決意……?
室内に沈黙が訪れて暫くしてエーベルバッハが口を開く。
「あの、この武器はどういう……」
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聖魔剣フォンディア(SSS)
万物を断ち切ることのできる聖魔剣。
例え人であろうと剣であろうと魔法であろうが何でも断ち切ることのできる世界に一つしか存在を許されない剣。この剣を持つものは英雄になることを約束される。対象を切りつけるほど切れ味が上がっていき切ることに快感を覚えてしまうために使用者は強い精神力が必要とされる。
もしも精神力が低いものが使用すれば滅びの道へと誘われる。
付与効果
・精神力吸収
・不滅
・自動防御
・戦闘狂化
・偽装鑑定
・精霊たちの依り代
製作者 相川那月
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「まぁ、やったらできました。元々の武器ランクがS級だったからもしかしたらSSに行くんじゃと思ってやった結果です……」
あっけらかんと言い放つオレを見て化け物、もしくは人ならざるものを見ているかのような、しかしどことなく面白さを求める期待感をあらわにしている。
「えっと、エーベルバッハさん、彼女の武装を全てこちらに渡してこの武器のことを他言しないで貰えればその剣を差し上げます。あと、鑑定者に鑑定されても問題にならないように偽装鑑定をつけているので自分でランクを決めることが出来るので問題になることは少ないと思います。それにその剣を身につけていれば体外に受ける攻撃は完全…とまでは言い切れませんけど自動防御が働いて毒以外なら障壁が貼られるからその武器がバレても身につけていれば殺されるなんてことも無いはずです。俺の出すカードはこれですけどどうですか?」
「大感激です!!ナツキさん…いいえ、ナツキ様!!私は商人となって30と余年、このような奇跡の品を見たことはありません!絶対にこのことは他言しません!」
そう言って土下座するのかと思うくらい頭を下げてくるエーベルバッハに少しばかり鬱陶しさを感じる。
「じゃあシアの武器は全てこちらに渡してくれるって事ですよね?」
オレがそう言うとすぐに室内から出て行き30秒も立つ事なく帰ってきたエーベルバッハの手にはエリシアの武器や防具があった。
「どうぞ持って行ってください!」
「どうも、シア。荷物になりそうだから魔法袋に入れとくけど湾曲剣は自分で持つか?…あと紙袋もどうせなら一緒に入れるか?」
「…え!?だ、大丈夫!!自分の装備に魔法袋はあるからそれに入れて持っていくよ!…ありがとナツキくん……」
「ん?おうよ!…んじゃ、帰るとするかね夜はまだまだ長いからな」
多分シアは晩御飯に何も食べてないからな。
そう思っているとシアは下腹部を抑えながら頬を赤らめる。
……そんなに腹減ってるなら手料理をご馳走しないとな!
「よし、シアも武具も元どおり、帰ろうかシア」
「うん」
オレとエリシアは軽く会釈をして奴隷商人の集うテントから出て宿への帰路へ行く。
それと最後に見たエーベルバッハはなぜか剣を抜き身の状態で見つめたり頬をすりつけたりしていた。
……危ないよエーベルバッハさん、それ切れ味半端じゃ無いから、万物両断しちゃうから。
と、心では思いはしたが俺は隣で少しばかりくっついて歩いているエリシアに癒されるので大忙しだ。
▽▽▽▽▽▽
「さてと、宿に着いたもののどうするかね〜」
宿に帰るとすぐに受付にいたアマンダさんが硬直してしまいどうにか再起させる事はできたが宿の空きがなくエリシアを泊める事はできなかった。
そう思ってオレの部屋を開け渡そうとしたが「ナツキくんと一緒ならかまわない」と袖を掴まれながら言ってくるエリシアを見てオレは身悶えをしながらどうにか部屋に来る事ができたが、二人でベッドに腰掛けているため変な気分になってしまいそうで呟いてみたもののエリシアは頬を染めながらオレの渡したロングコートをキュッと握り締めて羽織っていた。
「あぁそうだ!シア」
「どうしたのナツキくん…?……ご主人様の方がいいのかな?」
ご主人様。この一言でオレの精神は完全に崩壊寸前だったためにすぐさま立ち上がりエリシアの隣にいないようにするために小さくはあるがシンプルで使いやすいキッチンに向かい冷蔵庫の魔道具から食材を取り出してエリシアに食事を作ってあげる事にした。
「シア〜!晩御飯作るから風呂入っていいぞ〜!」
「ふぇ!?……あ、はい…お世話になります…」
食材を切っているためエリシアの顔を見ることは叶う事はなかった。
「ま、とりあえず食事準備でもするか」
そしてオレはお湯の中に切った野菜や肉を投入して数種類あるスパイスを合わせて作ったものを投入した。
ーーーーーー
「ふぅ…本当にいろいろあったな……」
私はナツキくんの部屋の中にあるお風呂に入ると芯からあったまっていく感覚が襲って気の抜けた声が出てしまう。
でも本当にナツキくんには助けてもらってばかりだ。私の事を白金貨まで使って買ってくれて私の裸に近い姿を誰にも見せたくないって言いながら私に魔法袋から取り出した白いロングコートを肩からかけてくれて彼の匂いとお日様の匂いがするそのコートを羽織っているだけで私の心には何か特別な感情が芽生えていた。
いや、もうその前からだったと思う。
私が初めて冒険者登録をした日に変態ギルドマスターから始めの依頼は誰かに一緒に行くように頼んでも構わない。
そう言われて私が選んだのは屈強な戦士でもなければ優秀で名を轟かせた魔法使いでもない普通の冒険者、もしかしたら冒険者よりも細い体をしていたかもしれない。
初めて見たときの印象は極東の出身の人特有の黒髪黒目、そして私の頭一つと半分くらい高い身長で他の冒険者のように角ばってない細いながらも綺麗な顔をしていると思った。どこかの貴族なのかもしれない、それに彼の強さとは合ってないような武器を身につけていたのが気になって私は彼と一緒に依頼を受けることになった。
初めて二人で回復薬などを買うために立ち寄った店では不人気ランキング堂々1位に君臨する店主が作った爆裂薬を買う変な人だと思った。
私は昔から運がないほうだった。
腹違いの兄弟たちは私の事をまるで虫のように扱うこともあって私は母様のそばにずっと居た。
でも私がずっと側にいたら母様に父が手をあげる。
他にも私に優しくしてくれた人たちは父の影響で私の前から去っていく。
それに運がないといえばあれもある。
初めて来た王都ではしゃいでしまいお金を落としてしまったり変な店に捕まりそうになったこともあった。
そしてどうにかお金を稼ごうとギルドに入ったが周りは変態ばかり……だからあの変態たちの中で最もまともそうな彼、ナツキくんに声をかけたのかもしれない。
ナツキくんは武器の扱いは全くの素人、護身用に持っていたって言っていたけど護身用のレベルではなかった。
電撃を放つ鉄の棒をあんな素早く動き回る狼の心臓めがけて攻撃をかわしながら当てて一撃で倒したり片手の鉈に近いマチェットという武器で狼の首を一閃で切り落としたのもすごかった。
普通に切るとしても首の切断は肉塊や骨で止まってしまい綺麗に切断することは上位の冒険者でもできる人は少ないと聞く。それを何度もナツキくんは作業をしているかのような速さと綺麗さを兼ね備えていた。
そして驚きだったのがナツキくんのスキルである鑑定。
まさか見るだけで鑑定が出来るなんて鑑定スキルを持っていることに驚いたことが昨日のように思い出せる。
「ふふっ」
ナツキくんが鑑定で教えてくれた母様の思いやナツキくんの祖国の文字、その話を思い出してしまい少し笑ってしまう。
あの日初めてナツキくんに頭を撫でられたときから何か他の人とは違う目で見るようになっていてその日以来からナツキくんと会うたびに気恥ずかしくて逃げてしまってナツキくんは私がナツキくんのことを避けているから私がナツキくんのことをあまりよく思っていないと思っているという話をギルド職員の方々からよく聞いていた。
私はそれを知ったとき、嫌な気持ちになった。だって私はナツキくんのことがこんなにも………。
「おーい!シア〜!ご飯できたぞー!」
「ひゃい!!」
「ぷっ…シア、のぼせる前に…くふっ!…上がってこいよ…ふふっ」
「う、うん…」
私はナツキくんの声を聞いてお風呂から飛び上がってしまいナツキくんの笑いを押し殺すような笑い声が聞こえてきてものすごく恥ずかしくなってお風呂を後にした。
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「ナツキくん、おふろ上がったよ」
オレがテーブルの上に食事を準備していると後ろから声がかけられる。
「おう、お疲れ……なにその格好?」
オレは目を疑った。
確かエリシアの着替えは魔法袋に入っていたと聞いたのに目の前にいるエリシアは上の下着を着けずに大きめのワイシャツを着ているだけだった。ワイシャツの隙間から薄ピンク色のパンツがちらりと見えたので下を履いていることに一安心する。
「変…かな?…エーベルバッハさんが今夜はこれを着なさいって言ってたから…」
「マジか……」
エーベルバッハさん!グッジョブ!
「まぁ、とりあえずご飯食べようか」
オレはそう言ってエリシアを椅子に腰掛けさせる。
テーブルの上にはこの世界にスパイスはあるのに料理として存在しなかったカレーライスとフルーツでデコレーションしているフルーツパフェを作ってみた。
「この茶色いのって食べられる…よね?」
エリシアは鼻をすんすんさせてカレーの香りを嗅いでいた。
ただでさえカレーの匂いは人の食欲をそそるのに嗅覚の優れた銀狼族が嗅いでいると……。
「ねぇ!ナツキくん!これって食べていいの!?」
目をキラキラさせて口元にはよだれが少しついていた。オレは「食べていいよ」というとスプーンを手に取りガツガツと女の子あるまじき食べ方をしていたが空腹状態でカレーを目の前に出されたらこうなるのも頷ける。
苦笑いしながらオレもカレーに手をつけようとするとじっとオレを見る視線を感じる。
「(うわっ…!めっちゃ見てんだけど……)」
オレがスプーンに入れていたカレーを口に近づけるとオレが口を開けばエリシアも口を開く。まるで子供のように真似をしていた。
そしてよく見てみればエリシアの皿はすでに空になっていた。
「……シア、俺さっきギルドの酒場で食べてきたから腹いっぱいなんだけどよかったら食べてくれるか?」
「え!……仕方ないなぁ〜。……今回だけだよ?」
エリシアの視線はやはりカレーに一直線だ。
オレは一言お礼を言ってエリシアの食べたカレーの皿を下げる。パフェはエリシアの分しか作っていないからオレは皿洗いに専念することにした。
「……ありがと…ナツキくん」
蚊の鳴くような声か細い声で囁いたエリシア。最近以上に身体能力が上がり聴覚も上がっていたので聞こえていたが彼女がお礼を言った後には啜り泣く声を押し殺していたのを感じたオレはあえて聞こえないフリをして鼻歌を歌いながら食器類を洗って片付ける。
「…すぅ……すぅ……ん…」
食器を洗い終えてエリシアの元に向かうと彼女はすやすやと寝息を立てていた。
彼女の寝息姿は微笑ましくもオレのこの気持ちを更に高める。
オレは慎重にベットに運び彼女をそっと降ろして掛け布団をかける。
エリシアの髪を掻き分けるように梳いていると彼女の両目には泣いた後があった。
「…そりゃ親に売られたんだ。泣いて当然だよな…もう俺は君が泣かなくて良いように頑張るから……傍に居てくれ…エリシア」
オレは彼女のサラサラですべすべの額に唇を落とす。
今までキスなんてしたこともなかったのに何故かすんなりとしてしまった……。
オレは顔が熱くなるのを感じながらベランダに昼寝用に作っていたハンモックに寝そべりながら顔を冷やす。
「俺ってやっぱエリシアのことがこんなにも好きなんだな……」
一人つぶやき見上げた空は満天の星空とどこまでも高くにある大きな月がオレを照らしていた言い過ぎだと思うがこれはオレの初恋を祝ってくれているようにも感じ取れた。
次からは少し忙しくなってくるので更新が遅れる場合があります。