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激闘! 幼女愛好家VS暗黒勇者

戦闘描写って難しいですね。

期待しないで読んでもらえると嬉しいです(笑)


「高須……その後ろのやつは……」


ナツキは剣を構えたまま、硬直する。

まるで蛇に睨まれた蛙のように。

高須の後方に存在する死神の冷気に当てられた。


「俺は死神に魂を売ることで力を手に入れる事ができるらしい……。剣を一振り作るのに俺の寿命を二十四時間……約一日分の寿命を持って行く。そして寿命で作られた武器は造られて一時間の間は思いのままに動く。こんな風になッ!」


ナツキに目掛けて高須は剣を振り下ろす。

死神に睨みつけられているナツキは未だに足を動かす事ができず、回避行動を考えずに手に持つグランフィリアを構え防ぐ。


その行動を取ったナツキは間違っていた。

思いのままに動く。

高須はそう言ったのだ。


それに気づいたナツキはもう遅かった。

目の前にあった筈の高須が作り出した剣は消えていた。

その剣を探す間も無く、ナツキは背中に激痛を感じる。


「ぐゔぅあぁッ!」


肉と骨を断たれる痛みに、肉を焼かれる苦痛。

そして背中にあるのは先ほどナツキの剣を溶かしたものと同じような剣だった。

溶かすのは鉄だけとは限らない。

すぐさまその剣を抜こうと手を回すが高須がその剣を操作し深々と突き刺す。


「があぁぁあぁあああッッ!!!!!」


肉を完全に溶かし、腐食させながら背中から胸にかけて剣が貫通した。


剣で貫かれた腹からは血が落ちることはなかった。

斬られながら高熱の鉄の剣で溶接されたようになったからだ。

この傷だと恐らくどれほどの回復魔法の使い手でも完全に治すことは不可能だろう。


「ナツキくんッ!!」


エリシアが叫ぶ。

自分を救い出し、例え伝説と呼ばれた迷宮のモンスターを屠ろうが、ナツキの前に立つ死神に魂を売った勇者は強敵……いや、勝てない相手なのかもしれない。

そう思ってしまうほど、一方的な虐殺を見ているかのようだった。


高須勇人は思う。

何故、自分はこんなに苦しまなければならない。

勇者召喚などの異世界モノの小説でよく読むような話だった。

その中の勇者は苦難に苛まれようと苦難に屈することなく、自らの大切な人のために戦い、勝利を収めてハッピーエンド。

それが王道で最も好まれるストーリーだ。

勇者召喚で呼び出されたのは自分で、勇者の称号があったのも自分だ。

幼女愛好家なんて犯罪者みたいな称号を持ってる奴が幸せになって勇者の自分が幸せになれないのは可笑しい。

なんで自分の好きな子だけが不幸になって相川の好きな子は幸せそうに……憎い……憎い憎い憎い憎い憎い憎い。

憎悪、嫌悪、沢山の相川に対する『悪』の感情が高まって行く。


『そうだ。勇者よ。もっと、もっともっともっとッ!!悪の感情を抱け!憎め!怨め!殺せ殺せ殺せ!!自分が不幸になったぶんだけヤツは幸せを掴んでいる!そんなヤツを生かしていてはお前は幸せになることはない!それが嫌なら殺せ!全て殺せ!』


背後の死神の声により、相川を憎む感情が沸々と湧き上がる。

その感情が死神の贄となり死神は高須に力を注ぐ。

寿命を削り作り出される剣は高須の気持ちを備えたお陰で魂の消耗……寿命が削られることなく剣を無数に空中に浮遊する。

その数は千を軽く超えていた。


ナツキは驚愕に顔を歪める。


「なんだあの数は……ッ!もしかして!」


高須の頭に手をかざしている死神に視線を寄せる。

ナツキが気づいたかもしれないというのに死神は骸骨の顔をケタケタと振るわせ嗤う。


ナツキは貫かれた傷口を気休め程度に指輪から回復薬を取り出して胸にかける。

傷口は煙を上げ、痛みがナツキを襲うがその痛みに耐えると傷口は完全にとは言わないが、これで肉が化膿することも無いだろう。

帰ったらソラのアマテラスとしての力で傷を癒してもらわないといけないかもしれない。


「高須ッ!俺は覚悟を決めたッ!お前を斬る!」


背中に携えていた剣はSランク並みの武器に劣化耐性が有るにも関わらず、高須の感情で強化されたその武器によって消滅させられた。

腰の剣は両方残っていて、その剣を抜刀し、かまえる。

右の手には翡翠炎剣グランフィリアを、左の手には影剣ランドルフを。

過去の……一部の記憶がグランフィリアを手にした時に帰って来た記憶の中に含まれる戦場を駆け回り、洗練された二刀の剣で戦っている前世のナツキの姿。


「二刀流……【覇王の構え】!!」


腰を落とし、長剣のグランフィリアを最大の攻撃力を持つ剣を高須に向ける。

短剣のランドルフは逆手に持ち、絶対防御の盾のように構える。

何も知らずにその構えを取ればただの馬鹿にしか見えない。

短剣を逆手に持つなんて力を加えずらい。そんな持ち方をしていればその手ばかり狙われてしまうだろう。


だが、ナツキのその構えには妙な威圧感があった。


「ッ!……射出しろ!!」


高須の掛け声で空中浮遊していた剣がナツキに向かって射出され、高速で飛来する。


それでもナツキはその構えを解かず、飛来する剣の軌道を全て読み尽くす。

まるで時が止まったかのように剣の速度が遅く感じた。


「うおおおぉぉぉぉおおおッッッ!!!」


雄叫びを上げながら飛来する剣を全て流れる動作で打ち砕き、手数が足りずに手を出さないのに対しては交わし尽くす。

だがいくらかわそうと高須の操作している剣はホーミング機能を備えたグレネードランチャーのようにナツキを襲う。


だがそれを完全に回避し、計算し尽くされた回避で高須の後方の死神に向かうように動いた。


グサリッ


死神に剣が刺さる。

その死神からはやはりナツキを嘲笑う笑い声だけが聞こえてくる。

こんな方法で戦って何になる?とでも言いたそうに…。


高須の近くまで行ったナツキは高須に斬りかかり高須の剣とナツキの剣が火花を散らす。


「高須!俺はお前が大っ嫌いだ!」


「戦闘中に無駄口なんて余裕だなッ!」


鍔迫り合いになり、ナツキは何を思ったのか自分の今素直に思ったことを言う。


「余裕なんてことはねぇよ!まだ回復薬かけたとこがめっちゃいてぇよ!お前の胸にも風穴を開けてやろうかと思うくらいだよッ!」


「嫌だなそれは!でも俺はお前の首を持って帰ればそれで良いんだ!」


「高須!お前は本当にあの愚王が高須ハーレムを解放すると思ってるのか!?」


「思ってるわけじゃ無い……でも、例え1%の奇跡でも有るんならそれに賭けたい!」


高須にナツキが目にした高須ハーレムのことを話すべきか…。剣を交え、言葉を交わす間に考えていたがこの闘いが終わってから伝えるべきだろう。そう思った。

あの死神が高須の負の感情を贄にするのならばナツキがそれを伝えると返って高須を強化させることになってしまう。


そんなことを考えつつ全力で高須に剣を打ち込む。

防ぎようの無いくらい剣撃を与え、高須を追い込んでいく。

お互いに大切な人のために戦っている。

それはどちらも分かっている。

自分の望んだ戦いじゃなくてもだ。


高須はバックステップでいったん距離を取り、ナツキから離れ体勢を整え、手に持つ剣を地に突き刺した。


「クトゥア!これじゃ拉致があかない!モードチェンジだ!」


『良いだろう。だが、この男に勝つならばお前の今現在の負の感情だけでは物足りない。何を対価にするんだ?』


「俺の……感情だッ!」


高須は覚悟を決めたように後方の死神に叫ぶ。

死神はケタケタと笑い腹を抱えていた。


『カッカッカッ!感情か!それは面白い!よかろう!暗黒勇者の最大の力を渡そう!!』


死神が高須の頭上に死神の鎌を掲げた!


「『【我、暗黒に染まりし悪しき勇者なり!全てを殺し!全てを否定する!顕現せよ!暗黒に染まりし世界の果てに顕れし死せる古の剣よ!』」


高須と死神が同時に呪文を詠唱する。

一人の男と死神の周囲の黒霧が色濃くなり、空を黒い霧が覆い尽くし昼間だと言うのに真夜中のように周囲が暗くなった。


ズドドドドドォォォオオオオオンンンンンッッッッ!!


巨大な稲妻が轟音を鳴らし高須の目の前に落ちる。


「『天より堕ちし堕天の剣よ!我が手によりその力を示せッ!!』」


詠唱を続け、高須はその稲妻を握る。

そして高須の手には漆黒の稲妻を模った様な歪な形の剣を握っていた。


「雷黒剣クトゥア!!」


高須の後方の死神の名を持つ剣。

この世界の伝承はあらかた調べたつもりだったがこの死神についてナツキは全く知らない。


雷黒剣をナツキに向けている高須は既に肩で息をするほど体力を消耗していた。

そして高須の瞳に光が宿っていないことにも気づく。


ナツキは、ふと先ほど高須が死神クトゥアに対価として感情を支払ったことを思い出した。


高須は今現在、まるで機械兵器にでもなったかの様に攻撃を入れてくる。

後方のクトゥアも自らの死神の鎌を実体化させナツキに攻撃をしていた。


二刀で二人の攻撃を弾く。

この武器を持ってから、まるで自分の知らない攻撃をされても、どこにどうやって動いて、回避、防御、攻撃の方法をなんとなく感じ取れるようになった。


ナツキの……前世のナツキの会得した二刀流の構えでは十二の技が放てる。

その方法も全てこの両親だった剣、翡翠炎剣グランフィリアが教えてくれる。


ナツキは無機質な機械のようになった高須を目覚めさようと技を打ち込む。


「二刀流、覇王の構え–––––壱ノ型【双月双覇そうげつそうは】!!」


覇を極め、洗練された流動のような動きで高須の剣を逆手に持ったグランフィリアとランドルフの二刀で弾き、振り下ろされた当たれば致死性の高い死神の鎌を回避し二刀を縦横無尽に振り何十、何百、何千、何万……数え切れないほどの剣撃を放つ。


それはもう残像すら残さず、まるで止まっているかのように見えた。


「……ッ!」


どれほど剣撃を放ったかわからないが、ナツキは急に悪寒を感じ、高須から離れる。


ナツキの立っていた場所には巨大なクレーターが残されていた。


『チッ……せっかく気に入った玩具を壊されては堪らないからな。我も手を出させてもらおう』


死神が鎌を持つ反対の手にしていた短杖ワンド。おそらく魔法を放たれたのだろう。

巨大なクレーターはただ削り取られただけには見えず、それは生命のかけらも残さないように消失しているかのように見えた。


周りの雑草は枯れて粉が舞うように風で飛ばされ、荒地に変えた。


このまま、戦いを続けると迷宮都市に被害を与えるかもしれない。


早急に高須を倒さないといけない。そのためには死神をどうにかしないと……!


ナツキは一抹の不安を振り払いながら再び剣を構える。


–––思い出せ



なんだ……?

不意に頭の中に声が反響する。


–––思い出すんだ。お前は俺だ。使いこなせないわけがない。


だからなんだよこんな時にッ!!


頭に響く声はノイズ混じりの頭の中を搔きまわすように巡る。

気を抜けばこの声を聞いているだけで異様な感覚と共に吐き気がする。


–––俺はもう俺の説得を諦めて最適化をしよう。


だーかーらー!!

何なんだよ急に!クラスメイトが自分の感情を死神に対価で払い、どうにかしないといけないって時に!!


–––お前にはまだ俺を受け入れるほどの器はないって事だったか……変われ。俺がやってやる。お前の剣はまだまだ未熟だ。感覚だけは残しといてやる。



–––覇王の異名を汚すな。これは大切な人たちに受け入れてもらえた異名なんだ……例え俺自身であろうと俺のことが憎くてたまらない。今回だけはお前の要望通りにあの死神だけを斬ってやる。


–––だから––––







「『俺が神狩りをやる』」


ナツキの頭の中に男の声が反響し、ナツキが纏う雰囲気がガラリと変わる。

例えるなら普段のナツキは明るく振る舞いみんなを照らす太陽のような存在感を放っていた。

だが、いま立っているナツキからは『孤独』。この二文字がピッタリ合うような月のように冷たく、薄っすらとしたそこの知れない光を放っていた。


離れた場所にいたエリシアでもわかるほど雰囲気が変わっていた。

……アレは自分が好きになったナツキではないと。ハッキリわかるほどに。



『–––ッ!!それは!』


死神は何かに感づいたようでナツキからいち早く離れようと高須に完全に憑依し、ナツキが高須を斬るのを躊躇わせ、そこをついてナツキを殺そうと空を埋める雲のように剣を無数に精製し己を囲む。


「『ハッ……そんなもので覇王から己を守れるとでも思ったか?』」


ナツキの声が二重に重なり合う。

そしてナツキは何を思ったのかアイテムボックスである指輪を起動させ狙撃銃を顕現させる。

だがその狙撃銃はリコリスの使っていた純白のものでもなければナツキが初めてその長銃を取り出した時のような青と赤がとぐろを巻いた様なカラーでもない。形状は同じだが漆黒のメインカラーに乾いた血の様に赤黒いラインを描いた狙撃銃だった。


「『俺がいなくなって彼奴らはこんなものまで作って……まるで俺が帰ってくるのをわかっていたみたいだな……ロイの言っていたことが正しければ早く《俺》を目醒めさせないといけないな……こんな一時憑依なんかじゃ……無駄口たたく暇があるんならあのうっとおしいゴミどもを片付けるか』」


ドンッ!ドンッ!ドンッ!


何度も狙撃銃から精神力で作られた弾丸が飛んでいく。地面にはカランカランと薬莢の落ちる音が響く。

薬莢は軽いから弾丸の音よりも小さいはずなのにそれでも音が響くのはナツキの膨大な精神力で固められた銃弾だったからだ。


全弾命中。

百発百中の狙撃の腕。

飛来する剣の雨は片手に構える両親の心で作られた神器を結合させた武器。

壊れることのないそれは敵の剣を壊し尽くす。

破壊に破壊を重ねる。


『ば、化け物がッ!!』


死神の周りにはもう剣はない。

死神は無理矢理にでも高須の生命力を奪い実体化して逃げようとする。


「ぐぁあああああッッッ!!!」


高須の悲鳴。

無理矢理に寿命を取られる高須は命を終えるかと思うほど生命力を奪われる。


『ふはははッ!これだけ勇者から奪えば実体化なんて簡単なものだ!最初からこうしておけば良かったのかもな!』


高笑いしながら高須から出てきた死神は虚像の物ではなく、ハッキリと完全に目視できる様になっていた。


足元には寿命を奪われ、黒い髪が白髪に変わってしまった高須が転がっていた。


「『クズはいつでも高笑いをしたがる。……敵が笑っている間は待ってくれるとでも思ったのか?』」



「『一刀流、神殺しの構え……《神滅人生ラグナロク》』」


構えを取るナツキの周囲がモノクロになり凍結したように時を止める。

勿論、ナツキに時を止める力があるわけなんてない。

神殺しの構え。

それは全精神力を全て捻り出し神を殺すために極めた一発の斬撃に乗せる為の予備動作で思考を加速させ、思考と共に肉体をも加速させる。


周囲の人々から見ればナツキが構えをとって相手が切断された様にしか見えない。


ナツキは剣を袈裟斬りの要領で剣を振り下ろす。

剣先から剣に入りきらなかった精神力が放出される。

その精神力は虹の様に輝き斬撃波となって死神に直撃する。


『ぐぁぁぁぁああッ!!』


ナツキは叫ぶ死神の下まで加速した状態で近寄る。

ナツキが瞬間移動してきた様に見える死神はナツキを恐怖の対象として見ていた。


「『うるせぇ、死ぬ時くらい口を噤んでろ。クソガミども』」


口を中心に頭を八等分に切り分ける。

消滅しかけた死神から高須の生命力を取り出し、すぐに高須の心臓に拳を叩き込む。


「ぐぁああッッ」


呻いていたが高須の命は取り止められた様で、白髪も半分以上は黒に戻ったことに安心し、エリシアの方を向く。


「『エリシア……だったよな。俺に俺がもっと強くなれ。そうしないとクレアとリコリスを助けることはできない……それと、ナナシ……禁呪王と名乗るものが接触してきたら気をつけろ。神々はお前を見ている。そう伝えてくれ……』」



エリシアに微笑みかけて「こいつを頼む」と言い残して意識を消失させ、ナツキは地面にばたりと倒れ伏した。



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