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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
20 自分のクローンと遊ぼう
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28

 みどりを先頭にして、美香、十三号、麗魅、十一号の順番に洞窟を歩いていく。

 みどりが先頭なのは当然案内のため。十一号が最後尾なのは、後ろから襲撃があった際に、近接戦闘で迎えうつためだ。麗魅もその勘定に入っている。


 やがて五人は、みどりが口にしていた、怪しい儀式が行われているという広間に辿り着いた。


 広間はかなりのスペースで、中心は加工して平らにされているが、横は手付かずの鍾乳洞のままで、石筍や石柱が多数見受けられる。

 あちこちに怪しい色の炎が焚かれているので、広間そのものは通路よりずっと明るい。鮮やかなオレンジや、緑の炎が、神秘的なイメージを醸し出している。


(ふわぁ~、焚き火に塩や銅が混ぜられているのかな?)

 みどりが思う。


 広間の中心には、頭をフードですっぽり覆ったローブのような灰色の服を着た、腕切り童子と足斬り童子が何十人もうずくまり、祭壇に向かって両手を合わせ、一心不乱に祈りを捧げていた。

 祭壇の前では、豪華な衣装の左京が、同様に祈りを捧げている。祭壇の周囲には四本の柱が立ち、みどりの報告通り、四歳から六歳くらいの男の子二人と女の子二人の計四人が、素っ裸で柱に磔にされていた。


 美香達のいる距離から祭壇までは、かなり距離が離れているうえに、隠れて接近するような遮蔽物も間にない。


「よかったな。まだ生贄は殺されてないぜ」

 と、小声で麗魅。


「ふえぇぇ~、ひでーな、こんな寒い中ですっぽんぽんで磔にされてるよぉ~」


 すでに事前に精神分裂体を飛ばして知っているみどりであったが、美香達も目撃したところで、改めて思ったことを口にするみどりであった。


「年端もいかない子供にあんなことをして、何とも思わないの……。心まで化け物なの?」

「ああ、あの所業だけでも万死に値する」


 怒りを押し殺した声で十一号と美香が言う。


「左京ってのはあいつか? 今なら隙だらけだぞ。さっさと殺っとくか?」


 祭壇の前で瞑目している、いかにも偉そうな格好の法衣を纏った足斬り童子を指して、麗魅が美香に確認を取る。


「できるならそうしたいが、この距離では……」


 美香が唸る。狙撃銃でもあればいいが、拳銃で当てるには、射程距離がいささか離れている。絶対に不可能という距離ではないが、コンセントの効果をもってしても、自分の腕では際どい線だと判断した。

 妖怪達は必死に祈りを捧げているので、こっそりともう少し接近すれば、十分な射程範囲まで行けそうな気がしたので、全員でこっそりと近づく提案をしようとした美香だが――


「問題ねー」


 麗魅が文字通りの目にも止まらぬ速さで銃を抜き、撃った。

 後頭部を撃ち抜かれ、左京が倒れる。


(これが……神速の早撃ち――霞銃か……)


 美香が麗魅の銃捌きを間近で見るのは、初めてであった。抜く所が見えなかったのも驚いたが、そのうえこの距離であっさりと仕留める麗魅の腕にも舌を巻く。


(味方だと心強いが、敵には回したくないものだ……)


 味方であるにも関わらず、麗魅の腕を間近で見て、戦慄を覚えていた美香である。


「悪事の首魁があっさり死亡か。影武者というオチもありそうだが……」


 美香が呟くと同時に、目の前の異様な状況に目を剥く。


「おいおい、どうなってのぉ~? これは?」


 目の前の光景をみどりも不審がり、怪訝な声をあげた。

 銃弾が撃ちこまれ、銃声が広間に響き、指導者である左京が殺されたというのに、腕斬り達も足斬り達も一切反応せず、祈りへと没頭している。磔にされた子供達だけが、意識を取り戻して、死体となった左京の姿を見下ろして驚愕していた。


「薬でトランス状態なのか、それとも偽者だったか……」

 麗魅が銃を構えたまま呟く。


「トランスじゃね? 偽者だとしても銃声や襲撃に反応くらいするよォ~」

 みどりが言った。


「言われてみりゃそうだね。まあいずれにせよ好都合だ。さっさとあの子達を助けてきなよ。あたしはもしもの時に備えて、ここにいて援護する」

「頼む! 幸運の前借!」


 美香が麗魅に向かって言うと、予め運命操作術をかけておいてから、先陣を切って広間に飛び出て、そのまま柱にくくりつけられている子供達の方へと向かう。十一号、みどりもそれに続く。


 妖怪達はその三名にも全く反応せず、祈り続けている。


(異様だな! しかしどんな事情があるか定かではないが、有り難くもある! 油断はできんが!)


 不気味さだけではなく、形容しがたい嫌な予感を覚える美香であった。


***


 意識が戻った真は、ゆっくりと上体を起こした。


「真……大丈夫ですか?」

 身を起こした真に、累が声をかける。


 目が覚めた真とまず目が合ったのは、枕のすぐ横で頭を伏せて、自分をじっと見上げるツキノワグマだった。


「……」


 さらに周囲を見渡し、己の周囲がいろんな種類の動物で囲まれているのを見て、真は再び布団をかぶって床に就いた。


「大丈夫じゃないみたいだ。まだ幻覚が見える。周りが動物だらけだ。熊までいるし」

「いや、それ幻覚じゃねーっすよ」


 二号が言った。


「この動物達は何なんだ? 僕はどのくらいおかしくなって意識を失ってた?」


 布団の中から、敵意の全く見受けられない熊に手を伸ばし、その顎を撫でる。


(やっぱり先に熊触りたくなるよねー。安全という大前提があるけど)


 とりあえず真っ先に熊をもふる真を見て、純子は思う。


「動物は獣之帝の復活が近くて呼ばれたみたい。で、あと数時間で帝復活の予定日になるよ」


 真の問いに答える純子。


「まだ時間があるなら、お互いに情報を出し合う猶予はあるな」


 そう言って真は、自分が知る限りのことを話したものの、その多くは純子達も知っている情報であった。逆に純子の口から教えられた話は、真の知らなかったことが多い。


「八重はどこだ?」

 純子の話を聞き終えた後、真が問う。


「隕石が落ちた時、消えていた。あのどさくさに紛れて逃げたようだ」

 梅尾が言った。


「左京が仕掛けた運命操作術――運命の特異点は、抗えば余計に厄介な事が起こり、運命への軌道に引き戻されると、明彦が言っていた」


 隕石によってできた穴に視線を落として、真は語る。


「獣之帝――いっそ抵抗せずに復活させてみたらどうだろう」

「何を……言ってるんですか、君は……」


 思いもよらぬ真の発言に、累は啞然とする。一方で純子は、興味深そうな視線で真を見て、話に耳を傾ける。


「左京の運命操作術――運命の特異点とやらに抗う有効な手立てが無いんだろう? とにかく頑張って抗ってみよう程度で、決定打が無いなら、逆らわない方が楽なんじゃないか? それに、獣之帝が蘇ったとして、僕がそれで死ぬのか?」

「獣之帝のクローンに、あなたの魂をひっこぬいてぶちこめば、復活するって言ってたんだから、魂ぬかれちゃったら……死ぬんじゃないかにゃ?」


 真の問いに対し、七号が思ったことを口にする。


「いいえ……。魂が一時的に……離れた程度では、すぐに死に……至るわけでもありませんね。長時間の経過は……幽体離脱の術に通じていない者だと……死の可能性が高まります」


 累が七号の言葉を否定しつつ、幽体離脱に関して軽く説明する。


「みどりの力ですぐに引きずり戻せばいい。累も同じことできるか?」

「みどりの方が得意でしょうけど……一応できます」


 真の質問に頷く累。


(真兄……獣之帝の力がどれほどのものか、確認したいとか、復活させて何か得られるものが無いかとか、そんなこと企んでいるみたいだけど……そりゃリスクでかいと思う~)


 真の台詞はみどりも聞いていたし、その目論見も全て筒抜けであったがため、真にテレパシーで忠告する。


「んー、逆転の発想かー」

 純子が真の方に顔を見たまま、口を開く。


「それならもういっそのこと、獣之帝復活にこちらも協力するってのはどうかなー?」

 と、屈託のない笑みを浮かべて純子。


「ぐへえ……どーしてそーなる……。今までの皆の苦労は何だったんだっつーの」


 二号には、真と純子の発想が全く理解できなかった。


「それでもいいな。ただ、他のメンツが賛成するかどうかが疑問だ」

「僕ははっきり……反対です……」


 累が啞然としたままの様子で言う。


(みどりもはんた~い……って、今そっちの話聞いてる余裕子無いから、テレパシー切るっ)


 と、一方的にみどりが念話を送る。


「運命が強引に一つの結果を出すのなら、運命に抗うと、いらぬ犠牲も出しかねない。獣之帝の復活に危険が無いなら、それを実行させてしまっていいだろう」

「危険が無いと何故言い切れるんですか……」


 真が説得するが、累は折れない。累は獣之帝の復活に懐疑的な一方で、獣之帝と実際に戦い、その力を直に知る者でもあるので、もしも獣之帝が完全な形で復活したら、対処は困難だと見なしている。


「お前達が魂引っこ抜けるなら、僕の身に危険はないだろ? そういうことだ。復活した獣之帝どうこうは後で考えればいい」

「凄い……薬うって頭おかしくなってから意識戻ったばかりなのに、真君てば冴えてる」

「それ冴えてるって言わない。ただの問題棚上げ。いや、先送り」


 真の言葉に感心する純子と、的確な突っ込みをする二号であった。

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