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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
3 呪術流派一門を遊ぼう
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20

「あの世に逝ってしまった霊魂はわからないけれど、視覚に捉える事ができる幽霊の類は、れっきとした物理現象だし、ある程度は現在の科学でも説明がつくんだよー」


 いつだったか、真は純子からそんな話を聞いた。いつものように、純子に楯突く者達を葬り、負傷の手当てを受けながら。


「人間の感情も脳内での電気信号のやりとりだし、電磁波も微量ながら生じるの。殺気とか特に強く感じるから、他の生き物でもそれを感じ取れるよね? んでー、地縛霊とか怨霊とかは、生前の人間の感情の残留凝縮物みたいなもんだから、強めの電磁波が生じているんだよねー。悪意を持つ人の気配に背筋や首筋がぞっとする事があるのは、悪意による電磁波に過敏に反応するからで、霊の気配にぞっとするのも、それと同じ原理なんだー」

「それはいいとして、どこ見て喋ってるんだ」


 下着姿の真の太ももに包帯を巻きながら、真の股間に向かって話す純子。それを見て、心なしか呆れたような声を発する真。


「プラズマによる磁場が脳に幻覚作用をもたらして、霊を見せているって説も昔にあったけれど、これもあながち間違ってないというか、残留思念体が指向性を伴って視覚的に己の想いの姿を見せているんだよー」

「つまり霊は電気の塊か?」

「んー……」


 真の問いに思案顔で唸り、少し間を置いてから答える。


「厳密には違うけれど、そう考えてもいいかなー。それにプラスアルファで、まだ謎の多い冥界のシステムやら魂なんかも絡んでくるんだけれど、とりあえずわかっていることは、霊が人間に影響を与える際は、物理現象を伴うってことだよ。憑依ってのは、脳に強い影響を与えることで、精神崩壊させちゃったり病気にしちゃったりするの。電磁波によって幻覚を見せたりとかね。つまり、ドリームバンドのシステムと霊による憑依が、同じ原理であるという驚きの事実なわけー」


 ドリームバンドとは、頭につけると電磁波で脳に影響を及ぼし、本物さながらのヴァーチャル世界にトリップさせる装置のことで、一般的にはゲーム機に用いられている。

 電磁波を強くするとトリップの度合いが強くなり、現実と仮想世界の区別もつかなくなるため、拷問等に利用されたりもする。また精神病患者の治療などにも、極めて有効とされている。


「その理屈はわかるが、これはどう説明するんだ?」


 と、真は傍らに置いてあった壊れた銃を手に取り、相変わらず股間に向かって会話を続ける純子の前に見せた。


「妖術師の放った霊に壊されたんだけれどね。霊が物理的な力を伴う存在だってのは、これでわかったけれど、無生物も破壊できる理屈は?」

「んー、憑依は無生物にも可能だってことだね。壁に顔が浮かび上がったり、人形に憑いて髪が伸びたり家人を呪っちゃったりとか、そういうのね。つまりこのケースの場合、銃に憑いて、霊の自壊の念が瞬間的に荷電粒子を加速させて、破壊を促したんじゃないかな」

「荷電粒子ってのが何なのかわからない」


 真の言葉に純子は一瞬言葉に詰まる。


「一応、可能ではあるのよねー。いろいろ実験もしてちゃんと実証もしたしさー。私なりの利用法もいくつか見つけたよー」

「利用法?」

「術師の中でも、外法屋と言われて悪者扱いされてた人達は、古来より霊の力を研究して、それを利用することで摩訶不思議な超常現象を引き起こしてきたんだよ。もちろん力の源が、霊ではない流派もあるだろうけれどさー。それらのデータから、霊を利用して超常の力を持たない人に力を付与したり、生きている人を人工的に生霊状態にして呪いや加護の力を発揮させたりとか、ある程度成功してるんだー」

「ぞっとする話だな」


 真がぽつりと呟く。この時代においては、死後の世界の存在が科学的に実証されており、全世界で認知されている。それがどういうものであるか不明点は多いままだが、少なくとも死んで無になるという事だけは無いらしい。

 それを知ったうえで、霊となって死後の世界へ旅立てる事も許されず、生者に利用されるという話が、ひどく恐ろしく、邪悪な印象を受けたのだ。


「でも彼等にとっては生きる術がそれしかなかったんだよねー。過酷な時代だったし、生き残るためにはどうしても力が必要だったわけだからさー」

「雪岡の場合はただの知的好奇心だけだろ」

「あははは、そりゃあもう、自他共に認めるマッドサイエンティストだしー、研究欲を抑える事なんてできないよー。まあ、つまるところ、相手が超常の力を駆使しようと、こっちからは攻撃スカスカな幽霊だろうと、必要以上に怖がる事は無いってことだよー。大抵の人間は、肉体機能がある程度破壊されれば、それで死に至るわけだからさ。幽霊が相手でも、同様に物理法則に則って対処する方法はいくらでもあるんだからねー」


 この時の会話は、相手が妖術師でひどく苦戦して、それを純子に愚痴った事から始まったと記憶している。

 超常現象を引き起こす能力を備えた者達を、不公平であるとして忌避する者は多いし、真も目の当たりにしてその気持ちはわかった。しかし純子は単純に、人として備えた技能の一つに過ぎず、必ずしも常人に太刀打ちできないものでは無いと、真に諭したのだ。


***


「真君の方は頑張ってるみたいだねー。星炭の呪術師の大半が、あっちに向かってるみたい」


 ディスプレイを覗き込みながら、純子が気楽な口調で言う。


「心配してないの? というか、どうしてわかるの?」

「心配しなくても真君は強いもーん。どうしてわかるかは、ひいきにしている情報組織にいろいろ教えてもらってるからだよー」


 訊ねる美穂に、純子はいつもの屈託の無い笑顔で答える。


「その情報組織が敵の本拠地も突き止めてくれたし、乗り込んでやっつけるよ。そうすれば、もう君達は脅かされることなく、平和な日常に戻れるんだから、もうひと踏ん張りだよー」


 平和な日常へ戻る――純子の口から度々発せられるその言葉は、まるで魔法の呪文のように美穂には感じられた。

 純子の言う通りにさえしていれば、信じてさえいれば、この非日常から解き放たれる。それは誓約の言葉だった。何度もその言葉を口にする純子を、美穂も武郎も微塵も疑っていない。


 そんな二人を、國男は複雑な気分で見ていた。表通りに生きる羊は所詮こんなものだろうと諦観してはいるが、これまで共に行動してきた仲としては、放っておき難い気持ちもある。

 國男の目から見て、美穂は非常によく頑張っている。一番年下にも関らずリーダー的なポジションについていて、純子がいない時にはしきりに皆を励まし、うまくまとめて引っ張ろうとしている。三人の中で一番輝いている。年頃の女の子がこんな世界に投げ出されて気丈に振舞っている姿は、痛々しくも見える。

 こいつらを見捨てたくはないところだ――と心の中で呟くものの、自分には任務がある。そちらの方を優先しなくてはならない。だが星炭との戦いだけは最後まで務めるつもりでいた。


「いよいよラストバトルか。そこで死ななければいいけれどな。そろそろ一人くらいこっちも犠牲がでそうだよ。話の流れ的に」

「ちょっと……冗談でもそういうこと言わないでよ」


 抑揚に欠ける声でそう漏らした重光を、美穂が睨みつける。


「死ぬとしたら俺がいいかな……罪滅ぼしも兼ねてさ」


 自嘲めいた笑みを浮かべて武朗。


「またあなたはっ」

「ああ、ごめん……。まだ気持ちの切り替えが上手くできてなくてさ。俺も死なないようにするよ」


 睨みつけてくる美穂に、昨夜の会話を思い出して、武朗は慌てて発言を取り消す。


「全員生きのびて元の平和な日常に戻るために、私も君達と共にこうしているんだからさ。誰一人死ぬことないように頑張ろうっ」


 笑顔で励ます純子に、三人は思い思いの顔で頷いた。

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