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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
27 マフィアになった爺と遊ぼう
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9

「あいつは裏通り課の警察官でな。自分の父親――つまり俺が生きていることも、マフィアの親玉とすりかわっていることも、全て突き止めた。ミルクに聞いたわけでもなく、そこまで突き止めるなんて、優秀な警察官だぜ? 流石は俺の息子。しかし警察官になった時点で、信じられない馬鹿とも言えるな」


 忌々しそうに胡偉は吐き捨てる


「僕の父はお前にマフィアを辞めるよう懇願でもしたのか? それとも脅迫でもしたのか?」

「その両方プラス宣戦布告だ。普通ならその場でブッ殺してさしあげる所だが、その時、俺も重要なビジネスを抱えていて、デリケートな時期だったからな。日本で警察官殺しってのは、流石にヤバい。奴等、市民を守るのは適当でも、同胞が殺されると物凄い勢いで本気になる。だから俺の帰国後に、事故にみせかけて車ではねた」


 そこまで喋った所で、胡偉は言葉を区切り、渋面になって少し間を空ける。


「しかし……失敗だった。裏通りで変な噂が流れた。父親がマフィアにたてついた人物だから、その八つ当たりの報復をくらったとな。あまりその噂は広まらなかったが、警察は真に受けやがって、結局俺の組織に探りを入れてきやがった。その処理に終われ、当時やっていたビジネスも失敗。まったく……あの餓鬼は俺にとって、とんだ疫病神だったぜ」

「僕の父がお前にとって疫病神なら、僕はお前にとって死神になるよ」


 最早これだけ聞けば話は十分だとし、真は立ち上がる。最も知りたい真相を知る事が出来た。本人の言葉が正しければ、これで自分の取る行動は一つとなる。


「うわ、よくそんな中二くせー台詞吐けるね、お前。もしかしてハードボイルド気取りしちゃってるの?」

「ハードボイルド気取りしてるのはお前の手下の黄強だ」


 いきなり引き合いに出され、黄強は思わず吹く。


「そうなのか?」


 堂々と真から視線を外し、黄強の方を向いて確認する胡偉。


「いや……」


 黄強は返答に困り、ひきつり顔になる。


 その直後、真が銃を抜いて撃つ。

 ほぼ同時に、黄強の方に顔を向けたまま、胡偉も銃を抜いて撃っていた。


 二人共撃つと同時に身を引き、相手の銃弾をかわしている。


 黄強がワンテンポ遅れて反応し、懐に手を入れる。真との戦闘は断ったが、自分の組織のボスが目の前で狙われているとなれば、流石に話は別だ。


 真も二対一のこの状況で、加減をすることもできない。もう一挺銃を取り出して二挺拳銃モードになり、黄強に向ける。


(不味い……コンセントを服用してないぞ。でも……それはこの二人も同じか?)


 まさかいきなりドンパチが始まるとは思わず、すっかり油断していた黄強であるが、真と胡偉もコンセントの服用無しで戦闘を開始したように見える。

 コンセントによる反射神経と集中力増加と第六感の鋭敏化を得られぬまま、黄強は勘頼みで回避を試みたが、真の銃口が自分の動きにぴったり合わせて動くのを見て、黄強は戦慄した。


 真の銃の引き金が引かれる。水月に強烈な一撃を食らい、黄強はのけぞって倒れる。防弾繊維で銃弾の貫通こそ免れたものの、その衝撃は容赦なく黄強の内臓を痛めつけ、胃液が食道へと逆流する。


 胡偉は予めコンセントを服用していたが、会話が長引いて効き目が切れかけているのがはっきりとわかる。新たに服用しようと、袖口から薬を出した所で、真が銃を撃つ。


「こんなろーっ!」


 服用を中断され、苛立たしげに叫び、胡偉は座っていたソファーに体重をかけて縦向きに立たせると、思いっきり蹴りを入れて、真めがけてソファーを飛ばした。

 ソファーを目晦ましにしてひるんでいる所に、一発撃ち込もうと考えていた胡偉であったが、真は飛来するソファーを全く意に介さず、避けもせず、体に当てられながらも銃はしっかりと片手で固定して狙いを定め、引き金を引く。


(こいつもすでに飲んでいたのか? さもなきゃ口の中に仕込んでいてすぐ服用したのか?)


 明らかにコンセントを服用していると思われる、精密な動きと集中力に、胡偉はそう疑いながら、真の銃撃を際どい所で回避する。真がコンセントを一切服用しない事など、知る由も無い。


 真は明らかに余裕のある動きを行っているが、胡偉の方はというと、綱渡り感が強い。


 黄強がコンセントを服用する。効果はすぐに出る。全ての感覚が鋭敏化して、頭の中が冴え渡る。視界に映る光景の全てが鮮明化し、頭の中に入ってくる。

 痛みを堪えつつ、真に銃口を向ける。自分ではかなわないのはわかっている。しかし少しでも真の注意を自分に引きつけて、胡偉にコンセントを飲ませる時間くらいは稼ぎたい。


 真が黄強に反応して即座に銃を撃ってくる。しかし黄強は多少余裕をもって回避する。殺気で真に自分の存在を反応させて自分を撃たせ、こちらは銃を撃たずに、予めすぐさま避けることに集中する。そうすれば生存率を上げられると判断し、実行した。


 黄強の目論見は上手くいった。黄強が気を引いたその隙をついて、胡偉がコンセントを素早く口の中に放り込む。


(中々やるじゃねえか、あいつ。闇雲に戦う阿呆でも、欲張って死ぬ馬鹿でもない)


 心の中で黄強の動きを称賛する胡偉。彼が自分にコンセントを飲ませるために気を引き、その役目を果たした後、速やかに回避に徹した事を見抜いていた。


 コンセントの効果はすぐ発揮されるが、例えコンセントを服用したからといって、すぐ勝てるわけではない。


(久しぶりのドンパチだからなあ。こいつは現役。しかも相当な使い手ときた)


 自分の体が全盛期と比べて衰えている事も、ブランクがある事も、胡偉は意識せずにはおれない。


 真が胡偉に向かって撃つ。その刹那、胡偉が今度はテーブルを蹴り上げて、盾と目眩ましの両方の用途で用いる。銃弾はテーブルに弾かれ、テーブルが真めがけて吹っ飛び、真の視界を一瞬だが遮った。


 真の視線の隙を突いて、胡偉は身を低くして横に小さく跳び、真の足を狙って撃つ。

 テーブルに気をとられていた真は、これに対して反応できなかった。胡偉の撃った銃弾が真の右脚に当たる。


(亀の甲より年の功……と言って勝ち誇ってやりたかったが、畜生……運には恵まれてねえ)


 銃弾はヒットしたものの、防弾繊維に阻まれていた。舌打ちする胡偉。


(やるな。流石はベテラン、流石僕の祖父といったところか)


 胡偉の動きを見て、真は心の中で称賛せずにはいられなかった。


 一瞬ひるみつつも、真は二挺銃を駆使し、黄強に一発、胡偉に向かって二発撃つ。黄強には牽制、胡偉に対しては、一発は行動予測した代物で、もう一発は頭部をそのまま狙った。


 黄強は牽制に反応してかわしてしまう。一方で胡偉はというと、動かなかった。

 そのまま銃弾が剥きだしの頭部を穿つかと思われたが、それもなかった。


 銃弾は胡偉の額の前で、停止していた。まるで空中に貼り付けられたかのように、あるいは弾の時間だけ停止させられたかのように。

 弾が空中に止まっていたのは一瞬で、すぐに床に落ちる。


(能力を使ったか)


 真は特に驚きもしない。真はミルクから、胡偉が備えた能力の正体を事前に聞いている。

 胡偉がミルクより授かった能力は、『減力肉粉』。自分の身から削った粉を散布し、この粉に触れたものは何であろうと運動力を失うという。銃弾も拳も。


(一応、攻略方法も幾つか聞いてあるけど、今それを試すのは……)


 一対一ならいいが、黄強がいる状況では難しいと、真は判断する。彼の存在が非常にネックになってしまっている。


 さらに悪いことが起こった。この部屋に向かう複数の足音を真は耳にする。

 この状況で、例え雑魚でも部下が複数現れて加勢に回られたら、とても勝ち目は無い。


 真は黄強のいる方に一発撃つと、扉の方へ一気にダッシュをかける。その背に向けて胡偉が撃つが、勘頼みだけであっさりと横に逸れてかわし、扉を開けて外へと出た。


「後ろに目でもついているのか、あいつは……」


 真の動きを見て、呆然として唸る黄強。


「アクションゲームやってると、敵がいる認識さえわかれば、視界外からの攻撃とか、わりと勘頼みでかわせるようになるぜ」


 胡偉がそう言って息を吐くと、部屋の入り口に部下が姿を現す。


「無事ですか!?」

「そっちはどうした? 今逃げていった奴は」

「何人か撃たれました。そのまま外へと向かっています。追います」


 確認と報告に来た部下及び黄強が、真の後を追おうとしたが――


「追わなくていい。俺の孫だから馬鹿じゃあない。この状況なら逃げに徹するだろう。それをなお追い回しても殺されるだけだ。やめとけ」


 真の後を追おうとした部下達を制止する胡偉。


 ドンパチが終わって気を抜く黄強であったが、そんな自分を胡偉がギロリと睨んできた事に、ぎょっとする。


「お前のおかげで助かったが、気にいらねえな。身の安全こそ一番だ。俺なんか体張って守ろうとして、それで死んだらどうする。俺がお前の立場なら、何もせず隠れているか、あるいは襲撃者の方に加担しているぞ。どう考えても俺の方が不利だった」

「いや……そんな……」


 不快さ丸出しの顔で睨まれながら、このボスは何を言ってるのかと、耳を疑う黄強。自分の組織のトップが目の前で命を狙われているのだから、そこに属する戦闘員である自分が戦うなど、当たり前の事であろうに、守られておきながらそれを否定するとは。


「仁、義、信は俺がいっちゃん嫌いなもんだ。しかしまあ、そんなもんに殉ずる馬鹿に救われたのもまた事実。中々機転も利くようだし、お前、俺の専属の護衛にしてやるよ」


 胡偉の突然の人事に、黄強は呆気に取られる。


「しかし……歳は取りたくないもんだ……。そのうえ現役を長いこと退いているとなると、あからさまに腕が落ちる。糞っ」


 部下の前で醜態を晒したような気分になり、それもまた胡偉の不機嫌さの原因となっていた。傍で見ていた黄強からすれば、ボスの戦闘力の高さを見せつけられて感服していた所であるし、全盛期はどれだけだったのだろうと考える。

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