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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
18 復讐者達を蹴散らして遊ぼう
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15

「亜希子が睦月を守っているようですが、いいんですかねー?」


 百合の家のリビングにて、復讐者三名が睦月、明子、真と戦う様子を見ていた白金太郎が言った。同じ映像を、同じ場にいる百合と零も見ていた。


「構いませんことよ。亜希子とて遊びたい盛りですし」


 事も無げに百合が言った。

 戦闘の撮影は、睦月を尾行させていた情報屋に行われ、リアルタイムで百合達の元へて送られていた。


「どうやら今回純子に作られたマウス達は、ラットに匹敵する水準の出来だ。睦月を相手にするということで、かなり強力な改造強化を施されたようだな。ただし、大きな代償を負った者もいるようだが」

 零が感想を述べる。


「そんな凄い奴等だったら、いくら睦月でも、全員でふるぼっこすればひとたまりもなさそうですねっ」

「そんな味気無いこと、するわけがないでしょう?」


 白金太郎の言葉に、百合は溜息をつく。


「彼等は――この間ここに来た三人のように、グループを作っている数人組もおられるようですが、基本的には単独で襲撃するよう仕向けてありますわ」

「しかし亜希子と組んでいる以上、単独で攻めてもあっさりと返り討ちだろう。おまけに相沢真まで絡んでいるとあればな」


 真の出現と加勢を見て、零は強引にでも紺太郎達についていけばよかったと、後悔した。


「そして、睦月は真とやる気か?」


 映像の中で、真に向かって敵意に満ちた視線を叩きつけている睦月である。


「それは面白そうな展開ですが、今睦月が真と事を構えるのは、好ましくありませんわね」


 百合が言うが、この場から干渉することもできない。


「その心配は不要のようだぞ。真は睦月と共闘する構えのようだ」


 映像内での様子を見て、零はそう察する。


「音声が聞こえないのが難点ですわね。睦月はよく受け入れましたこと。かつて睦月の仲間を全て殺した、憎むべき相手だというのに」

「亜希子もいるし、そういう話でまとまっても不思議ではなかろう」


 睦月一人であれば真とそのまま対立したかもしれないが、真と睦月の間に立つ形で亜希子が双方を説得したら、真が睦月を守る形にもなりうると、零は思う。


「真が睦月のために戦う理由はありますの?」

「真っ先に思いつくのは、純子への妨害行為だな。あいつは純子の目論見を邪魔してまわることが多い。実験台となった者達と睦月の戦いを純子も望んでいるとしたら、真がその間引きをする事は、純子の思惑にそぐわぬ結果となるかもしれない」

「少し苦しいこじつけではなくて?」


 零の推測に疑問を感じる百合。


「俺がわざわざこじつけで理由を作らなくてはいけない事情があるのか? もちろん他にも思惑があるのかもしれない。俺は真が睦月に加担する事をあまり不思議とは思わん。あいつは純子と同じで、わりとおせっかいな所もある。相対していた相手であろうと、時間と状況が違えば手を組む奴だ。もちろんその逆もあるが」

「よく御存知ですこと。あなた、純子よりも真の方に御執心ではないのかしら?」


 からかう百合に、零は押し黙る。


(わかりやすい方ねえ。そして面白くない方)


 心の中で呟いてから、百合は胸に強烈な痛みを覚える。


『百合ちゃんてさあ、つまらないんだよねー』


 己の呟きによって、純子に植え付けられたトラウマを穿り出してしまった迂闊さに、百合は自嘲の笑みをこぼす。


(質こそ違えど、私も純子に痛みを与えてあげますわ。五年前、あれだけのことをしてもなお貴女の心に傷を与えられなかったようですが、今度こそ――)


 そのための計画は、すでに進行中である。純子の最も大事な存在である、真を徹底的に壊すことで、傷つけてやることができると、百合は信じていた。


***


「ちょっとぉ、睦月。やめてよ。真は助けてくれたんだよ」


 今にも真に襲いかかりかねない雰囲気の睦月を、亜希子が制する。


「今後も助けてやる。雪岡が改造した復讐者達が尽きるまでな」

 真が静かに言い放つ。


 睦月の体から敵意が消える。真に殺されかけたのも、仲間を殺されたのも、元はといえば自分が蒔いた種だ。


(あの時、辛そうだったねえ。真)


 以前自分と戦い、とどめをさそうとしていた時の真を思い出す睦月。

 恨む気持ちはあるが、復讐しようと踏み切るまでには至らない。それに加え、睦月の中で眠る沙耶にとって、真がかけがえのない存在である事も無視できない。


「で、何で俺を助けてくれるのさ」

「打算ということでいい。これで貸し二つ目だな。いずれ返してくれ」


 睦月の問いに、真はすぐにそう答えた。


(一つは返したつもりだけどねえ。ま、知らなくて当然かなあ。助ける立場はこっちで、助けられるのはそっちなんだけど、今は教えない方がよさそうだ)

 口の中で呟く睦月。


 ふと、真が睦月の方に近づき、制服の上着を脱いで睦月に差し出した。

 軽く頭を下げ、受け取って着る睦月だが、素足は丸見えの状態だ。


(これ、真の臭いだ……。あはっ、俺まだ覚えているよ)


 上着から真の体臭を嗅ぎ、初めて会った時の事を思い出して、睦月の胸が疼きまくり、涙腺がゆるむ。


「あ、どうも」


 亜希子も服の前が破れているので、咲がジャケットを脱いで貸してくれた。礼を述べ、破れたゴスロリ服の上から着込む。


「狙われているなら、寝る時はそのまましばらく雪岡研究所に泊めてもらった方がいいかもな。ここから近いし」

 犬飼が告げる。


「どうして咲もここに?」

 咲の方を見て睦月が尋ねる。


「あなたに用があった。ここにいる真があなたを守ると言っていたから、連れて来てもらった」


 咲の言葉を聞いて、また動悸が早まる睦月。


「身内を殺された人って、ずっと殺されたことを引きずって、生きていかなければならないのかな? 事故で死んだならまだ諦めがつくのに、誰かの悪意で殺されたとなると、諦められない。憎しみが生じてしまう。でも私、捨てられるものならそれを捨てたい。あなたが捨てさせる努力、してみてくれない?」


 淡々とした口調で喋る咲。

 思いもよらぬ咲の要求に、睦月はうなだれる。


「わからない? それともする気が無い?」


 沈黙する睦月に、咲は心無しか柔らかい口調になって、さらに問う。


「できるものなら……したい。でも、わからない」

 掠れ声で答える睦月。


「もし、私の姉さんの墓に来て、姉さんの墓に向かって手を合わせて謝れって言ったら、できる? もちろんポーズだけじゃなくて、心の底から謝るの」


 咲の言葉を受け、睦月が顔を上げる。


「私は許せなくても、姉さんは馬鹿みたいな御人好しだから、きっとそれで許すと思う」

「できる」


 咲の目を見据え、睦月は答えた。


 しばらくの間、無言で見つめあう二人。


「じゃあ――」

 咲の方から口を開く。


「じゃあもう一つ、その後自首して罪を償えと言われたら、できる? 多分死刑になるだろうけど」

「あはっ、できないねえ」


 間髪置かずに答える睦月であった。


「この体に絞首刑は効かないしさあ。それに、俺の命は俺だけものじゃないんだ。こんな俺のために死んでいった奴等もいるしねえ。俺が憎しみから解き放たれて、殺しをやめることができたのも、仲間達の犠牲のおかげなんだよ。あいつらに救ってもらった命を無駄に散らすなんてできない。呪われていようが怨まれていようが、俺は生き続けるよ」


 さらに言うなら、この体は元々自分のものではない。沙耶のものだと、睦月は思う。


(俺が人を殺しまくったのも、沙耶の心を慰めるために俺が勝手にやったことだしねえ。日本の法律じゃ、俺だけを裁くなんてできないだろうし)


 睦月は自分という存在が、沙耶のために生まれ、沙耶のために生きることを第一に生きていると思っている。そのため、沙耶にとって悪影響が生じることは、どんなことであろうと避ける。

 犯した罪は、全て睦月という自分であり、沙耶は一切悪事に手を染めてないと、睦月は信じて疑っていない。自分が裁かれると、同じ体の沙耶も裁かれる。それは避けないといけない。


「それともう一つ、俺にはやらなくちゃならないこともあるしねえ」

 百合と真の二人を意識し、睦月は言った。


(ずっと眠っている沙耶が、目を覚ます時はいつも決まってる)

 真を一瞥する睦月。


「守りたい者のために、守りたい奴がいるんだ」


 自分だけに通じる言葉だと、口にしてから睦月は思ったが、何となくでも咲に伝わればいいと考えた。


(守れなければ沙耶が哀しむし、真が脅威に晒されてる事を俺は知ってるし、真に悪意の矛先を向けている百合の側に、俺はいる)


 真を玩具にしようとしている百合から、真を守る。それが、睦月が今自分に課している使命であった。


「わかった。それで納得しておく。墓参り、明日にでも来て欲しい」

「え? 俺狙われてるんだけど……」


 咲の要望に目を丸くする睦月。


「だからこそよ。殺されたら謝罪もできないじゃない」

 と、咲。


「私達がしっかり護衛するわ。ね? 真」


 亜希子が微笑みながら口を挟み、真の方を向く。

 真は何も答えなかったが、この様子だと一緒についてくるだろうと、睦月も亜希子も判断した。

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