雹炎龍、死の予兆を感じ取る
オレはエリシアにカッコつけたくてここまで来たが今までに感じたことのない恐怖感と瘴気が漂って来る。
「おいおい、小僧がこんなところに何しにきてんだ!」
目の前にきていちゃもん?をつけてくる巨漢の男がいた。
だがオレは敢えて無視をして通り過ぎる。
血の気が多いのはこの戦闘では良いことだろう。でも戦闘前に場の空気を悪くするのは良くない。だからオレはフードを深めに被り足早に立ち去る。
身体強化に付け加えてこのコートには隠密向上が付与されているため一度見失えば見つけることは難しい魔道具だ。一応言うとこれも自作である。
オレが作る魔道具はちゃんとした道具を使ってないため付与効果についてはランダムで決まると何度か試して結論が出た。
それにしても周りは嫌々ながら戦闘準備をしているものが殆どの中に誇らしげな表情をして異彩を放つ集団が目に着く。それは王国騎士団だった。強化された視覚で確認したが勇者たちは見つからなかった。ということは今この王国にいないのかまだ使えるレベルに達していないのかのどちらかだろう。
オレも今回ばかりはフル装備にする為に魔改造された日本製品を装備していた。
それとは別にポリカポネード製の円形盾を加工してエリシアの籠手弓に近づけた形にして魔道具化させたものを左腕に付ける。
スタンロッドと三段式警棒と手錠を組み合わせたものを魔道具化させると同時にくっつけてみたら凄いものが出来てしまい実質この世界に存在する武器では一番……いや、まずこの世界には存在なんてしてないだろう。
◇◆◇◆◇
神龍殺しの覇王刀(???)
三段に分かれた刀型の武器。柄頭に繋がれた手錠を使用者の手にはめると魔道具が起動する。そして一度所有者を認められればこの武器を他のものが使うことはできない。この武器の所有者は自分の持つ魔道具にこの武器の付与効果を共有して付与できるがその効果は1時間に限られる。この武器で命を奪うとその命を取り除き付与効果となる。手錠に精神力を分け与えることで付与効果の選択可能。伝承に存在する神龍ですらも断ち切る事のできる刀。故にランク指定不可。
付与効果
一刀破滅
破天荒
不滅
精神力変換
認識不可
共有
略奪付与効果(0個)
◇◆◇◆◇
正直に言えばもうこれがあれば魔王討伐なんて片手間で終わる気がする。それに加えて見た目は刀の柄にスライド式の刀身が隠れていて最初は小太刀サイズで二段目が伸びればマチェットくらいで三段目まで行けば大きめの太刀くらいの長さになる。警棒のように振って出すのではなく、手首にはめる手錠に精神力を分け与える量で長さを変えれるみたいだ。
一度だけ使ったことがあるけどこの武器は本当に使いたくはない。精神力を持っていく量が半端じゃないのかこの武器を一振りするだけでもゾッと力が抜けて倒れそうになる上に翌日には全身筋肉痛に悩まされた。一刀破滅を興味本位でやった時は……まぁ、それについては大体予想がつくであろうからこの件は放置しておく。
だからオレは今回はこの籠手弓と影剣という名の元コンバットナイフのみで戦いたい……(切実な願い)
ちなみにこの籠手弓も魔道具だがオレの魔改造シリーズのような出来ではなく、Sランクの魔道具で付与効果は精神力補助と不滅属性のみだ。
まぁ、壊れないなら盾にしたりと使い勝手は良いからな。
その瞬間、ゾクリと毛穴から嫌なほどの汗と毛が逆立つ感覚に落ちいる。
『グアアアアァァァ!!!』
巨大な耳を劈くような咆哮が聞こえると地には氷の氷柱が至る所に生えてくる。そして空からは炎槍とも言えるような炎が雨のごとく降り注ぎその場は僅か数秒で地獄へと変貌を遂げた。
その中で死んでいる人間はおそらく一人もいないと思うが重軽傷を負っている人たちがこの場を占めている。
今動ける人数はオレ含めても50といかないだろう。
「今!この場に立っていられるものたちは私たち王国騎士団にチカラを貸して欲しい!我々は職は違えど護りたいと思う場所は同じだ!手を取り合いあの龍を打とう!」
「「「「おおぉー!!!」」」」
怒声のようにも聞こえる王国騎士団のおそらく隊長格が声を上げると周りにいた騎士団は兎も角、普段手を取り合うことのない冒険者と傭兵ですらも手を取り合って武器を掲げている。
オレは武器を掲げてまではいないが意気込みならこの場にいる人たちの中では一番と言える自信がある。
「よし!ならば我ら騎士団について来てくれ!全軍!突撃!」
『オオオォォォォオオ!!!!!!』
騎士団の隊長格…もう騎士団長でいいな。騎士団長が剣を雹炎龍に掲げると他のメンバーは各々武器を持ち進撃した。
オレも腰に下げていたナイフを抜き放ち精神力を込めてナイフを視覚できないようにする。
進撃をしていた兵士や冒険者たちは空飛ぶ相手になす術は弓か魔法のみ。だが大半の魔法使いは回復魔法を使用して回っているため魔法を放っていられるものたちは僅か10人ほど。龍種でも最弱と言われるワイバーンを倒すのでも魔法使いでは10人以上は必要だ。
……まぁ、オレにはチートスキルに武器もあるからそこまで心配する必要はないけども。
オレはナイフの柄頭に鞭蜘蛛と呼ばれるモンスターの糸を巻きつける。鞭蜘蛛の糸は鞭のように硬く、しなやかで強靭的な強度を誇るためそれこそチェインメイルの上位互換として軽装だろうとチェインメイルよりも防御力が高いためにちゃんと決められた防具がある騎士団や傭兵とは違い防具が自由な冒険者たちは好んできている。
今オレが着ているコートやエリシアにあげたものもこの糸で作られている。
その糸を編み込むように繋げたナイフを投擲して刺さっては引っ張り戻し、刺さっては引っ張り戻しを繰り返す。
猛毒付与が施されているのに関わらず毒を受けているような気配を見せない雹炎龍に疑問を抱く。
「どうして雹炎龍は攻撃の軌道を少し逸らしているんだ?そんな事すればトドメを刺せないだろ……まさかっ」
オレは一人でブツブツと呟きながらある仮説が頭に浮かぶ。
図書館で読んだ本の中には、高位種のモンスターは他種族と意思の疎通が出来る…と。
それに加えてあのドラゴンの表情はなんとも言えない感じだ。
『…困っておるようじゃの主』
そんな声がするものを見ればナイフの鞘とは反対、左側につけられた刀から頭の中に直接語りかける声がする。
「やっと話したか…ソラ」
『いやいや、やっと話したか…でわないわ!!主が我のことを使わないで魔法袋の中に突っ込んでおるから意思疎通も遅れんかったのじゃろ!』
そう言いながらも器用に手錠…ブレスレットに近い形のものが強制的に俺の左手首に繋がっていく。
すると強制的に精神力を半分以上持って行かれて無限に近い精神力を半分以上も減らされたせいか嫌な汗が流れ出してくる。
「そりゃ、毎度毎度こんなに精神力を持ってかれたらオレもお前の出しどころに困るんだよ…」
『ふむ。それは仕方あるまい。これくらい主から精神力を貰わねば我は暴走してこの世界を屠ってしまうだろうに。何をたわけたことを言っておるのじゃ?』
「うっわ…お前が言うと洒落になんね〜…ま、精神力を持って行ったんだから働いてくれよソラ?」
「うむ!わかっておるわい!して、今宵の力加減はどうするのじゃ?」
「ん〜?この間が1パーセントで無双したから0.5パーセントくらいで頼むよ」
『ん〜主は加減にうるさいからのぅ…わかった。やってみる』
その言葉を最後にまた精神力を持って行かれる。この時少し偏頭痛がしてくるが関係ない。
ついでに身体強化を極限まで高めた状態でソラが覇王刀の調整を終えるのを待つ。
『セット終了まであと5秒じゃよ主!』
「よし、そんくらいあれば十分だ!」
『伍!』
ソラのカウントが始まる。俺の周りにいる人間たちは結構な強さを誇る人たちのはずだが天下布武から放たれる尋常では無い瘴気に当てられて次々と意識を失って行く。
『参』
そんなこと御構い無しに精神力を込めて身体強化の底上げ、そしてソラはオレから吸い出した精神力を凝縮させている。
『弐!』
2秒前のカウントが聞こえると雹炎龍に被り疲れそうな少女、アレは見たことのある人間だった。
…アルステイン王国第3王女のエミリア・フォン・アルステイン……あの王はまだ幼い我が子を戦地に行かせるのか?
完全にオレの怒りは国王に向かっていた。
『壱!』
1秒前のカウントダウンが聞こえると完全に世界が止まった……いや。厳密に言えば止まってなんかいない。世界が止まって見えるほどオレの思考と身体が加速し始める。
これがソラにオレの精神力を凝縮して放出して貰う技、禁呪王は高笑いをしながらこの技のことを笑っていた。
『零!良いぞ主!限界突破なのじゃ!』
顔は分からないがおそらくソラは満遍なく微笑んでいると思えるほど高い声で言った。
ひとまず世界が止まって感じるオレはイライラしながらから王城を睨む。
『主殿、どうしたのじゃ?敵はそっちでは無いはずじゃぞ?』
「まぁ、そうだよな……王様って殺したらどうなるかな?」
『そんなこと武器の我に聴くことかの?』
「愚問だったな……まぁ、とりあえず今は目先の問題を解決しますか…」
オレは身体が変化していることに気がつくが元に戻るだろうと、甘く見て放置した状態でダッシュして雹炎龍の首筋にあった逆鱗を掴み地面を踏み締めて思いっきり飛ぶ。
「うはー……流石人外武器。チートだな」
今オレの下にはおそらく富士山くらいの山がある。その上を飛び越えて雲を抜ける。
『主殿、我を使わずとも主殿は身体強化のみで人外クラスじゃからこんなこと簡単にできると思うぞ?』
オレはそんなツッコミを無視して山の頂上に雹炎龍を叩きつけるように放り投げる。
「ありゃ、力加減間違えた……」
オレがその場に立つと足元には目を回しながら気絶している雹炎龍のちょっとあっけない姿があったりする。
「目覚めるまで待ちますかね……」
『うむ。我が話し相手になろう』
「あんがとね」
そんなこんなでソラと話をすること一時間ほど経過した頃、雹炎龍の動く気配がして振り返る。
『……拙者は…いつの間にこの様な場所へ?』
オレを見るなり雹炎龍は低い姿勢で頭を地につける。
……なになに?どうなってんのこれ?
タイトル変更することにしました!ご迷惑おかけしますが宜しくお願いします!それと今気がついたんですが、一話が異世界転移にするつもりが異世界転生になってたので訂正しました!