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良し悪しの色とりどり  作者: 黒檸檬
一章 能ある鷹は爪を隠す
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4. 諸々の予告

 

 なんやかんやは特になかったのだが、淡名あわな 千草ちぐさは転校生に喧嘩をふっかけた。

 その姿を見たクラスメイトらは当然の如く陰口を加速させていく。何故なら彼女は既に、クラスメイトから好かれていないからである。

 昨年の悪目立ちが起因しているのだが、淡名本人には嫌われているといった自覚は無いのだから、幾分か幸せだろう。


「お前が1番イラつくわ」

「またいつもの、自分より下を見つけては優位に立とうとするやつじゃん」……など様々である。

 これ以上は可哀想……では無いが陰口が多すぎてきりがないので残念だが割愛する。




 教室中で悪口が飛び交う中、葉月はづき 橙火とうか御盾みたて 灰十はいとの前の席から後ろを振り返って話しかけた。


「うわっ流石、淡名 千草。最初っから反抗的なんだから……ねぇ、彼女今すぐにでも転校生に水鉄砲撃っちゃいそうだけど御盾君どうする?」


 まさか自分に尋ねるとは予想していなかったので、彼女の問いかけに一瞬、戸惑った

 頭のどこかで彼女との会話を期待してはいた。一方で頭の大部分では、面倒故に何事も無い状況を想定していたので、返答がやや遅れてしまう。


「ーーーー別に。転校生には悪いが個人的にはあいつが問題を起こして責められる事の方が見たい。凄く見たい……」


 人の不幸を好むよう歪んでしまった俺は、答えながら若干笑みが漏れてしまい、それを見られて呆れられたのか


「ほんとに性格悪いんだから、そんな人とは仲良くしてあげないよ」


 いや、まぁそれは頂けない。いくら性分だとしても、その程度でこの関係性が崩れてしまう事を選べる俺ではなかった。


「ごめんなさい、気をつけます。……葉月さんも水鉄砲ってのは馬鹿にしてるようにしか聞こえないけどね」


 ボソッと言った二言目のせいか、少し睨まれた気がした。

 扱いがやや酷いが、所詮慣れたものだ。

 徐々にお決まりとなってきているおざなりなやり取りのせいで、本題が忘れ去られてしまいそうになった所で葉月さんは話を戻す。


「ほら、御盾君が余計な事言うから淡名 千草が手に水を作り始めちゃったじゃない! あたしがインクで防ぎたい所だけど……水とは相性が悪いから手伝って!」


 何を隠そう、彼女の持つインクは紙や空中に書いた線、描いた絵を固定化する事が出来る。近頃は絵の腕を極め、新たな境地に達したとか……。


 淡名とかいう女子が、先生に怒られる所を見たかったのだが、断る理由も言い訳も別段思いつかなかった。


「俺の性分は悪いが、転校生が傷付くのは少々見たくないから仕方ない、協力する。葉月さんの手に触れてればいいか?」


「うん、それでお願い」


 俺は葉月さんの左手に触れる。能力の特性上、仕方ないとは言え、女子の手に触れるのだ、手汗が出てないか気になって仕方ない……


 自分の手ばかり気にしていた俺を気にも留めず、自らの体とインクへ【保護】が行き渡るのを感じた彼女は、手の塞がっていない右手を使って、ブレザーの裏ポケットから黒いインクの入ったシリンダー形ボトル(試験管似)を取り出し、器用に片手で蓋を開けた

 その瞬間、淡名の手から転校生に向けて水の球が放たれた……それを転校生は能力を使おうとも、回避しようともしない。これでは間に合わない。


「ちょっとやばい、御盾君のせいで間に合うか微妙……お願い何とか間に合って」


 葉月さんは大幅な時間短縮のため絵を描くことはせず、転校生と水の球の間目掛けてインクをばら撒いた。

 インク自体に空中に固定化される能力がある。そのため、インクは忽ち、転校生を守る壁となった。

 加えて、俺が触れて能力を使ったインクは、【保護】されているのだ。たかがクラスメイトの柔な水鉄砲じゃ、壊せない。


 葉月さんの作り出したインクの壁と、淡名の創り出した水の球がぶつかり合う。本来ならインクに強い水に軍配が上がるはずだったが、このインクの壁は【保護】されている。

 【保護】の特性を得た害意を弾くインクに勝てるはずもなく、水の球は空中で弾けて周囲に散らばって消えていった。

 元が淡名の【水】の能力から創られただけあって、本人が能力を消してしまえば濡れる等の被害は無い。


 彼女も本気で転校生をびしょ濡れにしたり、怪我を負わせるつもりは無く、純粋に転校生の能力が気になっただけだった。

 だからすぐ【水】を消す準備をしていたのだが、そんな馬鹿げた気遣いは理解されない。そういうところが嫌われる原因だったりする。


 転校生の方はというと、能力を使わずに自分の体を、腕でなんとなく防御している。

 顔には当たらないよう一応の準備をしていた。まぁ、女子なら顔は大事だものな多分。

 なのに水の球が体に激突しなかった事に、少し驚いているようだった。淡名がこっぴどく怒られる姿は見れなさそうだが、転校生のその顔はその顔で、最終的に見れたものとしては悪くなかったと思う。


「え、あ、よかった……ありがとうございました」


 転校生はインクが投げられた俺達の方を向いて、インクを出して守ってくれた、前の席の葉月さんを見つめて、礼を言った。

 分かり難いだけで俺も助力しているのだけどな。


「大丈夫だよ、悪いのは彼女だけだから。全然気にしなくていいよ」


 葉月さんは礼を言われ少し照れたのか、話の矛先を淡名へ向けて遠回しに攻撃している。ほんとは俺よりも、目の敵にしてるんじゃないですかね。相変わらず理不尽だ。


「はい皆さんそこまで、葉月さんは飛ばしたインクの片付け。淡名さんは後で職員室に来てくださいね、お話があります」


 ついさっきまで完全に傍観者に徹し、全く助けようとしなかった先生が声を上げていた。それを見た2人。転校生は既に蚊帳の外である。


「ふつう、こういう時は先生がどうにかするでしょ」

「は? なんでワタシが怒られなきゃいけないの!」


「同時に質問しないで。えっとね、先生、能力持ってないでしょ? 能力使われちゃったら。基本出る幕無しよ。ま、仮にも先生ですので生徒が本当に危険だったら、この身を盾にしても止めてあげるわ。あとは、なるべく貴方達には自由にしてもらいたいのです。でも間違った時はしっかり怒ります。以上。分かった? 分かったら先生が言ったことをやってください」


「「えー……はい」」


 2人揃って納得してしまい。いや正確には納得しておらず、相変わらずの変わった教育方針に呆れて返事をしてるに過ぎない。


 せっせと1人はインクを瓶に回収し、もう1人は打って変わって拗ねてしまっている。うん、悪くない、気分がいい。


「じゃあ篠原しのはら 紅里あかりちゃんは、御盾君の後ろが誰もいないからそこに座ってね」


「はい。改めて皆さんよろしくお願いします」


 彼女は自己紹介を邪魔されたからだろうか、もう一度よろしくお願いしますと言った。


 その後は、始業式。今回は校長の話が長いというよりも、無駄に表彰が多くて長かった。

 俺は勿論そういった場で寝ない。理由は、子供心に憧れた英雄になんぞなれない俺は、せめて真面目であろうとしているからだな。


*****


 始業式を終えれば、クラスでの話もあるだろう。新学期初日の癖に、1日というのは長い。


「ちょっと、御盾君どいて。あたしは葉月 橙火。席も近いし、紅里ちゃんこれからよろしくね」


 俺は、どいてと言われ、ほぼ反射的に自分の椅子を机の外までずらして、2人が顔を合わせ話しやすい場を作れる男だ。これって惨めだろうか……。


「うん、よろしくお願いします。葉月さん」


「もっと砕けた感じでいいよ、名前も橙火でいいし」


 転校生はそう言われて少し困っているけれど、そのままというのも失礼だと思ったのか


「うん。これからよろしくね……橙火ちゃん」


 女子と女子が友情を芽生えさせている。そんなあったかいやり取りの場で、完全に自分が邪魔だと自覚している俺は、場違い感を捨てられない。


「はぁ、ツラい……」


「御盾君も趣味かひとこと付きで自己紹介しなさいよ、あと1番後ろじゃなくなったからって落ち込まない!」


 思わず零した言葉に、葉月さんは俺を巻き込もうとしてくる。

 どうせコミュ症の俺に向かって無茶振りをして、内心すっごく楽しんでいるのだろう。

 それと、何故、内心落ち込んでるとわかったんだか……末恐ろしいよ。


「はぁ、御盾 灰十です。えっと基本1人でいます、1年間よろしくお願いします」


 俺は無茶振りに答えてひとことを加えていた。何だかんだで、葉月さんの言う事を聞いてしまうのであった……。


「よろしく、御盾君。私も結構1人が多いよ、似てるね」


 彼女は優しさに満ち溢れる性格なのか、灰十の軽い自虐に乗ってきた。その時の笑顔は俺から見ても可愛く映っていた……。



「では、A組33人、今日から頑張っていきましょう。はーい、早速ですが来週行う恒例の能力試験でのチームを決めます。チームの制限は特に無し、男だけでも女だけでも男女混ざってもいてもいいけど人数は3人まで、じゃあ決めてください。決まったら内容の話をします」


 教員による始業式の後処理が終わったのか、先生が教室に戻ってきた。

 先生はクラスに一応の呼びかけをした後、これまた、いつも通り生徒に丸投げした。この方式だと、ぼっちは詰みだな。


 俺はぼっちに限りなく近いが、今回に限っては先約がある。


「御盾君、約束通り組もうね」


「約束だからな、まぁ他に組む相手はいないけど」


「じゃああと1人はだれにしよっか?」


「事前の話ではあと1人は任せといて、と聞いてたんだが?」


 生憎、俺にはチームに誘う友達のアテはない。その話をしたら、勝ち誇った顔で任せてと宣言していたはずだけど、俺にしては珍しく記憶違いか。


「あー、言ったかも。忘れてたよ。でもいいんじゃない? 何の巡り合わせか、あたし達の近くに誘うのに最適な子がいるじゃない。早速、仲良くなれるよ! よかったね御盾君!」


 その言葉に察しはついたのだが、いまいち納得がいかないな。下手したらチームを作らず参加権すらなかったじゃないか……はぁ。仲良くなれるのは嬉しいっちゃ嬉しいけど、なんか言い方に含みがあるな。

 まぁ、事ここに至っては仕方ない。今更他の人を探すのは厳しいものがある。


「そうだな、誘うのは任せる」


 ーー前の2人は揃って後ろを振り向いて、


「紅里ちゃん、私達と組まない?」


 コミュ力の高い人って怖い。何の気なしに誘えちゃうんだもの。


「うーん……。いいよ、私弱いから足手まといになっちゃうかもしれないけど……」


「ほんとーにありがと。それで、それで紅里ちゃんの能力ってなに? あ、言いたくないならいいよ、さっきの彼女みたいに無理矢理知ろうとするのは最低だもんね」


「ーー私の能力は、多分【電気】です。威力は弱いけど」


 意外だった。あの場で聞かれて答えなかったから、何かあるのかと思ったら、能力は特段変なものじゃない。多分という言葉が引っかかるが……能力のカテゴライズは案外適当なところがある。そのせいだろう。


「へー、【電気】かぁ遠距離も出来そうだしいいじゃない。それにあたし達には【保護】って珍しい能力使ういい壁がいるからより便利だよー」


「壁は酷い、俺が可哀想だ」


 2人の話を聞いてた俺は不満そうに呟いた。だって壁って酷くないか……。


「盾役ぐらいしか出来ないんだから、壁じゃん」


「一応、体術は身につけてるから接近戦も出来ますし」


 体術。特に部活に入っているわけでも無く、習い事で習ったわけでもないが、俺の過去にも色々あって、教わる人がいるだけの話だ。

 ある人に体術全般の基礎を叩き込まれて、今は、ある格式高い一派の技をいくつか教えてもらっている最中だ。

 それが役に立てばいいが……


「橙火ちゃんと御盾君、すっごく仲良いんだね」


 彼女がつい思った事を口に出している。それに、つい気が緩んだのか顔に笑みが浮かんでいた

 俺も葉月さんも彼女の自然な笑顔を見て、顔を見合わせて、くすりと笑った。



*****



「さて、みんなチームが決まったようなので、軽くルール説明をしたいと思います」


 先生は、大方チーム決めが終わったのを確認すると話を次へと進める。

 俺がチームを組めたぐらいだ、他の人は当然チームを組めているようで、教室のあちこちにチームごとに座っている。ちょっとした力関係が垣間見えるため、それを眺めるのは意外に面白かった。


「ルールは簡単、2学年全員がチームごとにいくつかの会場に分かれて試験を行うのが第1試験。知力を使う第2試験。ここまで勝ち上がったチームがチーム対抗で闘う第3試験。全部で3つの試験を行って最終的に勝ったチームが優勝です。優勝すると……なんと新聞に載ります!! おまけで2年次の成績にプラス点がたっくさん付きます」


 少しテンション高めの先生が説明を行った。にしても新聞に成績……。これといって高価なものが出ないあたり、この高校らしくて一種の安心があるな。去年は成績と購買の無料券だったか。まてよ、去年の方が金がかかってる……予算削減か、世辞辛い。


「マジ…」

「これは勝つしかない」

「やってやる」

「優勝すれば、ちょっとくらいサボったってーー」


 成績が良くなるとのことで、騒いでいる奴らもいる。

 俺としては新聞に載る事の方が嬉しくはある。理由は、まぁ秘密だ。


「今日はこれで終わり! 残って話し合ったり、勉強したりする人以外は、速やかに下校してくださいね」


 若干帰りたかったのか、忙しいのか、先生は学活の終わりを告げて教室を出ていった……。

 終わった時間は10時30分。予定よりも大幅に短縮されていたーーーー



「じゃあ、あたしたちはどうする? あたしは紅里ちゃんと仲良くなりたい。そこで親睦会を開きましょ!」


 葉月さんがうずうずしている。心から仲良くしたいのだろう。俺も(真っ先に帰りたくて)うずうずしてる。だって、休み明けで久し振りの学校は体に悪いしな。


「帰りたい、心と体が家を求めてる」

「私はいいよ、残っても。久しぶりに楽しいから、」


 篠原 紅里は賛成し、俺は反対した。が帰りたいだという理由じゃ足りないようで、不参加を訴える少数派の意思に関係なく、親睦会に行くことが決定した。 でも、それはそれで悪くないなとは思う。行くまでが憂鬱なだけで、行ってしまえば結果は楽しいと相場が決まってる。


「じゃあ決まりねー、どんどん親睦を深めましょ!」


 これから始まる親睦会に興じる、積極的な女子2人と、どこか憂鬱な顔をしているが内心楽しみにしてる男は天邪鬼か……

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