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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
26 殺人倶楽部を潰して遊ぼう
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18

 翌日、純子より襲撃解除令が出されたうえで、殺人倶楽部会員の面々は以前集った場所に再び集められた。


「減ったといえば減ったけど、思ったより残っているな」


 鋭一が周囲を見渡して、他にも聞こえる声で言う。


「鋭一さん、同胞の気遣いしているのですね」

「そういうわけじゃない。見当違いなこと言うな」


 優に声をかけられ、鋭一は顔をしかめた。


「皆さんは僕が送った、ドラム缶蹴りの映像見ましたかー?」


 自分達のグループ以外の会員達に、竜二郎が声をかける。


「見た。酷いゲームだ」

「中々エグいわ。時間が来て、部屋の中に捕まった奴等が毒ガスで死ぬ所とかさ」

「鬼も逃げ遅れて扉閉まって出られなくて、子と一緒に死んでたのもいたよな」

「うんうん、子側が仲間を助けられないとなって、集団で入り口塞いで、中の鬼も出られなくして殺してるのとかあったよね。あれは凄かった」


 各々感想を口にする会員達。自分達もそのひどいゲームに臨もうというのに、恐怖している者はいないように見受けられる。殺人倶楽部での活動歴が長い者や、ここ数日の殺人倶楽部狩りを生き残った者達なので、腹は据わっているようだ。

 引きこもっていただけの者や臆病な者もいるだろうが、他のメンバーがわりと余裕そうなので、安心できる空気が作られている。恐怖が伝播するように、安心感も伝播する。


「えっと、それで僕達殺人倶楽部会員全員がこのゲームに臨むわけですが、映像を見てプレイスタイルをシミュレートした方はいますかー?」


 竜二郎に問われ、困ったような顔をした者が数名。軽く挙手した者がその倍ほど。特に反応無い者がさらにその倍以上いた。


「自分の命がかかっているにも関わらず、何も考えていない奴が結構な数いるようで、驚きだ。この手の手合いが足を引っ張ってくれないことを祈る」


 鋭一が不快感を露わにして言い放つ。何人かはむっとした顔になるが、反論する者はいない。


「何か面白い台詞だね。この手の手合いが足を引っ張るって」

「狙ったわけじゃなく、たまたまだし、別に面白くも無い」


 卓磨が微笑みながら言うが、鋭一は腕組みしてむっつりしたままだ。


 その後、何名かが作戦の提案し、あーでもないこーでもないと議論しているところに純子と真が現れる。


「遅れてすまんこ。私と真君も参加するからねー」

「純子さんも?」


 意外そうな声をあげる優。他の会員達も驚いた顔で純子を見ている。


「オーナーだからっていって、ずっと安全圏にいるだけってのもどうかと思うしさー。私も皆と同じ条件で戦うよー。力になる自信もあるし」

「おー、流石は純子だ」

「凄いなー、憧れちゃうなー」

「純子さんステキー。抱かれてもイー」

「我等のオーナーは一味違うなあ。糞ったれの政治屋共に、雪岡さんの爪の垢を腹が破れるほど大量に飲ませたい」

「いや、オーナーは安全圏でふんぞり返っていた方がいいだろ……。何をはしゃいでるんだ」


 感心する会員達だが、鋭一は呆れて否定した。


「純子が死んだら殺人倶楽部はそれでおしまいなんだから。絶対的に死守しないといけないし、守らなくちゃならない分、負担が増えるって話じゃないか?」

「大丈夫。ここにいる真君が、ちゃんと私のこと守ってくれるからさー。ねー、真君」


 笑顔で真に振る純子だが、真は無言でそっぽを向く。


「ま、オーナーの意向だから僕達は従うしかありませんよ、鋭一君」

「ハンデつくみたいな形で、余計な役割上乗せにならなければいいさ」


 にやにや笑いながら言う竜二郎に、鋭一は眼鏡に手をかけて静かに言い放つ。


「私はむしろ心強いと思います。作戦指揮くらいはしてくれるんでしょう?」

「指揮するかどうかはおいといて、一緒に考えはするよー?」


 会員の一人の問いに、純子が答えた。


「引き続き、ゲーム中どのように動くか、考えてきた人達に案を喋ってもらいましょーかー」


 完全に仕切り役になっている竜二郎が促す。どこに行っても勝手に仕切り出す竜二郎なら、仕切るのにも慣れているし、彼とは付き合いの長い鋭一視点では、安心して任せられる。


「さっきも言ったが、全員で固まっておくのがいいと思う」


 三十代と思われる男性会員が提案する。


「で、缶のある部屋近くに皆で待機して、鬼が来たら一斉攻撃するんだ」

「それってつまり、もうゲームどうこう無視して、ただの殺し合いだけに徹底するってことだよね」

「あ、そのやり方俺も考えてた奴だ」

「いや、それはルールで駄目になってたよ」

「いい案よっ。ベリーいい案っ」

「うまくいくかねえ。それが出来ないような仕組みにするんじゃないかな」


 会員の提案に、賛否の声があがる。


「ゲームとして破綻するやり方だし、それはルール上、できないようになってるよ。詳しいゲーム説明の部分は見てないのかな?」


 純子にそう言われ、提案した者も賛同した者も肩を落とす。


「具体的に言うと、一定数以上の人数で長時間近距離に密集は禁止っていうルールね。何人かで組むのはともかく、全員ひとまとめはアウト。それと、ずーっと同じ場所にだけ隠れ続けているのもアウトで、しばらくしたら動かないといけないの」

「それはどうやって、ゲームを取り仕切るホルマリン漬け大統領側にわかる仕組みなんだ?」


 会員の一人が純子に尋ねた。同様の疑問を抱いた者も何名かいた。


「ホルマリン漬け大統領主催のデスゲームでは、皆ブレスレット装着していましたよねー。あれじゃないですか?」


 竜二郎が言う。実はもっと詳しく、ブレスレットの仕組みを彼は知っている。


「うん。子も鬼も、プレイヤー情報を登録したブレスレットを装着するから、ズルしてもわかるんだよー」

 と、純子。


「さらに具体的に言うと、ブレスレットは、鬼に見つかった時と、鬼に見つかってからドラム缶の上に乗られた時に、音を出す。ドラム缶の上に乗られてブレスレットの報せを受けたら、戦闘行為も辞めて、速やかにドラム缶の部屋に向かうという流れだ」


 そう説明したのは鋭一だった。事前にドラム缶蹴りの内容は調べてきてあるし、映像も複数見てきている。


「ルール説明、ここで改めてした方がよさそうですね。予習もしていない人がわりといるようですもの」


 竜二郎が珍しく、少し嫌味を混ぜて言った。鋭一も口にしていたが、自分の生死がかかっているにも関わらず、ろくに予習もしていない者が多いことに、心底呆れている。


(そういう奴等から先に死んで欲しいというのが正直な所だ)


 鋭一が思ったが、それは流石に口に出さないでおく。


「そうだねえ、じゃあここで改めて説明するよー。ただし、本番ではホルマリン漬け大統領が、少しルールを変えてくるかもだけどねえ」


 そう前置きしてから、純子がゲームの説明をしだす。竜二郎や優達はすでに知っている情報ばかりであったが、初めて知る部分もあった。


「鬼側は皆タブレットを持っていて、視認した相手にタブレットを向けることで、ブレスレットから電波を受信し、視認した相手の名前がタブレットに登録される。タブレットに名前が登録された状態で、缶のある部屋に行き、缶の上に乗って、タブレットに登録された名前を声に出して叫べば、拘束っていう流れだよ。拘束する前に缶を倒せば、拘束登録も抹消されて拘束不可能になるし、拘束した後に缶を倒せば、解放されるよ」

「そのブレスレットはやっぱり爆発とかするの?」

「爆発はしないけど、ルールに従わないプレイヤーに電流を流して気絶させる機能があるよ」


 冴子が質問し、純子が答える。


「その辺はサイトにも書かれていませんでしたねー。参加者だけに説明されることですか」

 と、竜二郎。


「うん。私は昔、このゲームに参加したことあるからねえ。真君も経験者」

「あるのかっ」

「それは心強い。足手まといになんかならないじゃない」

「でもルール変えてくるかもしれないって」

「それでも経験者がいるのは頼もしいだろう」

「純子は鬼だったの? それとも子?」


 純子の参加したことある発言に、またやいのやいのと発言しだす会員達。


「子だよ。もちろん勝ったけど。でも毎回場所も違うし、他の動画見た限りではプレイヤーの戦術も異なるようだし、必勝法なんてのは無いよ? もちろん事前にシミュレーションしておくのは大事だけど」


 会員の問いに、純子が答える。


「開催まで猶予があるし、こうやって事前に対策を練る事ができるだけでも、恵まれている。通常、この手のデスゲームは、現地で知らない者同士で組まされて、犠牲者を出しまくりながら、模索していくからな」


 と、それまで黙っていた真が口を開く。


「でも今回は、ホルマリン漬け大統領そのものと殺人倶楽部の戦いという構図だから、鬼側も鬼側で対策を立ててくるだろうし、何よりもルールやら場所やらを、若干向こうの有利な形にしてくるのは間違いないんだよねえ。視聴者の目もあるから、あまりにも露骨に鬼有利にはしないだろうけど」


 純子からしてみると、現時点ではホルマリン漬け大統領がどのような手をうってくるか、一つしか予想がついていない。しかし一つだけは想定済みだ。何しろその一つを彼等が行うように、純子が誘導したのだから。


 その後、様々な案が会員から出されるが、意見は中々まとまりを見せない。

 一つだけ決定したのは、現時点で分かれている幾つかのグループ単位での行動が、望ましいということくらいだ。


「グループ単位で行動していたら、一網打尽にされちゃいそうじゃない?」

「しかしばらばらに行動していたら、それこそ危険だろう」

「連絡取り合えるなら、見つかった際に一斉に助けに行くことができるだろうけどさ」

「連絡は取っていいんだろ。電話は禁止されていないし、ネットにも繋げられる」

「一斉に助けに行って、そこでまた一網打尽とかもありうるし、もう何が正解なのかわからないな」

「鬼を積極的に殺していくのが正解に決まってる」


 あれこれ意見を出す会員達に、鋭一がつまらなさそうに断言した。


「鬼はルールに則って缶を踏みに行く。それだけで俺達を殺す事もできる。しかし俺達は交戦しない限りは奴等を殺せない。缶蹴りは子が鬼に見つからないようにするものだが、このドラム缶蹴りは、子が鬼を殺すこともできる。だったら俺達を探す鬼を俺達も見つけにいって、先に鬼を殺す。これが最も有効な立ち振る舞いだ」

「敵もそれを見越しているとは思うけどね。そのうえで対処もしてくると思うよー」

「だとしても、それ以外に……いや、それ以上に有効な動き方など無いだろう」

「まあそうだけどねえ」


 純子の突っ込みに、鋭一が反論し、純子もそれを認めた。


***


 ホルマリン漬け大統領サイドも、ドラム缶蹴りに向けてあれこれ相談を行っていた。


「オンドレイが帰ってきましたよ。奴ももちろんドラム缶蹴りに鬼役として参加ですよね?」

「ああ。それに加えて、始末屋や殺し屋を補充している」


 四股三郎の確認に、香が頷く。


「バトルクリーチャーも放ちましょう。もちろん、子だけを襲うようにプログラムして」

「そこまでやったら公平性に欠けて、うちらが白い目で見られてしまうぞ」

「雪岡純子と殺人人形も参加するのですよ? そのうえプレイヤーはネットを閲覧して、仕掛けられたカメラの映像もリアルタイムで見ることができる。その釣り合いを取るためです」

「うーん……」

「せっかくカメラの隙が増えたんだ。存分に活用しましょうよ」


 子もカメラでゲーム会場の様子をチェックできるという優位性に対し、香はカメラでカバーしきれないほど、広い場所でゲームをする条件をこじつけた。これはゲームがプレイヤーに有利になりすぎないため――という名目であるが、カメラでカバーしきれない場所が増えれば、不正も働きやすい。

 そもそもこのゲームは、ホルマリン漬け大統領のメンツのために行われている。今回に限って生放送するのは、互いの不正防止のニュアンスもある。


(なのに不正を行うのは、危険すぎやしないか? バレた時のリスクは……。いや、しかし敗北するのはもっと駄目だ)


「映像に映らない場所にこっそりトラップも仕掛けて、こちらの任意のタイミングで起動させよう。もちろん子に対してだけです」

「君に任せよう」


 危うげなものを感じつつも、鼻息を荒くする四股三郎に丸投げしてしまう香であった。

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