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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
16 ネトゲ廃人になって遊ぼう
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 累とみどりが野良PTに混じって遊んでいた頃、純子と真も同様に、野良PTに参加していた。純子は「セットで誘われやすいように」と、回復役の白魔法使いへと、ジョブを変更していた。

 草原にて六人PTが組まれ、今から特殊な条件化で、敵と戦う所である。


「私は復帰組だけど経験者なんだー。でもこっちの子は完全新規だから、お手柔らかに~」


 集まった他のメンバーの前で、純子が前置きを置く。


「そういう断りを入れるのは感心だね。ちゃんと前もって言ってくれればいいのに、言わないで済まそうとするやからがいるからさ」

 妙に上から目線で、メンバーの一人が語る。


(何か微妙に嫌な雰囲気だな)


 六人PTの中に二人ほど、第一印象からして感じの悪いプレイヤーを見て、真はそう思う。

 一人は低脳高慢首長奇猿の白鎧姿の男で、まず挨拶もしない。そしてもう一人は糞喰陰険小人の狩人の女で、挨拶こそしたが、たった今、何様だと言いたくなる居丈高な言動をとってくれた。

 これから行うのは、高レベルのプレイヤーも低レベルに合わせてレベルを一時的に下げ、レベルを統一したうえで、強敵と戦うコンテンツだという。新規や復帰組が、既存プレイヤーとも遊べる工夫の一つだと、純子が前もって解説していた。


「レベルは統一するし、強敵だからねー。新規さんの場合――事前に予習してきてくれているならいいけど、そうじゃない可能性もあるから」


 狩人の小人女がせせら笑うかのように言う。


(わざわざ予習しないとダメなゲームなのか? 事前に知らないでいくと、初見は確実に失敗する死に覚えゲーとか、あまり好きじゃないんだけどな。そもそもゲーム自体、裏通りに堕ちてからあまりしてないけど)


 自分に向けられた発言だと意識しつつ、狩人の小人女に対しては特に不快感を覚えず、別のことを考えている真。


「新規の戦士さんにスタナーしてもらったらどうかな?」

「んー、そのレベルじゃスタンブレード使えるよねー」

「やることは簡単だからいけるでしょ」

「簡単でも一番重要な役だぞ」

「集中力は凄い子だから任せて大丈夫だよー」


 白鎧男と真以外のプレイヤーが勝手に何やら話している。白鎧男はずっと無言だ。全て真に向けられた発言であり、彼等の言葉は断片的ではあるが、何となく真に話が見えてきた。


「えっとね、これから戦う敵は、何秒かおきに、PTを一気に壊滅させかねない凶悪な攻撃をしてくるんだ。でもその攻撃がくる直前に敵の体から赤い光が発せられるから、その時に合わせて、戦士さんはスタンブレードって技を使ってほしいんだ。ダメージはほとんど無いけど、敵の動きを止める技って、わかってるよね?」

「了解」


 丁寧に解説したリーダーであったが、最後の念押しの仕方だけ無礼千万と感じる。しかし黙っておく真。

 このゲームで技や魔法を出す際は、ただ念じれば、脳波がドリームバンドに伝達して、その効果を発揮してくれる。技の場合は、一応殴ると同時に念じないといけないが、アクション自体は好き勝手に行って構わない。


「戦士さん、いざという時にスタンブレード出せないと困るから、ずーっとスタンブレードのために待機していてね。他は何もしないでおいて」

「……了解」


 リーダーのさらなる念押しに、真はおもいっきり鼻白む。自分の役割が意味する所を理解し、これからどういう展開になるかも読めてしまったのだ。


 純子が味方に強化魔法をかけてまわるのを横目で見る真。防御力を上げたり、攻撃速度を速めたりしている。


「じゃあ、敵を呼びだしますよー」


 草原の中にある光るポイントを六人で取り囲み、リーダーが確認を取る。この光るポイントが、今回戦う敵が沸くという目印であった。

 数秒後、巨大な兎のモンスターが現れた。リアルに考えると、見るからに強そうで、その厚そうな毛皮に刃が通るとは思えないが、そこはきっとゲームなのだろうと真は考える。


「こっちだー! 俺だけを見ろーっ!」


 今までほぼ無言だった低脳高慢首長奇猿の白鎧姿の男が、突然大声で叫んだ。巨大兎が白鎧男の方を向き、大きな足で白鎧男に飛び蹴りを食らわす。白鎧男は大きな盾でそれを受け止め続ける。

 PTメンバーが一斉に武器で攻撃し、派手にエフェクトが飛び交う。


 やがて兎の体から赤い光が発せられる。


(スタンブレード! これでいいのか?)


 心の中で叫びながら、剣を振るう真。すると振った剣から一際派手なエフェクトと、独特な大きな効果音が発せられ、兎の動きが止まった。


(ちゃんと通じたみたいだ)


 技そのものを初めて使ったし、タイミングもちゃんと合っていたので、ほっとする真。


 二秒ほどで兎の硬直が解け、クルリと体の向きを変え、真の方を向く。


「オラオラーッ! こっち見ろーっ!」


 白鎧男が叫び、また兎が白鎧男に襲いかかる。おそらく叫ぶと同時に、自分の方にターゲットを向ける技を使っているのだろう。


(叫びたくなる気持ちはわかるな。恥ずかしいからしないけど)


 そう思った矢先、また兎が赤く光る。真は心の中で叫び、殴りかかる。

 その後ずっと、その繰り返しだった。赤く光るのに合わせて、スタンブレードを打つだけ。ただそれだけの繰り返し。


(凄くつまらない……。穴一つのモグラ叩きしているみたいじゃないか、これ)


 自分の役割のつまらなさが、思っていた以上にひどくて、真はげんなりしていた。


(他の連中もやってることは単調だ。ひたすらポカポカ殴り、白鎧男は敵のターゲットが変わる度に叫んでも攻撃を自分に向ける。これ、どこが面白いんだ?)


 真剣に疑問に思い、赤い光が走る隙をついて、他のプレイヤーの顔を垣間見る真。

 アタッカー連中は嬉々としていた。ただポカポカ殴り、ひたすら矢を撃つだけでも、楽しいらしい。回復役をしている純子は、いつになく真剣な面持ちだ。盾に阻まれて見辛かったが、白鎧男も真剣そのものだ。


 延々と続く単調で苦痛と思われていた時間に、やがて変化が訪れた。


 もう十発以上放ったと思われるスタンブレードの後、兎の向きがまた真の方に向き、真に蹴りを放ってきたのである。

 反射的に真は攻撃を避ける。いや、避けたつもりであったし、リアルの感覚で言えば避けたと確信していたが――


「え?」


 避けたはずの攻撃が真に当たり、真の体の自由が奪われ、その場に倒れた。ゲーム内の判定では、今の攻撃は当たったことになり、しかも一撃で真は戦闘不能となっていた。


(盾役以外が攻撃食らうと一撃で死ぬのか?)


 とんでもないゲームバランスだと呆れた真だが、一方で納得もする。盾役以外が攻撃を食らうとヤバいくらいのバランスでないと、盾役の存在も不要になる。それにしても一撃で死亡はやりすぎてはないかとも思った。


「こっちだっつーの!」


 白鎧男が慌てて叫んだが、遅かった。

 その後、赤い光が発生したが、誰もスタンブレードを放つ者は無く、兎が物凄い勢いで大回転したかと思うと、白鎧男以外の全員が吹き飛ばされ、盾役以外が戦闘不能となった。


 回復役である純子も死んだため、白鎧男への回復の手も無くなり、やがて白鎧男も力尽きる。勝利した兎が姿を消す。


(何てひどいゲームバランスだ。盾役と、穴一つのモグラ叩き役が一度でもミスれば、それで全滅かよ)


 自己蘇生魔法で復帰した純子に蘇生してもらいながら、心底呆れる真。これが面白いとは少しも思えない。


「盾さん、ちゃんと調和上げてる? ヘイト上げる装備つけてる? ステータスをヘイトアップに振ってる?」


 蘇生するなり、狩人の小人女が白鎧男に文句をぶつけた。


「すまなかった」

 言葉少なに謝罪し、頭を下げる白鎧男。


「謝るのはいいけどさ、その辺しっかりしてもらわないと、また別の所で同じ失敗するってこと、わかる?」


(頭くる言い草だなあ、こいつ……。こいつはただ矢を撃ちまくっていただけのくせして)


 生意気極まりない言い草の狩人の小人女を、思いっきり蹴り飛ばしてやりた衝動に駆られる真。


「白さんも回復遅かったんじゃないのかなー。殴っててよく見えてないけど」

 別のメンバーが責任の矛先を純子に向ける。


(お前もただ殴っていただけだろ。何で気持ち良さそうに殴ってるだけで、大した責任も無い奴が、盾役や回復といった重要なポジションにいる者を責められるんだ。文句があるならお前がその役目をやれよ)


 真の苛立ちがさらに増す。真は知らなかったが、大して責任を負わないアタッカーが、戦闘の要である盾役や回復役を責めるというのは、ネトゲではよくある醜悪で理不尽な構図の一つであった。

 ネトゲ初心者の真にもその本質は見えたものの、実際の所、白鎧男にどれだけの落ち度があったのか、真には全くわからない。


「白さんは悪くない。全て俺のせいだ」


 そのうえ盾役の白鎧男が己の非を認めたうえで責任を自分一人で背負う発言をする。

 ゲームの腕や落ち度どうこうより、その発言だけで真の中で、白鎧男への好感度が急上昇した。


「ま、わかっているのならいいけどね」


 狩人の小人女がなおも憎まれ口をたたく。再び蹴り飛ばしてやりたい衝動に駆られる真。


「もう一度挑戦してみましょう。このまま負けっぱなしというのも悔しいですし」


 リーダーが言うものの、真はもう帰りたい気分になっていた。もう一度あの穴一つモグラ叩きを延々と行う作業をするのが、苦痛で仕方が無い。

 自分も殴りながら、赤く光った時だけスタンブレードではいけないのかと考えるが、おそらくゲームのシステム上それが無理だから、殴らず構えていろと言われているのだろうとも思う。


(殴り許可出たとしても、面白くはないだろうけど。ただポカポカ殴るのを繰り返しているだけだし)


 他のアタッカーメンバーが、ただポカポカ殴るのを気持ち良さそうにしているのが、真には心底理解できなかった。殴りたいだけならネトゲではなく、リアルでサンドバックでもひたすら殴っていればいいんじゃないかとか、そんなことまで考えてしまう。


 再戦を行うために、強化魔法のかけなおしていたその時、別のプレイヤー二人が、六人のいる場所へやってきた。


「おいおい、今日この時間のこのコンテンツは、うちらが利用する予定だったんだぞ。何で他にPTがいるんだよ」

「お前等、管理組合の許可も無く、勝手に占有コンテンツを使用するとはいい度胸だな」


 チンピラの因縁のような物言いをしてくる二人組。


(何だ? 管理組合って。遊ぶのに誰かに許可もらって、予約を取らないといけないってことか? で、うちらはそれを無視したと?)


 ゲームの運営サイドで、そんなことが決められているのかと、真は訝った。

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