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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
15 天に唾を吐いて遊ぼう
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14

 その後、俺は和室の客間へと通され、畳の上で寝転がりながら、ほのかの改造結果を待った。


 すでに時刻は午後三時を回っている。随分と時間がかかるものだ。いや、俺がここで実験台になった時もそんなもんだったか? よく覚えていない。


 ネットで裏通りの情報を漁る。特に四葉の烏バーと放たれ小象の動きに関してだが、特に動きは無いようだ。おっさんにも二度ほどメールを送ったが、異常は無しとのこと。俺とほのかが動かないのなら、おっさんの側から動く気も無いようだ。


 朝、早起きしたせいでいつしか眠くなってうつらうつらとしながら、俺は昔のことを思い出していた。あるいは夢だったのかもしれない。

 小学生の頃だ。クラスでいじめがあった。


 教師は当然のように無視していた。俺だけが無視せずにそいつのことをかばっていた。俺には他の児童も教師も、何で無視できるのか理解できなかった。もちろんいじめをする糞野郎共はもっと理解できない。

 かばったせいで俺も一緒にいじめられた。反撃しなかったのは、あの頃の俺が、暴力が嫌いだったからだ。暴力性に満ちている今の俺からは信じられない話だけどな。


 教師が無視していたせいで、そして家族にも相談できない二人だったが故、いじめの内容は日々エスカレートしていき、やがて最初にいじめられていた子の方が自殺した。

 いじめた側は全く良心の呵責が無い。少なくとも俺の目には見受けられなかった。机の上に花瓶が置かれ、花瓶に挿されていた花はいじめていた奴等がむしりとって、笑いながら鼻の穴に挿して遊んでいた。


 死んだ方は死に損。そしていじめた側は意に介さず、この後成長し、普通に就職して、普通に結婚して、幸福になるわけか?

 それが果たして許されるのか? 殺された側とその家族は?

 そして俺が感じた疑問と同じことを遺族が考えているとなると、可哀想で仕方が無い。


 成長してからも、それがずっと引っかかっていた。忘れることができなかった。


 裏通りに堕ちて、四葉の烏バーに入ってまず行ったのは、あの時イジメを行い、自殺まで追い込んだ連中が今どこにいるか、情報組織に探してもらうことだった。


 探し当てた後、全員しっかりと落とし前をつけてやった。

 梅津という刑事にバレたが、事情を話したら見逃してくれた。

 正義の味方になったつもりはない。正当化する気も無い。これも所詮は俺の自己満足に過ぎない。俺自身のウサ晴らしのためにやった。俺も屑だ。


 まだあいつが自殺する前に、いじめている奴等を殺すべきだった。そうすれば俺がブチこまれるだけで済んで、いじめられていた子が死ぬこともなかったのに。

 あるいは一緒にいじめられていた際、いじめられていた子ともっと仲良くしてやればよかった。そしてもっと必死にかばえばよかった。しかしそんなことを考えても、全て後の祭りだ。


 イジメに耐え切れず小学生のうちに自殺した同級生。アパートの横で、原型を留めないほどグチャグチャにされて転がっていたあいつ。俺を散々虐げて、俺の手を握りながら死んでいったあの男さえも、助けてやりたかったと、今では思う。

 全部俺が馬鹿だったから、力が足りなかったから、助けられなかった。守れなかった。そう思ってずっと悔やんでいる。


 今度は守りきらないと。今度こそ……


***


 ほのかの改造手術が終わったのはその日の午後七時であったが、ほのかは眠っており、一晩は安静にしておくようにと、雪岡に言われた。

 俺はずっと客室でごろごろしながら、いろんなことを考えていた。


「食事くらいしたらどうかね?」


 さらに一時間が経過し、部屋を訪れた随分とガタイのいい壮年の男に言われ、初めて食事が運ばれていた事に気がついた。いろいろと考え込むあまり、気に留めてもいなかったらしい。あるいは寝ていたのか?

 男はこの研究所で、お茶淹れ係兼情報処理係として働いているそうで、蔵と名乗った。彼も雪岡純子に改造されたマウスとのことだ。


 一晩が明け、朝の六時半頃に、俺が滞在している部屋にほのかが元気な顔を見せたので、俺は心底ほっとした。雪岡純子も共にいる。


「ミルクに特別に教わった人体ゾル化施術に独自アレンジを加えてみたんだ。成功していれば、私のマウスの中でもかなりの逸品になるよー」


 雪岡が説明したほのかの改造内容は、俺にはちんぷんかんぷんだったが、かなり強いマウスになったという事だけは伝わった。


「ほのか、もう大丈夫なのか?」

「はい、もうすっかり楽になりました。さっきまでは視界がふわふわしていましたけど」


 声をかける俺に、ほのかは両手をひらひらと振り、鳥が空を飛ぶような仕草をしてみる。何か危ない気がする。


「麻酔が抜けたし、体が適応して馴染んだんだろうねえ」

 と、雪岡。


「おかげさまで私は比類なき力を得られました。でも今は秘密です。見てのお楽しみです。サプライズです」

 自慢げに微笑むほのか。


「事前に知っておいた方が作戦も立てやすいんだがなー。改造の副作用とかはないのか?」

「多分大丈夫だと思うよ。安全性の方を重視したからねー。その分、瞬間的なゾル化はできなくなったけどね。理想としては一瞬でゾル状態になるのがいいんだけど、事前に数秒間の貯めみたいな時間が必要だからねー」


 ゾル……? 学の無い俺にはよくわからん……


「その辺はうまく扱ってみせます。そもそも敵に、その貯め時間が悟られるということは無いでしょうし」


 と、ほのか。何だかわからんが、すぐに発動はできない力ってことか。


「今後どうしますか? 今までのようにぶらぷらしながら、襲撃を待って返り討ちにします?」


 ほのかが俺の方を向いて尋ねてくる。


「敵がどんどん改造強化されていくんだったら、いつまでも逃げて、隠れているわけにはいかない。こっちから攻めていかないと駄目だわ。お前をさらいにくる放たれ小象の刺客を返り討ちにしまくるだけじゃなく、小金井も殺りにいかねーと」

「そうですね。理にかなっています」

「それに、四葉の烏バーの方が俺達より危ない。今までみたく兵を出してくるだけならともかく、次々と雪岡に改造された奴等が襲ってくるとあれば、あっちで対処するのは大変だ」


 マウスは全てこっちで担当して処理したい所だが、うまくこちらで処理できるものだろうか。むしろおっさんと合流した方がいいんじゃないかとも思うが、それだと防戦一方になっちまうか。いや、それも有りか?


「おっさん達と合流して、守りに徹するという手もあるか? 襲撃者をひたすら返り討ちにして、犠牲者が出まくれば、流石に諦めるはずだ。気に入った女一人をさらうために、部下を犠牲にしまくるボスに、部下がついていかないからな」

「そうでしょうか? 噂に聞く所によると、小金井は相当我欲を優先するタイプだと思いましたが」


 ほのかが指摘する。確かにその可能性もあるんだよなあ。


「それに、純子さんの所で複数人を一度に改造して、マウスが何人も一度に襲ってきたら大変だと思うのです」

「あるいは、諦めたと油断したところで、また来るんじゃないかなー」


 雪岡が口を挟んできた。


「守勢に回るのは無しか」

 小さく息を吐く俺。


「あ、メールがどんどん入ってきた。放たれ小象の人達だ」


 雪岡が携帯電話を取り出し、空中に映像を投影する。


「何人も改造候補が来るみたいだよー。いやー、嬉しいねー」


 本当に嬉しそうな声をあげる雪岡。うぜえ……


「来る前に殺すか」

 俺が言う。


「ここは中立指定地域だから、争いは御法度だよー?」

「カンドービルの外で待ち伏せして殺してくるまでのことだ」

「そ、それはちょっと困るなー」


 雪岡が難色を示す。


「と、言ってもビルの外じゃあ、放たれ小象の構成員かどうか、見分けがつかないな」


 雪岡研究所に入った時点で、判別はつくがな。入って出てきた奴は放たれ小象の一員と見なして、外で攻撃できる。無関係のマウスって可能性もあるが、それはうまいこと見て判断しよう。


「あ、私は君達の戦いも見てみたいから、またすぐに会うと思うよー。二人の邪魔しちゃ悪いから、放たれ小象の方についておくねー」


 それなら判断もつけやすいが、二人の邪魔って……


「気遣い、真に感謝します。さあ行きましょう、遼二さん」

「あのなあ……」


 雪岡に向かって丁寧にお辞儀して、俺に笑顔を向けるほのか。俺はまた照れ隠しで目を背けてしまった。

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