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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
26 殺人倶楽部を潰して遊ぼう
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6

 暁邸。今日は光次の起きている時間が長く、その間、優はずっと父と同じ部屋にいた。

 特に会話をすることもなく、光次は読書を行い、優はネットで殺人倶楽部とホルマリン漬け大統領関連の情報をチェックする。

 例え会話が無かろうと、起きている父の側にいるという事は、優にとって貴重な時間だ。


 夕方頃になって、犬飼から電話がかかってきた。


『ちょっとそっち行っていい? 殺人倶楽部の件で話がある。ああ、事態はもちろん把握しているし、主にそのことでだ』

「はい、お待ちしています」


 電話を切って、優は光次の方を向く。


「犬飼さん、来るって」

「そ、そうか……頻繁に足を運んでもらって、すまないな。そのうえで、私の代わりにお前の面倒もよく見てもらって」

「ええ、お悩み相談とかもいろいろしました」

「私がこんな……異世界転移ばかりしているから……ううう……」


 嘆く光次を見て、こっそりと嘆息する優。


(せっかく今日はいい気分でしたのにぃ……)


 父の、妄想と現実のつかない話は、正直あまり聞きたくない優である。仕方なく合わせてやっているが、その話が出る度に、不快感を覚えている。


***


 壺丘のアパートに、密かなる反殺人倶楽部連盟がその日も集結する。正義、真、そしてライスズメの三名だ。


「今日、殺人倶楽部の会員が一斉に襲われた。時間帯はまちまちだが、今日という日を襲撃日に指定したのは間違いない」


 まず話を切り出したのは真であった。


「俺も襲われた。パン党のふぬけにな。もちろん返り討ちだ」


 腕組みしてむっつり顔で言い放つライスズメ。


「ホルマリン漬け大統領って、そんなに凄い組織なのか」


 正義が言う。殺人倶楽部の会員の動きまで把握したうえで、一斉に殺し屋を差し向けるなど、相当な力を持った組織なのではないかと思えた。しかも警察でさえ手が出せない組織に、堂々と力で挑んでいるのが凄いと感じてしまう。


「この組織は金と権力が有るだけだ。自前の兵士を扱っているのではなく、いつも外部の者を雇っている。今回は大規模な募集を行って、海外からも多くの兵を呼び寄せたようだ」


 真が内情をより詳しく解説する。


「殺人倶楽部の組織そのものは潰すつもりでいたが、こんな展開はやきりどうかと思うな。暴力に対しての暴力とは……。それに私は、殺人倶楽部の者が全て許されざる悪だとも思っていない」


 少なくともここに訪れた六人組は、淀んだ雰囲気を感じなかった壺丘である。多少怪しい者もいたが。


「卓磨達は全員無事みたいだ。彼等も襲われて、卓磨は結構大怪我したらしいけど」


 先程電話で確認した正義が報告する。


「あいつらは――というか、あの中の一人は、どうも特別みたいだ」

 真が言う。


「特別?」

 壺丘がその言葉の意味を問う。


「雪岡のお気に入りというか、特別目をかけているのが一人いる。殺人倶楽部なんて遊びを始めたのも、そいつが発端らしい。そいつから直接聞いた」


 真のその話に、壺丘はおおいに興味をそそられた。ひょっとしたら殺人倶楽部の謎を紐解く因子ではないかと。


「何者だ? その人物と会って詳しい話を聞くことができたら、ひょっとしたらだが……これは私の勘だが、突破口になるかもしれん」


 あくまでジャーナリストとしての勘にすぎない。しかしその人物が重要な鍵である事は確かだと感じる。


「それを僕の口から、本人の許可無しには言いづらい。僕も詳しくは聞いていないし。だから、当人に今から確認してみる。いや、頼んでみる。壺丘に話をしてほしいと」


 そう断って真は携帯電話を取り出すと、優に電話をかけた。


***


「いつもいつもすまないねえ、犬飼君」


 暁邸に訪れた犬飼に、光次が本当にすまなさそうに言う。


「それは言わない約束でしょう、光次っつぁんと。まあ、優目当てで光次さんのことはどうでもいいんだが」

「私の代わりに父親代わりしてくれているようなものだからな。本当に申し訳ない」

「授業参観だけはもう行きたくないのが本音だ」


 渋面になって犬飼が言った。優にはその感覚がよくわからないが、物凄く居心地悪そうにしていた犬飼のことは、今でもよく覚えている。しかし犬飼の心情はともかく、父に代わって来てくれた事はとても嬉しかった。


「うちの高校は授業参観してないから、大丈夫ですよう」

「でも保護者会はあるだろうがよ。中学になってから授業参観に来る親の数減ってたなー。つーか世にはモンペア多いわりに、保護者会に来る親は少ないから笑っちまうよ。中学、高校と上がっていくごとに出席者少なくなってるな。こないだ行ったら三人しか来てなかったぞ。しかも来ている二人は兼業主婦で、わざわざ仕事休んで来ていたわ。まあ保護者会自体がどーしょーもないもんだし、来たくない気持ちもわかるけどな」


 優が小学六年から高一の現在に至るまで、保護者会にもちゃんと出席していた犬飼であった。


「す、すまない……。私がこんな風だから、犬飼君にとんだ負担を……ううう……」


 ただひたすら謝るだけの光次に、優は軽い苛立ちを覚える。


「最近光次さん、起きていることが多いんだって?」


 犬飼が光次の方を向いて声をかける。


「うん。優が外出している際には、精神だけ異世界転移しているけどね。不思議と、優が帰ってきた時に意識が戻ってくるんだ」


 妄想と現実の混ざり合った話を人前で平然と口にする光次であるが、しかし今のこの話に限っては、妄想ではない。全て現実だ。現実になるように、優と犬飼の二人で仕向けたのだから。


「それはよかった。少しでもこっちにいる時間を長くして、優と接する時間を増やせば、光次さんの病気もマシになるさ」


 堂々と本人の前で病気と口にする犬飼に、優は思わず吹きだしかける。


 その時、優の携帯電話がなる。かけてきたのは意外な相手だった。真である。


『今、壺丘の所にいる。僕が知っている限りの真相を明かしてもいいか? 殺人倶楽部発足にお前が深く関わっている事とか』

「それならいっそ、私の口から全部話しますよう。真君が知らないこともいっぱいあるでしょうし、その方がいいでしょう?」


(相手は真か。そして……殺人倶楽部の真相を暴露する気か)


 真君という言葉に反応し、優がどうするつもりか察する犬飼。


『いいのか?』

「はい。ええっとぉ……明後日に六人で行きます。壺丘さんだけではなく、皆にも話したいこともありますから」

『わかった。頼む』


 電話を切る。


「バラす気かい?」

 にやにや笑いながら犬飼が優に尋ねる。


「そろそろ頃合ですよう」

「機を見る目はちゃんと養ったようだな」

「犬飼さんのおかげです」


 小さく微笑む優。


「二人共何の話をしているのか……気になるけど突っこめない。何か疎外感が凄い」

「父さん、心の声を口に出してますよう」


 寂しそうに呟く光次に、優が突っこんだ。


***


 アジトに戻り、竜二郎によって傷を治してもらった卓磨に、正義から電話がかかってきた。


『暁優って子が、殺人倶楽部にまつわる何か重要なことを知っているらしい。で、それをお前の仲間も含めて全員に話すってことで、明後日、この間みたいにうちらとお前のグループ全員で合流するってさ』

「優が……?」


 怪訝な声をあげる卓磨。


 確かに優は謎が多い。明らかに普通の会員と違う部分も見受けられる。しかし彼女は誰より仲間想いでもあるため、少なくとも卓磨は優に不信感を抱くようなことはなかった。


『たった今、優って子が決めたみたいだ。そっちにはこちらから話入れるってことで、電話させてもらった』

「そうか……わざわざありがとう。何だろうな、重要なことって……」

『壺丘さんは、それが殺人倶楽部の根幹じゃないかって見てるけど、果たしてどうだろうな』


(殺人倶楽部の根幹?)


 正義のその言葉が、卓磨は非常に気になった。


 卓磨は電話を切り、竜二郎、鋭一、冴子に今かかってきた内容を話す。


「優が直接私達にその連絡を入れず、向こう任せなのは、私達には喋りにくいからなのかな?」

 冴子が難しい顔になる。


「直接告げると根掘り葉掘り聞かれそうという部分もあるでしょうし、まあ喋りにくい話だということを、遠まわしに訴えているようなもんですねー」

 と、竜二郎。


「彼女にはいろいろ謎がありましたからね。純子さんとも殺人倶楽部設立以前の知り合いのようですし」

「いいや、殺人倶楽部設立前後くらいの時に、純子と知り合ったみたいよ。優が言うには、あの子が会員一号らしいの。私はかなり経ってから優の紹介で会員になったけどね」

「あいつが会員一号……か。道理で――と言いたい所だが、何も道理でじゃないな。だからといって、あの会員レベルは無い」


 竜二郎、冴子、鋭一がそれぞれ言う。優が会員レベル255である事は、皆昔から知っている。


「正直興味はある。確かに最初から優はいろいろおかしかった。レベルも255で、能力も飛びぬけて強力で、気になる発言も節々であった。興味はあっても仲間だから、聞かないでいただけだ。自分から言い出さないということは、あまり語りたくない理由があるんだろうし」


 窓際で夕陽を眺めながら口にした鋭一の言葉に、他の三人も大体同じような心情であった。

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