一年ぶりの王城
あんまり長くないです。
と言うか、最近書くペースは速くなったのに1話分の分量が下がったかもしれない……すみません…。
ちょっと申し訳ないので、今夜の9時くらいにまた更新しますので、楽しみにしててもらえると嬉しいなー(遠い目)
馬車で揺られること30分。
気がついたことが一つある。
馬車の椅子は硬い。普通の馬車に何度かエリシアたちと乗ったことがあるがここまで痛く無かったはずだ。
もしかして奴隷用のは違う作りなのかと思いエーベルバッハさんに聞いたところ、俺が前に乗っていたのは少し高いものらしく、普通の馬車はこんなものらしい。
それを聞いた時にエーベルバッハさんが「高いものを準備できず申し訳ありません!この不詳エーベルバッハをお許し下さい!!」と、わざわざ馬車を止めてまで荷台に来て土下座をして来た。
それからまた馬車に揺られ、ようやく王国に入ることができた。
門番には高須が「罪人を奴隷として連れて帰ったから王の前に連れて行き断罪する」と言ったらすぐに通してくれた。
一年ぶりの王城が目と鼻の先に見える。
そこへ向かう道中で冒険者たちが街の人たちに王城から離れるように説得していた。
手紙のことはしっかりと伝わっていたようだが、奴隷の姿をした俺を見た途端に顔色を変える。とりあえずサムズアップして見たがどうもならなかった。
その冒険者はギルドの方に向かって走って行ったがもうどうでもいい。
そんなことを思っている時もありました。
ギルドの方向から土煙を上げて何かが俺たちが乗っている馬車に向かって走って来ていた。
目を凝らしてその方向を見るとピンクのフリルが見えた。
あぁ、決して幼女の下着が見えたとか俺が昇天しそうなものが見えたわけじゃ無い。
「ナーツーキー!!!」
野太い声が街に響き渡る。その声が聞こえた範囲の家の窓は閉められ、近くにあったカフェは《close》の看板を扉にかけていた。
そう。魔法少女の姿をしたガストギルドマスターその人だ。
その姿を見た俺は勿論–––––––
「おぇっ……」
吐いた。何度見ても慣れない。
高須に至っては「この世界にも魔法少女っているんだなぁ。と感慨深くつぶやいていた。
おいこら高須。魔法少女は幼女か少女だから魔法少女って言うんだ。決してガチムチのおっさんがコスプレをしているからそれが魔法少女なんていうのはやめろ。
魔法少女のアニメなどはおっきなお友達が見てるからと言ってそのおっきなお友達がその姿をするのとは話が違うのだ。
これはただ行き過ぎた変態の成れの果てだ。
エーベルバッハさんも顔色を悪くしているのになんでお前はそんないつもと変わらず話してるんだよ……。
それにガストが来たせいで戦っても無いのに俺とエーベルバッハさんは戦闘不能のグロッキー状態で二人並んで荷台に横になっていた。
馬車の操縦は高須とガストが話しながら操縦している。
一応ガストが一緒にいるのも僅かながらメリットがあった。
俺たちの馬車が通る時には道を開けて窓などはすべて閉じられている。…ここまで嫌われようを見ると流石に不憫に思えてくるが、魔法少女(自分で言っていて頭が混乱しそうな)姿をしていない時は結構人気のあるギルドマスターらしく、魔法少女の姿をしていない時に人と話すからこの姿の時は誰にも見られなくても別に構わない。とのことだ。
俺からすればこんな姿を他人に見られるのは嫌だから助かってるからなんとか我慢することができる……のだが……。
「あの、エーベルバッハさん…ごめんなさい。ガストさんが来たのは俺が王城に行く作戦を伝えて無くて、どうやらさっき他の冒険者に見られた所為だったみたいで……」
「い、いえいえ、彼にはナツキ様の手紙を届けていただいたので大丈夫です。それにナツキ様のためと思えばこんな吐き気くらいなんとも「ナツキ!クワルツェフ殿!もうそろそろ王城の門に入るからクワルツェフ殿は前の方へ」……うえぇっ!」
前の方から野太い声とともに荷台の中を確認する用の窓を開き、ガチムチのおっさんが声をかけてくる。しかも何故か今までなかった可愛い系の猫耳カチューシャを嬉々としてつけていた。
それを見たエーベルバッハさんは荷台の扉を開いて思いっきり胃の中のものをまき散らした。
俺も吐き気に襲われるが、なんとか口を押さえながらエーベルバッハさんの背中をさすっていた。
後々聞いた話だが、あの猫耳カチューシャはどうやら高須から自分たちのいた世界にはそういうものをつけたメイドさんのいる喫茶店が大人気だと聞いたらしく、試しに似たようなのを手早く作って見たらしい。
何をしてくれるんだという気持ちよりも、高須のようなスクールカースト上位の存在がそういう店に行ったことがあると言うのが驚きだった。
高須が操作していた馬車が止まり、前から男物の服を着たガストが降りて来た。
「ナツキ、コッチのにいちゃんから詳しい話はお前が吐いている間に聞いた。俺たち冒険者ギルドはこの国の悪を滅するために手を貸そう」
そう言い手を差し出してくるガスト。吐いている間に話を聞いたとか嫌味にしか聞こえない俺はエーベルバッハさんの背中をさすっていた時に手に跳ねてきたエーベルバッハさんの吐瀉物をガストに塗りつけながら笑う。
「そりゃ心強い。悪魔だろうと神様だろうとアンタのあの姿を見たら誰もが精神魔法にかかったかの様に吐瀉物を撒き散らすからそこそこ頼りにしてる」
「おう!任せとけ!住民の避難はすでにサブマスが中心となってやっている」
あるぇ?おっかしーな〜?嫌味を言ったつもりなのになんでこいつは頼られた!見たいな顔してるんだよ。忠犬ハチ公を想像した俺は悪く無いと思う。いや、それはハチ公に失礼だな。
「それよりあの飲んだくれのサブマスが中心となって働くとか、明日には槍でも降るんじゃ無いか?」
「明日じゃ無くて今日降りそうだがな!がはははっ!それより、報酬に高い酒ねだられて破産するんじゃ無いぞ〜!」
そう言いながらガストは誰もいない道を颯爽と帰って行った。あれほど巨大な体をしてるのにあの速さはなんなのだろうか……。
「ナツキ様ー!そろそろ出発しますよ」
「わかった」
エーベルバッハさんの言葉に一つ返事をして馬車は再び動き出した。
「止まれ!」
動き出したと思えばすぐに馬車は止められた。窓から俺の顔が見えない様に体を縮ませ覗いてみると、すでに王城の門の前で門番に止められていた。
「俺は勇者の高須勇人だ!国王の名によって大罪人の相川那月を奴隷として捕縛して来た!」
高須がそう宣言するものの、門番は訝しげに高須を見やる。その視線にすぐさま反応したのは意外にもエーベルバッハさんだった。
彼は懐から半羊皮紙を取り出すとそれを門番に見せる。
「失礼しました勇者様。どうぞお通りください。そちらの奴隷商のクワルツェフ殿は失礼ですがお引き返し願います」
「えぇ、わかりました。私も忙しい身なのでお会いしたいですが国王陛下に献上するものを今持ち合わせがなかったので幸いです。それじゃあ勇者様と大罪人の奴隷を降ろしましたら帰らせていただきます」
門が開くとエーベルバッハさんは馬を操作し馬車を停車させる場所まで進み停車させた。
そして荷台の扉を開けた。
「おい、降りて来なさい」
周りの兵士たちの目もあり、強く言うエーベルバッハさんは申し訳なさそうな表情をしていたため、少しだけ俺は笑みを浮かべるとすれ違いざまに小声で言って来た。
「ナツキ様、私はどうやらここまでの様です。あまり役に立つことができず不甲斐ないばかりですが、どうかご武運を……」
「えぇ、ありがとうございます。おかげですんなり敵地に来れました……エーベルバッハさん、コレを。貴方なら理解できるはずです。それで俺たちが手の届かない範囲を守ってください…これは誰も死なせない戦争ですから……」
そう言いながら俺は指輪から周りの兵士たちに見えない様にシルバーチェーンにルビーの様な真紅の宝玉が付いたブレスレットを渡す。
そのブレスレットを鑑定する暇もなく、素早く懐にしまいこみ頷いて馬車に戻りエーベルバッハさんは王城を後にした。
「行くぞナツキ……」
「おう、行くかユウト」
お互いに声をかけあい、カッコよく攻めようか。そんな感じだったはずなのだが、俺に繋がれた鎖を高須が持ちなんとも締まらない姿になってしまったがもうこの際どうでもいいだろう。




