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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
26 殺人倶楽部を潰して遊ぼう
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28

 夜のワイドショーで、特集として殺人倶楽部が取り沙汰されたその翌日。

 安楽市内のとある場所にて、被害者遺族の会の会合が行われていた。


「ここに全ての遺族が集っているわけではありません。殺人倶楽部の存在を信じていない方や、そっとしておいてほしいという方もいましたから」


 パイプ椅子に座った遺族達を前にして、壇上に立った壺丘が告げる。


「もっとも、信じてない人も、テレビで放映された時点でかなり信憑性が増したので、会員はこれからも増えるかもしれませんが」


 年々メディアとしての力を少しずつ失ってきているが、それでもテレビの洗脳マシーンとしての力は未だに大きい。特定の層には特に効果が絶大だ。


「警察に対して追求を行うのはもちろんのことですが、根本的な解決は、殺人倶楽部運営を表舞台に引きずり出し、法の裁きにかけることです。また、殺人倶楽部の存続を支える権力者がいるはずです。一体如何なる目的で、殺人倶楽部を容認しているのか、実際の所はわかっていません。それと……殺人倶楽部の会員は権力者達であり、殺人欲求を満たさんとしていると噂されていますが、実際には殺人倶楽部の会員の多くは、権力も財力も持たない庶民です。殺人倶楽部などというものが作られた理由としては、もっと何か別の目的があるのではないかと、私は見ています。想像を絶する巨悪が潜んでいる可能性が大であるとも、疑っています。根拠に乏しい推測の段階ですが」


 壺丘の話を聞き、被害者遺族の会の会員達は息を飲んでいた。


「そんな凄いのが背後にいるのであれば、この会も潰されやしないですか? 警察も自由に操れるような者が相手で、報道にも規制がかかるんじゃないですか?」

「都知事でさえ殺されましたからね……」

「私達も危ないかも……」


 遺族達から不安の声があがる。


「警察もいろいろです。警察の中にも正義感の強い人達がいて、殺人倶楽部の存在を許せないからこそ、情報を提供してくれたんです。マスコミも同様です。テレビで放映されたのも、これは間違いなく圧力がかかると見越したうえで、それでも不意打ちで一回くらいは放送できるだろうと、番組スタッフ達が決死の覚悟であれを生放送で流したんです。もちろん今後は規制される可能性が大です」


 スピードが肝心だと壺丘は見ている。ここで一気に押し切らないといけない。敵がどんな反撃をしてくるかわからないが、少しでも劣勢に経てば、警察やマスコミの協力者も離れていく。


「実はオーナーの正体は判明しています。しかしそれは流石にテレビでは流せなくなっています。報道関係では絶対的な禁忌となったとのことです」

「雪岡純子でしょう? 独自にいろいろと調べて、裏通りのサイトも覗いて知りました」


 壺丘の言葉を受けて、会員の一人が発言した。


「あの雪岡純子……?」

「核物質を街中で撒いたっていうマッドサイエンティスト……」

「テレビで流せないって、この間の討論番組で、グリムペニス会長のヴァンダムがあっさり口にしてたような……」

「まあヴァンダムさんは凄い人だから……」


 雪岡純子の名が出され、再びざわつく。


「次の手に速やかに移行する必要があります。敵は強大で、底が知れません。不特定多数で規模も不明です。もたもたしていると潰されてしまいます」

「何をすればいいのですか? デモ行進とか?」

「いいや、デモなど何の効果もありません。他の国はともかく、この国ではデモなど無視されたらそれで終わりです。それでなくとも喉元過ぎればという国民性ですし」


 遺族の提案を一蹴する壺丘。


「加害者の家族を晒したのは何故か? 加害者達の正体は元庶民です。そこがポイントなのです」


 ここで一旦言葉を切ってから、壺丘は全員を見渡してから、こう告げた。


「そう。私達の標的は、加害者の家族です」


 先ほどよりもさらに大きなざわつきに包まれる。


「何を言ってるんですか……。家族にまで手を出すなんて」

「そんな報復をしてどうなると? 犯人が捕まって裁かれるだけでも、その家族は十分に苦しむでしょうに」

「ペンを凶器にして、加害者の家族に突き立てるつもりですか? 加害者の家族に辛い想いをさせて、それで私の気は晴れません。余計に哀しいだけです」


 口々に反対意見が出る。


「反対する方が出るのはもっともです。反対する人達が間違っているとは言いません。しかし、これは彼等に勝つ手段でもあります。加害者の家族を晒し者にして応報して、それで溜飲を下げるという、下衆な行為に及ぼうというわけではありませんよ。加害者の家族を説得することで、加害者の良心に訴える作戦です」

「殺人倶楽部なんて活動をしている人らに良心なんか残っていますかね?」

「家族との仲が正常な保障も無いよな。そんな奴等……」


 説明する壺丘であったが、さらに異論が出る。


「決定打になるわけではありませんが、かなり有効な手段の一つだと、私は考えています」


 反対意見も出るのは当然想定していた。だからこそ、反対されようが壺丘はこのやり方を押し通すつもりでいる。


***


 壺丘が遺族達と対話している頃、優達六人は、安楽警察署裏通り課へと乗り込んでいた。


 対応したのは、梅津光器、芦屋黒斗、松本完の三名の刑事だ。

 応接室にて、優と梅津が向かい合う形で座り、他の五人は横のソファーに座っている。黒斗と松本は立ったままだ。


「お前らのリーダーは?」

「竜二郎さんです。でも今この件での代表は私です」


 梅津に問われ、控え目に挙手しつつ名乗り出る優。


「俺達は純子のせいで無駄な仕事することになったがね。純子個人にムカついているってわけじゃないが、だがそれでも、俺達も情報を流した連中の気持ちは、わからんでもないぞ。協力してはいたが、元々殺人倶楽部に対して快く思ってはいない」


 不愉快そうに話す梅津に、これは見込み薄いかと思う鋭一、冴子、岸夫、卓磨。


(優さん、まるで揺らいでいない。警察のこの反応も、パターンの一つとして想定していたといった所ですかねー)


 一方で竜二郎は、優の反応を観察していた。


「で、お前らに同じ警察官を売り渡せと来た。こりゃまた素晴らしい要求だこと」


 優が知りたがっていることは、そして要求していることは、壺丘に情報を流した警察官達の名前であった。それを知るために、安楽警察署へと訪れた。


「何でそんなことをしなくちゃならないんでしょうねえ。笑っちゃいますよね」

「お前は黙ってな」

「あ、はい」


 笑いながら梅津に同意したつもりの松本であったが、梅津のすげない一言を受け、笑みを消して、決まり悪そうにそっぽを向く。


「梅津さん達が情報を流さなかった理由は何ですかあ?」


 椅子にちょこんと座ったまま、小首をかしげて緊張感のない口調で尋ねる優。


「その前に一つ聞いていいかな? 君、ひょっとして純子に――」

「ああ言えこう言え、ここで揺さぶりかけろああなったら引けと、純子さんにいろいろ指示されて、それに従って喋ってるわけじゃあありませんよう」


 口を開きかけた黒斗の言葉を遮り、先回りする優。


「あれ? ひょっとして私の読み、間違えてましたぁ? だったらごめんなさいです」

「いいや……こっちこそ話を遮ってごめん」


 優を見つつ、黒斗は舌を巻く。


(ふんわりぽわぽわって感じなのに、芯はしっかりしているな。感情の変化も見えない。堂々と、ふざけた要求を突きつけてくるだけはある。純子の奴、またとんでもない逸材を拾ったもんだ)


 梅津も感心していた。見た目は大人しそうで可愛らしいがしかし、人間としての強い力、強い信念、利発さといったものを備えた少女である事が、ここまでの短い会話と彼女の佇まいで、よくわかった。


「情報を流さなかった理由を真面目に語るのもナンセンスだし、お前さんだって大体わかっているんだろ?」


 梅津が煙草の箱を取り出し、一本伸ばして優の方に堂々と差し出す。


(何だ、この刑事。未成年の女の子相手に……)

(うわー、中々曲者ですね。このハゲかけたおじさん)

(優と煙草ってイメージ合わなさすぎなんだけど……)


 卓磨、竜二郎、冴子がそれぞれ思う。


 優は拒否せずに煙草を受けとった。梅津が火をつけようとライターを取り出してかざすが、優はあろうことは、煙草をスカートのポケットの中に入れてしまう。


「記念にもらっておきますねぇ。ドラマみたいに、刑事さんに煙草もらうとか、とても良い思い出になります」

「ああ、そう」


 優のリアクションを見て楽しもうかと思って差し出した煙草であったが、全く予想外の言動に、梅津は微苦笑をこぼす。


「情報を流さなかったのは、ここのお巡りさん達が真面目だからですよねえ?」

「裏通りの連中に加担して、殺人倶楽部なんてものを稼動させる手伝いしている俺らが、真面目だっていうのか?」


 これまた予想外の台詞が優の口からついて出て、梅津は驚かされながらも、真面目に問い返す。


「おまけに未成年に煙草あげてますしねえ。超不真面目いたたっ」


 皮肉っぽい口調で笑う松本だが、立ち上がった梅津に耳を引っ張られる。


「それが課せられた仕事であり、忠実に勤めたのですから、真面目ですよう」

「市民の安全を守る者としては不真面目だよ」


 黒斗が静かに言った。


「期間限定であったことと、純子が殺人倶楽部を作った先にある目的を知っていたから、胸糞悪いが協力していたのさ。そうでなければ、いくら課せられた仕事だろうと、拒否していた。あいつらはそれを教えてもらってなかったんだろう。もし知っていたら、その話もセットで暴露される」

「先にある目的?」


 気になる言葉を口にした黒斗に、鋭一が怪訝な声をあげる。


「生き残っていたら、お前達もそのうち嫌でも知る事になるよ。それまでのお楽しみだ」


 鋭一を見下ろし、黒斗が言った。


「一つだけ教えろ。奴等の名を知ってどうするつもりだ? 脅迫か? そいつを知ったうえで納得できなければ、教えるわけにはいかねーな」


 梅津が険しい目つきになって優を見つめ、ドスの利いた声で問う。ここが一番大事なポイントであると、その視線と声音が語っていた。


「情報を漏らした警察官達と、直接会って脅迫とかはしませぇん。意味がありませんもの。でもこの名前を公開すれば、その上のいる人達くらいには、無言の圧力もかけられるでしょう? 警察組織そのものを、こちらの味方へと戻すこともできるんじゃないかなーと思いまして。現時点で、警察はどっちつかずというか、様子見段階なんじゃないですかねえ」

「なるほど……」


 優の企みが何であるか、梅津は大体理解できた。


「会員のリストは警察の殺人倶楽部管理担当者が、全て持っているだろう。少なくとも自分達は全て持っていた。しかし活動内容に関しては担当が異なる。こう言えばわかるだろ?」

「ここの人達は依頼殺人の管理ですよねえ」


 梅津の言葉に対し、優は答えた。


「お察しの通り、俺達は依頼殺人担当だよ。まあ……マシな方だな。もしフリー殺人担当とかだったら、ブチ切れて俺が殺人倶楽部ブっ壊していたかもしれないしね」


 黒斗が忌々しげに吐き捨てる。


「俺も知り合いを殺人倶楽部の会員に殺された。フリー殺人の方でな。あれを積極的にやる奴の中には、善悪見境無しに殺しを楽しむ奴等が多いようだ。そういう奴等は俺も大嫌いだし、殺人倶楽部なんて無くなってしまえと思ったよ。都合のいい話だけどな」


 いつになく沈んだ声と面持ちで鋭一が言った。


「何か困ったことが他にありましたら、また来ますねえ」


 情報を流した警察官達の名を指先携帯電話に転送してもらい、優は席を立って告げる。


「いや、来なくていいよ」


 手をぱたぱたと動かし、追い払うように振る梅津。


「ありがとうございます。そう言ってくださると助かります」

「会話が噛み合ってない……」


 深々とお辞儀をする優に、卓磨が思わず呟く。


「噛み合ってますよう。来なくていいってことは、来たら仕方なく力を貸してくれるってことですよう」

「あーあー、好き勝手に解釈しろ」


 優の言葉を聞いて、面白く無さそうな顔で梅津が言った。


「いざとなったら未成年に煙草渡したってことをネタに脅せばいいしね」


 冗談めかして言う冴子。


「あ、ひょっとして梅津さん、照れ隠しにそのために煙草渡し痛あっ!」


 ぽんと手を叩いて指摘する松本の頭を、梅津はグーでかなり強めに殴った。


「私はそんなことしませんよぅ。これは私が大人になってから、最初に吸わせていただきますね」


 ポケットの中から煙草を取り出してかざしてみせ、優は微笑んだ。


「せいぜい、いい保存方法調べておくんだな」


 優の愛らしく朗らかな微笑みを見て、梅津もつい釣られるようにして、微笑をこぼしてしまった。

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