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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
26 殺人倶楽部を潰して遊ぼう
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25

 やにわに優達のブレスレットが反応して音が鳴る。鬼にタブレットを向けられて、登録されたのだ。


「どこだ?」

 鋭一が周囲を見渡す。


「あそこです」


 優が指差しつつ、能力を発動させて木を消滅させると、逃げていく鬼三名の後ろ姿が露わになった。


「カバディカバディカバディ……」

 その中にはあのカバディマンもいる。


「追うぞ」

「待ってくださあい」


 走り出そうとした鋭一を優が止めた。


「一見、数が少ないように見えますが、かなりいますよお。うっかり追っていけば、取り囲まれて袋叩きにされまぁす」

「何で優さんわかるの? そういう能力?」


 岸夫が尋ねる。


「私はレベル255ですけど、能力は一つしかもってませんよう。木陰に隠れてますけど、人影が隠れていない人達が、ここから何人か見えているだけです。きっとその辺もちゃんと注意している人もいるでしょうから、気をつけていないうっかり屋さんの数を上回る人数が、周囲に隠れていると考えたんです」


 優の指摘を受けて目を凝らすと、鬼が逃げていった方の木々に、確かに人影が幾つか見えた。


「では、見えているだけでもやっつけますかねー。距離は……何とか届きますか」


 竜二郎が獣符を取り出し、人影が見える木に向かって放つ。


 獣符は巨大な翼を生やした獅子の頭部になり、木陰に隠れていた鬼を噛み殺した。あまりにも突然すぎる、そして突拍子も無い出来事に、鬼は反応できなかった。


 それを見て、木陰から何人かの鬼が飛び出す。ある者は獅子の頭に向けて発砲している。

 獅子の頭は宙を舞い、さらに攻撃を仕掛ける。そこに鋭一と冴子も参戦し、透明つぶてとゆっくりカッターで、鬼を攻撃する。


「優さんが止めなければ、逃げていった鬼達を追おうとした所で一斉に不意打ちくらっていましたねー。際どい所でした」


 緊張感のない声で言い、戦闘状態に入った鬼達を見渡す竜二郎。


「おいおい、明らかに六人越えてるだろ」


 慄く卓磨。すでに死体となっている者三人も合わせて数えてみると、十四人いた。


「城ヶ島のグループの真似だろう。七人に至らないグループを作り、着かず離れずで行動。重要な局面だけ合流。これは不味いかもな」


 眼鏡に手をかけ、鋭一が言った。こちらの奇襲が成功して数は減らせたとはいえ、敵の数が倍近い状態だ。


「ん~……逃げた奴を追わないと……って、追えないか」


 冴子が口惜しげに呻く。もう相当距離が開いているし、多数の敵も前方にいるので、登録して逃げていった鬼達は、どうにもできない。子の妨害に期待するしかない。


「今連絡入れました。別荘近くにいる人に動いてもらうようお願いしました。今の状況ももちろん報告しました」


 一方で、てきぱきと行動している優。


「こっちも同じ手を使う流れになるか? そうすれば数のうえでなら有利な俺達に分がある。しかし……」

「殺人倶楽部側が合流しても、着かず離れずという条件でなら、動きを考えれば鬼側が有利でしょうねー。何しろ鬼側は先手を取れます。子はどうやっても後手です。ここに来て正常な鬼と子の形になったといえます」


 竜二郎が鋭一の言葉を継ぐ。


(いや、俺が言いたかったのはそういうことじゃない。全然違う)


 自分の考えを読んだつもりの竜二郎に、鋭一は嘆息したい気分になる。


「鬼は缶を踏むだけです。缶のある部屋につく報告者は例え一人でも構いませんし、この状況のように、少数を報告に行かせて多数で壁を作る事もできれば、全員でばらばらに逃げて報告という手もありますしねえ」


 優が言った。


「同じ手を使うのは悪手じゃないの? こちらは二手に分けた方がよさそう。報告の鬼へ対処する、別働隊みたいなのを作るとかさ」


 獅子頭にかき乱されている鬼達を、遠方からゆっくりカッターで一人ずつゆっくりと攻撃しながら、冴子が言った。この能力を用いている時はわりと暇なので、喋っている余裕がある。


「ていうか、時間が結構迫っているけど、大丈夫なの?」


 時計を見る冴子。すでに残り十分を切っている。


「かなりぎりぎりだ……」

 岸夫も時計を見て呻く。


「慌てる必要は無いですよう。ここから別荘までは結構距離がありますし」

 危機感のない声で優。


「いや、距離があっても仲間が別荘近くにいるとは限らないし、拘束されてから助けられる保障も無いだろ」


 相手の飛び道具に備えて構えながら、卓磨が言った。鬼がこちらに銃や意識を向けてきたら、すぐに足踏みして、運動力を奪う構えだ。


「そういう問題ではないですよお。生き残った鬼の多くは、私達の行く手を防ぐ壁として、ここにいるということが重要なんです」


 優が説明したが、卓磨にも岸夫にも冴子にもわからない。竜二郎と鋭一は、その時点で優が何を言いたいのか、理解した。


「彼等を全部ここでやっつけちゃえば、もうほとんど私達の勝ちですし、今この状況は、私達の勝利を鬼側がカモネギしてくれたようなものです」

「その通りだ。鬼側が墓穴を掘って、自ら寿命を縮めたわけだ」


 鋭一が嘲笑を浮かべる。


「なるほど……確かに俺達ならそれができそうだよねえ」

 納得する岸夫。


「逃がさないようにだけ気をつけろ。優、穴を掘れ」

「あ、そうですね。その手がありましたぁ。はーい」


 鋭一に命じられ、優が消滅の力を発動させる。


 鬼達の足元に次々と大きな縦穴が開き、足場を失くした鬼達がパニックを起こしながら落下していく。穴は人がすっぽりと見えなくなるほどの深さだ。


「なるほど、あっさりと無力化だ……。ていうか、ほとんど優さん一人で残り敵全滅させちゃったじゃん」


 岸夫がおかしそうに言う。


「鋭一さんのアイディアのおかげですよう。私、人を殺すのが嫌で、あまり積極的に戦わなかったんですけど、これなら問題有りませんよねえ」

「俺も今思いついたんだがな」

「殺人倶楽部に入っていながら人を殺したくないとか……」


 優の言葉に鋭一が微笑み、卓磨が苦笑する。


「今度からこの手で行けば、僕達は楽できますねー。ところで、出てきた鬼を殺すのは僕達が引き受けるんですかー?」


 ちょっと意地悪い口調で竜二郎が言ったが、優は首を横に振る。


「鬼さん達、降参してくださあいっ。降参しないと穴の上から攻撃することになりまあすっ。そのまま穴の中で待機していくださあいっ」


 優が手をメガホンにして穴に落ちた鬼達に呼びかける。


「なるほど……と言いたい所ですが、もし今の呼びかけに従わなかったら、どうします?」

「その時は私が責任持って殺しまぁす。でも、この状況で殺されることも覚悟で、穴の外に飛び出す人がいるとは思えませんけど」


 さらに意地悪いことを笑いながら言う竜二郎に、優はあっけらかんと答えた。


「優さん、相手もケータイで連絡とれるんですよ? 援軍を呼び、援軍が来た所で、うまいことタイミング合わせて一斉に穴の外に出ることもできますし、今のうちに一人ずつ穴の上から殺すのが得策ですよ?」

「むー……なるほどぉ。そこまでは頭が回りませんでした。馬鹿ですねえ、私」


 こつんと拳で自分の頭を小突いてみせる優。


「でもそれならそれで仕方無いとして、やっぱり穴に通した状態の人を、しかも動かなければ助ける風な呼びかけした後で、容赦なく殺していくってのは、私は反対ですう。非合理的でも、感情的に嫌ですぅ」

「この人数を一気に片付けたのは優の功績だし、おかげで俺らは楽できるし、もし敵が反撃に出たら、俺達で対処する形でいいだろ」

「そうですね」


 卓磨が優をかばうように言い、竜二郎も頷いた。


「しかし卓磨はここぞという時に、説得力ある言葉を吐くな……」


 こころもち忌々しげな響きの声を出す鋭一に、卓磨が驚く。


「鋭一君は、卓磨さんのバランス感覚の良さと誠実さと努力家っぷりを、やっかんでますからね」

「余計なこと言うな」


 からかう竜二郎と憮然とする鋭一に、さらに驚く卓磨。鋭一の発言だけでなく、竜二郎も自分にそんな認識を抱いている事に、驚いていた。


***


「カバディカバディカバディカバディカバディ」


 延々と同じ言葉を呟きながら、別荘に向かって疾走するカバディマン。

 別荘の前までたどり着き、いざ突入という所で、中から純子と真が現れて立ち塞がる。


「普通の缶蹴りと違って、子が誰も捕らわれてない状態では、缶を蹴る意味は薄いが、代わりに、子を見つけた鬼が缶を踏む妨害を、他の子がするのは可能だ」


 わかりきったことをわざわざ口にする真。カバディマンにこの場を退けと、遠まわしに告げている。

 カバディマンも理解していた。自分一人でこの二人と交戦はおろか、出し抜くことも不可能に近いと。


「カバディ……」


 二人と向かい合ったまま、じりじりと後退していくカバディマン。彼はこの時、予感していた。このゲームは、鬼の負けで終わるだろうと。


「ここでずーっと僕等が見張っていれば、少人数で来る鬼は突破できないな。もっと早くに気がつくべきだった」

 と、真。


「事前にあれこれ予測を立てて、相談したり対策立てたりするのも大事だけどねえ。でも実際にやってみることでわかる事の方がずっと多いんだよ。全てにおいて言えることだけどさ」


 純子が屈託の無い笑顔で言う。


「参加者同士が連絡しあえるようにしたのも、そのためか」

「うん、誰かが対策をその場で立てて、横で連絡ということが、これまではこのゲームでは出来なかった。だから視聴者側には面白かった。参加者はひたすら混乱しながら、多くの犠牲を出しながら、個々で手探りプレイだったからねえ。でも情報の伝達さえできれば、話は全く違ってくる」


 対策の発案者が全て自陣営に伝達できることで、優位に進めるのはもちろんのこと、様々な理由で、離れた味方同士で連絡が取り合える方がいいのは当然の話だが、しかしそれは子だけに限った話ではない。


「鬼側もその条件は同じことだろ」

「もちろんそうだよー。私の考えでは、ルール上という面では、鬼の方が有利だったと思ってるよ。でも――知も力も、子の方が上なんだよねえ。何より事前に連携を取れたのが大きいし。でも鬼は急造チームだったから、連携もとり辛かったでしょー」


 そこまで言われて真は納得した。連絡できる条件は同じでも、連携の部分で差がついてしまう。もし連絡不可のままであったら、子の優位性が低下していたのは間違い無い。


***


 優が十名以上の鬼を一度に戦闘不能にした場面を見て、犬飼は決断を下した。


「ゲーム終わらそうぜ。鬼の大半が戦闘不能だ。もう継続はできないだろ」

「そうですね」


 香も納得する。このままでは嬲り殺しにされるだけだ。ここまで差がつく事は珍しいが、大差がついた場合は、運営側でコールドゲーム扱いにする。


(このまま続けていたら、あの鳥山正美が、優も斃す可能性もあるってのが本音だけどな。鬼の中で、あいつだけは格段にヤバそうだ。二人がぶつかれば、どっちが勝つかはわからない。だからこそ止めておいた方がいい)


 犬飼は別に鬼側を気遣ったのではなく、優の安全を憂慮して、終わりを促すタイミングを見計らっていたのである。


***


『鬼側、戦闘不能者多数であるため、今回のドラム缶蹴りは子の勝利として、閉幕します』


 山のあちこちに仕掛けられていたスピーカーから、アナウンスが流される。


「え? まだ私はピンピンしているのに終了? それっておかしくない? おかしいよね? 絶対おかしいよ。頭にきちゃう」


 正美が腕組みして頬をふくらます。


「全くだ。どうせ犠牲者が出すぎたという理由で、クライアントが臆したのだろう」


 やっと復帰したオンドレイが、正美に同意した。今、この場にはこの二人しかいない。


 そこに、優達六名がやってくる。


「鬼さん達、一つに固まったのは失敗ですよう」


 優に言われ、正美はむっとした。固まる作戦を立てて指示したのは正美だ。


「何で失敗なのか、私だってわかるよ。一つに固まったから一網打尽にされちゃったとか、そう言いたいんだよね? 今なら私もわかる。実際そうされたからわかる」

「はい、そうですぅ」


 苛立たしげに認める正美に、優が頷く。


「ここ数日、実に楽しかったぞ。こいつらと決着をつけられなかったのは残念だが」


 竜二郎と鋭一をそれぞれ見やり、オンドレイがにやりと笑ってみせる。竜二郎も笑い返し、鋭一は仏頂面でそっぽを向いた。


***


 その後、生き残った子も鬼も、別荘エントランスに集ってくつろいでいた。


「これでホルマリン漬け大統領に勝ったんだなー」

「元の平和な殺人倶楽部に戻れるわけだ」


 殺人倶楽部の面々は、心底安堵している様子である。仲間を殺されて哀しんでいる者もいたが。


「ん? 何、これ……」


 最初に異変に気がついたのは冴子だった。ネットの反応を見ようとして、裏通りではない検索エンジンに、殺人倶楽部の名が並んでいたのだ。


「おいおい、罪ッターのトレンドに殺人倶楽部の名が出てるぞ」


 数秒遅れて他の会員も気がついて、事態を口に出して報告する。


「えー? また週刊誌に載ったとか?」

「違う……。殺人倶楽部のメンバーの名前と住所、家族構成に至るまで、全てまとめサイトや匿名掲示板で晒されている。そのうえ、誰が誰を殺したかまで……被害者の名と加害者の名も、全部載ってる……」


 呆然と呻きながらの報告に、殺人倶楽部の会員達は全員固まった。いつも呑気な優や竜二郎でさえ、緊迫した面持ちになっていた。

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