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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
18 復讐者達を蹴散らして遊ぼう
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14

 真の銃撃により、繁華街で銃撃戦が始まったと判断され、通行人達が避難を開始する。安楽市ではよくあることなので、馴れた市民達は落ち着いて逃げるか、物陰に身を隠している。


(あははは……沙耶がまた意識を取り戻しているよ。何の言葉も発さないけど、俺の中で確かに沙耶が反応して目覚めてる)


 真を見ながら、睦月は半分溶けた胸に半分解けた手をあて、半泣き顔で笑う。もちろん顔も半分溶けている。


「別に私はピンチじゃなかったけどぉ~?」

 真の方を意識して言う亜希子。


「お前がピンチじゃなくても睦月がヤバいだろ」


 真に言われ、やっと亜希子は睦月の現状に気がつき、顔色を変えた。


「君、雪岡研究所にいた子じゃないか。何故我々の邪魔をする?」

 真の方を向いて、塩田が問う。


「助けたいから助ける。それだけだ」


 真が端的に答え、塩田に向かって銃口を向け、撃つ。


「アレキサンダー・ヘアー!」


 真達の位置からは見えないが、鋼線化したバーコードヘアーによる結界が構築され、飛来する銃弾が塩田に届くより前に、髪によって弾かれる。


「残り少ない毛をあんな風に酷使して大丈夫なのかねえ」


 遠巻きに様子を伺う犬飼が、塩田の能力を見て笑う。


「睦月……」

 一方で咲の視線は、半ば溶けている睦月に注がれていた。


「畜生……邪魔しやがって」


 向井が身を起こす。銃弾のうち一発は左太ももを貫いていたが、もう一発の腹を狙った方は、防弾繊維によって弾かれていた。


 怒り狂った向井が、それまで戦っていた亜希子は無視し、真めがけて疾走し、一気に間合いを詰め、腕を振り下ろす。


 だが真は向井の攻撃を避けると同時に懐に飛び込み、向井の顎めがけて肘を振り上げる。

 カウンターの猿臂をジャストタイミングで食らい、向井は泳ぐような仕草で真の後方に向かって前のめりに倒れる。


 改造強化されたおかげなのか、通常なら脳震盪を起こしていたであろう衝撃にも関わらず、向井は倒れて一秒弱で、両手で地面をたたきつけ、跳ね起き、振り返った。

 真もほぼ同時に振り返っている。


 向井が憤怒の形相で至近距離から腕を袈裟懸けに振るう。

 この間合いであれば確実に殺せると、向井は確信しながら腕を振るったが、向井の腕が真の肩口に当たると思ったまさにその時、真の体がマジックのように向井の視界から消失し、向井の腕が空を切る。


 他の四人が目を剥く。真は向井の両肩に手を置き、向井の体の上で倒立していたのだ。


 そこから真は、両手を向井の肩から外すと、己の体勢が崩れる前に向井の顎と即頭部を掴み、目にも止まらぬ速さで両手を交互へとひねり、向井の頚椎を破壊する。

 真が地に降りてからコンマ数秒後に、おかしな方向に首が捻じ曲がった向井が倒れる。今度は起き上がる気配は無かった。


(この子、こんなに強かったんだ……。私との訓練の時は加減してたのね)

(あははっ、俺とやりあった時より、格段にレベルアップしているみたいだねえ)


 向井を難無く屠った真を見て、亜希子と睦月は戦慄していた。特に睦月は、武者震いするほどであった。


「再生力は無いようだな。命と引き換えの危険な強化をしても、寿命前にお陀仏。それもマッドサイエンティストに改造されたわけでもない僕相手に敗北するなんて、皮肉な話だな?」


 木村と塩田の方を見て、挑発気味な台詞を口にする真。


(相手の気勢を削ぐために、俺達に援護してくれているつもりなのか)


 睦月だけが真の真意を読み取り、微笑をこぼす。


「スカイ・スラスト・ジ・アングリー・ヘアーズ!」


 塩田が技名を高らかに叫び、頭部を真と亜希子の方めがけて突き出すと、同時に鋼線化したバーコードヘアーが何本も伸び、二人を串刺しにせんとする。

 真は軽々と、亜希子は危うくその攻撃をかわしたが、塩田の攻撃はそれだけでは終わらなかった。


「キューティクル・ジャスティス!」


 塩田が叫ぶと、伸びていた髪が分裂して弧を描き、真と亜希子に巻きつこうとする。


 亜希子は火衣を振るい、髪鋼線を次々と切断していく。直線的な動きならともかく、横や上から来るのであれば、返って防ぎやすい。

 真の方はというと、亜希子より本数が多かったせいと、ただかわすだけだったおかげで、一本、髪が足に巻きついてしまった――かのように見えた。


 真の手から伸びた鋼線が、真の足に巻きついた鋼線にすでに絡み付いていた。塩田が髪で真の足を切断ないし引っ張って体勢を崩そうとした瞬間、塩田の髪のほうが切断される。


「むうううっ!?」

 何が起こったかわからない塩田が唸る。


 一方、いまだ再生の済んでいない睦月に、紺太郎が有る程度の距離まで接近すると、懐から水鉄砲を取り出し、半ば溶けている睦月の体に撃ちまくる。

 もちろんただの水ではない。中には紺太郎の体液が混ざっている。それが溶けかけた睦月の体内にも混じる。


「ははははっ! まーた俺の体液を食らったな! しかも今度は大量っ。体内をある程度めぐるまで時間はかかるが、今回は量が多いから、まだ再生もできないお前は、もうこれでもうおしまいだ!」


 勝利を確信して高笑いをあげる紺太郎。


(そろそろ混ざりきったかな)


 自分の体液が睦月の体内に混ざるまでの十分な時間を見計らい、紺太郎は能力を発動させた。

 睦月の体が、中から一気に溶ける。


「ざまあ……」


 その光景を目の当たりにした紺太郎が、有頂天で勝利の雄叫びをあげようとした刹那、目の前で起こった変化に、硬直した。


 睦月のすぐ隣にあった街路樹が、一瞬にして枯れ、崩れ落ちたのだ。

 その直後、完全に溶けきったと思われた睦月の体が、文字通り瞬時にして再生した。目の前にはスレンダーな裸身を晒す美少女がうずくまり、木村を見上げて不敵に笑う。

 睦月の手からは針金虫が、枯れた街路樹へと伸びていた。


「俺だって毎日食っちゃ寝だけしてるわけじゃないしねえ。戦闘訓練もしているし、自分の能力の可能性も模索している。周囲の生物から生命エネルギーを吸収して、急速再生に利用できるようになったのさ。同時に体力も回復するから、再生力も元通りってねえ」


 そう言って立ちあがる睦月。服も完全に溶けてしまっているが、恥ずかしがっている状況でもない。


「あはっ、今の俺を殺すには、一瞬で蒸発させるくらいしないと無理だよぉ? そんな僕をどうやって一瞬で倒せるかって疑問もあるけれどねえ。核兵器でも使う?」


 嘯く睦月だが、実際には言うほど不死身というわけでもない。


(この生命力吸収も、限度があるんだけどねえ。完全な無敵とか不死身なんてのは……無理みたいだねえ。当たり前だけどさ)


 いろいろ実験したが、他の命を吸って再生能力を維持するのは、時間単位で限界がある。吸収できる量にも限りがある。少なくとも一回使うと、しばらくの間はまた他者の命を吸うことはできない。完全に再生能力も機能しなくなった時の、奥の手だ。

 実はこの生命エネルギーの吸収は、百合から伝授された技であったが、それは黙っておく。


「君の血も外に排出すれば、平気みたいだねえ。もう一度、俺の中に入れられると思う? 入れたところで、俺を殺せると思う?」

「ぐっ……」


 想像以上の不死身さを見せ付けられたうえに、紺太郎の残弾も減っている。向井は殺され、数のうえでも不利という状況。


「塩田さん、退くぞ」

 紺太郎はあっさりと退却の判断を下し、走り出した。


「裸で~、追いかけ~、愉快~な睦月ちゃん。なんて事は流石にしたくないなあ」


 おかしな歌を口ずさみ、睦月はそれを見送ると、うずくまって胸と下腹部を手で隠す。


「だから競争なんてせずに――ばらばらに襲い掛かるなんてことせずに、全員一丸でいくべきだと言ったんだ」


 塩田がぼやき、それ以上は真と亜希子の二人と戦うことなく、逃走した。

 亜希子もそれを追う気も無い。深手というほどではないが、それなりにダメージを食らっている。

 真も面倒なので放っておく。


「楽しい見世物だったな」


 戦闘終了を見計らい、犬飼が三人のほうに近づき、声をかけた。咲も犬飼の後ろをついてくる。


「雪岡に見せて治してもらおう」

 亜希子の怪我を見て、真が声をかける。


「あり……」

「あはっ、また余計な恩を売ったつもりなのかい?」


 亜希子が礼を口にしようとしたのを遮る形で、睦月が皮肉っぽい口調で言った。


「俺の仲間を皆殺しにした君が、今、俺の前にいる。これを見逃すと思ってるの?」

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