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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
18 復讐者達を蹴散らして遊ぼう
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29

 真達が闇タクシーで移動しているのを視認しつつ、純子とみどりも車で、その後を追っている。

 当然向こうも気がついているだろうが、問題は無い。純子は特に干渉する気は無い。ただ側で見学したいだけだ。


 真と睦月ら四人が向かったのは、零より指定された、かつてホルマリン漬け大統領が管理していた施設だ。今朝みどりが犬飼と連絡を取り、そこで最後の戦いへと赴くことが、純子の耳にも入った。

 すると純子は、情報屋には任せず、自ら側に行って見学するので、みどりにも着いてきてほしいと声をかけ、レトロなデザインのオート三輪に乗り、真達の後を追っている。


「あの遊技場は半分崩れかけているし、情報屋の人に追ってもらって撮影してもらうのも、ちょっと危険なんだよねえ。いつ建物そのものが崩壊するかわからないからさあ」


 純子が情報屋に任せなかった理由は、以上のような代物であった。


 そしてみどりを連れてきた理由は、純子は中に入ることなく、外から見学するためである。そのために、みどりに精神分裂体に幽体離脱してもらい、映像中継をしてもらう算段だ。


「ふわあぁ~、霊魂が見た者を映像化するとか、御先祖様も面白い術を編み出したもんだわ」


 研究所を出る前に、累よりその術を習ってきたみどりである。


「つーか、真兄や犬飼さんも危険てことだよね、それ」

「真君ならそれくらい絶対生き延びるよ。犬飼さんには、みどりちゃんが危ないって教えた方がいいんじゃないかなあ」

「うん。一応メールうっとくー」


 明るい口調で返事をする一方で、みどりは、純子がまた根拠も無く真を信じる台詞を口にしていることに、溜息をつきたい気分になった。


***


 百合と白金太郎の二人は、依然として雇った情報屋達に四人を尾行してもらい、映像の中継を行ってもらっていた。


「崩れかけの危険な場所らしいですが、もし撮影者の方が命を落としても、すぐにゾンビとなって復活して、撮影を続ける術をこっそり施しておきましたから、問題ありませんわ」


 尾行している車からの映像を見ながら百合が言う。


「睦月や亜希子や零も危ないじゃないですか」

 と、白金太郎。


「睦月は死なないでしょう。埋まってしまったら、掘り起こすのは一苦労でしょうけどね。他の二人は、いざとなったら頑張っていただくしかありませんわね。まあ、そんな程度で死ぬような方々、私の興味の対象にはならなくてよ」


 ニヒルな笑みを浮かべる百合。


「そんなこと言ってわるぶっても、百合様、亜希子がいなくなったら寂しがるくせにー」


 そう言って茶化す白金太郎に、百合の表情が引きつる。


「ま、まあ確かに……あの子はいろいろと楽しませてくれる子ですから、ここで失うのも寂しいのは事実ですわね」


 事実なので否定するのも見苦しいし、罰を与えようかとも思ったが、ここは白金太郎の指摘を素直に認めた方が一番見苦しくないと判断する百合であった。


***


 早坂零は自分の体を改造された後、その能力に酔いしれていた。


 零が得た能力は己の体を完璧に操作できるという代物であった。

 筋力と持久力と瞬発力の及ぶ範囲内で、自分の体を思う通りに動かせる。激しい動きにありながらも狙った場所に銃を撃てる。相手の動きも簡単に先読みできる。最善の動きができる。コンセントを服用する必要も無く、さらには神経を集中させることもなく、常に集中力がフルパワーの状態を維持。

 この能力を利用すれば、どんな競技でもトップクラスに位置できるのではないかと思われるが、元々表通りの競技などに興味は無い。


 博徒からも足を洗い、自分の力を純子の敵と戦うことに用いたいと申し出た零であったが、純子はいい顔をしなかった。それどころかはっきりと、自分に興味を無くしたのが見受けられた。

 自分と同様に純子に心酔していた、当時の相方的存在だった瑞穂という少女も、同様の扱いを受けた。他のマウス達がかわるがわる純子に利用されるにも関わらず、純子に利用されたいと望む自分達は冷遇されて、声がかからない。わけがわからない。


 思い切って純子に尋ねて、零はその理由を知った。純子曰く、己を放り出して、他人に容易く心をゆだねて従属したがるような輩は、好みではないとのとこ。忠義立てされても、へつらわれても、いい気はしないと。


 全否定された気分になった零は、その後しばらく放心して何もする気力がわかなかったが、やがてターゲットが女性専門の殺し屋という、自分でも迷走していると思えるおかしなことをやりだした。


 しばらく裏通りの住人として過ごし、雪岡研究所に出入りしていた者もこっそりと調べているうちに、自分と同じ理由で純子に冷遇されているマウスは他にもいると知り、零はそれらのマウスの中でも、特に能力の強い者達に声をかけていった。それが『ラット』の始まりである。その中の何名かは零の話に共感し、緩い繋がりの集団となった。

 零はこの報われないラット達を何とかしたいと考えていた。少しでも純子の役に立ち、目をつけてもらいたいと。だがそれが徒労に終わるであろう事も、何となくわかっていた。


 その一方で、純子が相沢真という少年だけを特別扱いしている事が、激しく気に入らない。ラット達が欲してやまぬポジションにいるというだけではなく、主たる雪岡純子に叛逆行為を働き続けてなお、純子の傍らにい続けることを許されているので、零を含めたラット連中からは、嫉妬や対抗心を抱かれている。


 真は真で、ラット達のことが気に入らない様子であった。純子を崇拝している、ただその理由だけで、まるで純子にたかる蝿か何かのような意識で、ラットを見ている。


 鬱積した想いで日々を送っていたラット達に、声をかけたのが百合であった。百合はかつて純子と行動を共にし、仲違いした立場である事を明かし、復讐を兼ねた嫌がらせのために、純子が最も愛する存在である真を壊すことを目的としている事も明かしたうえで、真を壊すに至るまでの協定を求めてきた。

 零を含め、百合と共闘する話に乗った者もいれば、乗らなかった者もいたが、乗らない者もこの話は純子に漏らさなかったようだ。おそらくは、百合が術をかけて記憶を消したのであろうが。


(ここで俺が真を殺害したら、百合の計画はおじゃんだ)


 ホルマリン漬け大統領の殺人遊技場で待ちながら、零は思う。ただ殺すだけなら、好きな時に殺しに行けばいい。零は百合の悪趣味な計画そのものに賛同しているので、ここで殺害するのもどうかとは思う。


(しかしいざ真と戦うとなれば、とことんやりあってしまいそうだ。手は抜けない。雪辱も晴らしたい)


 かつて零は真と一戦交えた事がある。

 自分の能力に絶対の自信があった零であるが、真には及ばなかった、一命は取り留めたが、敗北はトラウマとなって深く刻まれると同時に、真に対する対抗心をより強くした。


(今度は勝てるか? それともまた敗れるか? 勝てるとして勢い余って殺すか? 今度は一命を取り留めることも無く殺されるか?)


 指先が冷たくなり、震えてくる。恐怖と武者震いが混ざっている。


(奴からすれば、俺など大して意識などしていない存在なのだろうが、今日はたっぷりと意識させてやる。いや、意識する間もなく殺してやる。百合の計画も忘れよう。全力で殺しにかかる)


 震える拳を握り締め、零は闘志を燃やす。


「来たぞ」


 紺太郎が短く告げ、零が顔を上げると、遊技場の外に四人の人影の姿が見えた。

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