなかった」


「そんなことないよー、インク使う人なんて割といると思う。テレビにだって出てる事もあるんだし」


 橙火の言う通り、能力がインクの人は割といる。けれど空間に残せるものは珍しい、世間では紙に書いた字や、描いた絵が紙の上で動くとか、インクを水のように操るぐらいしかいない。

 それに比べて橙火は空中(・・)に書け、描ける。空中なんて説明しているが、その実態はインクが世界に残っていると言うのが正しい。

 それを無駄に言いふらす馬鹿では無いのだ。


「俺は珍しいのかな多分。他に会った事ないし」


「それは、単に人に会わないだけでは?」


 調子を取り戻したのか再び意地悪が始まったように見えた。私は心の中で安心していた。


「ーーそうかもしれないけど、実際どうなんだ?」


「私は会った事ないよ、御盾君が初」

「まぁあたしも会った事ないし、見た事もないよー」


「そうか、人と違ってるのは嬉しいけど、目立つ可能性がある点は嫌だな」


「わかる、その気持ち。私も一時期、悪目立ちしてた時期があって、それからなるべく目立たないようにしようって決めた」


「もったいない、目立った方が楽しいじゃない! それに、目立たないようにって自分が制限されてる感じがしてやだ」


 1人だけ方向性の違うチームだな。バンドだったら方向性の違いで解散になりかねん。


「すごいね、私には真似できなさそう…」


「大丈夫だ、こいつが異常なだけだ。けど……来週の試験では俺は本気で行く、そう決めた」


「約束だもんね。今回、あたしは楽しんで、楽しみまくって、そんで勝ちたい。勝って、楽しみたい。何より紅里ちゃんと仲良くなりたい!」


 今までになく感情的になって、訴えていた彼女に強い意志を、やさしさを感じていまう残り2人てあった。



「ありがと、私がんばるよ」


「紅里ちゃん……ありがと。それとあたしの自分勝手な目的に付き合わせてごめん」


「平気。少しだけ頑張ってみる、だから……ううん、何でもない。」



 篠原 紅里は弱い、心が弱い。だから今も「裏切らないで」と言いそうになっていた。

 離れられるのが怖いから、嫌われるのが怖いから。それをされたくないのに、言えもしなかった…こんな私と仲良くなりたいだなんて、まだ信用できない。そう思ってる自分が嫌いだなんて思ったりする



「3人で頑張ろうね。目指せ学年1位!」


「ーーーーーーー」(微妙に手を挙げる紅里)

「ーーーーーーー」(頷く俺)


「いやいや、こうゆう時はさ、声出してよ〜2人とも〜」


「悪い、円陣と似ててな、俺には無理だ」

「ごめん、ちょっと恥ずかしくてダメだった。」


「いいけど、がんばろうね2人とも」


 温度差が生じたため、葉月さんはホットチョコを飲みつつ話をまとめる。それを見た紅里は罪悪感を感じたように見えたが、正常を演じるためコーヒーを飲みコップで顔を隠した。

 かく言う俺は、マイペースでココアを飲んでいた。


*****


 それからは、気詰まる事なく楽しい時が流れ、やがて外は暗くなっていく。さて、この親睦会にも終わりが近づいてきました。


「そろそろお開きにする?」

「そうだね、もう暗いし。すごいあっという間だった。2人とも今日はありがと」


 なかなかに楽しめた。行くと決まるまでが苦痛だが、行ってみれば存外楽しい。

 終わる頃には、いい一日だったと言えてしまう俺は頭幸せなのかもしれないな。


「それは、よかった。じゃあお会計して帰ろうか? 約束通り、紅里ちゃん道わかんないだろうし、私達が途中か家まで送るよ」


「ありがと、頼らせていただきます」


 まだ土地勘が無い篠原 紅里では、今日知ったばかりの店から、自宅でさえ簡単に辿り着けそうにないので、頼らなくてはならない。

 女子だけで、夜道を歩くのは仮にも男として放っておいては不味い。なので、勝手に一緒に送る事になっていても文句は無いさ。


「ごちそうさまでした、また来るねー」

「ごちそうさまでした、美味しかったです」

「…ご馳走様」


「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」


 会計を済ませ、揃って店を出る。ちなみにこのカフェのメニューは割と安い。1人、約500円程で飲み物にデザートを食べれるのだ。

 赤字にならないのか心配になる。味も申し分ない、外観が古臭いのだけが気になるがそれも悪くはない。かなりいい店である。


「小野田公園まで行こっか、あっ御盾君も一緒に来てね。夜道に女子だけじゃ危ないでしょ?」


「今時、物騒だからな……了解」


「ごめんね、御盾君。私のせいで」


「いや、大丈夫」


 謝ってもらっても困る。これでも男だ。遅くなれば女子くらい送る。格好良い言葉でも言えたらいいのだが、生憎、経験不足だった。


*****


 5分弱ぐらい歩いていると私が見た事のある建物が見え始める。道中、なんだか難しい道を通ったがそのおかげか公園も見えてきた。


「着いたよ、結構近いでしょ。こっからなら大丈夫?」


「うん!大丈夫。2人ともバイバイ。帰り気をつけてね」


 私は今日の感謝も込めて挨拶する。


「じゃあね!今日、楽しかったよ。またあしたー」

「じゃあまた」


*****


 紅里と別れた2人は自転車を押すのをやめ、それぞれの家に帰るため漕ぎ始める。付き合いもそこそこ長いため、話しながら。


「貴方はそうするんだな、仕方ないんだろうけど可哀想だ」


「簡単には言えないからね、紅里ちゃんには悪いけどまだ秘密かなー」


「貴方が決めた事なら、一応従う。取り敢えず、そうするって決めたからな」


「そう……ありがとね、ちゃんと秘密守ってくれて。じゃあ、またあした」


「嫌われたくないからな。ま、じゃあな」




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