14. 思ったよりも脆かった紅色の決意
小屋での話し合いを終えた俺たちは、消去法で【岩石鎧】の先生を探す方針に決まった。
その為に、まずは俺が設置した【保護】バリケードの出口を探し当てる方法。それを、皆で実践している最中である。
というのも、このバリケードは側から見え難い細い糸に、銀をコーティングして小屋の周囲に張り巡らせていて。
その出口を判断出来るのが【保護】している本人である俺と、【電気】を流して糸が途切れている箇所を見つけ出せる篠原 紅里だけという仕様となっている。
1人じゃここから出られない葉月さんには悪いと思っているので、「すまない」と心の中で謝っておいた。
「『送電』……」
糸が見え難いと言っても、近づけば気付く程度であるし、事前に糸の存在を知っているなら、見つけるのは容易い。
だから、ゆっくりと歩み寄った篠原 紅里は難なく、それに触れることが出来た。
そして、目を瞑って集中した彼女は呟くような、小さな声で『送電』と口にする。
それが少し引っかかる。
所謂、能力における終着点のひとつは必殺技と言うものだと、長に教えられた。
それが、中学の時に大怪我を負わされた槍。根岸という【貫通】の能力者が俺に対して、使ってきたものの正体だそうだ。
あの時、奴は確か……《貫くは槍》と言っていた。少しニュアンスは異なるが、彼女が言い放った言葉と、どこか似ている気がする。
そこに、能力の真価が隠されているようでいて、されど理解に至れない。
能力には”想い”が大切だって事くらいしか教えて貰えてない。「その先は自分で見つけてきかなければ、意味が無い」と長に諭されているのだが……そうか、他者との関わりってのも大事ってことかもな。
ともあれ、彼女のおかげで、何らかの答えを掴めそうな予感がしてきた。
『送電』という言葉の後に、彼女の手から流れ出た【電気】が糸の表面を通過していってるのが、糸の僅かな発光から見て取れる。
多分、あの言葉の役割は、能力に指向性を持たせること。さらには、能力発動時の無駄な部分を削ぎ落とし、効率化させることも可能な筈だ。
本人に直接触れるべきじゃ無い事だが、彼女の使い方は、どちらかと言えば後者のものかもしれない。
あれじゃ、余りに弱すぎる。まるで、彼女の出せる本当に本当の最低限に見えて仕方がない。それほどまでに精密で最小限の【電気】が俺の【保護】ごしに伝わってきている。
「ーー御盾君、あっちの太い木と白い木の間で合ってる?」
考え事をしている間に、彼女は【電気】を流し終えて、糸が途切れた箇所を見つけたようだ。今、糸に触れている大体反対側にある木と木の間を、指差して尋ねた。
1度考えていた事を頭の隅に追いやって、指差す先を見つめると俺が作った出口部分と相違なかった。
人を観察して、気づかなくていい事まで探ろうとする……全く悪い癖だ。
はぁ、変な考え事は一先ずやめとこう。目の前の現実に集中すべきだ。まずは、篠原 紅里への受け答えだな……。さて、女子と喋るのは緊張する。
「合ってる。安心した、ちゃんと流れてるみたいだ」
俺は緊張のせいで、口数少なく答えた。
その答えに不満があるのだろうか、糸に手を当てたまま篠原 紅里は困惑の表情を続けている。
「ね、それにしても、不思議な形。糸と糸が交差してる所があったり、上に行ったり下に行ったり……。これ、とても大変そう。その……おつかれさま」
思ってもみなかった人からの、なおかつ思ってもみなかった言葉に、全機能が一時停止しかける……。
えっと、「おつかれさま」に返す言葉の正解は礼か。礼で合ってるよな。「ありがとうございます」は他人行儀過ぎるし。とにかく、早く喋れ俺、目の前の女子が、突然止まった俺を見て不安がってる。
「ーーーーえ、あ、ありがと……。そ、そうなんだよ。糸は3本使ってるけど、全部同じ形でやるより、複雑な方が良いかなと考えてたらこうなってた」
何かの病気を疑えるほどに、動悸が早くなっていく。ただの緊張が原因なのは明白なので、一先ず篠原 紅里から目を逸らそうとすると、ここまで仲間外れになっていた葉月さんに阻まれてしまう。
「ねーねー! 2人で仲良くしてるのは良いけどさ! 仲間外れはヒドいよ、あたしにも分かるように教えてって!」
出口の前にバリケードの形すら把握出来ない状況に耐えかねたらしく、いつにも増してごねてらっしゃった。
前述の通り、インクの力の都合上、俺手製の【保護】バリケードの出口を探し当てる術を持っていない。だから、篠原 紅里が試して、俺が横から確認している間、彼女は蚊帳の外。
そりゃ、楽しい事が大好きな性格上、暇は耐えられないか、仕方ない人だ。
「ここら一帯の木と木の間に、糸を3本張り巡らせてるんだが、その何? 所々、糸の高さを変えたり、糸を交差させたりしてるのを能力で理解した篠原 紅里が、俺を労ってくれたって話」
「うんうん。ちょっとの時間で、すっごく頑張ったってことね、えらいよー、えらいよー御盾君!」
葉月さんの手が俺の頭目掛けて伸ばされる。これって撫でるつもりなのか? しかし、身長は俺の方が若干高いので、楽なように屈んであげるべきかと思い悩み、我に返る。
「止めろ恥ずかしい」
危ねぇ。流されるままに、撫でられてしまうところだった。この場は2人きりって訳じゃないんだから、恥ずかしいにも程がある。
その前に、俺には心に決めた人がいるのを知ってる癖にこの態度だ。意地が悪いったらありゃしない。
それでも葉月さんは諦めていないようで、行動だけでなく言葉で追い討ちを仕掛ける。
「いいじゃない、いいじゃない。これはご褒美だよー! 大人しく受け入れてよ」
「ーーあぁ、もう、せめてちゃんと優勝してからにしてくれ。気が緩む!」
彼女が内心ではどう思っているのか、いつもと変わらない楽しそうな表情からじゃ、1ミリも分からんが。
一種の辱めを受ける俺と、辱めを与え続ける葉月さんとを眺めてるだろう篠原 紅里を、横目で見ると、こちらも楽しそうに微笑んでいた。
なら、いいか。これはこれで仲睦まじい関係という事で。
*****
ー紅ー
「さて、雑談はこの辺で出発しましょ!」
「じゃあ、気をつけて」
「じゃあねー」
「うん。御盾君もお気をつけて」
バリケードから出てしばらく歩いた後、予定通り別行動となった。
御盾君は森の深い方へ、私達2人は比較的森が開けていて明るい方へ向かっている。
「ねー、【岩石鎧】の有岡ってさ、身長175あって体格の良い大人なのにさ、その全身に岩がくっ付いたらどんなに大っきいのかなぁ」
橙火ちゃんが口にした疑問に、開会式で前に出て説明していた有岡先生の姿を思い浮かべる。
服装はジャージ姿、肩幅が広くがたいも良さそうで体育教師という印象を感じた。
なら、普通はこう考えるはずって答えを口にしていく。あくまで自然に。
「最低でも、あの先生より一回りは大きい岩だよね。それに合致する岩を探せば良いって事かな。
あ、でも膝を抱えて丸くなったら、普段より小さくなれるかも」
「そっか、そうだよね。あたし、大っきい姿しか浮かばなかった……。じゃあ、大っきいのも小ちゃいのも、怪しい岩は全部調べなきゃだ」
切りがない。けど、そんな否定はしなくていい、否定して見つからなかった原因にされるのは嫌。
岩である事は間違いないのだから大きかろうが小さかろうが、その二兎を追ってればいい。片方だけを追って実はそれが目当ての兎じゃなかったら、たとえ一兎を追っても意味がないのだから。
話が逸れたし、分かりにくい例えだと内心、自分を小馬鹿にしておく。
「どう調べよっか?」
私の能力で探す方法も浮かびはする。けど、バリケードで能力を利用していたので、出しゃばりなのも良くないと思い、取り敢えず彼女を頼っていく方針でいこう。
「ふっふふ、簡単だよ? 先生も生きてるんだからさ、心臓の音がするはずでしょ、それを聞こっかなぁって」
音か、【電気】主体で考えてる私じゃ思いつかなかったものだった。音を聞いたり、集めたりするならテレビ撮影とかのマイクか……お医者さんの聴診器……。簡単なのは後者っぽいかな。
「聴診器かな、そんなものな……あ、あのインク」
拠点となる小屋を掃除する時、残念ながら掃除道具が1つも置いてなかった。そんな時、橙火ちゃんは制服から取り出したインクで床に箒を描いて、黒い箒を創り出していたのを思い出す。
「そのとーり! 聴診器なんてチョチョイのちょいってね」
話しながら、周囲に岩が点在する場所まで来た所で、私達は一旦立ち止まった。
これから何が始まるかと言うと橙火ちゃんの能力の行使である。
先に少し紹介した小屋での一幕、橙火ちゃんが床に描いた箒がインクの能力で現実へと質量を持って現れた。
その再現。けれど、今回のキャンパスは床では無い。
空間、目前に広がるただの空気、個体ではなく気体、普通なら描くという行為を許されない対象へと、彼女はGペンを向ける。
謂わば世界の仕組みに反する行為。流石にこの言い方は大袈裟かもしれないけど……。
その表情はどこか楽しげで、困難さは一切感じ得ない。
身体に当てる聴診器のヘッド部分、その部分の名前は知らないけど、普通の物よりも音を集める為か、病院で見たことのある物とは大きさが異なっている。
それから、耳に当てる部分まで続々と描かれて、私の知る聴診器が出来上がっていった。
すぐさま、もう一本? を描き始めて目の前の空間に聴診器が2つ完成して、地面に落ちる。
すかさず私は手を伸ばして聴診器をキャッチした。
地面に落ちたものを使うのが嫌というのもほんの少しあったが、何か大事なものを地に落としてしまう感覚に襲われたのだ。
どうしてなの……と胸に問いかけても分からない。そう、分からない、分からないのは別にいい。
ただ記憶に無い、は嫌だ。もし忘れている事があってそのせいで分からないなら私は……
「紅里ちゃん大丈夫? 大丈夫なら早いとこ、それで調べてこ!」
脈絡の無い回想をしていた私は狼狽えてしまう。けど努めて平静を装うように、手にしていた聴診器を1つ手渡す。
「よーし、はじめよー!」
私の装いがどれだけ周囲に通用しているかは、分からない。拙いのは間違いないから、気づく人もいるのだろう。でも彼女が気づいた素振りはない。
世間は彼女の動向を、軽いと。軽く適当だから気づかないのだと捉えるのかもしれない。
なら、私は明るいと捉える。
明るいから、そんな事気にしないんだと思う。と言っても、たった数日の付き合いしかないんだから不確かな話ですが……。
何はともあれ、辺りの岩に片っ端から聴診器を当てて、ただただ心音を探していくのだった。
*****
「見つかんないね。そもそもさ、岩無くない?」
ただの森。それも、普段からある程度整備されている公園内となれば、危険な岩自体、数少ない。
木を隠すなら森の中とは言うけれど、流石に森に岩を隠せそうな場所は見当たらないでいた。
「岩なんて転がってたら危ないから、職員の人が片付けているんだと思う」
「だよねー。ちょくちょく同級生は見かけるんだけどね、ライバルでしかないし、出来れば会いたくないし。目当ての岩は最初の数個だけ……」
「でも、妨害はされてないから良かった。でも2人でいる時に狙われたら危ないよね、私自信ない」
おそらく、2日という短い期間を鑑みると争ってる暇はない。
参加者を減らす方が手間なんだろう、戦う時間より、探す時間が惜しい。流石に見向きぐらいはされたけど、すぐさま捜索を再開していた。
すると、またしても岩ではなく、同級生の後ろ姿を視界に捉える。けど、今回は違う流れになりそう。
「あ! 桔梗くーん!」
前方で周囲を捜索していた同級生は、開会式前に言葉を交わした同じクラスの代浜 桔梗と言う人であった。
簡単に説明すると、担任の先生に恋する男子でいいと思う。
「奇遇だね、橙火。会場に続いて、捜索範囲まで被るとはね」
「だねー、でも、へー、ふぅん。桔梗君はその2人と組んだのねー、なんかお似合い」
話題の矛先は彼以外のチームの人へと向けられた。
見たところ女子2人。1人は開会式で壇上に上がってた綺麗な人、もう1人の地味目な方は知らない人だ。性別だけなら私達のチームと同じだけど、中身は全く違う気はする。
「それじゃ揶揄っているように聞こえるよ。この2人は僕に協力してくれる良い人達だ」
「ごめんごめん。では気を取り直して紹介をお願い! ほら、紅里ちゃんは知らないからさ、ね、ね!」
律儀に、代浜という男は私の方を向いてきた。ついでに2人を立てるように一歩下がる。
「それは勿論。先ず、開会式で選手宣誓をしてた伊井野 花。1年時の定期テストは学年1位を現代文を除いて手に入れ続けた頭脳持ちだ」
「あのねぇ、その紹介は好みじゃないのだけど。今でも悔やんでるんだから、やめてちょうだい。はぁ、改めまして、私は伊井野 花よ、篠原 紅里さん…… だったわね宜しく。何か困ったら学年委員長である私を頼って。出来る限り助けるわ」
学年委員長という情報が本人によって捕捉された。そのに綺麗な顔立ちと、カリスマ性溢れる雰囲気に自然と頼りたくなる。
取り敢えず、返事を返そう。相手に合わせた真面目な態度で、頭を下げながら。
「先日、転校してきた篠原 紅里です。よろしくお願いします」
「それと、貴方に謝罪しなければならない事があるの。ごめんなさい。淡名さんを止められなかったのは私の責任よ……仮にもあの子の友達なのに、止められなかった」
転入早々のHRで、教卓で自己紹介をしていた私に向かって、水の玉が放たれた事件? があった。
あの時、自分の能力を使うべきか悩んだ挙句に、何も出来ず、橙火ちゃんのインクに助けられた。
私自身でどうにか対処するには、時期尚早過ぎて困ったのは記憶に新しい。
私としては、被害も無く、その後もいじめ等に発展する様子も無いので気にしていないのだけれど。強いて言うなら、淡名さんに時々睨まれるのが嫌かな程度。
「橙火ちゃんのお陰でなんともなかったから、大丈夫ですよ」
「花が気にすることじゃないって、淡名 千草 はあなたと仲良いってステータスの為に、友達してるんだからさ。あれのやることなすこと、背負わなくていいって、気にしない気にしない」
「はぁ、橙火さん……。淡名さんだって色々と頑張ってるんだから、そのくらいにしてあげて」
「ま、別に彼女が嫌いな訳じゃないからねー、このくらいにしとこっか」
「話が逸れ過ぎだ。こっちは宇佐美 菖蒲、ちょっと人見知り体質だけど仲良くしてあげてくれ」
「あ、あの、宇佐美、です。よ、よろしく、ね」
段々と小声になっていき最後の「ね」に至っては聞こえなかった。けど口は動いてたので、それらしい一文字を頭で補完した。「ね」で合ってるのか確かめようはない。
「こちらこそ。これからよろしくね」
当然返事をするのだが、彼女が人見知りなら、ありふれた態度が適切だと思う。
人見知りを理由に、幼稚園に行かなかった時期があったから私には分かる。変に下手に出てこられたり、反対に上からこられるより、普通でいてほしいのだ。
決して貴方は異常ではないのだと。普通の態度で接せられる存在なのだと、示して欲しいから。
この子とは仲良くなれそう。いや、そう思われる事こそ、本人からしたら嫌だろうけども。
「う、ん」
自己紹介も終わり、桔梗君が一歩前に出てきた。
「さて、橙火。君はどっちを狙ってる?」
仲良く自己紹介だけして話すだけじゃ、この場は終わらない。肝心なのは試験に関する話だろう。
正直に話すのかと、橙火ちゃんと目を合わせようとしたら既に話し出していた。
「見れば分かるでしょ? 【岩石鎧】の方だよ。私達の能力じゃ【獣化】を捉える事も、まして捕える事も難しいからねー、消去法」
「それは好都合だ。僕らは【獣化】を狙ってるからね」
「よかったー、被ってたらどうしようかと思った」
「それはそれで対立はしなかったさ。クラス内から優秀な成績が出せれば僕は構わない」
「なるほどね、うんうん。そうゆうの良いと思うよ、あたしは」
ニマニマしだした橙火ちゃんにどうゆう事? と小声で聞いてみたら、「あとでね」と返ってきたたので外野に徹する事にします。
「あら代浜君。私は勝ちたいのだけれど?」
テストに限らず1番を譲れない性分なのだろうか、伊井野さんは重い声音で、咎めるように主張する。
「あはは、勿論……僕たちが勝つと思ってるよ」
今までとは違った声のトーンだった。これは決意か、それとも覚悟か。
どちらも同じ意味の単語で意味の無い一文だけども、それほどの強い意志を感じずにはいられなかった。
「言うじゃない、あたしも負ける気はないよ」
橙火ちゃんも、それに応えるように真剣だった。いつもにこやかな笑顔を浮かべでいる彼女は、その笑顔は変わらず、けれど、その胸の奥に闘志を燃やしているのが感じ取れる。
僅かに私の心が共鳴しかける。
周りがやる気を出したりすると、流されやすいのかな私って。
そのせいで私も、ほんの少し勝ちたいなと思い始めてる。元々、自信過剰で力を振りかざしてた性格だ。その名残かもしれない。
橙火ちゃんが本気なら、私もほんの少しくらい気を緩めて力を出しても……
「私もだから。あたし達だよ、橙火ちゃん」
その思いのまま、口に出していた。こんなにも軽い誓いだったのかと糾弾する過去の自分はまだ存在している。そんなものを抱えたままに勝ちたいと言ったのは、愚かな行動だったと思い知る日が来るかもしれない。
あぁ、でも、この数日間で1度も向けられたことのない笑顔を、私なんかに向けてくれている。この笑顔に魅せられ、心に楽しさがもたらされていく。
なら、少しくらい、ほんの少しなら報いても悪くないんじゃないか。
今すぐ、記憶にあるレベルでの能力は使う気無いけど、取り敢えず第1試験は乗り切れる気がしてならない。
「お互いベストを尽くそう。じゃあ、健闘を祈るよ。行こう2人とも」
「分かったわ」
「……」(宇佐美 菖蒲は頷く)
桔梗君チームは、少し遅れた宇佐美さんのお辞儀を最後に、森の奥を目指して去っていった。
その後は当然、森らしい自然の静けさがこの場に戻っていく。
「ふふ。さぁ、もうひと頑張りしよー!」
彼女は先程までのやり取りを噛み締めてか、微笑んだ。
私も無意識のうちに微笑んでいる気がするが無意識なら止められない。もうこのまま。勝手に収まってくことを、身体の仕組みに任せてしまおう。
そして、彼女と共に戦う意志を高らかに返答する。
「うん!」
ーーーーあとでね、となっていた話については先生と生徒の恋関連の事だった。
この試験でクラスの誰かが好成績を残せば、担任にもメリットがあるとかないとか……だから、クラスの誰でも勝てれば代濱 桔梗君的には構わないらしい。
それでも、出来れば自分が貢献したいと思ってるはずだけどねー、と橙火ちゃんは語っていた。
確かに、好きな人の為なら頑張りたいし、為になる事が自分の行動によるものだったら尚嬉しいはず。
彼の持つ恋の力は油断ならないよね、きっと。
油断かぁ……。
私こそ、突然やる気満々で大丈夫かな、今更怖気付きはじめたよもう。どうか、前みたいになりませんように!