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実験委員会録  作者: 稚早
11/14

8.5回目  足音は着実に

 満足のいく挨拶を終え、皇牙は一人生徒会室に向かった。

引き渡すため、皇牙達のいた形跡はきれいになくなっている。皇牙はいつも座っていた椅子に座り、ソッと目を閉じた。

(もう終わるなんて、あっけないもんだな・・・)

もう、ホワイトボードが議題で真っ黒になることもない。感傷に足をつけたあたりで、携帯が震えた。どっぷりと浸る前なのはせめてもの優しさか、それとも(らしくないぞ)と鼓舞しているのか。

「・・・もしもし」

『1年間お疲れさま、如月会長。(オリエンテーション)はどーだった?』

「無事終わった。僕としては満足しているよ」

『それはよかった。終わりよければ全てよしってね』

「それじゃ終わりまでがよくなかったみたいじゃないか。あんたには言われたくないな」

冗談めかして返すと、天河の姉、千歳もわざとらしくいじけた声になった。

『なによー、私はちゃんとやってたでしょ』

「それに関してはコメントを控えさせていただこう」

2年前、千歳が生徒会長をしていたころが懐かしい。皇牙の高校生活は、生徒会と共にあったといってもいい。そのきっかけは、この人だ。

『あんたがもう3年で、任期も終わるなんてね。早いもんだわ』

「・・・あっけないもんだな。思ってたよりも」

『皆そんなもんよ。1年しかないんだから。核となって各行事一回こなしたらおしまい』

「それもそうだな」

この一年でやってきたことをもう一回、とはいかないのだ。

『とにかく、あんたが満足してるなら何よりよ』

「あぁ、十分楽しめたし、いい経験になった。最後にいい餞別をもらったしな」

『餞別?』

皇牙は待ってましたとばかりに今日の球技大会での出来事を語った。実験委員会の2人が卓球で優勝したこと。天河が面白い提案をして、大盛り上がりしたこと。

『天河がそんなことを・・・』

「正直意外だった。でも、優勝したのがあの2人だったからできたんだろうな」

『なるほどね。(実験委員会)気に入ってるみたいね、あいつ』

「そうだな。見に行った時も、心なしかいつもより楽しそうだったぞ」

『そう・・・なら、いいか』

「?神谷会長・・・?」

様子がおかしい。

『あぁ、何でもないわよ。ただ、愚弟とアホな後輩の成長を感じてしみじみとね』

「一応聞いておくが、その(アホな後輩)とは僕のことじゃないだろうな」

いつも通りの他愛無い会話を数言交わし、皇牙は電話を切った。気づかないふりをしたけれど、何となく気にかかる。皇牙は足早に生徒会室を飛び出し、校門へと向かった。


 球技大会の間ずっと走り回っていたからか、普通に出場したよりも疲れた気がする。のろのろとした足取りで、昇降口まであるいた。

(?・・・あれ?)

校門に、今日の主役だった人間が仁王立ちしているのが目に入った。下校する生徒たちが、おびえるように避けて通っている。誰にも声をかけていないから、最後の服装チェックというわけでもないらしい。

(でも、さわらぬ神にたたりなし、と)

裏門から出るという裏技を使わせてもらおう。天河がそそくさと踵を返した瞬間、肩にストッパーがかかった。

「露骨に避けすぎだ馬鹿もん」

「あんた今どうやって移動した!?速くない!?」

「・・・ちょっと来い」

天河の抗議に耳を貸さないのはいつものことだ。けれど、皇牙の表情はいつもより幾分か固かった。手を引かれるまま、生徒会室まで歩く。

「・・・今日で最後になるな。こうしてお前とここで話すのは」

「ソーデスネー」

「そう嫌そうにするな。今日はお前に一つ忠告をしておこうと思ってな」

「忠告・・・?」

真面目な顔の皇牙は、どうにも慣れない。天河は小さく身じろぎをした。

「・・・もしかしたら、近いうちに会長が動くかもしれん」

会長はあんたでしょう、なんて言うほど馬鹿ではない。皇牙が会長と呼んでいるのは、姉の千歳のことだ。

「姉ちゃんが・・・?何をするっていうんです」

「分からん。が、さっき電話した時、いやな予感がしたんだ」

「予感、ねぇ・・・いいんですか?俺に教えて」

皇牙は千歳のことをかなり尊敬している。その千歳の企みをわざわざ潰すようなことをしているのは珍しい。

「僕はあの人を信頼している。それに変わりはないさ。けどな、あの人は次元が違いすぎる」

皇牙は困ったように眉根を寄せた、

「あの人はかなりパワフルだろう?」

「あぁ、まぁ・・・」

生まれてこの方ずっと一緒だった身として、皇牙の表現は嫌というほど理解できる。

「例えば、困っている人・・・崖で落ちかけている人間がいるとしよう。あの人は助けようと腕をひこうとするだろう。その時、力が強すぎたらどうなると思う?」

「・・・けがを、するとか」

「そうだな、肩が外れるかもしれん。体をしたたかぶつけるかもしれん。あの人は、その力加減が基本的には分かっている人だと僕は思う。だが、たまには間違えるかもしれない」皇牙はピンと人差し指を伸ばし、天河に突き付けた。

「特にお前は可愛い可愛い(弟)だからな。力が入りすぎるかもしれんと心配になったのさ」

「・・・随分親切なことで」

今までの仕打ちからは、考えられない。天河の中の天邪鬼が、厭味ったらしく声を漏らした。皇牙は気分を害した様子もなく、静かに天河を見据えている。

「・・・僕には、あの人に辿りつけるほどの力はない。さっきの例えでいえば、対岸でみているのが関の山だ。でも、だからこそこうしてあの人が近づいていることを知らせてやることができるのさ。あとは、ぶら下がっている人間次第だ。」

「・・・俺は別に崖からぶら下がってやしませんけどね」

そこまで追い詰められている心当たりがない。だって、今に始まったことではないのは姉もよく知っているはずだ。

「ならいいんだがな。気を付けるに越したことはない」

「ご忠告どーも」

可愛くない奴だ、と皇牙は久しぶりにいつもの嫌な笑みを浮かべた。


『・・・本当なの、それ』

電話の向こうで、談笑していた友人の声が一気に緊張したものに変わった。

「んだよ、おれに久しぶりに会えるっつーのに嬉しくねぇのか?」

『そうじゃなくてっ、もう一個の方よ!』

「あぁ、そっちな。・・・本気だよ」

友人が息をのむのが伝わってくる。

『大丈夫なの・・・?』

「大丈夫だって!おれだってバカじゃねぇ。上手くやるさ」

『でも、すぐにばれちゃうわよ。あんたが来た、なんて』

こちらの意図を察したのか、友人は声を低くした。さすが、長年の付き合いだけあってよく分かっている。

「そ・こ・で、お前に相談なんだけどよ」

『・・・やっぱり』

友人は覚悟したように大きなため息をついた。嫌な予感が当たったことへのため息と、これから頼まれることへのため息が一緒くたになっている。

友人の困った顔は容易に想像がついた。たまらず吹き出したのをきいて、友人の声が一気にどがる。

『何笑ってるのよ・・・』

「はははっ、悪ぃ悪ぃ」

『もう・・・もうちょっと落ち着いてよ。小学校の時から全く変わってないじゃない』

「おめーはおれの母親かよ・・・」

『まさにそんな気分よ・・・あんたのお母さんに同情するわ』

「余計なお世話だっつーの・・・とにかく、さっき言ったことは本気だからな」

『ちょ、ちょっと待ってよ!いきなり会いに行ったりしたら・・・』

「だーれがいきなり会いに行くっていったよ。相談があるって言ったろ」

『・・・一応、聞いてあげるわ。』

「おぉありがてぇ。」

口先ではおどけつつ、左手に力がこもる。

「あいつの親友だっていうやつの名前を教えてくれ。そいつに探りを入れる」

友人はホッとしたため息と悩むような唸り声のあと、1人の名前を挙げた。


ほら、もうすぐそこまで

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