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真、累、みどりの三人は、フレンド登録したメロンパイに加えて、復帰組及び新規プレイヤーを援助する組織の長であるビッグマウス。この五人でPTを組んで、残り一人を探していた。
「ギルドのメンバーも出払っちゃっテルよ。野良入れてイイ?」
「固定五人に野良一人を混ぜたら萎縮するとか、ありませんか?」
確認するビッグマウスに、累が意見する。
「僕、こないだ野良の高速移動狩りに混じってそういうことがありましたが、ギルドの中で会話しているようで、ずっと無言でしたし。僕はしっかりと役目を果たしたとは思いますが、それでもわりと居づらい幹事でした」
「お前一人で野良に出てたのか?」
累の発言に驚く真。
「はい。別のジョブも効率良くレベル上げたいですし、装備も欲しいですから」
あっさりと答える累。
「もし野良を入れるとしたら、ちゃんとPTで会話して、相手に居づらい思いをさせないようにしてあげたいですね」
「わかっタヨ。累、良い心がけネ」
ビッグマウスが微笑み、累の頭を撫でる。
(何だか、ゲームやるようになって随分変わったな。喋り方もはっきりしているし)
どんな形であれ、累の変貌を好ましく思う真であった。それにしても急に変わりすぎな気もするし、自分達に黙って他所で遊びにいくというのは、何か後ろめたいことでもあるのかと、勘繰ってしまう。
「あ、デモ野良誘わなくてもよくナッタかもネ。ギルドにマキヒメが来てるヨ」
「純姉のフレの?」
みどりが一瞬複雑な表情になった。純子の言いつけで、彼女のことをネナベオージやタツヨシを交えて、あれこれ晒した件があり、多少後ろめたい。
「そうヨ。彼女はとても親切で信頼できるプレイヤーヨ。ちょっとネガネガする所もあるケド、許容範囲ネ。じゃあ呼ぶわヨ」
ビッグマウスが宣言してから約一分後、鼻筋が綺麗に整った面長な顔立ちの女性プレイヤーが現れた。どこか人形めいたデザインで、整形女っぽく見えるとみどりは思ったが、もちろん口にはしない。
「初めまして。新規が三名さんも始めてくれるなんて、やっぱりオススメ11復活の兆候あるのかな」
ビッグマウスからすでに話を聞いているマキヒメが、嬉しそうに言う。
「復活と呼ぶには遠いけど、数年ぶりの大型バージョンアップってことで、多少は宣伝効果あったんじゃないかな」
と、メロンパイ。
その後六人は、海底遺跡のような場所へいと移動した。少し変わったバトルコンテンツへと挑んでみようという話だ。
「ズルズルイモズルですね。やりました」
累が颯爽と経験者アピールをする。
「自動生成されるランダムダンジョンを、一階、二階、三階と、どんどん奥へ奥へ潜っていくんです。一階ごとにランダムで様々なお題が出て、そのお題を達成した後、どこかに沸くイモズルを引っ張ることで、次の階へと進めるんです。正直これは予習が必要だと思いますよ?」
真とみどりに交互に視線をやり、累は告げた。
(未経験者二人が足を引っ張らないようにしろってことか。累のくせに言ってくれるなあ)
何となくムッとする真だが、実際累の言うことが正しいのであろうこともわかっているので、素直に従っておく。
(しかし考えてみると、御先祖様は初心者枠を自主的に脱出しようとしているわけで、そのせいでいつまで経っても初心者枠のあたしと真兄とは、一線を画する存在になったわけよね)
みどりは他にネトゲの経験もあるが、リアルの知り合いと一緒にやった事は無い。同時期に開始しながらも、プレイ時間の違いによって生じる意識のズレなども、当然初めて経験する。これもまたネトゲの特徴の一つなのだろうかと、みどりは考える。
「私がささっと説明するヨ。予習は必要なコンテンツだけど、どうせ身内だけで遊ぶカラニハ、最初は失敗してもいいから、経験して楽しんで覚えてイクとイイネ」
そう言ってビッグマウスが、ズルズルイモズルの説明を開始した。主にどんなお題が出て、どう動くかに関してだ。
ゲームが開始し、六人はばらばらに動く。最初に出たお題は、迷路の中のどこかにあるイモズルウィップを探し出して引き抜き、さらにはイモズル食いと呼ばれる特定の敵をイモズルウィップで叩き殺すというものだった。
「イモズル鞭ってこれ? 見つけたよー」
みどりが宣言する。
「こちらにイモズル食いがいるので、すぐに来てください。武器をイモズル鞭に変えて殴るんです」
累がみどりに対して言う。
「へーい、そう言われても、ここマップ開くことできないエリアだから、どこにいるかわかんねーよ」
そのうえ見た目も同じような壁の通路とブロック部屋ばかりで、本格的に迷路じみた構造だ。
「スタート地点から北に向かって2ブロック進んで、東に入ったブロックよ」
累の隣に来たマキヒメが、わかりやすく説明した。
みどりはスタート地点に戻り、累とマキヒメがいる場所へとやってくると、巨大かつ不気味な顔だけが大口を開けて這いずるモンスターを、イモズルがビシバシと殴る。モンスターはそれであっさりと死ぬ。
「さあ、コレで次の階へ進むフラグが立ったネ。オ次はズルイモズルを見つけて引き抜くノヨ」
ビッグマウスのかけ声に従い、ズルイモズルとやらを探して、迷路を駆け回る六人。
「見つけたよ。引き抜くから、今のうちに次の階へ行く準備しておいてね」
メロンパイが声をかけるものの、準備とやらが何なのかわからない真とみどり。
「見つけた時は、今のメロンパイさんみたいにイモズル見つけた報告をすれば、イモズルを引き抜いている間に、他の皆は薬を飲んだり魔法かけたりして自己強化して、次の階へ備えられるの。待っている間に強化すれば、次の階で有利になれるでしょ?」
マキヒメがわかりやすく解説する。
そして次の階層へと移動する六人。
(僕、駆け回ってるだけで、何もしてなかったぞ……)
毎回こうであるわけではないだろうし、たまたまだとわかっているが、それでも釈然としない真であった。
その後、五階までクリアしたところで時間切れとなった。
「たまにセーブポイントがあるからね。そのセーブポイントを探すことも目的の一つだし、丁度五階目にセーブポイントがあったから、今回はこれで成功よ。次回は五階から開始できるって寸法。二人とも初めてにしてはいい動きしていたわ」
真とみどりに向かって、マキヒメが言う。目的の一つということは、他にも目的があって、そちらが成功したのか失敗したのか、二人にはよくわからない。
(でも累はわかっているわけか。後で調べてみるか。どうも累は自分からあれこれ調べて、ゲームに臨んでいるようだし、ただついていくだけのプレイスタイルよりはそっちの方が楽しめそうだ)
そう思う一方で、真はいつまでこのゲームするのかと疑問を抱く。雪岡研究所の面々でゲームしている分には楽しいが、ゲームそのものに魅力を感じているかどうかと問われれば、正直微妙であった。
その後で六人はさらに二回、ズルズルイモズルを行い、十六階まで潜った。
道中、敵がレア武器を二つほど落としたが、真とみどりのジョブでは装備できない代物で、ビッグマウス達三人には不要なものであったので、累が二つとも取得した。累曰く、これからこの武器が装備できるジョブも上げていくので、先に取っておくとのこと。
累のその言い分を聞いて、真とみどりは顔を見合わせた。言いたいことはいろいろあったが、二人共、テレパシーですら会話をしなかった。
(とりあえず純姉にはしっかり報告しておいた方がいいね)
そう思うみどりであるが、純子の性格からすると放置しそうな気もする。
(何でだろうねえ。御先祖様のこの変わりよう、どうしても引っかかるんだよね。真兄も同じ感じ方しているようだけど)
累に変化があって積極的に行動するのはよいことであるはずだが、みどりも真もそれを素直に喜べずにいる。何か言葉にしがたい違和感を覚えている。
ズルズルイモズルを終えた六人は、東洋風の都市の茶屋で、のんびりと雑談をしていた。
「謎の超巨大生物マラソン、糞イベントにならないといいけどねえ。まあ今までろくなイベント無かったし、期待するのは無駄かも」
「そうでもないよ。クリスマスイベントのサンタ袋叩きとか、よく出来ていたし楽しかったでしょ。一回やればおなかいっぱいな内容ではあったけど」
「夏のアイドル魔神油ヌルヌル相撲もそこそこ楽しいネ。デモネ、このゲームのイベントって、盛り上がるヨウナ代物とは違うジャナイ。期待するの間違ってるノでは?」
メロンパイ、マキヒメ、ビッグマウスがそれぞれ、話題となっているイベントの話でもりあがる中、真とみどりは話にいまいちついていけず、置いてきぼり感があった。
「公式フォーラムでもフォーラム戦士達が、イベントについて熱く語っていますね。いろいろ予想を立てたうえで、ああしないでこうしないでああしてこうしてと、好き勝手なことばかり書いている印象ですが」
一方で累はしっかりと話題についていこうとしていた。
「累、あそこを見るノ、ホドホドにシトイタ方がよいヨ」
ビッグマウスが注意する。
「アンナ場所見るくらいなら晒しスレ見てた方がヨポドいいネ」
「そこまで言うか~」
思わず笑ってしまうみどり。
「書き込んでいるプレイヤーもヒドイケド、開発側の態度もヒドイものヨ。平然と嘘をつくし、ネガティヴな内容というだけで削除することもアルのヨ。北朝鮮レベルの言論統制ネ」
「臭いものは蓋。でもその蓋にはべったりと恥が上塗りされてるわけだね」
ビッグマウスの話を聞き、みどりが嘲るように言った。いつまで経っても変わらない、日本人の悪い性質だ。
「ネガ発言が必ず削除されるわけじゃないけど、ちょっと皮肉言ったり荒っぽい言葉遣いしただけでも削除されるし、あそこの削除の基準はかなりおかしいよね。担当者が常識欠けてるんじゃないかと思っちゃう。でも日本人向けのフォーラムの削除基準は滅茶苦茶だけど、アメリカ人用のフォーラムでは、皮肉られても全然削除しないんだよ」
メロンパイの話で、このゲームがアメリカでもサービス運営していると、真とみどりは初めて知った。
その後、マキヒメとメロンパイはPTを抜けて茶屋を去り、残った四人も解散という流れになりかけたが。
「みどり――」
「イェア、わかってんよ」
微かであるが確かに霊気を感じ取り、真顔になる累とみどり。
「どうした?」
「電霊様のお出ましだわさ」
尋ねる真に、みどりがそう答え、歯を見せて笑ってみせる。
他のプレイヤーも何名かいる中で、それは堂々と出現した。
「で、電霊だっ」
「マジで? 野良電霊かよ」
「あれ? でも普通の電霊と違う感じしない?」
突然現れた電霊に、他のプレイヤー達が口々に喚く。
「明日香でしたか」
女性の電霊に向かって累が声をかける。
「この前はどうも」
「アナタ達、電霊との知り合いがいるの? ていうか、電霊って喋レルの?」
軽く会釈して挨拶をする明日香を見て、ビッグマウスが驚く。
「久しぶり、ビッグマウス。この顔はリアルのそれだからわからないけど。私よ。アスカよ」
「あ、明日香ってあのアスカ!? まさか……ソンナ……」
明日香が自分のかつてのフレンドのプレイヤーだと知り、さらに驚愕するビッグマウスであった。




