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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
22 魔法少女と遊ぼう
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30

 来夢の二重重力回転攻撃からようやく解放された魔法少女は、側にあった休憩室にあがり、畳の上で横向きに寝転び、回復に努めていた。


 休憩室の中にあった食料は全てたいらげ、深い睡眠に入る。

 寝る前に自分自身に『魔法』もかけてある。早く治りますようにと。


 睡眠時間はすぐに終わった。わずか二十分程度の睡眠。

 それで全快したかと言えばそうではないが、それでも大分回復できた。問題無く戦える。


「何で戦わなくちゃいけないのよ……」


 戦うことを意識してから、ふと疑問を抱き、悲しげに響きの声を漏らす。


「何で私、こんなに皆に嫌われてるの? まるで私のこと化け物扱いだし。何で? 拒まれ、憎まれ、私は何なの? 私は魔法少女として、皆の願いをかなえて、皆を幸せにしたいだけなのにっ!」


 涙ぐんだ声で喚くも、涙は出ない。そもそも目が無い。


 アイデンティティーの問いかけは、実の所、自分で答えを知っている。知っているからこそなお苦しい。自分はこれからも、願望をかなえるために生きるしかない。そのためには食い続けるしかない。最初に食った者達は皆、人の願いをかなえる魔法少女を造りたいという強烈な願望があった。だから今は、その願望に沿って生きるだけだ。


「私は一人じゃない。私の中に何人もいる。これからも増える。でも私そのものは一人。私を理解してくれる人は、何処にもいない。私を拒み、憎み、嘲り、傷つけようとする」


 世の中はこんなものじゃないことを知っている。普通の人々はこんなものじゃないことも知っている。マッドサイエンティスト達を吸収したおかげで、人並み以上に知識も見識もある。だからこそわかる。自分は孤独であり、誰ともわかりあえないと。


「あれ……?」


 身を起こし、ふと部屋の中にあった鏡に映る自分を見る。


「あははは、確かに怪物だ。出来損ないだ。私、こんな姿してたんだ」


 鏡を見ながらマッドサイエンティスト達の記憶を掘り起こし、彼等の平均的な理想像へと己を変形させる。

 肉が足元に溶け落ち、内臓と骨が縮み、縮んで余った分が液状化して溶けた肉と共に体外へと排出される。縮んで余った皮は服へと変質する。


「これでいいかなあ……」


 体が大分縮み、身長は150センチ程になった。見た目はどう見ても人間の少女と変わらない。くりくりとした大きな目と、少し間のぬけた感じのある緩んだ口元をした、小作りで愛らしい顔立ちの美少女がそこにいた。


 皮を変質させて着色もした衣装は、全体的に白を基調としている。淡いピンクも多少入っているが、大部分は白だ。中折れトンガリ帽子も真っ白で、帽子に装飾のようにあしらわれた二つの小さな髑髏は、淡い紫の水晶で出来ているように見える。


「姿を変えても、またきっと中味は化け物だーとか言われるんだろうね。ははは……」


 力なく、寂しげに笑う魔法少女。


(そもそもこの場所にこだわる必要も無いか。ここにはどういうわけか、私の邪魔をする人ばかりだし、何か皆強いし……)


 魔法少女はここがどういう場所かも、取り込んだ技術者達の知識で知っている。外の世界のことも知っている。


「よしっ、外の世界に出よう! きっと私を受け入れてくれる人だって、いっぱいいるはずっ」


 希望に満ちた明るい笑顔と共に杖を振り、魔法少女は休憩室の窓と壁を破壊する。


 宙を舞い、軽やかに飛翔して、壁に開いた穴から外へと飛び出そうとしたが――


「痛っ!」


 見えない壁に勢いよく頭をぶつけ、魔法少女は頭をぶつけて外を見た。


「何これ? 壁が建物を覆ってる?」


 かなり強力な超常の力によって、空間が外界と断絶されている事をすぐに理解する魔法少女。


「でーい……って、やっぱり駄目か~」


 目玉が多数ついた杖を振り、破壊を試みるも、びくともしない。

 何とかこの壁を破壊することはできないものかと、建物全体に意識の根を這わせる。それが彼女の命運を分ける事になるとも知らず。


 強力な感知能力により、建物を覆う結界が、複数の力場によって形成されている事を即座に見抜く。


「つまりぃ、力の源を破壊すればいいわけだ~」


 にっこりと笑い、魔法少女は今後の方針を定めた。


***


「気付かれましたわ。しかもこれは……」


 感知のための意識の根が放たれた事を察知し、百合が立ち止まって独りごちる。

 百合と睦月は葉山に案内され、先程の戦闘場所へと向かっている最中であった。


「こんなに広範囲に瞬間的に意識の根を広げてサーチするなんて、雫野の妖術師でも不可能でしょうに」


 この刹那研究所の隅々まで、一瞬にして探知したようなものだ。何者の仕業かは歴然としている。その力には驚きを禁じえない。いや、まだまだ力の底が知れない。


「どうしたの?」

「結界の支柱の場所が魔法少女にバレましたわ」


 尋ねる睦月に、百合が壁に手をついて答える。まだ疲労は大して回復していないが、それでも先程までのひどい状態よりはましになった。ごくごく短い間ではあるが、待機していた部屋で仮眠をとったおかげだ。


「ようするにあの魔法少女は、外に出たがっているということでしてよ」


 百合の台詞に、睦月は苦笑いを浮かべる。あんなものが世の中に出て行ったらどうなるかと考えると、笑えなさすぎて笑ってしまう。


「蝿だって閉じ込められるのを嫌います。当然ですよ」


 葉山が言ったが、当然二人共無視する。


「でもまあ外に出せば、俺達はあれの脅威からも解放されるよねえ。あはっ」


 外の世界は無茶苦茶になるだろうが、そうなればしかるべき機関が対処するであろうし、いくらあの魔法少女が強力無比であろうと、人類全てを敵に回して勝てるとも思えない。逆を言えば、人類全てを敵に回すスケールの存在とも言えるが。


「その気はございませんことよ。私にこれだけの暴虐を働いてくれたのですもの。私の手で絶望を与えてあげなければ、気がすみませんわ」


 嘯く百合であるが、しかしそのためには、どうしてもやらなくてはならない事がある。


「純子達に会いに行きましょう」


 百合の言葉に、睦月は驚いた。そして同時に納得もできた。この状況でその言葉が意味することがわからないはずもなく、そしてこの状況ではそれしか有り得ないとも思う。


「あはぁ、プライド高い百合がそこまでするとか、よほど腹に据えかねたんだねえ」

「純子にも憎悪はひとしおですが、これは質が違いますわ」


 睦月に茶化されて、百合はムキになったような声と表情で言う。


「害虫退治のようなものでしてよ。ただ私の視界を汚しただけではなく、私に噛み付いた害虫を生かしておけるはずがありませんわ」

「ここです」


 葉山が足を止める。


 廊下の壁と天井一面が焦げている。そして床や壁のあちこちがへこんで、ヒビが入っている。超常の力を用いての激しい戦闘があったのは明白だ。

 廊下の真ん中に、焼けた塩の塊が堕ちているのを発見する。サイズからして、何者かが魔法少女の光線を食らって、体が丸ごと塩へと変えられたのであろうと、百合と睦月は察した。


「獅子妻ですわね」


 すでに霊は冥界へと飛び去っていたが、残留思念で百合はそれを察した。


「葉山。貴方は巡回しつつ、魔法少女と遭遇したら戦いなさい。次は逃げることは許しませんよ。死ぬ気で最期まで交戦なさい。もし私の命に反して逃げたら、死んだ方がマシと思える処罰が待っていると覚悟しておきなさいな」

「はい。うねうねうね、蛆虫パトロール、出動~」


 恫喝気味に命じる百合であったが、葉山は全く意に介していないようで、いつものノリと雰囲気で、百合と睦月が来た方向へと一人引き返していく。


「葉山一人で大丈夫? ていうかまた逃げるんじゃない?」


 百合の脅しなどどこ吹く風という葉山を見て、睦月は百合の指示に疑問を抱いた。


「葉山はある意味ジョーカーですわ。暫定的に共闘を持ちかけると言っても、純子達が私達の敵であることには変わりありませんのよ? そのため、葉山はあえて今この場では純子達とは引き合わせず、別行動をとってもらった方がよろしくてよ」

「保険てことかあ。でももう向こうは葉山の存在を知っているけどねえ」

「知らない方がベターでしたが、知られていても問題はありませんわ。遊軍として動く者を一人確保しておくことでは大事でしてよ」

「保険としての遊軍に、葉山はミスキャストな気もするけどねえ」


 百合の説明を受けてもなお、睦月は百合の方針がいまいち理解できなかった。

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