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義弟の依頼

すみません。来週は色々と忙しくなるので更新できないかもしれないです。ごめんなさい。


「ううっ……あれ?ここは…」


『起きたね。君は夢の中で過去にあったことを思い起こしていたと思うんだけど、それは僕が君の奥底に眠っている記憶を呼び起こしたんだ。だから事実と御伽噺は違っていたでしょ?』


確かに。そうナツキは思いながら御伽噺はハッピーエンドになっていたがこの記憶から見る限り、幸せにはなっていないはずだ。


「なんだったんだ今のは?」


『君の記憶を僕が呼び起こした。少しばかり邪魔な介入があったからちゃんとした記憶を最後まで見せることはできなかったんだけどね……そして詳細がどうなったのか聞きたいだろうけれど、僕もヤツに干渉される対象だから君とヤツのことについて語ることはできないから記憶を呼び起こしたのに……あのクソ野郎はそれもさせてくれなかった』


クローゼットから自分を責めるような声がして、ナツキはなんと声をかけていいのかと考えるが思い浮かばずに周りを見渡す。


そこではナツキを囲むように倒れて眠っているエリシアとソラとルナがいた。


「なぁロイ、こいつらは何を見てるんだ?」


『あぁ、君との1番の思い出を美化させて見せてるよ』


「ん?どうしてそんなことを?」


『君の昔話を語るのはどうかと思ったのもあるけどヤツの干渉対象に彼女たちをさせたくないだろ?干渉対象になったら僕みたいに人生狂っちゃうからね。まぁそれもあるけど、その方が面白いと思ったからっていうのが強いかな?』


「……ちなみにみんないつの記憶を見てるんだ?」


ほんの出来心程度で聴きたくなってしまったナツキはロイに向かってボソボソと呟くと『さあ?僕は一番幸せな記憶を見せているだけで、見せる記憶を指定することはできないからわからないね』と返され、諦めた。


でも、よくよく考えてみればナツキにはクレアとリコリスたちとの出会いから最後まで見せていた。

それを指定しなかったら見せることは出来ないだろうと思ったが特に何も言わずにみんなが起きるのを待った。


しばらくみんなの幸せそうな寝顔を見ながらロイと会話をしているとふと思い出したことをナツキが口にした。


「ロイ、そう言えばある人?から魔大陸に行けばなんかわからんが俺が欲しいものが手に入るらしいんだけどさ、なにか知ってるか?」


『魔大陸に……ねぇ?』


「な、なんだよその含みのある言い方は……」


『まぁ、これくらいなら言ってもいいのかな?えっとね、君の……以前の君が暮らしていた国、元クラウスハルト神聖国で現在はグランデ魔帝国。魔王が統治する魔人のための国だ……』


「魔王が統治する国?魔大陸全部がそうだってのか?」


魔大陸はこの世界にある大陸で1番の大きさを誇っている。世界地図でこの世界を見たことがあるナツキは地図の半分以上が魔大陸になっていたはずだ。


『うん。君がこの世界から消えて千と五百年。これまで幾度となく戦争が続いた……でも百年くらい前から魔大陸から魔族が出てくることはなかった……多分君という真の魔王が現れることがわかったから大陸で戦争に向けての準備をしているのかもしれない』


「戦争!?何処に対して?」


『何処ってそれは……君のいる場所に決まってるだろ?どうする?君ならもうとっくに転移魔法を使えるはずだ。使い方を知らないだけで。それで前の君みたいに何処か遠くに飛ばすかい?それとも––––––』


「何言ってんだよ。好きな奴は手元に置いて何が来ようと守るだけだろ?」


ナツキがロイの言葉を遮り断言した。

ロイの顔は見えないが笑っているような気がしていた。

おそらく答えはこれでよかったのだろう。そう思いナツキは再び口を開く。


「前の俺はよくわからないけど、前の俺が失敗したのなら今回は失敗できないだろ?……同じ過ちを繰り返すかよ」


『そうかい。君がそう言うならば君にこれを渡しても良いかな』


そう言ってロイは鍵のかかっていた引き出しのロックを解除した。


カチャリと音のした引き出しを開けるとそこには一本の剣と一つの指輪があった。


『これは翡翠炎剣グランフィリア。君の両親のカケラを君の仲間たちが各地を戦火の中、駆け回って集めてそれを一つにして君の妹が錬成して作り上げた一振り。君の作った神器のように擬神化は使えない。でも性能で言えば君の使っていたものと同等かそれ以上の力を発揮するだろう。それと指輪はつけてみればわかるよ』


翡翠炎剣グランフィリアを手に取り漆黒の鞘から抜いた刀身は緑色の炎を上げてナツキの身体にまとわりつく。まるで自分の子を抱く親のように。不意に視界がぼやける。目を擦れば涙がポロポロと止まらない。

炎が痛いわけではない。ただなぜかよくわからないが幸せや嬉しいと言った感情がふつふつと湧いてくるからだ。


「……でも正直もう武器とかいらない気がする……」


『ナツキ…一応それは君の両親なんだよ?流石にそれを言っちゃあダメだと思うな僕は』


「いや、ほんとマジで。なんか優しい感じが流れ込んできたけどさ、それは前の……この世界に居た俺の両親だろ?あっちの世界にはちゃんと俺の両親もあるんだが……」


『それは君の妹、ムツキが作り出した幻影だよ?』


「マジか……だからたまに母さんも父さんも反応が薄いときがあったのか…」


『それは単にスルーされただけだと思うよ僕は。昔からスルーされやすいタイプだったからねナツキは』


妹優秀だな。この一言に限る。


「まぁ、使えるものは貰うけどさ」


『君ねぇ…もっとありがたがろうよ』


しれっと腰の剣帯に翡翠炎剣を引き下げて調節した。

ついでにシルバーのリングに赤と青の二重線が入った指輪を左手の中指に嵌めた。


「なんもならないんだけど?」


『それはアイテムボックスだよ』


「なるほど、それで?」


『それだって?何か期待してるの?』


「いや、そんなことないんだけど…この中に武器がたくさん入ってる気がするんだけど……」


『もちろんあるよ。百万種類くらいはあるんじゃない?』


「いやマジほんと、もう武器はいいから……」


『ちなみにその指輪の赤と青のラインをくっつけると変形するよ』


変形、そう聞いて興味を示さない男はいない。

ナツキでさえそうだ。武器はいらないと言いつつも正直、武器にロマンを求めれば良いと思っているから変形と聞けばたとえどんな武器であろうとロマン武器ならば欲しい。


ナツキが指輪に目を落とすと指輪の赤と青の二重線には突起のようなものが小さく付いていてそれを摘んで挟むと急激に精神力が減る感覚に陥った。


そして指に嵌めていた指輪から淡い赤と青の色をした光の粒子が流れ手に収まるとずっしりと重みを持った遠距離武器、狙撃銃に変化した。


「え、何これ?」


『あははっ。本当にリコリスの聖銃と似てるね。色の違いわあるけれど。あ、ちなみにそれは精神力を流し込む前に意識していた遠距離で攻撃するものに変わるから』


「何そのチート武器……。化け物にこんなの持たせちゃダメでしょ?」


『まぁ、これはナツキにあげるんじゃなくてリコリスに渡して欲しいんだよ』


「ん?このアイテムボックスの中に俺が作った武器が入ってるんだよな?」


『うん。でもいらないんだよね?』


「うぐっ……それを言われると……」


『もしかして売ろうとしてたでしょ?』


声のトーンが落ちたロイは少しばかり怖かった。

ナツキは図星を突かれて何も言い返すことなく黙っていると呻き声が聞こえてその方向を見るとソラが目を覚ました。


「うっ…なんだか懐かしい夢を見たのじゃ……」


「 大丈夫かソラ?」


「あぁ、ちとばかり昔引き篭もっていた時のことを思い出しただけじゃよ」


引き篭もり?そんな話一度も聞いたことないぞ?

疑問に思いながらもナツキはソラを見つめる。


「な、なんじゃ旦那様よ?そうもじっと見つめられると私でも恥ずかしいぞっ」


デレデレとしているソラを見るなりナツキはソラの引き篭もりなんてどうでも良いと思えるようになり一目散にソラに抱きつき腰を下ろして自分の膝の上にソラを乗せて頭を撫で始めた。


「な、何をするのじゃ旦那様っ!?流石にこれはちと恥ずかしいぞ!!」


そう言いながらも嫌がる素振りは見せずにもっと撫でろと言わんばかりにナツキに擦り寄る。


『ねぇねぇナツキは僕の存在を忘れてそこまでするのかい?』


「この体勢で話しちゃダメか?」


「なっ!?人がいるならこの格好は失礼じゃろ!」


『まぁ別に良いけど。ナツキ、お願いがあるんだ』


ナツキはソラを抱きしめ逃さないように捕まえているとソラが騒いでいたがロイはスルーして会話をし始めた。


『君には今もう既に大切な人が居るのはわかっている。でも、リコリスとクレアを……僕の姉さんと君の婚約者を助けて欲しい…助けてくれたら僕はなんでもする。だからっ––––––』


「わかった!やろう!俺に記憶がないとはいえその二人が大切な人だってことくらい覚えてなくたってわかる」


『それならっ!』


「あぁ、絶対に助けてやるよ。ただし!俺が助けるなら条件がある!」


『じょ、条件?』


「あぁ、それは––––––」


ナツキが条件を言うとロイは大きな声で笑い、膝に座らせたソラからはジト目で睨まれる。


『わかったよ。君のその条件、乗るよ。みんな助けて……義兄にいさん』


「お、おう!任せとけ。しかし義兄さんか…なんか背中がむず痒くなるな義兄さん呼びも良いけど、やっぱナツキで良いよ」


『あははっ!それでこそナツキだよ!それと、今わかったけれど君、もう記憶は戻ってるよね?』


唐突に言われたことにキョトンとするナツキ。「戻ってないぞ記憶なんて」と言い返すと『君じゃなくてその膝の子だよ』と返ってきた。


「どゆこと?」


わけもわからずクローゼットとソラを見回す。クローゼットはやはり変化はないがソラの方は表情が曇っていた。


「ソラ、記憶が戻ったってどう言うことなんだ?」


「旦那様よ……ナツキ・アルマス・クラウスハルト王子……」


その名前にナツキはぎょっとしてクローゼットを見る。


『ナツキがそんな顔するのを見るのは何千年ぶりだろ?』


いや、何千年ぶりだろ?じゃねぇよ!と言いたくなるのを堪えてロイはソラのことを知っているのか聞いた。


『厳密にいえば知らないよ。その子からはこの世界の生命から感じられる力を感じられないんだよ』


「それは俺がソラを作ったからとかじゃないのか?」


『それだけなら良いんだけど、ナツキをベースに作られているのはわかるよ。でもね、記憶を取り戻せてないナツキに神器の作成は出来ない。だから魔道具作成でその子を作った。でもそれはあり得ないことなんだよ?だって–––––」


––––神格が混じっているから。



「神格?それってソラが神様ってことか?」


『そう言うこと。僕も詳しくわからない神様ってことは奴か違う世界の神様って事になるから、おそらく君の世界の、それも異世界に飛べる存在ともなれば上位の神様って事になるかな?……違ってたかな?』


「いいや、間違ってはおらんよ。私は神格を持っている。日本神話二神のうちの一人、天照大神じゃ。でも、この肉体のベースになっているのは天狐じゃ」


ソラが神格を持った天狐?信じがたそうにソラを見つめるナツキに対してソラは耳を出して尻尾を九本・・出した。


「え?九本?」


思わずナツキは声を漏らしてしまう。ナツキの知っている天狐は尻尾が四本しかないのにソラからは九本も生えている。

ナツキの声に反応したソラはすぐさま五本の尻尾をすっと引っ込めた。


「なぁなぁ、いま九本あったよな?」


「い、いやぁ〜なんの、こここ、ことじゃ?」


「おいおい、それは隠せてないだろ」


目を泳がせるソラは自白しようとしない。ならばと思いナツキはソラの狐耳と尻尾の付け根を撫でたり揉んだら繰り返した。


「ひゃっ!?ちょ、ちょっと旦那様!?や、やめてくれぇ〜!!」


「やだ。ソラが話してくれるまでやめない」


上ずった声をあげながらナツキを追い払おうとするがナツキの両足にがっちりホールドされた状態で膝の上に座っていたのが仇となり逃げように逃げることはできず、ナツキはナツキでソラが話すまで断固として擽るのやめないと決めずっとくすぐっていた。



「わ、わかったのじゃ!あははっ!そこは、そこは〜っ!!やめてたもー!!話すからやめい旦那様!」


ナツキのホールドを解いてくるりと綺麗に一回転してナツキの顎に膝蹴りをするソラのその顔は割と本気で般若のようだと思いながらもナツキは膝蹴りをモロに受けて吹き飛び壁に思いきりぶつける。


「うがっ!?」


「な、ナツキ!?大丈夫か?」


「おう、いい一発だった……じゃあ話してくれよ」


ソラは思いきり顔から行ったナツキを心配して駆け寄るがナツキはそれを苦笑いで返しながらソラの目を見て話してくれるように言った。


「わかったのじゃ……あれはナツキがあの世界に落ちて来た時の話じゃ」


ソラは少しの戸惑いの後に決心したように口を開いた。










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