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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
15 天に唾を吐いて遊ぼう
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31

 最上階まで上がる間、襲撃されることはなかった。


 途中の階もくまなくチェックしたが、誰もいない。最上階も一室を除いて全て見て回る。

 残ったのは、遊戯部屋と書かれた扉のみ。部屋の中には明らかに人がいる気配。抑えられているが、殺気も漂っている。


 シルヴィアが扉を開き、同時に盾を具現化させる。

 銃声が立て続けに起こる中、シルヴィアは盾を構えて部屋の中へと突進していく。俺とほのかも後に続く。


「避けてみろ」


 不敵な笑みを浮かべて言い放つと、シルヴィアがまた巨大盾を、放たれ小象の構成員めがけて飛ばす。

 今度は壁を壊して外まで飛んでいくことはなかったが、二人の構成員が盾と壁に挟まれてぺちゃんこになった。最初に盾がぶつかった衝撃で死んでいる気もするが。


 室内にいる残りの構成員は四人。その中に立川の姿は無い。すれ違いで裏口から逃げたのか、それともまだ見落としているどこかに隠れているのか。


 瞬く間に俺が二人、ほのかが一人始末するが、ほのかが担当していたもう一人は、銃弾を浴びても平然とした顔をしていた。

 どうやらこいつが、純子が作った最後のマウスのようだ。

 金髪モヒカンの身長2メートル以上確実にありそうな大男。同時に横幅も非と二人分以上ありそうなでっぷりと太ったデブで、鋭い目つきをした男だ。作務衣姿なのは何か意味があるのか、それともただの趣味か。

 銃弾が効かないのは俺みたいに再生能力があるのか、あるいはほのかのような特殊な体なのか。いずれにしても面倒だな。


 俺は部屋の中に備え付けられていたバーカウンターの上へと上がった。カウンターの影に潜むものはいない。ビリヤード台もあるが、その陰にも誰もいない。他に誰かが潜むような場所は無い。

 蛆虫男が現れるとあれば、床もしくは天井か? その辺を警戒した方がいい。


 シルヴィアが無言でまた盾を呼び出すと、モヒデブめがけて吹っ飛ばす。これであっさり死んでくれれば楽であるが。

 モヒデブは盾に向かって両手を広げ、まるで受け止めるような構えを取る。パワーに自信有りってか?


 盾がモヒデブを直撃する。モヒデブの体をそのまま壁まで押し潰すかと思いきや、途中で盾の動きが止まった。

 おそらくはトラックの衝突以上の衝撃と思われる、盾の衝撃を全て受け止めたってのか。


 盾が消える。ふてぶてしい面構えをしたモヒデブが、血の唾を吐く。

 シルヴィアは特に驚くこともなく、盾が消えた直後、手にしたライフルをモヒデブに向けて、片手で撃つ。今までにもあの盾の一撃を防ぐなり避けるなりした奴もいて、その次の行動も体に染みこんでいるといった感じの動きだ。


 ライフルの弾の衝撃に多少ひるむが、やはり効いているようには見えない。血すら出ていない。再生能力が途轍もなく早いのか? それとも、銃弾すら弾く硬いからだなのか?

 ところが、モヒデブの左腕の肘と右足の膝が、ほぼ同じタイミングでおかしな方向に折れ曲がった。


「特製の溶肉液だが、それでも平気ってんなら仕方ないな」


 呟き、シルヴィアがさらにライフルを撃つ。今度は顔を狙った。口の辺りを銃弾が穿つ。そして口と顎が溶け出す。


 純子に改造された直後に聞いた話によると、バトルクリーチャー用の溶肉液は、純子の造った再生力持ちマウスにとっても危険な代物だという。とはいえ、海外の戦場ならともかく、日本の裏通りでわざわざ溶肉液入りの銃弾を携帯している奴なんて滅多にいないだろうし、俺は特に気にしていなかったが……

 シルヴィアはいつも持ち歩いているのか? それとも純子のマウスが相手だとわかって予め用意したのか? いずれにせよ、今後再生能力を過信するのはやめておこう。たまにそういう奴もいるかもしれないし。


 モヒデブの折れ曲がった腕が落ちた。足もだ。溶けて切断か? さらには顎まで落ちてスプラッタな顔になる。


「む……」


 それを見てシルヴィアが呻く。どうやら想定外の出来事だったようだ。自分で使用した溶肉液が、ここまで強力だとは思わなかったのか、それとも、そこまで強力というわけではなく、モヒデブの体の変化を警戒しているのか。

 答えはすぐにわかった。後者だ。モヒデブの溶け落ちた手と足と顎から、茶色いロープだかツタだかのようなものが何本も勢いよく伸び、それぞれ不規則な動きでもって、弧を描き、シルヴィアめがけて襲いかかる。


 シルヴィアは盾で防ぐが、盾にぶつかった無数のツタは、そのまま盾に沿って動き、盾の裏側へと回りこむ。


 それを見てもシルヴィアは冷静そのものだった。盾が高速回転して、ツタをはじきとばす。


 一方でモヒデブの体全体にも変化が起こっていた。体中のありとあらやる所からツタが生え、根が生え、さらには枝が生える。


「あーあ、ああなっちゃったら元に戻れないから、加減しとくようにって言っておいたのになあ」

 その光景を見て純子がおかしそうにくすくすと笑う。


「まあ加減しようとしまいと、無茶な改造手術したから命そのものもが長持ちしないってことも伝えておいたし、もう自暴自棄なのかもしれないけどねえ」


 笑顔のままほざいた純子の言葉に、俺は腹も立たなかった。所詮敵というか、このモヒデブ自体、ツラ見ただけで殴り殺してやりたくなる悪相の奴だったからだ。

 ひょっとしたら純子も同じこと考えて、粗雑な扱いをしたのかもしれないとまで、考えてしまう。


 木だか人だかわらない姿へと変貌したモヒデブであるが、髪の毛にあたる部分が葉っぱでモヒカン状になったままなのは、笑うところなのか?


 ほのかが腕を肉液化させてモヒデブを攻撃する。酸で溶かされた煙があがるものの、モヒデブはひるんだ様子を見せない。


「再生速度が凄いです。木の幹も樹皮も、次から次に生み出されてくる」


 手を元通りにして、ほのかが落ち着いた口調で告げる。直接触れて理解したってことか。


「無限の再生能力は無いだろ」


 不敵な笑みと共に、シルヴィアが盾を出すと、木と人が混ざった化け物と化したモヒデブめがけて飛ばす。

 モヒデブはそれをしっかりと受け止める。直後、盾が消えて、またシルヴィアの手元に現れ、続けざまに盾がモヒデブめがけて飛ばされる。


 それを通算六回ほど繰り返された所で、モヒデブはとうとう受け止めきれなくなり、その巨体が吹っ飛んで壁に衝突した。


 動きの止まったモヒデブめがけて、ほのかが両腕を液状化して飛ばす。

 狙いは両腕ともモヒデブの頭部だった。逆立った葉っぱモヒカンの部分がみるみるうちにしおれる。今度はすぐに腕をひっこめることなく、しつこく溶かし続けているようだ。


 一方で俺は戦いを見守り続け、何もしないでおく。俺はあくまで遊軍だ。いつ、あの気配無き蛆虫男が現れて、奇襲をかけてくるかもわからないし、そちらへの警戒を怠らないようにしていた。


 ほのかが攻撃しているのを見て、シルヴィアも攻撃を銃に切り替える。

 ほのかと同じく頭部――ではなく、そのやや下の喉あたりを狙って、何発も続けてライフルを撃つ。頭撃ったら、ほのかにも溶肉液浴びせることになるしな。とはいえ、液体かつ酸の性質化したほのかが溶肉液浴びたら、果たしてどうなるのかという疑問もあるが。


 モヒデブの本体そのものは動きが止まったが、体中からツタが放たれ、部屋中をツタが乱舞する。


「大島、俺の後ろにっ」


 シルヴィアが叫ぶ。お言葉に甘えて俺はシルヴィアの背後に回り、盾でガードしてもらう。


 ほのかはというと、腕を肉液化したまま手元に戻し、襲いかかるツタを片っ端から弾いている。弾かれたツタは、溶けて落ちる。

 純子はツタをたくみに回避しつつ、たまに素手で払って落としていた。払われたツタは、鮮やかな切り口で切断されて転がっているのが見えた。

 盾が回転して、シルヴィアに向かってくるツタは全て切断して弾かれている。ほのかと純子の様子は見えるが、肝心のモヒデブがどうなっているのかは、盾に遮られてわからない。一体どんだけツタが出てくるんだ。このツタの増殖にしても、限界がありそうなもんだが。


 そう思った矢先、二発の銃声が響いた。

 ほのかが撃ったものでも、シルヴィアが撃ったものでもない。音が違う。もちろん俺であるわけもない。


 嫌な予感がして、俺はほのかの方を見ると、服の胸の中央部分が血でにじみ、大きく目を見開いて呆然としているほのかの姿があった。


 俺は硬直した。迂闊だった。盾に視界を遮られていて、奴が現れるのがわからなかった。いや、今もどこから現れて、どこにいるのかわからない。


 銃声は二発だった。ほのかと逆方向を見る。喉の真ん中を撃たれて、閉じた口の隙間から血を吐き出している純子の姿があった。

 純子が驚きに目を剥きながら、撃たれた箇所に手をあてる。常人では即死級の致命傷だが、純子は倒れる気配が無い。


 ほのかだけではなく純子までこの不意打ちを避けられず、一瞬にして二人共致命傷という事態。一昨日と同じだ。全く気配無く、予感も無く、俺達四人の意識の空隙をついて、突然現れた。突然撃ってきた。そして気がつくと撃たれていた。


「おいっ!」


 俺は危険を承知で盾から飛び出した。シルヴィアが制止の声をあげたが、無視した。


 真相は一目でわかった。

 つい今しがたまでモヒデブがいた場所に、あの蛆虫男――葉山が、硝煙の立ち上る銃を手にし、佇んでいた。

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