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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
18 復讐者達を蹴散らして遊ぼう
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20

 咲は自分の中にいる自分以外の何かから、これまで何度も能力を引き出して使ったことがあるが、この能力で人を傷つけようと試みるのは初めてだ。

 単純に一つの能力というわけではない。寄生しているそれの力を用いれば、様々な事ができる。例えば――


「上手くいくかな……」


 呟くと咲は大きく息を吸い込み、大きく吐き出した。

 吐息と共に、無数の何かが吐き出され、宙を舞う。


(花びら?)


 後方から赤い花びらが舞い散るのを見て、訝る睦月。


 花びらはまるで意識を持って飛んでいるかのようにして、襲い来る者達へと向かっていくと、その頬に四枚の花びらが張り付く。

 その直後、花びらが張り付いた者が、あからさまに動きが鈍る。さらに何十枚もの花びらが張り付くと、ついた数だけ動きが鈍くなって、やがて前のめりに崩れ落ちた。

 同じ現象が何名にも起きる。倒れた者達は意識こそあるようであったし、立ちあがろうともがいてはいるが、その動きすらも緩慢だ。


「どういう能力なの?」

 興味深そうに尋ねる睦月。


「時間が流れる感覚を狂わせる。頭も体も。その結果、平衡感覚も狂うし、動体視力もおかしくなるし、動きも鈍くなるし、音も聴き取りづらくなる」

「あはっ、不意打ちすれば危険な能力だねえ」


 不死身が売りの自分でさえ、食らえばヤバそうだと睦月は思った。感覚が狂わされてまともに動けなくなった所を捕獲されてしまえば、いくら不死身だろうとどうにでもできる。箱に閉じ込めて埋められようものなら、それでおしまいだ。


「頭に近い肌の部分につかないとすぐに効かないし、長くはもたないぞ。だから――」

「あはぁ、わかったよ」


 言葉を濁す咲に、何を言いたいか察して、睦月は倒れてもがいてる者達に対して鞭を振るい、トドメを刺していく。

 咲のおかげでかなり盛り返した感があるが、それでもまだ敵の数は多い。


(どう考えても分が悪い。咲のあの能力をあてにして、一点突破でこの場は逃げた方がいいな)


 そう判断する真だが、そのことを声に出して伝えたとすれば、鯖島にも伝わるし、鯖島がそれを見過ごすわけもない。


「ははははははっ、絶好のタイミングだ!」


 その時、墓場の入り口の方から、真のみ聞き覚えのある声が響いた。


 声のした方に視線が集中する。そこには真のみ見覚えのある人物と、真と亜希子が知っている人物と、何人もの警察官の姿があった。


「我こそは雪岡純子の殺人人形マークⅡ! 赤城毅!」

「お前……」


 会心の笑みと共に名乗りあげる毅に、真は頭の中で唖然とする自分を思い浮かべる。

 毅は純子にもらった前時代的なロボット胴体ではなく、ちゃんとまともな人間の体を供えていた。いや、備えているように見えた。


「ユキオカッター!」


 技名を叫ぶと、毅の両腕の肘から先が反転し、ブ厚い刃渡りの刃へと変形する。


「食らえっ!」

 意気揚々と側にいる者達に斬りかかる毅。


 しかしそのうちの一人の老人が自爆し、毅はあえなく吹っ飛んで転がった。破れた服から覗くその体は、生身では無い。機械のそれだ。


「接近すると自爆か。非道な真似をするな」


 それを見た、2メートルを越える長身の女性が、怒りをにじませた冷たい声で呟く。その声は男性のそれだった。

 警察官達に手を出さないよう、片手を上げて制すると、芦屋黒斗はその場でローキックの素振りを行う。


 黒斗の膝から先が消失し、同時に十数人のヘイト共有集団が転倒した。まるで足元をすくわれたかのように。


「な、何だ!?」


 予想外の事態に、今まで余裕をふかしていた鯖島も流石に狼狽した。


「首謀者を倒せば、洗脳も解けるか?」


 黒斗が鯖島に視線を向け、その場で手刀を横に払う。払った直後に、黒斗の手首から先は消えている。

 鯖島の首が切断され、頭部が地面に転がり、鯖島の体も倒れた。その光景を見て慄く警察官達。


「駄目か」


 未だ元気いっぱいに暴れているヘイト共有集団を目の当たりにし、黒斗は嘆息した。

 その後は一方的だった。黒斗が腕を振るうだけで、十人以上のヘイト共有集団が無残に一斉に撲殺されるので、みるみるうちにその数は減り、十秒も経たないうちに、一掃された。


「凄い……あのオカマ刑事さん、あんなに強かったのね。一体何をどうやったのかさっぱりだけど」


 亜希子が唸る。ドリームポーパス号の件で黒斗と顔を合わせた事のある亜希子だが、その戦闘力までは知らなかった。


「墓場で暴れやがって。罰当たり共め。と、お決まり台詞はいいとして」


 黒斗の視線は睦月へと向けられた。睦月は初対面ではあるが、流石に芦屋黒斗を知らないわけがない。何人ものタブーの息の根を止めている、日本警察の最終兵器と呼ばれる男だ。


「タブーの睦月か」


 黒斗が呟く。残虐非道の八つ裂き魔の正体が睦月であったことは、睦月が掃き溜めバカンスにいた頃から、黒斗も知っている。

 睦月が掃き溜めバカンスにいた頃は、ボスの加藤達弘が警察上層部に必死の圧力をかけていたが故、正体が割れていても逮捕に踏み切れなかったが、掃き溜めバカンス崩壊後は、上の圧力も無くなったが故、逮捕(黒斗からすると処刑)が行えるようになったものの、肝心の睦月は姿を消していた。


「お前には抹殺指令が出ていたが……真とダチってことは、そう悪い奴でもないんだろう。見逃してやるよ」

「はあ……? い、いいの? そんな判断基準で」


 身構えていた睦月であるが、黒斗の思いもよらぬ言葉に鼻白む。


「いいの。知らないならこれを機に覚えておくといい。法律より俺の決定の方が偉いんだぞ」


 そう言って睦月に向かってウインクしてみた後、今度は真の方を向く黒斗。


「どんなトラブルに巻き込まれているか知らないが、俺はここの後始末が大変になるだから、これ以上は助けてやれないぞ」

「そこまで甘えるつもりはないし、十分助かったよ。しかし何故ここに?」


 礼を述べ、尋ねる真。


「そこの赤城毅に助力を請われてね。たまたま近かったから急行した」


 と、黒斗がうつ伏せに倒れている毅を親指で指す。

 毅がゆっくりと首だけ回転させる。胴体はうつ伏せ、顔は仰ぐという、気色の悪い格好になる。


「君らが到着する前から、こいつらはこの場に待ち構えて、罠を張っていたんだ。俺は君らが墓に行く話を純子から聞いて、後を追って合流するつもりが、先についてしまってね。こいつらが待ち構えているのも見て、数が多いから助太刀した方がいいと考えたけど、俺だけの助力でも不安だから、警察を呼んだってわけ。そうしたらラッキーなことに、芦屋黒斗が来たというだけの話だ」


 毅が解説する。


「やはりこの中に裏切り者がいて、復讐者側に情報を流していたって話じゃないか」

 犬飼が言った。


「あんたが一番怪しいんだが」

「おいおい、俺は復讐者が誰かも知らないんだぞ」


 指摘する真に、犬飼は苦笑いを浮かべる。


「その体は雪岡に改造してもらったのか?」


 再び毅を見下ろして、真が問う。爆発でほぼ動かなくなっているようだが、毅の首から下は完全に機械のようだ。


「いや、霧崎教授の所で改造してもらったよ」

「だったら霧崎剣の殺人人形じゃないか。勝手に変な噂流して……後で雪岡に何されるかわからないぞ」


 毅の答えに、真は呆れる。


「あー、やっぱり一応お前等も事情聴取に来て。流石にこれだけの規模で、無罪放免で見逃すのは無理があるわ」


 黒斗が言った。


「どうするの?」

 亜希子が真の方を向いて尋ねる。


「面倒だけど助けてもらった身だし、向こうの顔も立てないとな。でも……」

 真が言い、睦月の方を見た。


「タブーの睦月に関しては上手く誤魔化してやるから心配してなくいいよ」


 真の心配を察して、黒斗が微笑みかける。


「裏切り者ねえ……。考えたくない話だけど、先回りされていたってことは、そうとしか考えられないよねえ」


 暗い面持ちで睦月が言う。


(可能性として高い奴はいるんだけどな。いや、消去法で考えれば、怪しいのはどう考えても……)


 真は考える。裏切り者が誰なのか、怪しんでいる相手はいるが、確信するには至らない。


(警戒しておいて、証拠を押さえて、その時に明るみにすればいい。もろちん、窮地に立たされるような真似をしでかされる前に、な)


 その怪しい人物を意識しながら、真は考える。

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