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良し悪しの色とりどり  作者: 黒檸檬
一章 能ある鷹は爪を隠す
3/18

3. 彼女による初日 ー紅ー

話が少し戻ります


「よし、とりあえず顔洗わないと」


 まだ眠気が抜けていない、少し覚束ない足取りで2階の自室から階段をゆっくりと降り1階へと向かった。1階に辿り着いた彼女は当初の目的だった顔を洗うために洗面所の扉を開けた。


「相変わらず、朝の顔は他人ひとには見せられないな」


 そう言う紅里の顔は多少むくんではいるものの決して酷いものではない。 眠気が残っていても良い意味で天真爛漫さが滲み出て、前髪が魅力的で子供っぽさが残る可愛げのある顔立ちをしている。


「よし、これで大丈夫かな」


 冷た過ぎない水を使い問題なく顔を洗い終え、ついでに前髪の調子を何度か整えて眠気も吹き飛んだ彼女は、次に朝ごはんを食べにリビングを目指す


「昨日は和食だったけど今日は何かな」


 私の家は一般的な家庭と比べ朝ごはんに気合が入っているらしい……。

 昨日は朝からアジの干物、ご飯、味噌汁、漬物といった旅館で出てくるようなクオリティだった。私の予想では今日は目玉焼きが出てきそうな気がする

ーー回想しつつ想像を膨らませた。



 リビングに入った紅里に彼女の母親は優しい声で呼びかけた


「おはよう。もうご飯できてるわよ。今日はねフレンチトーストです!今日のも自信作〜」


「お母さん、おはよ。フレンチトースト好きだから嬉しい」


 予想は外してしまったが、日頃からこんなものだ。毎日差が激しくて当てられない。それが楽しくもあるのだけれど。


「新しい高校での初日なんだから好きなものを作ってあげるに決まってるじゃない。そのために昨日から頑張ったんだからね」


「ーーありがと、いただきます」


 親の愛情に少し泣きそうになりながらも用意されている、いかにも美味しそうなフレンチトーストを彼女は食べ進めていった。


 ほんと優しいんだから、飲み物も私の好きないちごオ・レだしヨーグルトにも砂糖が忘れずに入ってる……。

 それを残さず食べ終えて食器を台所に運び片付け

制服に着替えるためリビングを後にしようとした時

 お母さんが「頑張って、ううん無理しないでね」って私に言った気がした……



*****


 部屋に戻り鏡を見た私は、


「今日は髪の毛にちょっと静電気が…能力使おうかな…」


 私の能力は【電気】だと思う。両親からそう聞かされて育ってきたのだから間違いない筈だけれど、私には違和感がある。それはいい。現に電気が出せるのだから、思い違いだろう。


 能力自体を、人前じゃあまり使いたくないけれど、家ならいいかなと、私は手から微量な電気を放つ。

 すると、一瞬で髪の毛に溜まっていた静電気を無理矢理消しさった。


「こんな感じかな」


 落ち着きを取り戻したさらっとした髪は、肩くらいまで伸ばされている。

 手入れに少し時間がかかるけど、私はこの長さが気に入っている。なので、転校するのに合わせてイメチェンする気にはなれなくて、そのまま。


 満足のいく状態になった私は、新たな制服に着替えていく


 今日から私が通う事になる球磨川くまがわ高校は決して頭が良いわけでも人気があるわけでも交通の便がいいわけでもなく制服が特別可愛いわけでもない。それでも決めた理由がある、目立ちたくないからだ

 それは去年、何も考えず前の学校で悪目立ちした事で人生最大の失敗をした……同じ事を繰り返さないために前の高校からも遠いこの場所を選んだ。

 だから方針は『なるべく地味に』で行こうと思ってる…


「で、今何時だろう?」


 壁にかけてある時計を確認した、8時30分より少し早めに登校してねと言われていた。なら8時20分に向こうに着くには私の家から学校までは電動自転車で約20分だから、8時に家を出れば大丈夫だと考えてたが……


「ちょっとやばいもう57分だ」


 割と楽しそうに身支度をしていた余裕のある姿とは打って変わり、あたふたしている紅里は焦りながら部屋を後にした


「お母さ〜ん、いってきます!」


 玄関の扉を開け出発する前。今日1番大きい声で言ったので洗い物をしている母親にも届いた。


「いってらっしゃい」


 普通のひと言だった、けど私にはその短い言葉の中に色々な物が詰まっていた気がした……。



 私は自転車に乗り、学校へ向かう。当日迷わないよう1度だけ試しに行ってみた時と同じ道を漕ぐ。

 その時にはまだ花は咲いていなくて全く気づかなかった。視界がピンク色に染まる程の桜の道を晴れやかな気分で進んでいくーーーーーー行き交う人に目もくれずに



*****


 大勢の人が登校している中、駐輪場に自転車を止め

まだ自分の下駄箱が無いため、私は靴を適当な場所に置き、上履き(サンダル風)に履き替え、あらかじめ貰っていた校内図を調べながら廊下を歩く。

 とりあえず指示されていた2階の端にあるらしい職員室を探してみる。

 何度か校内図を確認しながら目的地へ到着した。緊張だろうか、軽い手の震えが止まらないが扉を開ける。


「篠原 紅里です。佐川先生いらっしゃいますか」


 来たら私を呼んでねって、事前に電話で言っていた先生の名前を呼んだ。多分1年間担任になるんだろう人はどんな感じなのか、私は会ったことが無かったので分からなかったが、声音から女性なのは分かっていた。


「転校生ちゃんおはよ。うん、時間通り」


 出てきたのは、目鼻立ちの整った綺麗な人だった。始業式の日って事もあって、軽めの化粧が元々の顔をより美しくさせている。そして何より、黒のスーツが綺麗さにカッコよさを混ぜ込んで、同性として憧れを抱いた。


「はい、先生よろしくお願いします」


「うん、よろしくね。クラスの問題児をみんな貴方にしたいくらい可愛いわね……。まぁ冗談はさておき今日からあなたの担任になります佐川さかわ美緒みおです。クラスはA組でこっから近いよ。近くても嬉しくないよねー」


「あはは……そうですね……。えっと、取り敢えず私はどうすればいいんですか?」


「もう5〜6分くらいしたら朝学活始まりのチャイムが鳴るから、その時に私と一緒に教室に行きましょう」


「はい!」



 チャイムが鳴り先生と共に2−A教室の前へ。

 正直、転校なんて生まれて初めてで結構緊張してる。

 特に自己紹介が怖い…変な事言ったら『シーン』となり友達が出来なさそうだし、マニュアル通りにやってもつまらなく思われ友達が出来ないかもしれない。


「はぁ、緊張する」


 小声で呟き、深呼吸して気持ちを和らげる


「じゃあ入るわよ」


 転校生たる私は先生と共に教室に入った。



「はい、みんな静かにね。じゃあ紅里ちゃん、ちょっとやり難いとは思うけど自己紹介お願い、能力は言っても言わなくてもどっちでもいいわよ」


 私は緊張のせいか何を言っているのか頭に明確に入ってきて無かったが「能力はどっちでもいい」と言われた気がしたので言わないことにした


「は、はい。えっと篠原 紅里っていいます。今日からよろしくお願いします」


 彼女は悩んだ挙句ごく普通の自己紹介を行なったのであった。

 すると能力を言わなかった事に対して問題児の1人 淡名あわな千草ちぐさはそれが気に食わなかったようでガラの悪い態度で喧嘩をふっかけた。


「なんで能力言わないのー? 無能力者? どっちでもいいやー、撃てば分かるでしょ」


 淡名は手を銃のような形にして、突き出した人差し指の先に、水を生成して構える。


「はーい、撃つよ。バーンッ!」


 いくら問題を起こし慣れている彼女でも、手加減をしてるはずだが、淡名の指先に生成された水は紅里に向かって勢い良く射出された。






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