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実験委員会録  作者: 稚早
10/14

8回目 球技大会でフィナーレを

 キュッ、キュッとシューズの鳴る音の合間を、ボールのバウンドする音が埋める。

天河はストップウォッチをみて、首から下げていたホイッスルを吹いた。

「試合終了です。こちらの集合してくださーい」

声を張り上げながら、天河は今の試合の点数を確認した。1度3pシュートが入って、16対11になっていた。試合の功労者であるバスケットボールを受け取りながら、その点数を読み上げる。丁度授業終わりのチャイムが鳴り、天河はホッと息をついた。

「お疲れー。いい感じの進み具合ね。さすが弟君」

「・・・天河です」

刺々しく返したのに、早速は楽しそうに笑っている。

「なにしに来たんです?」

「自分の試合の合間に確認して回ってんの。なにせ、生徒会全員で出るからね。その時は君らボランティアにまかせっきりだし。」

「俺はボランティア強制でしたけどね」

校則違反をでっちあげられた恨みは忘れていない。

「もー、悪かったって。私たちも最後だから、何としてでも成功したい。そのためにも、君にぜひ手伝って欲しかったのよ。皇牙、君のこと気に入ってるし」

「気に入ってる後輩に対する仕打ちじゃないですけどね」

ため息をついて、天河は0に戻したストップウォッチを得点ボードにかけた。

「あれ?どこに行くの?」

「俺、次に時間は卓球担当なんで。今のうちに行っとこうかと」

体育館の倉庫部分の上に、中二階のような形で卓球場が設置されている。向かうためには、体育館の隅にある階段を上る必要があった。

「なるほど。それじゃ、頼んだよ。天河君」

「・・・はいはい」

マトモに呼ばれて、少し嬉しい自分がいる。そんな単純な自分に苦笑しながら、天河は小さく肩をすくめた。


 何年か前から始まった行事、(オリエンテーション)

1年の任期を終える生徒会役員が、午後の授業2つ分の時間を使って、なんかしらの企画を行うことになっている。

「今年の(オリエンテーション)は、球技大会をやるぞ」

天河以外にも人を集めた生徒会室で、天河はそういった。

「球技大会・・・?」

誰かの呟きが、伝染するように広がる。ざわめく皆を堪能するように、皇牙はゆっくりとそれぞれの反応を見回した。

「まぁ、皆の言いたいことは分かる。僕が(球技大会)なんて1見まともな意見を言い出したことに驚いているんだろう。」

1見、という言葉を、これほど恐ろしく感じたこともない。

天河は自らの姉が(オリエンテーション)を行ったときのことを思い出していた。

役員にもサプライズしたいからと、何件の店を梯子して準備を手伝わさせられたことか。

「多少僕なりに企画はするが、基本は普通の球技大会だ。」

その(企画)が怖いんだ、と誰もが思った。

「どうして1学期にもあるのにまた球技大会なのかというと、(僕ら)で出場したいんだ。」

ここまで無邪気な皇牙を、天河は初めて見た。身を乗り出し、皇牙の語気が強まる。

「僕は、クラスも学年も違うこの(生徒会)でチームを組んでみたい。それなら、(僕ら)の球技大会をやればいい。そう考えたんだ。」

な、と皇牙が問いかけると、生徒会の面々はそれぞれ頷いた。

「今日ここに呼んだのは、球技をする部活の部長を務めていたもので、受験にも支障が無い者だ。あぁ、1人を除いてな」

にやり、と皇牙らしい視線が天河を煽る。他の役員の手前、天河は反抗的な視線を返すにとどめた。

「今言った通り、僕ら全員が出場するためには、その運営に徹してもらう人間が不可欠だ。そこで、ここにいる皆に手伝ってもらいたい。部活に所属していたんだから、ルールや仕切り方も分かるだろう。教師陣にも頼むが、基本は学生でやるつもりだ」

「えーっ、でもオレらだって出場したいんだけど」

部活に所属しているということは、すなわちその競技が好きだということだ。引退後ともなれば、体もうずくだろう。黙っている人間も、そう言いたげだ。

「安心しろ。そのためにちゃんと手配はしているだろう」

打ち合わせでもしていたのかと思うほどに、全員が揃って天河を見た。

「な?神谷。こいつらが試合に出るために、走ってくれるな?」

先輩に囲まれて、首を横に振れるはずがない。ましてや、ほとんどが天河を各々の(球)を狙う時の眼をしていたのだ。断れば、天河がボールにされる。そんな錯覚さえ覚えた。

こうして、シード枠などを利用して時間を調整し、その隙間を天河で埋めるという鬼も真っ青なシフト表が出来上がったのだった。また、それからの1か月、準備の方でも散々こき使われたことは、言うまでもない。


試合を終えて、出水は熱を逃がすために体操着の上着をパタパタとはためかせた。外は寒いとはいえ、目1杯動くとさすがに暑い。

隅に置いた水筒に口をつけつつ、出水は男子の試合が行われていた側のコートに見知った姿を見つけた。わざわざ音を立てることなく歩み寄る。

「利市先輩、何してるんですか?」

「ぶっ!?シロッ、脅かすなよ・・・」

卓球場の端に設置された柵にもたれかかっていた利市は、慌てたように飛びのいた。下では、片面でバレー、もう1方でバスケが行われている。

「あ、桜井先輩」

バレーのコートに、柚季の姿があった。

「・・・別に、桜井見てたわけじゃねぇぞ?」

「フフッ、分かってますよ」

「馬鹿にしてんだろテメェ」

不本意そうにそういって、利市は下へと視線を移した。

「あっ・・・」

柚季のところにとんできたボールが、床に落ちる。柚季が申し訳なさそうに誤っているのが遠目でも分かった。

「桜井先輩って、運動苦手でしたっけ」

むしろ、体育祭では活躍していたように思うのだけれど。

「あー・・・あいつ、球技が苦手なんだよ。身体能力は高いから走ったり跳ねたりはできるけど、ボールとかうまく扱えねぇの」

「なるほど・・・」

再び空振りした柚季を見ながら、利市は思い出したように吹き出した。

「1年のときに合同体育でバドミントンやってたんだけど、あいつ後ろに打ち上げるわ届かねぇわで・・・・ククッ」

声を上げて笑っている割に、決して馬鹿にしている様子はない。

むしろ、その眼はこの上なく柔らかく、幸せそうだ。

「・・・好きなんですね」

からかいも含みもなく、急にストンと納得して、出水は独り言のように呟いた。

柚季と話している時の利市はいつも通りだから、どこかつかみ切れていなかったのかもしれない。

「ばっ・・・!てめ、何言って・・・・」

赤くなった利市は、含むところのない出水の目に毒気を抜かれたように語尾を濁した。

何とはなしに、2人で並んでバレーを眺める。

「・・・そういえば、先輩は試合終わったんですか?」

「ん?おー、ちょっと前にな。さくっと勝ったぜ。シロは?」

「おめでとうございます。私も勝ちましたよ」

「へぇ、お前運動できるのな。意外」

「意外ってなんですか失礼な」

試合が終わったのか、柚季達がコートの中央に集まっていた。審判の手が、柚季達の側に上がる。

「あ、桜井先輩達勝ったみたいですよ」

「おっ、マジで」

利市も視線を上げると、2倍になった気配に気づいたのか不意に柚季が顔を上げた。2人を見つけ、満面の笑みで大きく手を振る。どこか犬が嬉しいときに、尻尾を振るのを連想させるといえば、さすがに失礼だろうか。

「よく見えたなあいつ」

先ほどより少しぎこちない表情で、利市は小さく手を握って開いてみせた。

出水も小さく会釈を返す。

「そりゃぁ、こっちからも見えてますしね」

「違いねぇな」

苦笑して、利市はダラリと手すりにもたれかかった。バスケの方も試合が終わったらしく、ボールとシューズの音に代わり、楽しそうな喋り声でコートが満ちる。その反対側で、窓際の生徒がにわかに色めきたった。

「?どうしたんでしょう」

窓の外、グラウンドの方も何やら騒がしい。

「あぁ・・・(生徒会)じゃね。野球で出るって言ってたし」

「え?でも人数が・・・」

生徒会は、会長の皇牙、早速ともう1人の副会長、書記、会計がそれぞれ2人ずつの計7人だったはずだ。野球には、2人足りない。

「そこはほら、如月だし・・・7人でできるルールをご丁寧に作ったんだと。(生徒会)チームと戦う場合はそっちに合わせるらしい」

「さすがというか、なんというか・・・」

そして、もう1つ、気になっていたことがある。

「さっきから気になってたんですけど、下に天河先輩いましたよね?審判してましたよね?」

「・・・察してやれ」

「ハイ・・・」

そういえば1か月ほど前に、皇牙が天河を連行していったことがあったっけ。そう、すぐに思い出せる程度には、出水も如月皇牙という人間が理解できるようになっていた。



試合終了の礼を戻す勢いのまま、皇牙は後ろに大きく伸びをした。

「いやー、負けた負けたっ。やっぱり7人じゃやりにくいな」

結果は3対4。生徒会チームの敗北となった。成り行きを見守っていた野次馬たちが、興奮冷めやらぬ様子でざわついている。

「でも楽しかったぁ!私は満足よ」

早速の言葉に、皇牙も伸びを解いて同意した。

「僕もだ。十分に楽しめた」

視界の端で、今対戦したチームが何故か、胸を撫で下ろしている。(生徒会に勝ってしまった)とでも思っていたのだろうか。

「ここまできたら勝ちたかったけどなぁ」

「仕方ないだろう、女子も入れてこれなら上々だ」

皇牙達はここまで2回、試合に勝っている。この試合に勝てばベスト4というところまで来ていた。しかし、男子のみで結成されたチームの中で、早速達を有するこのチームがここまで勝ち進んだのは大健闘だろう。

「さて。それじゃぁ今度は裏方に回ろう。皆、自分の仕事は分かっているな?」

皇牙の問いかけに、役員達は準備万端にうなずいた。こうして皇牙についてきてくれる6人と仕事をするのも、今日で最後だ。

「最後に、華麗に1花咲かせてやろうじゃないか」

いつになく、気合が入った。


「神谷君!丁度良かった!」

天河が卓球場に上がるなり、それまで進行を行っていた卓球部元部長がしめたとばかりに駆け寄ってきた。嫌な予感がする。

「どうしたんですか?」

相手を落ち着かせるため、天河は淡々と応じた。けれど、相手が落ち着く様子はない。

「ハイッ!これ今の進行表!じゃ、あとはよろしく!」

「はぁ・・・ってあぁ!?」

らしくもない、ガラの悪い声が漏れる。男子女子ともに、かなり進行が速い。


—―いいかお前ら、絶対にこの通りに進行するんだぞ。早く終わりすぎれば僕の退任のあいさつまでに興ざめするし、遅れるなんて論外だ—―

開会の前、皇牙はそう通告した。先ほどの慌て様は、これにおびえてのことだろう。そして、これ幸いと天河に押し付けたのだ。

「全く、誰だよこんな迷惑引き起こしたの・・・」

周りの喧騒に紛れる程度の声で1人ごちる。表には、それぞれの試合にかかった時間が、トーナメント表に重ねて書かれていた。男子も女子も、片側の山が切り崩され、大きく進行がずれているようだ。2つの山を辿ったその先に向かって、天河は歩を進めた。卓球場から、何人かの生徒が下の様子を覗いている。天河はその中で最も高低差のある2つをたたいた。

「お前らかぁぁ!なにやってくれてんのもー・・・」

2人—―出水と利市が驚いたように振り返る。

「よっ、天河。ど、どうした・・・?」

「て、天河先輩・・・?」

「2人さぁ・・・圧勝しすぎでしょ!何で全試合10分切ってるの!?」

おかげで、1試合20分で組んだ予定はメチャクチャだ。しかも、出水と利市につられて、全体的に試合の間隔が短い。

「えぇー・・・そんなこと言われたって、なぁ?」

「手を抜くなんて失礼ですし・・・」

「それにしたって瞬殺過ぎるよ!・・・はぁ、どうしたもんか」

既に、今行われている試合が終われば、出水、利市との決勝というところまで来ている。

皇牙の挨拶まであと1時間。なんとか、場をつなげなければ。

「何かまずいんですか?」

「まずいって言うか、バ会長が時間通りに進めろってうるさいんだよ」

「あぁ・・・」

天河が無理やり皇牙に手伝わされていることを察したのだろう。素直な後輩はいたわるように頷いた。

「君らが圧勝しすぎて、この調子だと30分前には終わっちゃいそうなんだよ」

球技大会には足りないからと、今回は40分ほど授業時間を超えて設定されている。その配慮が、ほぼ無駄になりつつあった。

「30分も余るなら、もう1試合できちゃいますね」

「もう1試合、ね・・・」

君らの今までのペースだと3試合だけどね、という言葉を飲み込み、天河は歪なトーナメント表に目をやった。アイデアが、ないわけではない。どうせ、皇牙の我儘に付き合わされているだけなのだ。2人に手伝ってもらっても、バチは当たらないだろう。

せっかくなら、もっと派手な餞をくれてやる。


卓球の決勝戦は、それまで通り淡々と進んだ。最後の球が相手のコートで跳ね、床に落ちる。対戦相手は悔しげに肩を落としたが、その雰囲気は飄々としていた。決勝戦まで来て10分もたたずに負けたとなれば、諦めもつくのかもしれない。見ると、隣の台で利市がラケットをふるっていた。相手は、先ほどまで卓球の進行係をしていた卓球部の元部長。さすがに1筋縄ではいかないようだったが、若干利市の方が押しているように見える。

「・・・優勝、おめでとう」

いつから見ていたのか、安藤がパタパタと歩み寄ってきた。

「あ、ありがとうございます。安藤君は何に出てらしたんですか?」

「バスケ。さっき負けた。ほとんど他の人たちが走ってくれてたから、僕は何もしてないけど」

そう言う安藤の頬は、ほんのり上気している。本人も、この大会を自分なりに楽しんだのだろう。

「・・・それにしても、麻生先輩もすごいね」

白熱男子の決勝戦をみて、安藤はしみじみと呟いた。どちらかが1点をとればもう1方が点を取る。なかなか勝敗が決まらない。

「相手、卓球部の元部長じゃなかったっけ」

「そうですよ。隙を突く返し方がさすがですよねぇ」

「いや、その人と互角に戦ってる麻生先輩にも目を向けてあげて?」

安藤のフォローに応えるように、利市のスマッシュが、相手の横をすり抜けていった。その前に点を取ったのも利市。つまり、お互いが11点を超えているこの状況では、利市が勝利ということになる。

「利市先輩っおめでとうございます!」

「・・・おめでとう、ございます。すごかったです」

「へへっ、サンキュッ」

満更でもなさそうな利市を、後から狙う影。

「りーち君おめでとー!」

「!?ちょ、びっくりしただろーが!」

飛びついてきた柚季をはがしながらも、利市は卓球で上気した頬に朱を重ねた。わずかで明らかなその変化に気づくことなく、柚季は自分のことのようにはしゃいでいる、

「つーかてめぇ、自分の試合はいいのかよ」

「あー、ユズさっき出たから次は補欠なの。ユズ戦力にならないし。今回、1試合でも出れは問題ないし、ユズのせいで負けるなんてヤだからねっ」

「・・・先輩、、結構すかってましたもんね」

「あっ!いっくんひどい!それ言っちゃう!?ユズ泣くよ?」

「安藤君・・・」

どうにも、この二人はとことん反りが合わないようだ。

「・・・あれ、そーいやこの後はどーすりゃいいんだ?」

「戻って着替えていいんじゃないの?ユズは1応試合見てからだけど。あ、リーチ君は表彰とかあるのかな?」

「・・・白石さんも」

「えっ、シロちゃんも入賞したの!?」

「あ、はい、1応・・・優勝しました」

「えーっ!なんで言わないのっ!おめでとー!」

「シロもかよ、スゲーじゃん」

「あ、ありがとうございます・・・」

先輩2人に正面から言われると、なんだか気恥ずかしい。

「とりあえず、天河にでも聞いてみっか。あいつならわかるだろ」

「そーいえば、天河君が審判してたのってやっぱり・・・」

「・・・会長?」

「・・・でしょうね」

皆、説明がなくても察したようだ。同情を漂わせる3人の横で、利市が落ち着きなくあたりを見回す。

「あれ、天河いねぇんだけど」

「ユズは見てないよ?」

「どちらに行かれたんでしょうか?何もアナウンスなかったですよね?」

「・・・試合の結果を報告に行ってるとか?」

安藤の言葉に全員が納得しかけたとき、放送のチャイムが鳴った。

『えー、卓球部門より連絡です』

「!天河!」

「放送室に行ってらしたんですね・・・」

体育館の舞台右上、卓球場の丁度反対側あたりに、簡易な放送室がある。

見ると、照明がつき、天河であろう人影が見えた。

『卓球はすでに男子、女子ともにトーナメントが終了しています』

学校全体に放送しているのか、窓の外からもわずかに放送が響いている。

『そこで!只今よりちょっとした企画を行います!』

卓球場に残っていた生徒たちが、足を止めてスピーカを見上げ、天河の言葉を待っていた。『女子の部優勝、白石出水さん』

「はいっ!?」

授業中に先生にさされたときのように、(よいお返事)が飛び出す。周囲の視線が集まり、出水は穴に入るように目を伏せた。

「シロお前ビビりすぎだろ」

『男子の部優勝、麻生利市』

「は・・・?」

『この二人による、エキシビジョンマッチを開催します!』

「はぁぁぁぁ!?」

出水以上の大声に、集まっていた周囲の視線はそのまま利市へと移った。もっとも、当の本人はそれどころではなかったのだけれど

「なんだよアレ・・・俺きいてねぇぞ!」

「わ、私も何も・・・」

「エキシビジョンって・・・りーち君とシロちゃんが試合するってこと?」

「・・・白石さん、ファイト」

「ファイト、じゃないですよ!」

『なお、試合開始は10分後とします。白石さん、麻生クン、よろしくお願いします』

ダメ押しがはいり、抗議を拒否するように放送が切れた。

「・・・嘘だろ・・・」

「ど、どうしましょう・・・」

撤収準備を生徒達も所在なさげに立ち尽くしている。

「おっ、よかった。2人ともいた」

しばらくして卓球場に現れた天河は、まるで今の放送が無かったかのようにいつも通りだった。

「天河ァァァァ!テメェ、さっきの放送何なんだよ!」

「何って、君らでエキシビジョンマッチするって話」

何を今さらとばかりに、天河が小首を傾げる。

「きいてねぇよ!」

「言ってないからねぇ」

「てめ、ほんっとさぁ・・・」

「いいじゃないか、貴様ら二人でやってみるといい」

いつの間にか、溜まっていた人ごみが2つに分かれ、中央で皇牙が笑っていた。

「神谷。面白そうなことをしているじゃないか。気に入ったぞ」

「それはどーも」

「僕が許す。2人は好きなだけ戦うといい」

皇牙がそう言う間にも、1人、また1人と生徒が上がってくる。天河の放送は校内全体に届いていたから、暇を持て余した野次馬だろう。出水と利市は顔を見合わせ、あれよあれよという間に、卓球台を挟んで向かい合っていた。

「・・・そうだ、シロ。どうせなら何か賭けねぇか?」

「えぇー・・・何を賭けるって言うんです・・・」

「んー、そうだな・・・」

「(委員会の当番1回分)なんてどうだ?」

耳聡く聞いていた皇牙が横から口をはさんだ。

「、生徒会として、変な賭け事を認めるわけにもいかん。しかし、何かを賭けたほうが盛り上がるというものだ。お前らは同じ委員会だし丁度いいと思ったんだが、どうだろうか?」

皇牙の問いかけに、野次馬からどよめきと歓声が沸きあがる。

「いいな。んじゃ、負けたほうが当番を一回代わる。それでいいか?」

出水に負けるなんて、微塵も考えていない余裕。もともと、天河に頼まれて入っているだけで、利市は委員会の活動が好きなわけではない。ちゃっかり押し付けようという考えが透けて見えた。

「・・・分かりました、いいですよ」

出水にも、1つ考えがある。それに、もし負けたとしても、1回代わるだけなら大した手間でもない。かくして、高校生らしく楽しむための、それでいて真剣な勝負が幕をあけた。


 —―この一年、僕は生徒会長として好き勝手してきた—―

退任の挨拶で、皇牙は開口一番そう言った。

—―前任の黒瀬会長、またその前の神谷会長。この2人は本当にすごい方々だった。僕は、2人に近づけるように僕なりに頑張ってきたつもりだ。—―

天河をからかうときには見せない、(先輩)としての皇牙が、そこに立っている。

体育館はさっきまでの盛り上がりが嘘のように静まり返っていた。

—―少しでも、皆が学校を楽しいと思えたなら何よりだ。僕も、この面子で最後まで生徒会をやれたこと、誇りに思う。心から感謝しよう」

最後に1つ。皇牙はそれまでより声を張り上げて、堂々と前を向いた。

—―僕は今日で(生徒会長)の権限を失い、ただの1生徒になる。けれど、皆が困っているところに同級として、先輩として、できる範囲で手を貸すことは可能だ。次の生徒会の諸君も、遠慮なく頼ってくれ—―

皇牙の笑みには、王者の余裕があった。

—―それでは、これで僕らの生徒会は以上だ—―

舞台袖から、他の役員も舞台に上がり、皇牙の後ろに並ぶ。

—―残りの高校生活、楽しめよっ!お前らぁ!—―

皇牙の締め口上とともに、楽しげな破裂音が体育館に響き渡った。色とりどりのお菓子が、上から降ってくる。キラキラとした包み紙と紙吹雪が、絶対皇政の最後を飾ったのだった。


球技大会の翌週、化学室には利市と出水の姿があった。

「クッソ、何で俺が・・・」

「文句言わないのー、シロちゃんに負けたんだから仕方ないでしょ」

「負けてねぇし!」

あの後、出水と利市のエキシビジョンマッチはかなりの盛り上がりを見せた。一セットもとられることなく決勝にきた2人が、1点をかけてしのぎを削る。

2セットずつ取り合って、2人は最終となる第5セットに突入した。

そのころには、周囲のどよめきは消えて、歓声だけが溢れていたのだけど、利市はよく覚えていない。ただ、後輩の女子に負けないように必死だったのだ。どちらかが点を取る毎に、歓声が上がる。出水が14点、利市が13点だった場面で、それは起こった。

「りーち君!がんばれー!」

歓声の中、届いた声。よく通るその声は、利市の集中を乱すのに十分で。

気付けば、白い球は利市の後ろの壁をたたいていた。

「あははっ、確かに惜しかったけど、負けは認めなきゃ。でも、りーち君も十分すごかったよ!」

目の前で笑う柚季は、自分が原因であることなど知りもしない。

「お前のせいだっつーの・・・」

「?何か言った?」

「・・・なんでもね」

利市はそういって、音を立てて試験管を置いた。

「そう?ならいいけど。・・・あーぁ、にしてもシロちゃん、なんでユズと一緒だったこの時間代わったんだろ。シロちゃんとやるの楽しみにしてたんだけどなぁ」

「俺で悪かったな・・・」

「あっ、違う違うっ!ただ、シロちゃん、ユズとやるの嫌だったのかなーって」

「・・・それは、多分ねぇよ」

「ホント?」

黙って頷く。

出水がわざわざ賭けの戦利品をここで使ったわけを、きっと柚季以外は気付いている。後輩の気遣いが、嬉しくも気恥ずかしく、いたたまれない。

「よかった。りーち君が言うなら大丈夫だね!りーち君シロちゃんと仲いいし」

「仲、いいか・・・?」

利市としては、一方的にいじっている気がするのだけれど。

「いっつも楽しそうじゃん。シロちゃん、ユズにはまだちょっとぎこちないんだよね」

「慣れてねぇだけじゃね。そのうち打ち解けるだろ」

誰にでも変わらない調子で接するのが柚季のいいところだ。安藤はともかく、出水は嫌がっているようにも見えないから大丈夫だろうと利市は思っていた。

「そうかな。ありがとっ」

「おー。ま、気長にやれよ」

「・・・うん。やっぱりユズ、今日りーち君と一緒でよかったや」

「・・・そーかよ」

満面の笑みを向けられても、今の利市にはそう返すのが精一杯だ。いつか、気負わず返せるようになるのだろうか。利市はばれないようにこっそりとため息をついた。


クラッカー、お菓子は神谷天河君(他数名の生徒)の提供でお送りしました

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