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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
17 ネトゲ廃人を量産して遊ぼう
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23

 緊急メンテナンス終了後、不具合で発生しなかったイベント――謎の巨大生物マラソンが、ついに発生し、プレイヤー達がこぞって挑むようになった。

 前告知通り、複数のエリアに沸く超巨大生物を殴って、既定のダメージ量を目指すという代物である。段階ごとに定められた合計ダメージに達する度に、イベント報酬を得られる。

 同じエリアで殴れるダメージ量は10万までと決まっていて、その数字に達したら、しばらくは同エリアの敵にはダメージが入らなくなるため、他のエリアの巨大生物を殴りに行く必要がある。


 緊急メンテナンス明けにあっさりとインできた真、累、みどりの三人は、ビッグマウス、メロンパイと合流して五人PTになり、巨大生物とやらがいる場所へと向かい、その姿を拝む。


「巨大生物ってこれか?」


 無数のプレイヤーに追い回され、追われながら殴られまくり、ひたすら逃げ回っているモンスターを見て、真は唖然とした。


「でっかい兎じゃん……」


 みどりも半眼になって肩を落としている。そこかしこで見かける、兎タイプのモンスターのグラフィックをそのまま流用し、ただ巨大にしただけの代物だった。


「散々煽っておきながらコレネ。巨大生物っていうからには、もっとネッシーみたいなものとか、UMAっぽいのを想像していたヨ」


 ビッグマウスも渋面で肩を落としている。


「とりあえず参加してみましょう。兎娘に変身するスティックだけでも欲しいですし」


 沈みがちのPTの中で、唯一前向きにイベントを楽しもうとしているメロンパイが、真っ先に巨大生物へと殴りにかかる。

 仕方なく他の四人も走りまわる兎を殴りに行く。


「うわ、これ一回100ダメージしか入りませんよ。ダメージキャップがついてます」


 しかしそのメロンパイも、いざ殴りかかって顔をしかめる。


「まず50万ダメージ与えないと最初の兎キャンディーももらえませんよ……。兎ベルトは120万……。兎スティックは200万。兎パンツに至っては1500万です……」

「どんな攻撃しても100ダメージが上限なのに、その数字はどうかしてるよぉ~」


 殴りながら呆然とする累とみどり。


「シカモこれ、逃げ回りまくるから、攻撃をスムーズに当てラレないジャナイ」

「遠距離攻撃の方がいいのか?」

「魔法や矢は当てやすいですが……攻撃間隔が近接攻撃より大きいにも関わらず、ダメージキャップが一律で100ですから、そういう意味では不利かと……」

「攻撃間隔の短い短剣を、高速でぶんぶん振って殴るのがいいな。あるいは素手でも」

「やっと4000までいきました。200万の兎スティックが遠すぎる……」

「僕は6500です……。兎パンツが欲しいのですが……相当時間かかりそうですね……」

「あれ女性用装備ネ。累は女キャラ作る気ナノ?」

「ハウスに女性用マネキンがありますから、それにはかせる予定です……」

「兎がたまに立ち止まる時と、Uターンする時が攻撃を当てやすいな」


 ビッグマウス、真、メロンパイ、累の四人が不満混じりにも雑談しながら兎を追い回している中、みどり一人だけが一切無言で、死んだ魚のような目で機械的に腕を振り回していた。

 やがて――


「つまんねえぇぇぇ~っ! やめやめっ!」

 みどりが足を止め、苛立ちを露わにして叫んだ。


「こんな糞イベントやってらんないよォ~。超時間の無駄! これ考えた奴、絶対頭おかしいって!」

「まあ……確かにイベントのつまらなさもさることながら、数字の設定がどう考えてもおかしいな。どれだけ長時間、兎を追い回して殴り続ければいいんだって話だ」


 真も同意し、足を止めた。ビッグマウスもそれに合わせるようにして足を止めるが、累とメロンパイはなおも巨大兎を追い続け、殴り続けている。


「匿名掲示板でもイベントの感想は、不満一色ネ。公式フォーラムも、フォーラム戦士達が怒り狂ってるヨ」


 目の前に画面を開き、ビッグマウスが言う。


「イベント以外にもいろんなものが追加されたんだろう? そっちはどうなんだ?」

 尋ねる真であったが、ビッグマウスは首を横に振った。


「ソッチもダメのようネ。詳しくは不明ダケド。酷評と不満の声しかナイヨ」

「大型バージョンアップが久しぶりすぎて、開発側も腕がなまってたったこと?」

「イイエ。昔からワリとこんなものネ」


 みどりの問いに、ビッグマウスは首を横に振って答えた。


「ふえぇ~……何で皆このゲーム続けてるのか、不思議になってきた」

「仮想空間がリアルに作られていて、世界観もしっかりしているからじゃないか? その辺は凄いとは思う。ゲームとしてはひどいが」


 己の意見と分析も兼ねて真が言う。


「でも懐かしい空気ダワ。バージョンアップもイベントも、いつもうまくいかなくて、最初は非難轟々なのヨ。こうやってわいわい騒いで不満を口にしてるのも、何故か楽しいものネ」


 そう言ってビッグマウスが微笑むが、真とみどりにはいまいち理解しがたい感覚だった。


「あれは……」

 ふと、真が空を見上げて呟く。


「電霊だわさ。死霊タイプのね」

 空を彷徨う母親とその幼い娘の霊を見て、みどりが言った。


「他の鯖にも現れているらしいヨ。今まではこのピンク鯖だけだったのに」


 ディスプレイを覗き込みながら言ったビッグマウスの言葉に、真とみどりは顔を見合わせる。


「ひょっとして、まだこの件、終わってないんじゃね?」

「ああ。僕等の預かり知らない所で、よくない事が起こっているのかもな」


 みどりと真の結論は一致していた。


***


 たまたま偶然ではあったが、ニャントンとタークゲーマーは同じエリアにて、巨大兎を追い回して殴り続けていた。


「お前がずーっと待ち望んでいたもんがこのザマだが、楽しいか?」


 すぐ近くで同じ兎を延々殴っているニャントンに向かって、意地悪い笑みを浮かべてテルを送る。


「楽しいさ」

 しかしニャントンは涼しい顔で答える。


「糞イベントでもいい。皆が夢中になって遊んでいる。きっといい思い出になる」

「ケッ、おめでてーな」


 恥ずかしげもなくそう語るニャントンに、ダークゲーマーは舌打ちするが、その後自然と笑みがこぼれる。ニャントンの言うことこそ真理であろうと、ダークゲーマーも認めていた。


(ん……? あれは……)


 兎を追いながら、ニャントンは前方にふらふらと漂う者の姿をとらえた。

 ゲーム内では有り得ない服装。リアルの制服姿の高校生と思われる男女。


(電霊か。しかも死霊の……)


 電霊が異様に増えているという噂はニャントンも聞いていた。


「おい、あれは一体何なんだ? お前の仕業ってわけじゃなさそうだが、何か知らないか?」

 ダークゲーマーが尋ねてくる。


「知らない。噂には聞いていたが、見るのは初めてだ。俺が率いている電霊とは、根本的にタイプが違う。あれはきっと死んでいる」


 ニャントンはダークゲーマーのリアルこそ知らないが、彼が霊に関して常人より知識がある事だけは知っていたので、この解説でも伝わると判断する。


(あんなの俺は知らないぞ。育夫がいなくなって、タツヨシも捕らわれて……累かマキヒメの仕業か? しかし何のために?)


 サーチしてみると、姿を消した累がインしている。しかし声をかけるのが躊躇われた。


 ネナベオージが言うには、メンテが空けた時には、もう育夫とのケリはついていると宣言していたし、確認のために育夫がいつもいる場所に行ってみたら、育夫と明日香の姿は無かった。本当にケリがついたのだと判断した。

 そのため、もうニャントンの中でも終わったことにしたいという気持ちがあった。累ともマキヒメともネナベオージとも、極力関わりたくない。今いる電霊の管理は続けるが、もう積極的に増やすことも無い。あの育夫すら倒したと思われるネナベオージ――彼が何者かは不明だが、逆らうのは得策ではない。


(しかし……この電霊の増加は異常だ。育夫がいなくなった代わりに、もっと危険な何者かが現れた? ネナベオージの仕業か?)


 興味はあるが、やはり確認しようとは思わないニャントンであった。


***


 オススメ11。純子達がインしたピンクサーバーとは、別のサーバー。


「うおりゃあーっ! 50万達成! 1200万の一番乗りは絶対オイラがいただきですよーっ!」


 兎を追いまわしながら、高らかにシャウトするプレイヤー。


「すげーなアリスイ……もう50万かよ」

「あいつなら1200万全鯖最速いけそうだ。我が鯖が誇る最強廃神だもんな」

「ゲームに命捧げてる感あるもんなー。あいつは四六時中インしっぱなしだし」

「アリスイは定期的にゲームから離れている時もあるぞ。一応仕事もしているらしい」

「信じられねー。どんな仕事だよ」


 そのシャウトを耳にしたプレイヤー達が、口々にシャウト主のプレイヤーのことを話題にあげる。彼は自他共に認めるサーバー随一の廃人であった。


「おい、あれ……」


 しかし話題は別のものへと変わった。

 警察官の格好をした者が、虚ろな表情で宙を漂う姿。西洋ファンタジーを意識したこのゲーム内で、あのような装備は無い。


「あれがまさか電霊って奴?」

「えー、マジかよ。バグとかじゃなく?」

「開発の手の込んだ悪戯か、それともハッキングか」

「フォーラムでもスレ立って報告されまくりだぞ。全ての鯖に電霊が現れたって」


 得体の知れない存在の出現を不気味がり、話題にあげるプレイヤー達であるが、それらが危害を及ぼしてくるわけでもないので、すぐにまたゲームに没頭した。

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