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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
14 ジャーナリストと遊ぼう
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25

 調教施設で目ぼしい収穫は無かった。一応クローンはいたので、警察を呼んで保護してもらった程度だ。組織の構成員による抵抗も無く済んだ。

 その際の様子を映像にも収めたが、先日までの記事に比べると、インパクトは乏しいであろうと、義久は判断する。


 雪岡研究所に戻り、純子も交えた五人で、秋野香という人物について話していた。


「へーい、あのよっしーのダチでホルマリン漬け大統領の幹部って、純姉にどんな改造されたのぉ~?」

「んー……それをここで言うのもフェアじゃないかなあ。一応守秘義務もあるし」


 みどりの質問に、純子は困ったように微苦笑をこぼす。


「あばあばばば、そう言うと思った。でもさァ、どうせよっしーのことだからあいつにのせられて、一人で行くって言い出すの間違いないし、フェア云々以前にホルマリン漬け大統領は敵なんだから、それに楯突くよっしーを援助する方が筋通ってね?」

「確かにそうかな。でも聞いても仕方ないよ? 香君の能力は戦闘向けの能力ではないからねー。他人の性癖を見分ける力だから」


 みどりの言葉も一理あるとして、純子はあっさりと香の改造内容をバラす。


「亜希子に授けた系統の力か」

 真が言った。


「あれは凜ちゃんの生来の力をコピーしたような代物だけど、香君の力はそれとはまた異なる性質で、なおかつもっと強い力だよー。本人を直接見て相性判断するわけではなくて、名前と画像だけでも判定できちゃうから。本人も気付いていないような特殊な性癖を見抜いて、その性癖を満足させる商売をして、彼は組織の中で成り上がっていったからねえ」


 純子の解説に、真は納得する。


「で、どうするんだ? 本気で一人で行く気か?」

 義久の方を向き、真が問う。


「少し考える。それよりも先に今日の結果を記事にして投稿して、明日は香が言ってたクローンビジネスの担当者とやらの取材だ」

「取材だと!?」

「ふえぇ~、取材で済むのぉ~?」


 義久の言葉に、美香とみどりが反応した。取材など応じると思えないし、香が口にしていた始末をつけろということは、殺せと促していたに相違ない。もちろん義久にそんなことが出来るとは誰も思っていないが。


「ああ、いろいろ聞きだしてそれを記事にしてやるさ」


 義久もそれは承知したうえでなお、取材という形で臨む気でいる。あくまでペンの力で引導を渡してやりたいと、強くこだわっている。そしてそれが出来るとも信じていた。


「できればそいつを再起不能にして、この腐った商売をやめさせたい!」


 怒気を滲ませて美香が叫ぶ。本当は殺してやりたいほど憎いが、義久の手前、それは口にしないでおく。義久ができるだけ血を流さない方向で済ませたがっているのは、美香にもわかっている。


「香も言っていたが、もう商売はできないだろう。これだけ派手にバラしたんだから。すでに表通りでも知られているし」


 口ではそう言う義久であったが、しかしだからといって放っておくつもりもおかない。真実を最後まで追い続ける者として、諸悪の根源たる人物と向かい合うのは避けて通れないと、義久は考えている。


「警察もやっと動き出す気配みたいだよー? ホルマリン漬け大統領のお客さんに権力者が多くて中々動きづらかったけど、流石にこれだけ話題性満点な事件が明るみになろうとしているとあれば、その分、世論を味方につけて動きやすくなった感があるしねえ」

 と、純子。


「つまりあと一押しだな。三木谷が利用客だとバラしたのも効果がでかかった。利用客のリストを手に入れて全て流出させれば、クローンの居場所も……」

「全ての客名を公開するのは悪手じゃない? 全員を明るみにしてしまうより、そのうちの何割かを晒し者にした方がいいよ。残った人は自分の悪行が世間にバレないかと脅えるわけだし、言うこと聞かせやすいと思うよー? 後々、別件で脅迫のネタにして利用することだってできそうだしねえ」


 義久のプランに純子が異を唱え、あげく義久がやりたいことと全く違うことを言い出した。


「イエア、さっすが純姉、悪巧みさせたら天下一だァ」

「最も効果的ではあるな! 利用者全てを裁けないのは口惜しいが!」


 しかしみどりと美香も純子に賛同しているので、義久は戸惑う。


「いや……俺がやりたいのはそういうことじゃないんだがな。俺はあくまで真実を追及し、世に知らしめたうえで、社会にはびこる悪を裁きたいんだから、言うこと聞かせるとかどうかってのは……」

「おっと、通じてなかったみたいだね。残りを脅迫することで、警察は介入しやすくなるんだよ。名前が出された客は問答無用で逮捕する代わりに、名を出されていない客に対しては、警察に圧力をかけないように圧力をかける――という流れになるだろうからね。全員の名を出すと、全員一丸になって保身のためになりふり構わず、警察に圧力かけると思うよー?」


 こっちの言うことこそ通じていないじゃないかと、純子の話を聞きながら義久は呆れる。


(でも他の面々も同意しちゃってるし、もう純子に合わせた方がいいな。この場では俺が一番素人なのも確かだし、世話になっている立場でもあるし。俺より純子の方が正しいのかもしれん)


 本来、わりと引くことを知らず我を押し通す性格の義久であったが、様々な要因が重なって、この場は折れるという選択に至った。


「へーい、それならみどりが何とかしてもいいぜィ。また警視庁と警察庁のお偉いさんをマインドコントロールして、圧力かけられても問答無用で逮捕するように仕向けちゃえば、それで済んじゃうんだよねぇ。政界財界のお偉いさんの圧力なんて、役人がロボット化して完全無視しまくれば効果無いよォ~」

「そんな真似ができるのか!」


 軽い口調で申し出るみどりを、疑わしげに――どころか胡散臭そうに見る美香と義久。


「権力者の言うこと聞かなくて、警察のお偉いさんを左遷や降格しても、みどりちゃんが片っ端からマインドコントロールしちゃえば、問題無いってことだよねえ」


 しかし純子はみどりにそれが可能という前提で話しているので、美香は信じるしかなかった。一方で義久はそれでもなお信じられない。


「何かすげー現実感無い話だな。その話が本当なら、その気になればみどり一人で世の中メチャクチャにできないか?」

「ふわぁ、わりと可能っスよォ~? でもあたしが本気で世界を壊そうとしたら、防ぐ側も本気になるから、難しいよぉ~」


 からかい半分で言う義久であったが、みどりはにやにや笑いながらも真面目にそう返す。


(実際この間の解放の日で大暴れしたしな。メチャクチャになったというほどでもないが)

 心の中で呟く真。


「みどりちゃんは国家機関に向けて、力を乱用しないと方がいいと思うけどね。あまりに何度も干渉すると、朽縄一族も白狐家も黙ってないと思うよー?」

「上っ等――と言いたい所だけど、確かに連中が本気になったら、ちょっと面倒かー。御先祖様と一緒に、獣之帝を斃した連中の子孫だし」


 霊的国防を預かる大家の名を出してたしなめられ、みどりは引き下がる。


(今の話を聞いてると、権力者よりもその下にいる奴等が悪い気もしてくるな。奴等が権力者に屈しなければ……って、それも難しい話か)

 忌々しげに義久は思う。自分もかつては権力に屈していた下っ端の一人だ。


「まあ純子の路線でいってみるさ。別に脅迫の材料に利用とかは……」

「すべきだよー。得られる手札はできるだけ多く持っていた方がいいって。手段を選んだり美学にこだわったりできるほど、義久君には力と余裕があるわけじゃないでしょー?」

「わ、わかった……」


 喋っている途中に、純子に口を挟まれたあげく力説され、義久はしぶしぶ頷いた。純子の言うことも、わからないでもない。

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