9回目 ミヤセ キコ
「宮瀬紀子です。よろしくお願いします」
年も明けた3学期初日。利市のクラスの編入生、宮瀬紀子はそういって教卓の前で微笑んだ。左手に右手を重ねたままペコリ、とお辞儀する。
「宮瀬さんは女子高からの編入で戸惑うことも多いだろうから、できるだけ速く慣れるように皆声をかけてあげてね」
担任が補足し、宮瀬は指定された席についた。微妙な時期の転校生ということもあって、周りの興味は尽きない。宮瀬の周りには、すでに女子が群がり始めている。利市は特に女子と仲良くするようなタイプでもないから、いつも通り席の近い男子たちと雑談に講じていた。自分が編入生と話す機会はしばらくないだろう。そう、思っていたのに。
「・・・麻生君」
「あー?」
雑談の途中で話しかけられ若干ぞんざいになった返事の相手は、にこやかにこちらを見つめる編入生だった。
「ごめんなさい、お喋りの邪魔をして」
「いや、そりゃぁ別にいいけどよぉ・・・」
目つきが悪いからか、利市は初対面で敬遠されることが多い。まさか向こうから話しかけてくるとは思わなかった。きょとんとした利市が面白かったのか、宮瀬が小さく笑う。
「麻生君にちょっと聞きたいことがあって」
「俺に・・・?」
「うん。場所変えてもらってもいい?できれば最初は麻生君だけに聞きたいの」
「お、おう・・・」
今度は2人きりときた。ますます、想像がつかない。利市は促されるままに教室を出て、非常階段へと向かった。もう少しで予鈴が鳴るし、ここなら誰も来ないだろう。
「ここでいいわ。すぐ済むから」
宮瀬は数段降りたところでクルリ、と振り返り利市を見上げた。
「で?俺に聞きたいことって?」
宮瀬が、恥ずかしそうに左手で右手を包むように握る。自己紹介の後もやっていたから、癖なのかもしれない。やがて、意を決したように顔を上げた。
「あのね・・・麻生君って、実験委員会入ってるの、よね?」
「!?そう、だけど・・・なんで知ってんだ?」
クラスメイトでさえ、実験委員会を知らないことの方が多い。編入して数分で耳に入るような情報でもないのに、なぜこの女は知っているのだろう。
「知り合いから聞いたの。私、小学校はこの辺にいたからこの高校にも結構知り合いがいるのよ。私が化学好きだから、編入するっていったら教えてくれて」
「ふぅん・・・ってことは入りたいってことか?でも今はまだ試験的なもんで入れるかどうか・・・」
「そうじゃないのっ!」
宮瀬は必要以上に強く利市の言葉を遮った。
「?違うのかよ」
わざわざ自分に話しかけてくるくらいだから、入りたいのだろうとばかり思っていた。
「ごめんなさい。でも、私人見知りだからまずは麻生君に話を聞かせてもらって、それから見に行かせてもらったりしようと思ってて・・・」
「人見知りな奴が編入5分で知らねぇ男子に話しかけるかよ・・・」
「そういわずに、お願いできない・・・?」
上目使い、不安そうな顔でそう言われては断れない。断る理由も、利市にはない。
「いいけど、大したことねぇぞ?」
「本当?ありがとう、麻生君!」
宮瀬は満面の笑みを浮かべたが、その表情はすぐに引き締められた。
「それとね、麻生君。私が実験委員会について聞いたりしたってことは誰にも言わないでほしいの。」
「はぁ?何でまた・・・」
「・・・ほら、私人見知りだし、万が一話を聞いて入らなかったら悪いじゃない。」
「んなこと気にするような奴じゃねぇって」
むしろ、天河ならさりげなく入るように説得するだろう。
「とにかくっ、知られたくないのよ!・・・お願い」
宮瀬は真剣な眼差しで利市を見据えた。目つきが鋭いのと、女子にしては身長が高いのとで言外の威圧感がある。こう言われても、利市は断れない。
「わ、分かったよ」
「ありがとう。麻生君に頼んでよかったわ」
宮瀬の顔から、ようやく緊張が抜ける。
「で?何ききてぇんだ?」
「そうねぇ、まずはどんなことをするのか知りたいわ。それからどのくらいの頻度で集まるのかとか」
そのくらいなら、利市にだって説明できる。利市は胸を撫で下ろして口を開いた。
宮瀬は、真剣な表情で聞き入っている。
「・・・ふぅん、やることは案外多いのね」
「まぁ、実験自体はそんなに多くねぇけど、人数が少ないんだよ。5人しかいねぇの」
「委員会にしてはやけに少ないわね」
「さっきも言ったけど、まだ正式な委員会じゃねぇんだとよ。俺のダチが作った委員会だから」
ここで宮瀬は興味を持ったように片眉を上げた。
「珍しい委員会だと思ったら、生徒が作ったのね」
「おう、神谷天河っつー俺の中学からのダチなんだけど、そいつが作ったんだよ。人集めもやって」
「へぇ・・・でも、どうしてかしら」
「どうして・・・?」
「その彼はどうして、実験委員会なんて作ったのかしらね?」
答えられない。利市は天河に頼まれただけで、細かいことは聞いていないのだ。あの天河が珍しく真剣な顔で頼み込んできたから、承諾しただけで。
「そういや、何でだろうな・・・」
宮瀬の目には、間抜けな自分が写っている。今まで、考えたことも無かったのだ。
「・・・まぁいいわ。その人は、どんな人なの?」
「んー、外面いいけど、ちゃっかりしてるつーか・・・そうだ!会ってみりゃいいじゃねぇか。紹介するよ。そいつが委員長やってるし・・・」
勧誘や説明も、天河がした方がいい。そう考えての提案だったが、宮瀬は大きくかぶりを振った。
「無理無理無理無理!」
「・・・お前なぁ」
「だって私人見知りだもの!他のクラスの人なんて絶対無理!」
「人見知りって言えば何でも許されると思ってね―かお前・・・俺より向いてると思うぜ?化学が好きみたいだし、お前とも話合うんじゃね?」
利市としては、自分の説明のせいで宮瀬が委員会に入らない、なんてことになる前に天河に押し付けてしまいたいところだ。それでも、宮瀬は頑なに首を縦に振ろうとしない。
「どんなにいい人だとしても、ちょっと・・・」
「そうかよ。まぁ、俺で答えられることなら答えるけどよ」
天河に押し付けるのは、諦めたほうがよさそうだ。利市の説得を打ち切るように、予冷が鳴った。
「残念・・・麻生君」
「?なんだ?早くいかねぇと数学だから先生厳しいぞ」
「また、話を聞かせてね。次はその、お友達のこととか」
そういって笑った宮瀬の笑顔を、利市はどこかで見たことがあるような気がした。
昼休み、教師陣も昼食を食べて好きなように一休みしている。呼び出されたのか、何人か生徒の姿も見受けられた。単に遊びに来たのか、若い女の先生と楽しそうに笑い合っているものもいる。そんな中、細々とした用事を片づけていた香坂に、声がかかった。
「香坂先生、呼んでますよ」
「へ?オレっすか?」
杉田の指さしたドアでは、初めて見る女子生徒が佇んでいた。少なくとも、自分が授業を持っている子ではない。
「えーっと、オレに用?」
「すみません、香坂先生、ですか?ちょっとお聞きしたいことがありまして」
香坂が歩み寄ると、両手まできれいに揃えて、生徒はそつなくお辞儀をした。
宮瀬の編入してきた翌日、年が明けて一回目の実験は、利市と天河で準備することになっていた。昼休み、いつも通り、ビーカーや試験管を机に配置していく。
「・・・利市」
「あ?なんだよ」
「なんかあった?さっきからこっちチラチラ見てるけど」
「ハァッ!?べ、別になにも・・・」
途中で、言い訳がむなしくなって、声がしぼむ。
「・・・そこまで馬鹿正直だといっそ清々しいよ」
「うっせ!」
「で、何があったの?俺に関係すること?」
「お前関係っつーか、・・・」
あの後も、何度か宮瀬から実験委員会について聞かれた。そろそろ、確認位はしておきたい。
「実験委員会って、今からでも入れんのか・・・?」
天河は一瞬キョトンとして、すぐ怪訝そうに眉を寄せた。
「誰か、入りたいって?」
「いやいやそうじゃなくて・・・俺からいろいろ話を聞いて入るか入らないか決めるってやつがいて・・・」
「はぁ?何お前、入れるって言っちゃったの?」
「んなわけねーだろ!ちゃんと(試験的なもんだから入れるかわかんねぇ)って言ったよ。そしたら(話だけでも聞きたい)っつーから」
「成程・・・」
そう言った天河の顔は渋いものの、どこか嬉しそうでもある。自分の作った委員会に興味をもってもらえたからだろうか。
「その委員会に興味持ってくれた人って誰?」
「うっ、いや、それは・・・本人が入るの確定するまでいうなって・・・」
「そう。まぁいいや。その代り、ちゃんと(正式に入れるか分からない)って説明しとけよ」
「え?あ、おぅ・・・」
「なんだよその顔」
「だ、だってよ・・・」
天河なら、自分を脅してでも宮瀬の名前を言わせるだろうと利市は少し覚悟していた。
「別にお前が説明してくれるなら無理に聞く必要もないだろ。入らなかったとき気まずいって言うのもあるだろうし」
ただし、と天河の笑顔の色が変わる。
「その人がお前の説明のせいで実験委員会に興味なくしたら、・・・仕事が増えると思えよ」
その、笑顔だった。天河がたまに見せる、裏のある笑顔。
利市が宮瀬の笑顔で連想したのは、天河の、この笑顔だったのだ。
宮瀬にも、何か裏があるのだろうか。
天河に言われたことを改めて伝えても、宮瀬は相変わらず利市から委員会の話を聞きたがった。最初のようにゆっくり話す機会こそなかったが、ちょっとした会話が少しずつ増えていく。
その日に至っては、移動教室までついてきていた。
「・・・ねぇ、麻生君、この間の話の続き、聞かせてくれない?」
「この前・・・?あぁ、委員会か」
「えぇ、あの時は麻生君の友達が委員会を作ったってところまで聞いたからその友達のこととか、他の人たちの話を聞きたいわ。皆仲いいの?」
「委員会の奴ら、なぁ・・・」
正直に話したら、離れてしまわないだろうか。
「えと、この前いってた天河は、まぁ、優しいな。」
外面は。飲み込んだ言葉は顔からでたのか、宮瀬は可笑しそうに目を細めた。
「でも、麻生君は優しくされてなかったり?」
「う、うっせ!で、次は副委員長の桜井な。2年は俺含めて3人なんだけど、その中で唯一の女子。いつも妙にテンション高くて子供っぽい変な奴」
不良の友達が多いことは言わないでおく。
「桜井さん、ね」
「1年は2人いて・・・女の方は白石っつーんだけど、アホでいじりがいがあって超面白いんだよ」
「人にどんな説明してるんですか利市先輩!」
できすぎたタイミングで声がした。隣で、驚いたのか宮瀬が体を強張らせている。
声の主は階段へと続く曲がり角から顔をのぞかせた。利市の位置からは階段を上ってくる出水が見えてきたから、ちょっとふざけた紹介をしてきたのだ。
「よぉシロ。移動教室か?」
「そうですけど、何ですか今の紹介はっ」
「何って、ホントのことだろ。宮瀬、これがその白石。通称」
「その呼び方許可した覚えはないんですけどね・・・」
「フフッ、仲がいいのね。初めまして。宮瀬紀子です」
「し、白石出水です・・・?」
出水は説明を求めて利市を見上げた。
「俺のクラスの編入生。実験委員会に興味があるんだと」
「えっ、じゃあ新しく入られるんですか?」
「うーん、それはまだ分からないけど、麻生君にいろいろ話を聞いていたの」
「そうだったんですか・・・あ、わたしもう行かないと。それでは、失礼します」
「おぅ、じゃぁな」
出水がかけ足で階段を上った後を、宮瀬はなぞるようにじっと見つめている。
「かわいい子ね」
「アホだけどな」
「・・・実験委員会って、委員長さんが人集めもしたって言ってたわよね?」
「そうだけど?」
「あの子もそうなの?麻生君は同級生だから分かるとして、よく1年生も集めたわね」
「・・・お前さぁ」
ふと思いついた仮説。けれど、利市にはそれが的を得ているように思えた。
「天河のこと知ってたろ」
宮瀬の目が、ほんの一瞬だけ確かに揺れた。
「・・・どうして、そう思ったの?」
「お前、初めて喋った時言ってたよな。(私は人見知りだから、別のクラスの人なんて)って」
「・・・そうだったかしら」
「とぼけてんじゃねぇよ。お前、何で天河が別のクラスだって知ってたんだ?おかしいだろ」
「それは知り合いに、(同じクラスで実験委員会に入ってる人は)って聞いたから・・・」
「その知り合いもおかしいんだよ。そいつは何で人当たりのいい天河でも、女子である桜井でもなく俺を紹介したんだ?普通なら、クラスは違ってもそっちの方が紹介しやすいんじゃねぇか?」
宮瀬が、また両手を重ねて力を込める。あと一押しだ。
「俺が入ってること知ってたんなら、二人のこと知らないはずがねぇしな。・・・だから、もしかしてわざと俺を選んで、探りをいれてんのかなって思ったんだ」
「・・・それだけで?」
「あとは、天河を紹介しようかって言った時の反応がそう考えると不自然に思えてな。天河の方を探ろうとしてるんじゃねぇかと」
それに、似ていたのだ。含みのある、その笑顔が。
ここまできいて、宮瀬は諦めたように肩を落とした。
「追い詰められた犯人の気分ね。そうよ、私にはカミヤテンガっていう幼馴染がいる。本人かどうか確かめたくていろいろ聞いてたの。利用するようなことして悪かったわ」
「幼馴染・・・?」
「言ったでしょう、私小学校はこの辺だったの」
「じゃぁ何で俺に・・・」
「同姓同名の可能性も0じゃないでしょう?」
「はぁ!?んなもんほぼ0だろ!つーか直接会ってみりゃ済む話じゃねーか」
天河にあえば、まさかお互いの小学校を確認するまで分からないということも無いだろう。
「嫌よ。私人見知りだもの」
「編入初日で俺を呼び出した度胸はどこいったおい」
「ばれてしまったし、麻生君にお願いしようかしら」
「あ?お願い・・・?」
「・・・その神谷君に、(宮瀬紀子を知っているか)訊いてみて。(知ってる)なら会いに行くし、(知らない)なら申し訳ないけど実験委員会にはもう関わらないわ」
「・・・天河と、何かあったのか?」
こんなに狭い範囲で同姓同名なんて、そういない。宮瀬は、分かったうえで再開するかどうか、天河に委ねているのだ。
「・・・私達、ちょっとした喧嘩別れなのよ。だから、会うには少し勇気がいるの」
宮瀬はそれだけ言うと足早に歩き出した。
さりげなく、切りだしたつもりだった。委員会の後、皆で一息つく雑談タイム。
何気なく、話題がひと段落したタイミングだった。
「なぁ、天河」
「何?」
質問は、一つだけ。
「お前、宮瀬紀子って知って・・・」
天河の反応は、たった一つの質問を終わらせる前に返ってきた。
天河が立ち上がった勢いで、椅子が後ろに倒れている。
「えっ・・・お前、なんで・・・」
中学からの付き合いだったが、天河のこんな姿を見るのは初めてだった。
目が泳いで、声は明らかに震えている。
「ど、どうしたんだよ。そんなに驚くような話題じゃねぇだろ」
「う、うるさいっ!何でそんなこと急に聞くんだよ!」
「宮瀬紀子ちゃんって、こないだりーち君のクラスに編入してきた娘でしょ?」
天河をなだめるように、柚季がのんびりと口をはさんだ。
「編入・・・?紀子が・・・?」
「知ってんだな?」
「・・・なるほど?この間お前の言ってた委員会に興味持ってる奴って紀子のことだったってわけか」
天河は重々しくそう呟いて左手を右手で包んだ。
「・・・?それ、何か意味でもあんのか?宮瀬もやってたけど」
「!っ、別に、何もない・・・っ」
天河の顔は苦しそうに歪み、手と一緒に解かれた。
「天河・・・?」
「お、俺はっ、宮瀬紀子なんて、知らない・・・っ!」
「ハァッ!?何でだよ、知ってんだろ!?」
「知らないっ!」
「てめぇ、馬鹿にしてんだろ。今の態度見てりゃ分かんだよ!」
柚季と1年達が、戸惑ったように2人を見上げている。
「・・・どうせそんなの、会いたいか会いたくないかだろ。だったら俺は宮瀬紀子なんて(知らない)」
「・・・会いたくねぇのかよ。あいつは」
「もういいだろ。この話は終わりだよ。俺もう帰るから」
「なっ、待てよ天河!」
荷物に伸ばされた天河の腕を、利市はしっかりと掴んだ。
「放せよ。答えただろ」
「で、でもよぉ、あいつは多分お前に会いたがってんぞ。いいのかよ」
「お前には関係ない」
「関係なくねぇだろ!あいつから訊いてこいって頼まれたんだから!」
「何も知らないくせに余計なことをするな。お前はただ俺の答えを紀子に伝えればいいんだよ!」
利市をにらんではいるが、天河の目にいつものような鋭さはない。
「そりゃぁ何も知らねぇけど、ただの喧嘩だろ?会えばなんとか・・・」
「そんなんじゃないっ!」
利市が軽い気持ちで発したフォローで、天河は一段と声を荒げた。
「あいつが何て説明したか知らないけど、喧嘩なんかじゃない・・・」
「?じゃぁ、何で・・・」
「お前に教える義理はない。腕放せよ」
ここまで頑なに突き放されると、反発心が湧いてくる。
「あぁそうかよ。じゃぁ俺はお前が(知ってる)って答えたことにしてあいつから色々きくかんなっ!」
「!!やっ、やめろよっ!もうあいつに関わるな!」
天河の空いた左手は、利市の襟元を掴んでいた。
「しょうがねぇだろ、てめぇが話さねぇんだから」
「お前には関係ないだろ!察しろよ!俺は話したくないっ、思い出したくもないんだよ!」
「でも、会いてぇんだろ?」
「えっ・・・」
「(紀子)って名前で呼ぶくらい、仲よかったんだろ?そっちだって会いたいんじゃねぇのかよ」
天河は、人のことを大抵名字で呼ぶ。女子となれば尚更だ。それだけ、仲が良かったのではないか。
「・・・合わせる顔がない」
「?向こうから言ってきたんだから大丈夫だろ」
「だからっ、そう簡単じゃないんだよ!」
「・・・何があったんだよ。宮瀬になにかされたのか?」
天河は力なく首を横に振ると、目を伏せた。
「お前は・・・あいつの左手見てないよな。あいつそういうとこ器用だし」
「左手・・・?」
「あいつの左手にある傷は、全部俺のせいなんだよ」
今にも泣きだしそうな弱弱しい声。
「俺のせいであんな目にあわせたのに、どんな顔して会えばいいんだよ!もう、ほっといてくれよ!」
「天・・・」
「帰る。これで満足だろ」
呆気にとられた利市の腕を抜けて、天河は化学室を後にした。
先生、麻生君が神谷君をいじめてます




