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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
26 殺人倶楽部を潰して遊ぼう
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19

 さらに三日が経過し、いよいよ殺人倶楽部とホルマリン漬け大統領が雌雄を決する、ドラム缶蹴りが行われる日がやってきた。


 ゲームが行われる場所は山の中。ドラム缶がある場所は、使われていない別送の中の一室。

 すでに殺人倶楽部の面々は指定場所へと集結し、それぞれの動きをチェックするためのプレスレットも装着している。


「私が以前参加した時は廃ビルの中だったし、今までの例でも屋内しか無かったけどねえ」

 純子が言う。


「今回は人数多いから十二時間かー」


 ディスプレイを投影し、説明書を読みながら会員の一人が呟いた。


「長いな……」

「十二回のドラム缶爆発を耐えればいいわけか」

「あるいはその前に、鬼を皆殺しにするかだな」

「長引けば両方ヘロヘロになりそうだし、このゲーム長すぎるというか、おかしいわ」

「そんなに長々とやりたくないし、積極的に殺しにかかる方がいいね」


 一箇所に集められた会員達が雑談や、最後の打ち合わせを行う。


「それでは皆さん、別荘の中のドラム缶部屋の場所のチェックをお願いします」


 ホルマリン漬け大統領の構成員に促され、会員達と純子と真は、別荘へと向かった。


 別荘の中に入ると、他は木造なのに、一つだけ扉が金属製の部屋があった。

 扉を開けると、中は幾つかの部屋をぶち抜いて広くした部屋であり、壁も天井も床も金属製だ。そしてドラム缶が置かれている。

 この部屋に子は拘束されることになる。また時として、拘束した子を救出しに行く事になる。


「別荘の二階は侵入不可となっています」

 案内役の構成員が言う。


「つまりホルマリン漬け大統領の管理者達は、そこで状況をチェックしているってわけだね」

「はい」


 室内に無数に取り付けられたカメラを見つつ純子が言い、構成員が頷いた。


「どうして屋外でやると思う?」


 別荘の外へと歩きながら、純子が真の耳元で囁く。


「今まで屋内でやっていたのは、参加者の行動範囲をある程度まで特定して、プレイの様子をカメラに収めるためだろう。屋外で行うとなると、行動範囲がかなり広がってしまうし、カメラの数も非常に多く必要になる。その分、チェックも大変だ。で、屋外でやるとなるとカメラでカバーしきれない場所も多く出るし、そこでは違法行為を働いてもわからない」

「わかっているねえ、真君。偉い偉い」


 満足そうににこりと笑い、真の頭を撫でようとする純子であったが、真はすげなくその手を払いのけた。


「そのことを殺人倶楽部の連中に伝えなくていいのか?」

「指摘されなくても気付くくらいの子でないと、生き残れないよー」


 真の確認に、純子は笑顔でそう答えた。


「ま、私がそうするように仕向けたんだけどねー」

「仕向けた?」

「今回、プレイヤーにネット閲覧も許可して、会場内に仕掛けられているカメラが映して流す映像も、チェックできるようにって要求したのは、私なんだ。この要求をすれば、こういう広い場所でゲームの舞台に選び、カメラの数も少なくしようとすると、わかっていたからねえ。で、向こうはカメラの無い場所では、不正がし放題になる、と」


 純子に説明され、真は純子の企みが大体読めた。


「不正をするよう誘導して、逆にその証拠を抑えて告発し、ホルマリン漬け大統領の裏通りでの信用を貶めるためか。相変わらずえげつないな」

「ま、向こうだってズルをしなければいいんだしさ。私は確実性を求めた策謀より、どっちに転ぶかわからない不確実な作戦や、相手に委ねるやり方が好きだからねえ」


 ズルさえしなければ問題は起こらないという点に関しては、純子の言うとおりだと真は思うが、ホルマリン漬け大統領という組織の性質を考えた限り、そういった不正を行う可能性は高いと見る。


「これまでのドラム缶蹴りは全て建物の中で行われていた。だが今回は山の中だ。これは何を意味するか、わかるよな?」


 純子達とは離れた所で、鋭一が竜二郎に声をかける。


「一目瞭然でしょう。露骨すぎて呆れちゃいますね。でも他の皆さんはわかってますかー?」


 冴子、卓磨、優、岸夫を見渡し、にやにや笑いながら竜二郎。


「わかんない。馬鹿で悪うござんしたね。東大生、教えて」

 冴子が卓磨に振る。


「えっと……鬼以外の外部の応援を呼び寄せて、カメラの無い所でこっそり殺すとかじゃないか? 屋外だと、カメラの設置されていない死角が多いし」


 ハズレかもしれないと不安になりつつ、卓磨は答える。


「いい線いってますねえ。でも応援を呼ぶくらいなら、最初からその応援を鬼にすればいいだけの話ですよ? カメラの無い所で、こっそりどうこうの部分だけは同意です。そこで何か仕掛けてきそうですね」


 不敵な笑みを浮かべながら、竜二郎は話し続ける。


「だったら、カメラが仕掛けてあるとわかる場所だけにいるようにすればいいのかな?」


 岸夫が発言したが、竜二郎は首を横に振る。


「カメラといっても、リアルタイムで放送されていないカメラに限るわけで、目に見える場所にあるカメラをあてにするのも危険ですよ? それはホルマリン漬け大統領の監視用カメラかもしれませんから」

「うーん、竜二郎さんはよく頭回るなあ」


 感心する岸夫。


「で、俺達はどう立ち回る?」

 鋭一が問う。


「どうもこうもないでしょー。こないだのミーティングで、結局殺して殺しまくるだけだと力説したのは、鋭一君じゃないですか」

「あの時のあれは、半分は本音だが、もう半分は、あの場のグダグダが面倒になったんで、強引にまとめたんだ。それに現地を見てみないとわからない事の方が多いだろう」


 竜二郎の指摘に、鋭一は小さくかぶりを振って言った。


「鋭一さんの言うとおり、始まってみないとわからないことも多いですしぃ、事前に『こうするっ』とガチガチに決めてしまうより、おおまかに話し合いをしてから、後は現地進行でアドリブの方がいいと、私も思います」

 優が意見する。


「このゲームが生放送されるってんなら、俺達もゲーム中にネットに繫げれるから、他の場所の様子もわかるわけか」

「仲間が捕まってもすぐにわかるのね。電話でのやりとりも禁止されてないんだし」


 鋭一と冴子がそれぞれ言う。随分と子側に有利な設定にされていると、全員感じていた。そして一部の者は、それが気がかりであった。


***


 鬼役の殺し屋や始末屋達は、別荘の二階へと集められていた。彼等の指揮を取るのは四股三郎だ。


「ねね、このゲーム一度しか参加したことないんだけど、前回は屋内だったし、子が通信できるルールなんて無かったのに、何で今回はそこが違うの? どっちも鬼側にとっては不利だし、納得できる理由が欲しい」


 ピンク頭に黒ずくめの衣装の派手な女に要求され、四股三郎は苛立ちを覚える。


(そんなもん納得しようがしまいが、こっちの提示されたルールに従って、お前達はゲームするだけだろうが)


 そう思ったものの、それを口にしてヘソを曲げられても困る。今発言した鳥山正美という始末屋は、非常に優秀だが扱い辛い人物だと聞いている。


「こちらも同じ心境です。こちらに不利な条件を雪岡に提示され、飲まざるをえなかったんです」


 仮面の下で憮然とした表情になり、感情を押し殺した声で説明する四股三郎。


「そっか。純子ひどいね、それ。頭にきちゃう。でもこれはある意味ドラマの幕開けじゃない? 不利な条件を課せられていてなお、それを打ち破って勝利するカタルシス。最高に輝ける瞬間だよ。皆頑張ろうねっ」

「おうよ!」

「カバディカバディカバディカバディ」


 正美が弾んだ声をかけるが、約二名以外反応が無い。気合いたっぷりに反応した内の一名は、オンドレイ・マサリクだった。


「皆ノリ悪い。そんなんじゃ勝てるものも勝てなくなるよ? このおじさんとカバディマンはできそうね」

「カバディマン?」


 笑顔で頼もしそうに自分を見上げる正美の言葉を、オンドレイは訝る。


「この人。カバディマン。私と同じくホルマリン漬け大統領のデスゲーム常連なの。結構デキる人だから、注目しておくべき」

「カバディカバディカバディ」


 早口でひたすら同じ言葉を呪文のように呟きながら、カバディマンと紹介された男は、軽く会釈した。中肉中背で、年齢は三十代前後。何故か足を広げて中腰で上体をかがめ、両手も軽く広げて奇妙な構えを取っている。


「まあ、マサリクさんと鳥山さんには期待しているよ」


 気持ち悪そうにカバディマンを一瞥して、四股三郎が言った。


「で、こっちの作戦は? 早くそれを言ってほしい。ていうか、相手は昨日今日で集った集団じゃないんだよね? だったら作戦を練る時間もたっぷりあったはず。なのに私達は今この場で初顔合わせ。これってどうなの? おかしくない? おかしいよね? おかしいと認めるべき」

「仕方ないだろう。人集めだけで精一杯だったんだ」


 早口で文句を言う正美に、四股三郎は面倒臭そうに言い訳する一方で、この女は馬鹿じゃないなとも思う。


「ゲームの仕組みは理解しているが、交戦も有りだというなら、殺してしまった方が手っ取り早い」


 オンドレイが脳筋丸出しの主張をする。


「いや、戦力的にはこちらの方が厳しい。できるだけ戦いは避け、ゲームのルールに則って奴等をハメた方がいい」

「そうか。気に食わんが、まあ善処してやろう」


 四股三郎に言われ、仕方なく承諾してみせるオンドレイだったが、その言いつけを守る気はさらさら無かった。


「おっと……開始時間も迫っている。時間内に役割などの割り当てを決めるから、できる限りそれに従ってくれ」


 少し慌て気味に言う四股三郎に、心許ない空気が漂っていた。


***


『それではドラム缶蹴りを開始します!』


 山の中の至る場所に仕掛けられたスピーカーから、開始の合図が流れた。


「ちょっと遅れたなあ。今丁度始まった所か」


 山の中の細い道を歩きながら、開始の合図を聴く犬飼。


 生中継の様子をディスプレイで見る。カメラは視聴者側で切り替えられる。他の視聴者のコメントも出るので、プレイヤーがどのカメラに映っているかなども、コメント情報で察せられる。


「まだ始まったばかりで、目立った動きは無い、か。取りあえず俺は……ホルマリン漬け大統領の奴等がいる場所へ行くかな」


 ディスプレイを広げたまま歩き、犬飼は呟いた。

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