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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
14 ジャーナリストと遊ぼう
441/3386

15

「よし、じゃあ唄え。新曲のあれだ」

「ハイッ! 月那ミカっ、ウタウゾー!」


 美香クローンが立ち上がり、鼻血まみれの笑顔で気合いを入れて叫ぶが、三木谷はまたへなちょこぱんちで、美香クローンの顔を殴る。


「オリジナルの美香はそんな間の抜けた叫び方をしないと、何度言わすんだ! 本っ当、興醒めだ! もういい! そこに寝て足を開け! 罰として今日は徹底的に責め――」


 三木谷の言葉途中に、部屋のドアが大きな音と共に開かれた。


「えっ!?」


 扉を殴りつけるようにして開け、怒りを露わにして自分を睨みつける、もう一人の月那美香を目の当たりにし、三木谷は思わず間の抜けた声をあげた。


「な、何だ!? お前等はっ!」


 我に返った三木谷が、室内に入ってきたカメラを回す義久と、怒りと殺気のオーラ無限大の美香に向かって、誰何する。


 美香は三木谷には答えず、ただ自分のクローンへと視線を注がせる。

 クローンの近くへと歩み寄り、間近まで来たところで立ち止まると、美香はただじっと自分のクローンを見つめていた。何を言ったらいいか、どうしたらいいのか、自分が今何をやっているのか、美香自身にもよくわかっていなかった。


「あ……あナたは……えっと……」


 至近距離で自分と同じ顔の少女にじっと見つめられ、戸惑い気味の表情を浮かべる美香クローン。


「新しイ仲間ですカ? 私はツクナミカ十三号デス。よろしく。ナカヨクしましょウね。あなたはツクナミカ何号デスカ?」


 オリジナルの方が全く喋ろうとしないので、クローンの方が相好を崩して、親しみを込めて挨拶をする。

 その挨拶内容を聞いて、美香は心底ぞっとした。同時に、怒りと悲しみが嵐のように美香の中で吹き荒れた。


「御主人様に気に入らレるよウ、お互いに頑張りましょウね。先輩の私が、いろいろ教えてアげマス。まずおしャぶりする前にはこウ言いまショう。『御主人様のくっさいくっさいおペニペニを、どウかこの卑しいミカの口で頬張ラせて御奉仕させてくだサイ』と。おペニペニ汁を飲み終エたラ、ちゃんとこウ言いましョウ。『あリガとウございまス、御主人様の濃厚なおペニペニ汁、とても美味しかッタです。ごちそうサマでした』と」


 クローンの厚意によるレクチャーに、美香は全身をぷるぷると震わせる。


「うっひゃあ……」


 室内に入ってクローンの言葉を聞いたみどりが、ますます引きつった笑みを浮かべている。真も今や室内にいる。


「私はクローンじゃない! お前のオリジナルだ!」


 美香が叫ぶと、クローン美香の表情が凍りついた。クローン美香だけではない。三木谷も、他のクローン少女達も全員仰天していた。


「嘘だろ? 何でこんな所にオリジナルが……いや、そもそもお前ら誰なんだ……」


 信じられないといった表情で、三木谷が再び誰何する。今度は呻くような声で。


「ただのフリージャーナリストです。昨日、裏通りデビューを果たしたばかりの、高田義久と申します。今朝ホルマリン漬け大統領のクローン製造工場の動画と記事があがっていますが、御存知ありませんか? 本日は、クローンアイドルを特に御贔屓になさっている三木谷社長の元へと、こうして取材にきました」


 カメラを回しながら、義久がおどけた口調で自己紹介をする。


「うワアあああアあああんっ!」


 義久が話を続けようとしたその矢先、突然クローン美香が両手で顔を覆ってうずくまり、火がついたように泣き出した。

 奥では他のクローン達も何名か、美香クローンの様子を見てすすり泣き始めている。


「どうした!? 何故泣く!?」

 戸惑いの声をあげる美香。


「私……オリジナルにずっと憧れていマシたかラ……。御主人様に……言わレて、同じ喋り方するように、同じように……歌えルようニッて、勉強のタメに……オリジナルの映像を……毎日毎日見て、憧レテて、でも同時に嫉妬シテ、恨ンデもいて……でもやっパリ憧れてて、尊敬シテテ、会イたくて……それで……会えたカラ……」


 ひっくっひっくと泣きじゃくりながら、想いのたけを語る美香クローン。


「私ダケじゃなくて、ここにいル子達、皆そうデス……」


 美香クローンのその言葉に、他のクローン達も泣いていた理由を義久達は理解した。

 美香も目を潤ませ、その場にかがむと、美香クローンの体を力いっぱい抱きしめる。


「あはははは、とんだ茶番だっ。いやー、面白い面白い、実に面白い。いいもの見れたわ~。うわっはははははっ!」


 突然、下卑た声で馬鹿笑いをしだす三木谷。


「何がおかしい?」

 クローンを抱きしめたまま、地の底から響くような声を発する美香。


「こんな酷い扱いをして……貴様は……」

「君ね、同情するのは勝手だが、それは所詮紛い物の命だぞ?」


 嫌味ったらしい口調で美香の言葉を三木谷は遮った。


「クローンだったら、粗末に扱ってもいいと?」


 そう問うたのは義久だった。できるだけ感情を殺した声で尋ねるが、義久も怒り心頭だった。


「これは私だ。もう一人の私。粗末に扱われて、紛い物扱いされて、何も感じずにいられるわけがない」


 静かな声で語る美香の、クローンを抱きしめる手が震えだす。

 美香クローンは、自分を抱きしめる美香の様子がおかしいのを見て、泣くのを止める。


「はははは、馬鹿らしいっ! クローンは記憶まで移植されているわけではないし、知能は低い。人格も別物だ。ただの性奴隷としてのみ運用されているので、必要最低限の教育しか受けていないしな。おまけに拙い技術で一気に急成長させているので、体の負担も激しく、あまり長生きできない。病気にもなりがちで、交換も激しいよ」


 そんな美香の台詞を、三木谷は笑い飛ばしながら衝撃の真実を口にした。


(これ、全部ネットにあげていいのかなあ……。すげえドラマチックだし、絵になるし、俺としてはあげたい所だけど、いくらなんでも美香ちゃんに悪い……)


 カメラを回しながら、義久は悩む。


「こいつらは姿形こそは人間だが、実際には人間じゃないぞ。ペットだ。スレイブだ。性欲処理用の家畜だ。人権も無いし戸籍も無いから、法律で守られることもない。殺したところで、何も問題無いし、死骸の処理などいくらでもできるし、金を出して代わりを買えば済むだけの存在だ。もう一度言う。人間ではないのだ。人間と同じ扱いなど馬鹿げてる。見た目に――」


 三木谷の言葉途中に、美香の鉄拳が火を吹いた。鼻っ柱を折られ、血を噴き出しながら仰向けに倒れる。


「お前は……! 絶対に許さんッ!!」


 怒髪天を衝く勢いで美香は銃を抜いて、三木谷に銃口を向けた。

 美香の凄まじい怒かりようを目の当たりにし、義久は息を呑む。三木谷に至っては恐怖で顔が引きつり、全身総毛立ち、一物は無様に縮み上がっている。


「ひいいいっ!」


 身も世もない悲鳴をあげ、部屋の奥へと逃げ出す三木谷。逃げ場など無いというのに。


 躊躇うことなく銃を撃とうとした美香であるが、いつの間にかやってきた真が、おもむろに銃口の前に手をかざし、美香が引き金を引くのを制した。みどりも後ろから、美香の肩をぽんと叩く。


「何故止める!?」

 真とみどりに向かって怒鳴る。


「美香姉、世の中には殺しても手が汚れるだけっていう奴もいるよォ~。こいつとかまさにそうだわさ」

 みどりが答えた。


「生かしておいた方がいいよォ。こいつのしていることは、ヨッシーが全て暴露してくれるんだ。その方が辱めになるじゃん? 臭い飯も食うことになるでしょ~よ」

「つーかね、例え相手がクローンだろうと、殺人を犯していたら、下手すりゃ死刑になるぜ。こいつは無知で知らないみたいだが、クローンだからといって、殺人罪が問われないわけじゃないぞ。クローン法はすでに日本にある。万が一クローンが作られてしまった場合は、人間と同等に扱わねばならないと」


 義久が冷静な口調で話す。三木谷や美香クローンの台詞からすると、殺人も相当行っていそうだと判断した。


「ふざけるな……」


 そう言い放つ三木谷の顔から、唐突に恐怖が消え、醜悪な顔に歪な笑みが広がる。デスクにもたれかかり、そっと引き出しを開ける。


「そんな辱めを受けて、生きていられるものか。お前らが誰かは知らんが、俺は負けない。誰にも負けない。今までずっと負け知らずの人生だったんだ。これで俺の勝ちだ」


 無理して作った笑顔でそう宣言すると、三木谷は引き出しの中から銃を取り出した。


 義久やクローン達は、三木谷の手に銃が握られていたのを見て身を強張らせたが、美香は三木谷が銃を抜いても、全く警戒していなかった。真とみどりも同様だ。三木谷から、誰に対しても殺気が放たれていなかったからだ。三木谷が何をするのかも見当がついていたし、止める気も無かった。

 己の側頭部に銃口を当てると、三木谷は目を瞑り、引き金を引いた。銃声と共に三木谷の脂肪だらけの体が床に崩れ落ち、クローン達が一斉に悲鳴をあげる。


「止めてほしかったがなー。もう少しインタビューしたかったし」


 三木谷の自害を目の当たりにして、義久がぼそりと言う。


「恥をかくのが嫌で自殺するような奴が、そんなものに答えるわけないだろ」

「それもそうか」


 真に言われ、義久も納得する。


「うぐ……うっ、ううう……」


 美香は銃をしまい、嗚咽を漏らしながら、美香クローンの元に歩いていき、彼女を立たせる。


「何か……服を着ろ。ここから出るぞ」

 クローンに向かって涙声で言う美香。


「どうするつもりなんだ?」


 未だカメラを回したまま、義久が美香に尋ねる。もちろんクローン美香をどう扱うつもりかをだ。


「純子の元に連れて行く! このままでは寿命が短くて死んでしまうというのだろう!? 純子なら何とかできるはずだ! いや、何とかしてもらう!」


 その対処は十分に可能だろうと真は思ったが、美香のクローンも含め、ここに十五人もいる。それらを全て純子が無償で引き受けるとも思えない。


「オリジナルミカ様、どウしてさっきからずっと泣イてるのですカ?」


 自分を抱き支えている美香に、自身も涙を零し続けながら、クローン美香が尋ねた。


「そういうお前もまた泣いているぞ!? どうしたんだ!?」

「私が今悲しイのは……泣いてルのは、御主人様が……死んデしまったからデす。御主人様は……悪い人。それぐライ、私にもわかリマす。御主人様、私の見テいる前で、仲間を何人もすくらっぷにシマしたし。いつも御立腹で、私達を殴ッてまシたし」


 そう言って、クローン美香は醜悪な全裸肥満老人の死体に視線を向けた。


「でも……そレでも、私の御主人様でしたカラ」


 クローン美香のその台詞に反応し、他のクローン達の何人かも、一斉に嗚咽を漏らしだす。その光景を見て、美香と義久は何とも言えない複雑な表情になった。


(睦月と似ているな。一つの狭い世界しか知らず、そこから出られず、ろくでもない保護者だか御主人様だかしかいないという環境。どんなに主がろくでもなくても、そいつにすがるしか無いんだな)


 クローン達を見ながら、真は思う。


「行くぞ」

 その後、服を着たクローン美香と手を繋ぎ、美香は先に外へと出て行く。


「あいつ……自分のクローン一人だけ連れていって、他は空気扱いして置き去りかよ」

 美香の行いに呆れる真。


「彼女達はどうする?」


 義久が真に問う。お持ち帰りになりたいという欲求はあるが、何しろ十四人もいるし、自分が養うのはキツい気がする。


「知り合いの刑事に事情を話して、一時的に保護してもらうさ。後で雪岡のところに連れてくる展開になるだろうけど」


 言いながら真は携帯電話を取り出した。

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