幼女不足
オレがこの世界に理不尽に召喚されてから一ヶ月がたった。噂に聞いたが勇者たちは今は訓練期間というやつらしく、あとひと月もすれば冒険に出発させるらしい。
そしてこの一ヶ月間鍛え上げたステータスが一般人なみ、もしくはそれより上にまで上がっていた。
◇◆◇◆◇◆◇
相川那月 17歳
幼女愛好家(人族)
LV25
筋力350
防御力300
知力350
精神力250000
持久力300
スキル
短剣術LV2
片手剣術LV3
投擲LV1
追跡
鑑定
鍵開け
禁忌・幼女魔法LVMAX
称号
巻き込まれし幼女愛好家
技能複数保持者
鋼鉄の精神
鈍感死兵
鍵開け職人
アルステイン国王の嘘を見破る者
嘘つき青年
状態異常
幼女不足
◇◆◇◆◇◆◇
久しぶりにステータス確認したがいろいろ増えていたがとりあえずそんな事はどうでもいい。
オレにとって一番大事な者が足りていない。
それはもちろん状態異常まで現れているそれだ。
「幼女…幼女が足りない…」
オレは1人広々とした部屋の中でゴロゴロしながらスマホに保存していた幼女写真集で我慢していたがもうひと月も幼女と触れ合ってない。
日本なら最低でも週一くらいには幼女の頭を撫でることができたのに、この世界に来て撫でた相手といえばエリシアだけ。
ここ暫くはエリシアを見つけては撫でくりまわしてなんとか堪えていたが完全に警戒されてしまっている。
まるで親の仇でも見るようにだ。
そこでオレはとりあえず毎日のように通っているギルドに向かう。
「あら、おはようナツキくん」
「おはようございます。今日も快適に眠ることができました」
「それは良かったです。今日もギルドですか?気をつけて行ってらっしゃい」
オレにそう言いながら洗濯物のシーツを物干し竿にかけている女性はひと月前にここに来て脅し同然と思えるような根切りをしてしまい怖がらせていたが、いろいろ手伝いをしているうちに近所のおばちゃん同然の感覚になっていた。旦那さんはまだ少し冷たいが宿で食べる旦那さんが作ったご飯はいつも美味しい。
それと2人の子供である娘さんは魔法騎士学校の初等部に通っているそうだ。
この夫婦は美形だから娘さんも可愛い幼女なのだろう。
ちなみに娘さんの名前はメアリー・ルスカスと言うらしい。
もう名前から可愛い気がする!
▽▽▽▽▽
オレはいつもと同じように部屋にある姿見の前で革鎧を制服の上から身に付け腰のベルトにはマチェットと三段式警棒とコンバットナイフと催涙スプレーをいつものように身につける。
そして最近気に入っている爆裂薬は商店の店主に頼み込んで週に5本作って貰っていた。
この爆裂薬は買う人が普段いないため、他の毒物のオマケとしてつけていたらしい。だから俺が頼み込んで爆裂薬だけを買いに来たのが不思議だったらしい。
爆裂薬を製作した店主はこれまでに無い薬品を作ることができたと喜んでいたが冒険者たちに試してもらうと、戦闘中にポーチの中で爆発して自分が怪我をしてしまい、その怪我を治すためのポーションも一緒に壊れていて使えなかったらしく、それ以降は出回ることがなかったらしい。
そんな悪評価のアイテムをオレが頼んだのは店主も驚いていた。空気に触れて衝撃を与えると爆発するから持ち運びに不便、だが威力は強力。ハイリスク、ハイリターンの状態だがそれは普通に持ち歩けばの話だ。
魔法袋と言うのは制作者もどういう原理で異次元に物をしまっているのか分かっている人は少ない。
基本的にその異次元は時という概念が存在しない。
これは前にふと思い串焼きを魔法袋に入れて3日放置していたが、取り出した時はほかほかと湯気を立てていた。味ももちろん落ちているということは無かった。それと魔法袋の中身は中身同士が触れることが無い。だから衝撃も受けることが無い。
結果、使うときにすぐに取り出せて相手の付近で叩きつければ簡易手榴弾のようなものになる。
こんな簡単なことにこの世界の住人が気がつかないのも不自然だがまぁ、自分が誰よりも優勢になれるんならいい。
「あ、おはようございます。ナツキさん!」
ギルドの前を通ると声をかけられる。
その正体はエルだった。
オレは初日のあの百合百合しい彼女を目の当たりにしてからは彼女のことが少々苦手だ。
本人はノーマルだと言っていたが、これまた驚きの朝方はノーマル。夕方は百合の花が咲き誇る。
「お、おはよう…えっと…今日は珍しいですね。外で掃除なんて」
「あはは…ちょーっとヘマしちゃいまして…」
エルは苦笑いを浮かべながら手に持つ箒でごみをかき集めている。
「ヘマ……っ!あぁ、誰にでもあるよねそんなこと」
「何を勘違いしているのか大体読めてきましたよナツキさん。ひと月も顔を合わせていればギルドの冒険者なんて何考えてるかわかってきますからねっ!」
オレが明らかにエル(百合百合バージョン)が何かをやらかしたと思ったのを見抜いたのかズイズイと俺の方を指差し、果てはオレの頬にグリグリと押し付けてくる。
そのときに香る柑橘系の石鹸だろうか?その香りがふわりと香ってきてオレの思考を止めようとする。
「あ、あざとい…絶対狙ってやってるよなそれ…ギルドの男性職員がエルさんに堕とされるのがわかるな」
「そんな〜!わざとじゃ無いですよ!こんなこと他の人になんてしませんよ〜」
やだなぁ〜。と言いながらオレの頬を今度はグニグニと両手で弄ぶ。
俺の身長が175に対してエルの身長は155センチ程度、頭一つ分くらいの小ささなためにエルのその小さな顔とは似合わない二つの柔らかな山が俺にくっつき上目遣いになりながら見てくる。
「そんなこと言いながらBランクの冒険者に媚び売ってましたよね?一昨日くらいに」
「そ、そそそそうだったかなぁ〜?私わかんないや〜。あ、私仕事中だからそれじゃあまた〜!」
「うっわー。わかりやすいな」
あたふたとしながら脱兎のごとく去っていくエルさん。
ギルドの中に用事があるのにギルドに逃げ込むなんてこれはいかようだ?
それよりもこのひと月でわかったことはもう一つ。どうやらエルの属性はおそらく清楚系ビッチ。しかも男女どちらも食すことが出来るみたいだ。でも男に対しては下手に出て喜ばせては金を貢がせ、夜になったときにフィルフィと本気で百合百合するみたいだ。
これは違法に調べたものではなく、1週間前の探偵ギルドから流れてきたエル調査依頼と言うのがあり、それを受けたときに調べ上げたものだ。
全然違法なことはしてないよ(棒)
そんなこんなでギルド内に行くとやはりエルがいたがわたわたとオレから逃げる。
オレが彼女を苦手なように、彼女もバレ無いと思っていた動きを気がつかれてオレのことが多少なり苦手になったようだ。
だがそのかわりに受付に構えているフィルフィのM度が増加していた。
「はぁはぁ…ンンッ……おはようございます、ご主人様っ!しっかりと体を縛って家から来ましたわ」
オレの目の前にいるフィルフィはいつものギルド職員の服の上からオレが使わなくなって余った荒縄をプレゼントすると亀甲縛りを自分でするという荒技を身につけて毎日のように縛り上げ、その上から隠すようにギルド職員専用のコートを羽織っている。
「……やっぱりエルさんのところでやるんでいいです」
「あぁ!そんな殺生なっ!もう放置プレイはいいので叩いてください!罵って下さい!!」
明らかに危ない人と言われても仕方ない顔をしながら俺の方にカウンター越しで近寄ってくる。
ちなみにフィルフィはエルフの血が混ざっているものの、半分は人間というハーフエルフと言う物らしい。
日本で読んでいた小説などでハーフエルフは忌み子として疎まれていたが、この世界の半長耳族は普通に人族の中でも長耳族の集落でも暮らすことのできるようだ。
長耳族はやはり長寿であるために出生率が低い。そのため、子種して生命力の強い人族と交わることで出生率の低下を抑えることができたことによって長耳族の集落を守る人員が増えたおかげでハーフエルフは疎まれることなく、この世界で幸せに暮らしていけているようだ。
ちなみに彼女、フィルフィが長耳族の集落を出たのは集落で正しい性知識を覚えたのに自分に見合う性壁を持つ男たちが居なかったから自分にふさわしい男の子種を授かるためにこの国に来たらしい。
「エルさん……は、やっぱり無理だな」
オレがエルの元に行こうとするとすぐに棚の整理をしている振りを始める。
その行動を見て溜息をつき空いているカウンターを見つけてそっちに向かう。
「おはようございます、アイカワさん。今日はどうなされますか?」
オレが近づくのに気がついたカウンターにいる男性職員が丁寧に話しかけてくる。
「おはようございますクルスさん。クルスさん、前から言ってますけどナツキでいいですよ」
クルスさんは人族で元Aランク冒険者だったらしいが体を悪くしてもう冒険ができないときに変態が拾ってくれてギルド職員として働いているらしい。
「いえいえ、私は職員なので働いている間は公私をしっかりと分けさせていただきます」
「そう…ですか。ところでクルスさんに聞きたいことがあるんですけど、ある冒険者のことを聞きたいんですけれど」
「冒険者のこと…それはもしかしてアカツキ様のことでしょうか?」
アカツキ。Sランク冒険者であり、オレがこの冒険者ギルドに入るきっかけを作った幼女だ。
オレはクルスに魔法袋から取り出した紙を渡す。
「アカツキって人はこの子であってるんですよね?」
「おや、これはこれは。あってますがこれは確か10年ほど前の6歳の彼女ですね」
「え?10年前!?……だから見かけなかったのか…」
「彼女は6歳から冒険者を始めて7歳に上がる頃にはすでにBランク。彼女がSランクになったのはちょうど10歳の頃ですかね。突然、ドラゴンを仕留めてきたと言ったのでギルドの裏手にある広場に出して貰ったんですがそのドラゴンがまさかSSランクの魔物である影龍だったんですよ。彼女のことを人々は勇者の生まれ変わり。と騒いでいたのですがそれっきり姿を現さなくなってしまったんです。……あぁ、あの子はいまどうしているのだろうか……」
クルスは記憶を巡るようにポツリポツリと目を閉じて話してくれた。
10歳の頃にはSランク。もしかすると転生者なのだろうか?いやこれはもう転生者確定だな。
でもこの一ヶ月、王立図書館にある文献を読み漁ったがそんな記事は何処にもなかった。目立たないように行動していたのか地球の情報を自重して話さなかったのか。まぁ、他のことはいろいろわかったけれども。
「そうですか。彼女には会うことができないんですね」
「お役に立てずに申し訳ありません。……ああ、忘れていましたがCランクに先日なられたそうで。おめでとうございます」
「いえいえ。運が良かっただけですよ」
「謙遜することはありませんよ。たったひと月で二つも三つもランクを上げるなんて。簡単ではありませんからね。しかも仲間を連れずに。ギルド職員の中ではあなたの話が尽きないくらいですよ」
「あはは…本当に運が良かっただけなんですけどね」
そう。本当に運が良かっただけなんだ。
オレがこの世界に来てから毎週のようにゲームで言う所のキークエスト的なものが行われ、その依頼をこなしているというちに気がつけばCランクになってしまい、ギルドでCランクからは異名がつけられる。それでオレは『孤高の幼女愛好家』という寂しいくも変態感溢れる異名をもらった。全くもって嬉しく無いので名乗る時は『孤高』と名乗っている。これも痛々しいのだがCランクからは二つ名を名乗らないといけないらしい。本当に変態か厨二病しかいないのか?そう思いたくなる。
「Cランクにもなると護衛依頼や離れたところまでの遠征をしたりする依頼が多くなるので1人では厳しくありませんか?」
「あぁ、確かに。この間のマッドモンキーの群れを探し求めてだいぶん歩いて探して3日かかりましたからね。1人で野営をすれば襲われるから寝ずに歩いて回ってましたから。あれはもうやりたくないですね……でも仲間を作るとなると信用できる相手を見つけれないですからね」
「そう言えばありましたね。アイカワさんが2番目に組んだ3人組は奴隷落ちしたみたいですよ。新人狩りをして回っていたみたいですからね。アイカワさんが捕縛して連れて来てくれて助かりましたよ。でも遺品は全部何処かに売り払った上に金のありかは3人とも精神が壊れてしまったみたいで何処にあるかも教えて貰えませんからね。2人の男も男娼として買われ、女の方も娼婦として売られたようですね。その時のお金が入ったので受け取ってください」
そう言ってカウンターの下にある金庫からオレの名前が書かれている袋を取り出す。
「あはは…ありがとうございます」
オレが乾いた笑みを浮かべた理由は彼らの精神を壊したのはオレだ。
魔法袋を取られた瞬間、あの中に入っている画像集には今まで集めていた幼女写真があり、それを取られたのか不思議な光がオレを包み込んで気がつくと周りには彼らが溜め込んだ金が落ちて、3人は何かずっとつぶやきながら精神が壊れていた。
あとあと気がついたことだが、恐らく幼女魔法が発動したと今になって思う。
受け取った袋を開けると金貨20枚と銀貨10枚。
二百五万円。
結構な大金だがやはり犯罪を犯した奴隷の金額は低い。
奴隷には三種類ある。
一つ目は通常の奴隷。
この奴隷は親や親族に売られたり、借金を返すことが出来ずに奴隷になるものだ。
だがこの場合の奴隷は自分の金額分働けば解放される。ひと月で五万円を収入金と定められていて、その金額をしっかりと払ってないことを見つけられるとその奴隷は解放されて主人の方は罰金としてその奴隷を購入した金額の倍を奴隷に払わないといけない。この場合の奴隷は性的なことをすることは出来ないが、同意を得れば性的なことをして良いらしい。
二つ目は性奴隷。
この奴隷は通常の奴隷として死ぬまでに解放されることのない場合。
主に娼婦として買われたり、遠出をする旅人が性欲のはけ口として購入する冒険者や傭兵、商人が多いらしい。その性奴隷は性行為を一回すれば銀貨1枚を与えられ、通常の奴隷よりも収入金が高いため性行為を何度もすることで解放される。
だが好きでもない相手に抱かれ、果ては子が出来てしまい自殺するものもおおいといわれている。
それはそうだろう。男のオレであっても好きな相手と以外はしたいとは思わない。どんなに相手が綺麗だろうと。
三つ目は永久奴隷。
この奴隷は安く購入できる奴隷であり、元犯罪者である。
元犯罪者と言うことで奴隷解放という手段がなく、この奴隷には他の奴隷の腕輪とは違い、隷属の首輪と言うアイテムがつけられ、主人の命令を絶対に聞き、自分の好きに死ぬこともできず、命令を逆らうと死に値するほどの苦痛を味わうことになる。
この永久奴隷は命令を絶対に聞くため、まるで犬かのように扱われたりすることがあるらしい。
胸糞悪い話だ。昔の日本でもこんなことが行われていまでも他の国では隠れて奴隷制度が残っているところもあると聞く。
だからオレは奴隷と言うものが好きにはなれない。
「アイカワさん。もし裏切らない仲間が欲しいのであれば戦闘向きの奴隷を購入されては如何でしょうか?」
「奴隷…ですが……」
明らかに嫌そうな顔をしたオレを見てクルスは頭を下げて来る。
「申し訳ありません。失言でした」
「いやいや!頭をあげてください!そんなこと思ってませんから!」
「そうですか?…それで何ですが、今日の3時頃から奴隷オークションが開かれるんです。見るだけ見に行かれては如何でしょうか?私も貴方と同じでしたが職員の方に言われて20年前に奴隷を購入したのですがいまでは良い妻として私と共に歩んでくれてるんですよ」
初めて知った。クルスは冒険者時代に奴隷を買っていたのは聞いたことはあったがまさか奴隷と結婚していたなんて。そんな人もいるんだなぁ。
「わかりました。先人の教えは聞かないといけませんね。年の功と言いますから今日行ってみます」
こうしてオレは奴隷商人が集まってオークションを開くと言われた会場に向かうことになった。
ーー思えばクルスの言葉でオレと彼女の運命は完全に繋がれたんだと思う……。