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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
13 ゴスロリと小太刀で遊ぼう
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4

 純子と真と累は、もう一人の実験台志願者と会うために、部屋を移した。


「来たようです……」


 累がぽつりと呟く。真は全く気配を感じない。しかし累と純子だけは気がついているようだ。


「ふーん、これがイーコの亜空間トンネルかあ。中々面白いね」


 真の目には映らないが、純子には見えているらしくて、何も無い空間を見て物珍しげな口調で言う。


「次元が一つズレているというのに、こちらが見えると申すか」


 室内の空間に穴が開き、愛らしい姿の人外が出現し、淡々とした口調で述べる。


 真も純子も初めて見るが、都市伝説上のイーコそのものの姿だ。背が低く、蛾のそれに似た触覚と、犬のようなフサフサの尻尾を持つ。全身ほぼ白だが、肘から先が黒く、触覚も黒い。尻尾の毛と髪の毛にも黒い毛が混ざっている。目尻あたりも黒い。


「イーコではなく、ワリーコのミサゴだ。そうメールで送ったはずだが?」


 ミサゴと名乗ったワリーコが純子を見る。


「イーコはともかく、ワリーコなんて初めて聞いたぞ。累から事前に解説してもらったけどな。種族的には同じなんだろう?」


 愛らしい姿を物珍しげに見ながら、真が尋ねる。妖怪の類を見るのは初めてではないが、イーコの姿は中々インパクトがある。


「用件は手早く済ませたい。僕の助けに応じてくれるか否か」


 真を無視して、ミサゴは純子を向いたまま言った。


「どういう力が欲しいのかなー?」

「手練の助っ人を欲している。抱えている案件が済んだ後で、僕の体は好きなように人体実験の素材にしてくれて構わぬ。雪岡純子、相沢真、雫野累の助力が欲しい」

「いや……そういうのはうちでは受け付けてないんだけど……」


 真面目な口調で要望を述べるミサゴに、苦笑する純子。


「累はともかく、最近じゃ僕や雪岡が動いて力を貸すことだって多いじゃないか。裏通りに堕ちる希望者が来た時なんか、甲斐甲斐しく世話焼いてばかりだし」


 純子の方を向いて真。


「それはそれ、これはこれだよー。将来性ある子とか、夢を持ってる子は、私だって応援したくなっちゃうしさー。そういった子達だって、まず実験台志願ありきだしね」


 苦笑をいつもの屈託無い笑みへと変え、純子は言う。


「私ルールでは基本的に、君が助けられるだけの力を与えるっていう形じゃないと、引き受けられないなー」

「ならよい。他をあたる。救助が済んだ後なら僕を好きにしてくれていいが、先に実験台にされて殺されてはたまらん故。さらばだ」


 純子にやんわりと断られ、ミサゴは亜空間の扉を開き、さっさと立ち去ろうとする。


(救助?)

 ミサゴのその言葉が、真には引っかかった。


「待て。救助って何だ?」

 真がミサゴを呼び止めた。


「縁が無ければ語る必要も無し。ワリーコとなりても、僕の本質はイーコと変わらぬ。この命は無辜の民を助けるために捧げしものぞ」

「いや、僕が協力してやる」

「代償は?」


 申し出る真に、亜空間トンネルに入りかけたミサゴが、振りかえって問う。


「いらん。いや、ここに実験台志願で二度と来ないと約束してくれればいい」


 真のその言葉に、ミサゴはきょとんとした顔になり、純子はあんぐりと口を開く。


「……わかった。しかし解せぬ。それでいいのか?」

「いいんだよ。僕はおせっかい焼きだから。事情はわからんが、お前だって見ず知らずの人間をおせっかいで助けようとしている。僕もそうしたいと思ったから、そうする。それで何か問題あるのか?」

「そうか。感謝する」

「ちょっとちょっと真君、それひどくない?」


 勝手に話を進める真とミサゴに、純子が突っこむ。


「欲張ったお前が悪いってことだよ」

「それより君は……どういう助けが欲しくて、ここに来たのですか? 真もせめて……それを聞いてから決めた方が……いいですよ?」


 累がようやく発言する。


「最近また頻発している連続集団誘拐事件は知っていよう。あれは環境テロリスト『海チワワ』の仕業也。無論、バックには『グリムペニス』がある」


 その二つの組織の名を聞いて、純子は興味深そうな顔へと変わる。


 一家が丸ごと消える連続集団誘拐事件は、定期的に発生している。一度起こると、日本全国あちこちで一斉に行われるのだ。

 組織的な犯罪という見方が強く、警察は一向に手がかりを掴めていないと公表しているが、実は警察に圧力をかけられるほどの権力が働き、警察の捜査そのものを妨害しているのではないかという説も強い。


「あれがグリムペニスの仕業なら、警察に圧力をかけることも確かにできるねえ」


 純子が意味深な笑みを浮かべる。地方にもよるが、二十一世紀後半の日本の警察は極めて優秀だ。裏通りという巨大な犯罪社会が成立してなお、彼等は警察に刃向うな真似はしない。その警察の目を完全に逃れて、定期的に連続集団誘拐を実行するなど、リアリティに欠ける話だ。


「動けぬ警察に代わり、この度イーコ達がその組織犯罪を突き止め、救助へと当たっている。だが奴等は人間を傷つけられないという掟があるため、思ったように手出しができない。亜空間を用いた救助方法もすでに悟られ、それを見破る魔術師すら敵にいる」

「ジェフリー君かなあ?」


 純子が言った。真も真っ先にその人物を思い浮かべた。純子や真とは因縁深い、海チワワの幹部である。


「雪岡純子は彼の二つの組織と相対せし間柄と聞いたが故、助けを求めるにも適しているとの判断で、ここに来た」


 純子の方を見てミサゴ。


「んー、それなら私も協力するよ。確かに縁のない話でもないからさー。グリムペニスは私のストックの一つだしねえ。私が動く動機は十分にあるし。私ルールに適応するとして、実験台が必要だからストックの中からたまたま話題に挙がった海チワワとグリムペニスを使うっていう話にすればいいしねー」

「回りくどい……ですね。助けたいから助ける、でもいいと思います……よ?」


 自分が動く理由をその場にいる全員に語ってみせるかのような純子に、累がおかしそうに微笑みながら言う。


「いやー、それは悪のマッドサイエンティスト的にはちょっとねー。あ、そうだ。人手が必要なら、零君と亜希子ちゃんも一緒に来てもらおっか。特に亜希子ちゃんは、いろんな経験してみたいって感じだったから、丁度いいよね」


 どう見ても凄い世間知らずな亜希子に、いきなりそんな経験をさせるのはどうなんだと真は思ったが、口には出さなかった。


***


 ミサゴが姿を消した所で、純子はネットを開き、グリムペニスと海チワワの最近の同行を調べた。


 まず目に付いたのは、幹部のアンジェリーナ・ハリスが来日中であり、近々ホエールウォッチングを目的としたクルージングツアーを行うということだ。ツアーに用いられる豪華客船の名は、ドリーム・ポーパス号。

 過去にも何度かクルージングツアーが開催されているので、過去の日取りを純子は調べる。その後、定期的に発生している連続集団誘拐事件の発生時期も調べた。


「こりゃまた露骨だねー」


 両者が全く同時期に発生しているのを見て、純子はおかしそうに笑みを零す。


「さらわれた者は、客船に連れ込まれたっていうのか?」

 真もその事実を察した。


「ここなら警察も手を出しにくいからだよー。例えグリムペニスが政府筋に圧力をかけてもさ、警察だって何もしないでいるわけじゃないよ。例えばただ密輸船を手配して出航するのなら、難癖つけて強引に出航を止めて強制捜査もできるじゃない。でもグリムペニスが表通りの人も客として迎え入れてツアーをする豪華客船に、警察が圧力もはねのけて強制捜査で踏み込むってのは、中々しんどいと思うよー? もしそれで外れたら、警察の立場と面目が台無しになるし、グリムペニスはますます圧力かけやすくなるしねー。警察としてはミスができないもん」


 純子の考えは、真の推測とも大体同じだった。


「逆に警察側が確たる証拠を押さえれば、今後グリムペニスは日本政府に干渉もしにくくなるってことか」


 真が言う。警察としてはグリムペニスの存在は忌々しいので、その悪事を明るみにして、不用意な干渉がしづらい方向にもっていきたいであろうと、推測する。


「よし、このツアー、私達も参加しようっ。んで、アンジェリーナさんやジェフリー君を実験台として確保しよう。たまには船の旅を楽しむのもいいしねー。楽しんだ後は爆破して沈没させちゃえば、グリムペニスにも大ダメージになるだろうし。さらわれていた人も船に乗せられていたら、ついでに助ければいいし。そうだ、あの子も誘ってみるかなー」


 楽しそうな顔でひとしきり喋ると、純子は電話をかける。


「もしもーし、捗ってるー?」

『うるせーカス、殺すぞ。何の用だ』


 奇妙な響きの声が応じる。


「大した用事じゃないんだけど、ミルクの大嫌いなグリムペニスとちょっと遊ぼうと思ってさー。例の連続集団誘拐事件て、グリムペニスの仕業で、さらった人はクルージングツアーの船に連れ込まれているっていうから、それを助けるツアー発足するの」


 純子の言葉を受け、電話の向こうの相手――草露ミルクは数秒間沈黙した。


「ミルクも一緒にどうかなーと思ってさ?」


 かつてミルクは、グリムペニスの走狗である海チワワに、研究成果である吸血鬼ウイルスを奪われて利用されている。そのことに相当腹を立て、両組織を激しく敵視している。


『嬉しい誘いですがね。生憎今すげー忙しい。またの機会に誘っておくれ。奴等は私の研究を盗みだし、そして穢しやがった。絶対に許せねえ。一匹ブ残らずブチ殺して、奴等の望み通り、切り刻んで畑の肥料にでもして地球環境の維持に貢献させてやらねえとな』

「私だったら生きたまま埋めて肥料の元にするけどねえ。肥料を作る餌代はかさむかもだけどー。じゃ、またー」


 電話を切り、累に視線を向ける純子。


「ミルクは残念として、累君も今回欠席―?」

「船になんて乗りたくありません。しかも人がいっぱい……なんでしょう?」


 純子と真がほぼ予想していた通りの答えを返す累だった。

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