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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
16 ネトゲ廃人になって遊ぼう
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33

 純子はタツヨシと別れた後、真とみどり、それにビッグマウスと共に、ある人物に会いに行った。

 中心都市にてインスンタスエリアの酒場へと向かう。許可した者だけがパスワードを入れて入る仕組みで、ここなら外部に干渉されずに、入った者だけが会話やその他の行為が出来る。そのため一部では、いかがわしい目的で使う者達もいる。


「マサカ、ダークゲーマーとリアルで知り合いダッタとはネ。ところで、累はどうナッタのネ?」

「いやあ……ちょっとあってね」


 ビッグマウスに尋ねられ、言葉を濁す純子。

 四人は、このピンク鯖の有名廃人の一人である、管理組合の長――ダークゲーマーというプレイヤーに会いに来た。


「リアルでも会えるよな。同じ絶好町に住んでるんだし」


 真が言う。目的の人物は、カンドービルから徒歩で数分ほどの場所――歓楽街と市街地の中間辺りにある、大きな屋敷に住んでいる。


「まあゲーム内の用事だから、ゲーム内で済ませる方がいいじゃない。自宅からアクセスもできるんだし」


 純子が言いながら酒場エリアを検索し、ダークゲーマーが作った部屋へと入る手続きを済ます。

 純子達三人が、酒場の中へと転送される。


「よう。本当にてめーらリアルの姿そのままなんだな。面白くねー奴等だわ」


 中には糞喰陰険小人の女性プレイヤーがいた。真と純子の顔を見るなり、ケチをつけてくる。


「女なのはともかくとして、お前もリアルのイメージ通りのキャラ使ってるじゃないか」


 相手を見下ろし、真が告げる。


「それでも俺はちゃんとこっちでキャラクターを作ってるんだから、お前こそとか、そんな同列みたいな言い方は全然違うわ。てめーの感性、相当狂って歪んで腐ってるんじゃねーの?」


 真を見上げ、糞喰陰険小人の女性は甲高い声で言い返す。


「そのわりに、喋り方はリアルと変わらないじゃないか」

 と、真。


「俺は純子みたいにキモいRPはしねーの。それを言うならビッグマウスも、喋り方はリアルと変わらないぞ」

「私ハRPしても訛りがあるカラネ。このままにするしかナイという選択肢の無さヨ」


 自分を引き合いに出され、ビッグマウスは苦笑いをこぼす。


「みどりちゃんだけ始めましてだよね。この子がダークゲーマー君。リアルでは、星炭流妖術の二十七代目継承者の星炭輝明君。裏通りで超常関係専門の始末屋もやってるんだよー」


 本人に代わって紹介する純子。


「へーい、あたしは雫野みどり。あたしも真兄と同じくリアルフェイスねー」

「あ~ん? 雫野だぁ?」


 みどりを睨みつけるダークゲーマー。星炭流妖術と雫野流妖術は、古くから無数の因縁がある間柄だ。


「ヒキコモリド底辺が開祖の糞流派とか、恥ずかしくねーの? つーかあのヒキ根暗ホモはどーしたんだよ。一緒にオススメ11やりだしたって聞いたぞ」

「あん? 何こいつ? 喧嘩売ってるんだよね? 上っ等ッ」


 みどりは歯を見せて笑いながらも、初対面で煽りまくってくるダークゲーマーを睨みつける。


「星炭が雫野に勝ったことが一度でもあったのォ~? この国の術師達からも、両者の力関係は完全に下として見られてる分際で、よっくもまあそんな口叩けるよね~? リアルで会ったらそいつを証明してやんよ」

「そうだなー。情けない先祖共は負けっぱなしだったみてーだが、勝った負けたで世間が評価してると思ってんの? てめーら雫野はさぁ、やりたい放題やって、人様に迷惑かけてばかりの糞流派って評価を下されている自覚ねーのか? 逆に星炭流はずーっと人助けして、世間様のお役に立ってきたんですけどー? 勝ち負けっつーなら、その時点でもう勝負ついてるから。俺らは歴史の裏から人々を守護してきたありがたい存在。お前等はゴギブリみてーなもん。な? 勝負ついてるだろ? そのゴギブリが、自分達の方が強いとか主張してきても、俺の目には滑稽としか映らないねーわ。ま、ゴギブリは言いすぎか。そうだなあ、ナイフや銃をもった幼稚園児が『ボクは強いんだぞ!』って笑いながら、ぶりぶりウンコ漏らして粋がってるみてーな感じ? それが今のテメーだよ」


 非常に嫌味ったらしいイントネーシヨンをつけて、毒舌をまくしたてるダークゲーマーに、みどりは言葉を失う。


「やめとけ。こいつの口汚さは天下一品だ。真に受けないで諦めて接した方がいい。一番いいのは関わらないことだがな」


 真が口を挟み、引きつり笑いを浮かべて震えているみどりを制する。


(あたしも口喧嘩は自信ある方なんだよね。でもこいつに……今完全に言い負けた感じがあって、すげえ悔しいわ~……。これ以上言い返すこともできるけど、何か言い返すと、余計に無茶苦茶言い返されそうな気がするしぃ……)


 真にテルならぬテレパシーを送り、ダークゲーマーを睨みつけたまま、今の気持ちを伝えるみどり。


「お、よかったなあ? 真に止めてもらって。うっわー、震えながらすっげー睨んでやがる。おもしれ~。ほれ、遠慮しないで、言い返してもいいんでちゅよー? 何言い返してきても億倍返しにしてやっから。ほれ、言い返して来いよ、メスガキが。それとも泣くのか? 女はいつでも最後は泣いて逃げりゃいいんだから楽でいいよなー」

「ダークゲーマー、いい加減にするネ」


 なおも挑発するダークゲーマーに、少し怒気の混じった声で注意するビッグマウス。


「みどりちゃんもここは我慢した方がいいよ。この子にだけは、逃げるが勝ちだと思って諦めた方がいいから……」

「うん、わかった……いや、もう負けでいいわ。こんなの勝とうとする事自体、不毛って気がするもん」


 純子にもたしなめられ、みどりは引き下がる。最後の一言は嫌味でも強がりでもなく、偽らざる本心であった。


「んじゃー、本題入るかー。その前におさらいもしとくか」

 四人を見渡し、ダークゲーマーが話を切り出す。


(まるで自分が仕切るのが当然つー感じだね)

 それを見てみどりが思った。


「まずオオスメ11の現状。ほぼ末期に等しく、人はどんどん減っている。運営は大規模な開発こそやめたが、同じグラフィックで性能の違う装備品などは追加していた。アイテムのばら撒きを行い、新規や復帰組に優しい仕様を目指していたが、新規は増えず、復帰組はすぐにまたやめてしまっていました、っと。このゲームを愛し、しがみついていたプレイヤー達は、この世界がいつ消えてしまうかと脅える者もいれば、それがいつ来ても仕方がないと、諦めている者もいたが、いずれにせよ存続してほしいと願っている、と。もちろん俺もその一人だ。だからこそ管理組合なんていう、糞面倒くせー組織のトップもやっていられるんだ」


 その辺の話は、真とみどりも当然知っているので、おさらいと言われても、聞くのが面倒だった。


「で、唐突に現れた電霊なる存在。俺ももちろん把握している。俺は電霊使いを生み出した育夫とかいう奴とも接触したしな。てめーらはその話を聞きにきたと」


 勿体つけてそこまで言ったところで、ダークゲーマーはニヤリと笑ってみせた。


(顔は違っても、笑い方はリアルと同じだな)


 ダークゲーマーの不敵な笑顔を見て、真はそう思った。


「わかりきった事だが、電霊育夫も、その下僕となったニャントンもタツヨシも、このゲームのサービス停止を望んではいねー。物凄く執着している。あいつ等の目的はオススメ11の維持だ。そのために電霊を増やしている。ゲーム人口を地道に増やすことでゲームを維持させようという、能力の無駄遣い的な計画だ。全く上手くいってねーけどな」


 肩をすくめるダークゲーマー。


「ちなみに俺は奴等をどうこうする気はねーぜ。干渉しないと、育夫にも伝えたよ。賛成もしないが反対もしないって所だ。リアルにて、始末屋としての俺に依頼があれば、話は別だがな」

「わからないなー。そんなことしなくても、もっと手取り早い方法はいくらでもあるよね? 運営側を操るなり、企業そのものを支配することだって、その育夫君ていう電霊の力を用いれば容易なんじゃない?」

「ケッ、それは奴の――育夫の美学が絶対に許さねーんだろうぜ」


 純子の疑問に、ダークゲーマーは笑い飛ばすようにして答えた。


「奴はこのゲームにケチをつける行為そのものを忌避している。ゲームの仕様の文句を公式フォーラムで開発者に訴える行為でさえ、忌むべきものだとして、クレーマー共に敵意を抱いている。俺もその気持ちは少しわかるよ。開発や会社を支配下にして思い通りにしよう、ゲームを終わらせないようにしようなんてのは、気に食わないからゲームを自分の思い通りにしようなんて気持ちと、一緒になっちまう。それによ、人が離れていくゲームを無理矢理運営させるなんてのは、ハリボテや死体で遊ぶような、虚しい行為だ」


 最後の言葉で、ダークゲーマーは寂しげな笑みを浮かべていた。


「俺もいろいろと育夫に問いただしたんだ。で、奴は言ってたよ。このゲームのプレイヤーへの干渉は最小限に留める。何人かを下僕化する程度だと。少なくとも危害は加えない。開発者や会社に対しても同様だとな」

「一応筋が通っているな。ゲームが好きで、なおかつゲームを維持するためにも」


 真が言う。


「育夫は維持だけじゃない。昔の栄華を取り戻したいんだよ。大勢の人でひしめきあう状態の、にぎやかなオススメ11をやりたいんだ。人が多ければ多いほど、ドラマもある。それに、ゲーム会社だってその分金も人材も投資するだろう。ハリボテの維持をしたいわけじゃねーんだ」

「ふえぇ~、電霊だってハリボテみたいなもんじゃんよ~。サクラっていうか、にぎやかしっていうか」

「俺もそう思うけど、電霊は応急処置みたいなもんだろう」


 みどりの言葉に対し、ダークゲーマーは言った。


「急にまた大規模バージョンアップをやるってのは、電霊育夫君が、開発会社に何かしたんじゃないかと思ってたけどね。だっておかしいでしょ? 採算が取れないから開発をほぼストップして、最小限の調整と運営だけになったのに、どうしてそんなことしたと思う?」


 純子がタークゲーマーに意見を伺う。


「それはプレイヤー皆不思議がってるわ。しかし育夫はそんなことするタイプには思えねーんだがなー」

「例え育夫君が干渉してなくても、他の電霊使いはそうではないかもだねえ」

「ケッ、それは有りうるな。ニャントンやタツヨシが育夫に無断で、リアルに干渉している可能性か。で、他に聞きたいことはあるか? 俺が出せる情報はこの程度だと思うぜ」

「そんくらいかなー。ありがとね。いろいろと」


 純子が礼を告げる。


「この後、ニャントンと公開会談をする予定だ。丁度いいし、てめーらもこの鯖の廃神王様を拝んでいけよ」


 立ち上がり、酒場を出ようとする四人に、ダークゲーマーが声をかけた。

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