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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
17 ネトゲ廃人を量産して遊ぼう
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 オススメ11で、五年ぶりの大型バージョンアップと同時に行われるイベント――謎の巨大生物マラソン。

 その詳細は今まで全く明かされていなかったが、本日の夕方、公式フォーラムにおいてとうとうその情報が一部解禁された。

 複数の場所に沸く超巨大生物を追い掛け回し、殴りまわし、一定のダメージ量に達するごとに、イベント報酬がもらえるという。

 ただし、同じエリアで同じ相手だけ殴っているわけにはいかない。個人で一定のダメージを達成すると、しばらくは同エリアの敵にはダメージが入らなくなるので、他の巨大生物を殴りに行かないといけないというのだ。


「うっひゃあ……聞いてるだけで超つまんなさそー」


 メロンパイから話を聞いたみどりが、顔をしかめて素直な感想を口にした。

 ここ数日ずっと、真、みどり、ビッグマウス、メロンパイの四人でつるんで行動する事が多い。これにたまに純子も加わる形である。


「同感ネ。数年ぶりの大イベントがこれトカもうネ。バ開発の頭の中、全く進歩してナイよ」

 ビッグマウスも嘆息する。


「情報の一部って書いてあるから、他にも何かあるんじゃないか? そっちに期待できないのか?」


 ホログラフィディスブレイを開き、公式フォーラムに書かれている内容を確認しながら、真が言った。


「バ開発のことだからアテにならないネ。一部を出すにシテモ、このレベルなのヨ。他もオシテ知るベシヨ」


 諦めきった口調でビッグマウス。開発には、今まで散々肩透かしを食らったり煮え湯を飲まされたりしているので、良い方には解釈できない。


「面白いかつまらないかは別として、いい思い出として残ればいいなあ」

 一方メロンパイは、比較的前向きな台詞を口にする。


「久しぶりのイベントってことで、どちらにせよ皆やると思うしね。ビッグマウスさんも一応参加はするでしょ?」

「ソリャ皆がスルから一応はネ」


 メロンパイに言われ、渋々といった感じでビッグマウス。


「ソレヨリもバージョンアップで追加される、新たなハイエンドコンテンツの数々の方に注目ヨ。イベントはチョットやってそれでおしまいだけど、新コンテンツは当分遊んでいくモノだしネ」


(当分遊んでいく、か。僕らはこのゲーム、いつまでしてるんだ?)


 ビッグマウスの言葉を受け、真は頭の中でみどりに語りかける。


(真兄、ひょっとして飽きてる?)

(少し、な。僕が上げてる戦士が、他のアタッカーと比べてやたら弱いし、そもそも近接アタッカーは邪魔になることも多いから、それでうんざりしている面もあるけど)


 自分が思い入れあるジョブが、他と比べて露骨に弱くて使えないという現実を思い知り、やる気が無くなりつつある真であるが、このゲームで戦士をやっている他のプレイヤーの意見を見ていると、そんな状況でも何とか自分の居場所を確保しようという、前向き姿勢が見受けられたので、ここで自分が放り出すことに対し、抵抗も感じられた。


(ふえぇ……あたしは魔法攻撃役だから、活躍できる場面は多いけど、それでもはっきり飽きてきてるなあ。純姉が首尾よく電霊げっとしたら、それに合わせて辞めっかねえ)


 しかしみどりにそう言われ、真もそのタイミングで辞めようかと考えた。

 だがそれ以前に、純子や累がどうするかという問題もある。


(雪岡が続けると言ったらどうする?)

(ふわぁ~? やっぱ純姉と一緒にいたいわけだ?)

(お前に隠しても仕方ないが、あいつと行動を共にしておきたいのは確かだ。それにゲームの中に縛り付けておけば、その方が平和だという気もする)

(純姉もやめるんじゃないかな。少なくともみどりと真兄がやめるって言ったら、続けないっしょー)


 純子とて真とゲームしたいから連れてきたのだから、その真がやめたいと言って、純子が自分だけ続けるとは、みどりには思えない。


(そうか。で、累の方は……)

(電霊とは別個の問題になっちゃったよね。真兄も純姉も、御先祖様を連れ戻したいでしょ?)

(今もインしているようだけど、ブラックリストに入れられているようで、声が届かない)


 多くのネットゲームには、ストーカー対策として、特定の相手からの声が届かなくするブラックリスト機能が存在する。しかしプレイヤー側は、ストーカーよりも、ただ嫌いな相手やうるさいと思った相手に対して、この機能を用いる事が多い。


(情報組織に頼んで、リアルでどこに潜伏しているか探ってもらうか。累は見た目が目立つし、全く外に出ないというわけにもいかないだろうから、どこかで見つかると思う)

(食い物なら全部出前で済ますとかできそうじゃん?)

(それでもコンビニくらいは行きそうだけどな)


 駄目で元々と思い、真は累のリアル行方の追跡をする事に決めた。


***


「最近電霊が増加傾向だ。特に一昨日は、一気に相当な数の電霊が増えた」


 中心都市の茶屋でネナベオージと向かい合い、ダークゲーマーが告げる。

 純子がリアル容姿そのままのジュンコではなく、ネナベオージのキャラを使っているのは、有名人であるダークゲーマーと表で接するのを見られることを警戒してだ。特にタツヨシの耳に入ると、いろいろ面倒である。


「ダークゲーマー、君はこの鯖における電霊の数のチェックができるのかい?」

「手間はかかったけど、一応術をかけておいた。物理法則に干渉されずにかけられるタイプの術だが、ただ、霊の測定をする術だ。育夫の居場所も、ニャントンやタツヨシが電霊を引き連れている数も、当然把握しているぜ。何かあった時のために、な」


 不敵な笑みを浮かべるダークゲーマー。基本的に彼は育夫の行動に干渉するつもりはないが、育夫が自分にとって不利益な行為を働かないとは限らないし、その可能性も見越したうえで、事前に予防線は張ってある。


「フッ、当然それを僕には教えてはくれないわけだ」


 ダークゲーマーはこの件に関しては中立的立場を示している。それを見越したうえで、ネナベオージは言った。


「ケッ、ゲーム内での育夫の居場所を教えた所で、どーにかなるもんじゃねーだろ。この世界でてめーのできることは、たかが知れてる。電霊と向かい合った所で、何ができるんだって話だ」


 確かにダークゲーマーの言うとおりだと、ネナベオージも認める。累とみどりの二人がかりで、ゲームの中では浄霊は無理だった。電霊を祓うにも封じるにも、何か別の方法が必要だ。少なくともゲームの中からそれを行うのは無理だ。

 できることといったらせいぜい、ダークゲーマーのように、居場所や数を特定する程度だ。しかしそれすらも、ネナベオージには不可能である。


(どうも手詰まり感があるねえ)


 ネナベオージ――純子は思った。電霊とて霊なのであるから、しかるべき処置さえ行えば、通常の霊と同じように扱えるはずだと信じている。しかしその方法は一つしか思いつかない。


 その方法とは、ゲームのプログラムそのものに封霊の術式を組み込むこと。だがそれを実行するには、運営会社屑工二に乗り込む必要性があるうえ、封霊プログラムをMMOに組み込んだとしても、ゲームの中での動きを封じるだけで、電霊をゲームの外へ引きずり出す事はできないと思われる。

 面倒なわりに決定打にはならない。できれば他の方法を思いついて実行したいと考え、考えをめぐらせているが、いい方法が思いつかない。一方で何か見落としているような気もする。


 また、育夫をゲームの外に引きずり出して捕縛するだけでは解決しない。電霊使い達もどうにかしなければならない。それが明日香の依頼である。純子は先にそちらから解決するために、自らゲームの中に入り、タツヨシやニャントンと接触している。


「つかさー、育夫を捕らえて、奴の力を研究してどーするつもりだ? 奴はドリームバンドを通じて、プレイヤーの超常の力を引き出しているわけだが、その程度ならてめーにもできるだろ?」

 ダークゲーマーが問う。


「フッ、僕は何も育夫君の力そのものが欲しいわけでも、模倣がしたいわけでもない。純粋な研究素材として、欲しているのだよ。応用することもできるかもしれないしね」


 ドリームバンドを用いての超常の力の覚醒は、純子とて何度か実験したが、大した成果はあげられず、副作用も抑えられなかった。よって、わざわざドリームバンドを用いて超常の力の覚醒を行うよりも、別の方法で肉体を改造させれば済むとしていた。


「話は変わるが、イベントがどんなもんか発表あったな。見たか?」

「ああ、見たとも」

「イベントはうちら管理組合がどうこうする性質では無さそうだな。まあ、今見た限りでは、の話だし、今後どうなるかは不明だがよ」


 心なしかほっとした様子でダークゲーマーは言った。


「急にバージョンアップする件について、情報組織に頼んで運営会社屑工二を調べてもらったのだが」

 ネナベオージがまた話題を変える。


「屑工二は今すごく落ち目で、オススメ11もいつサービス停止になるかわからない有様のようだ。それに付け込んだのかどうかはわからないが、多額の投資があったという話だ。その条件が、オススメ11の維持と引き換えという話でね」


 ネットゲームやソーシャルゲームの維持のために、金持ちのプレイヤーがゲーム会社に投資する例は、稀にあるという。だがそういった投資は、投資者の意向で公表されないケースもあるという。


「それかー。でも育夫がそんなこと指示するとは思えねー。ニャントンの独断か、あるいは全く知らない金持ちのプレイヤーの誰かじゃねーか」

「ニャントン君だとしたら、彼はリアルでもそれなりの財力を有していると考えられる。そしてその財は、育夫君から授かった力を利用して築い蓄えたとも考えられるな」


 ダークゲーマーが挙げたニャントンの名を聞き、ネナベオージは推察する。


(輝明君の言葉を信じるなら、育夫君とニャントン君は必ずしも思想的に一致していないってことだよねー。その辺を狙い目にできないかなあ)


 そう考える純子だが、思想的な不一致があったとしても、両者が互いを疎んでいるわけでないのなら、撹乱や懐柔は難しいと思えるし、現時点では情報が少なすぎる。

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