表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
12 いい子ぶらない人生を遊ぼう
384/3386

30

「ほら、晃のせいで奇襲失敗だよ」

 微笑みながら身構える十夜。


「別に必ず奇襲しなくちゃならないなんて話だったわけじゃない、だ、ろー」


 喋りながら銃を二発撃つ晃。二発のうち一発は当たったが、防弾繊維を貫くことはできなかったようだ。


 ミサゴが弾丸の如く勢いでステージに向かって疾走する。ワンテンポ遅れて十夜も左右に跳んでフェイントをかけつつ、ステージ上の黒服へと迫る。


 黒服の中の三人ほどが、徒手空拳で客席へと降りる。それが何を意味するか、わからない十夜と晃ではない。


 吸血鬼化した海チワワ兵士の一人が、突進してくるミサゴめがけて自身も突進する。

 両者がすれ違う。吸血鬼の黒服は手刀を横に払った姿勢のまま動きを止めた。喉元を深くえぐられた黒服は、喉から大量の血を噴き出しながら、そのまま前のめりに倒れた。

 ミサゴの方は無傷のまま、ステージへと駆け上がり、銃を構えた黒服達へと向かう。


「やるなあ、ミサゴ」


 その様子を後ろから見ていた十夜が口の中で呟き、自分の前に立ちふさがる黒服二人へと駆ける。

 晃が後ろから援護してくれるのはわかっているし、何度も共に戦ってきたので、そのタイミングも大体わかる。


 十夜が右にいる黒服へと仕掛けにいった瞬間、晃は左にいる黒服めがけて二発撃つ。一発はこちら側から見て右側――つまり十夜が肉弾戦をしかけにいった方へと寄らせないように撃ち、もう一発は左の黒服そのものを狙った。

 左の黒服――身長2メートルはありそうな逆三角形体型の東洋人の巨漢は、俊敏な動きで左側へと軽く跳んで回避した後で、晃の意図に気付き、舌打ちをする。


 その間に十夜は右の黒服――ふてぶてしい面構えの髭面の黒人の男に接近し、胸部めがけてパンチを繰り出す。

 髭面の黒服は十夜の拳が当たる前に、十夜の手首をいとも簡単に片手で掴んで防ぐ。驚きつつも力任せにふりほどこうと腕を引いたが、黒服は十夜のその動きに逆らわず、自らの体も合わせて動き、十夜の手首を掴んだまま十夜の脇へと瞬時に移動する。

 明らかに自分より優れた体術の持ち主である髭面黒服の体捌きに、十夜は戦慄した。髭面黒服は十夜の脇を抜けて後方へと回り、十夜の腕を逆さにねじりあげながら、十夜の背に己の体を預け、十夜をうつ伏せに押し倒した。


 晃は十夜が形勢不利なのを見て知りつつも、援護ができなかった。巨漢黒服が自分の方へと向かってきたからだ。

 巨漢黒服に向かって何発も撃つ晃。人間離れした身体能力の持ち主が相手であるが故、接近されると流石に旗色が悪くなる。その前に銃で仕留めないといけない。


(使いたくなかったけど、このままじゃ殺られる。この人、かなり強い)


 倒れた体の上に乗られたうえで腕の関節を極められて、さらには折ろうとして力をこめられているこの状況で、十夜は切り札を使う決断をした。


「メジロチェンジ!」


 十夜の叫びに応じて、十夜の服の内側から何かが爆発的に膨れ上がり、広がっていくのを髭面黒服は感じ取った。

 危険を感じた髭面黒服は十夜の腕の破壊を諦め、すぐさま十夜から離れる。


 髭面黒服の見ている前で、十夜の姿が今までと別のものへと変わっていく。

 服の内側から緑色の帯のようなものがどんどんと伸びて十夜の体に巻きつき、あっという間に全身緑色のタイツのようなものに身を包まれる。さらに手と肩を撒いた帯は金属質なものへと変化して盛り上がり、手甲と肩当てへと変化した。顔には鳥を模した仮面が装着されていた。これも緑色だが、目の周りだけが白い。


 純子は十夜の改造がいまいちうまくいかなかったので、幾度となく十夜の体を調整し、その合間に、いちいち着替えなどしなくても、十夜の叫び一つで瞬時に緑鳥戦士メジロエメラルダーとなるように、十夜を改造しなおしていた。

 スーツを纏ってメジロエメラルダーにならずとも、十夜は十分な戦闘力があるが、純子がさらに改良したこの生体スーツは、旧スーツ同様の精神高揚作用、防御性能に加えて、十夜の身体能力をさらに上乗せで向上させる機能も備わっている。ただしその機能をきちんと引き出すには、ある条件がある。


「緑鳥戦士メジロエメラルダあ! けんざああん!」


 片腕だけ高々と上げ、モロに裏返った声でヤケクソ気味に叫ぶ十夜。すると、十夜の体に力が漲り、さらにはハイな気分になっていくのを実感する。


 スーツの力を引き出す条件は、変身ポーズをちゃんと取って、決め台詞を叫ぶことだった。かつて十夜が決め台詞とポーズを怠ったのを見た純子は、必ず変身後にはヒーローらしくポーズと決め台詞をさせるように、このような設定にしたのである。その結果として、十夜は滅多にこのスーツを使わなくなった。


「おっ、久しぶりにメジロエメラルダーが出たねえ」


 十夜の方に目をやる余裕は無かったが、叫び声を耳にしてニヤリと笑う晃。

 髭面黒服は一瞬唖然としたが、十夜の戦闘力の向上を肌で感じ、すぐに気を引き締める。


「メジロ掌底!」

 一気に踏み込んで、掌を突き出す十夜。


 先程と同じく手首を取ろうとした髭面黒服であったが、メジロエメラルダーに変身後の十夜のスピードは、髭面黒服の反射速度を完全に上回っていた。

 十夜の掌底突きが髭面黒服の胸の中心にヒットし、髭面黒服は舞台の上――垂れ幕にまで吹っ飛ばされた。垂れ幕がクッションとなって、背中へのダメージは無いが、そのまま昏倒する。


 一方、巨漢黒服は銃撃を全てかわし、晃の直前まで迫り、大きな拳を晃めがけて繰りださんとしていた。

 晃も奥の手を使うことにする。相手めがけて口から何かを吹き出し、身をかがめる。


 巨漢黒服は反射的に、晃の口から吹き出されたものを避けようとした。仕込み針か何かだと思ったのだ。しかし彼の目に映ったのは針ではなく、小さな玉のようなものであった。


 次の瞬間、その玉が爆発したかのように巨漢黒服には見えた。巨漢黒服は強烈な目の痛みを覚えて、反射的に目を閉じる。玉の中に何か目を刺激する物質が詰まっていたのだろうと判断し、同時に己の死を予感する。


 敵がひるんだことを確信した晃は、顔を上げずに銃口だけを上げ、敵が今までいた位置めがけて三発立て続けに撃った。

 胸に一発、腹に二発の銃弾を受け、そのうち胸の一発と腹の一発が防弾繊維を貫通し、巨漢黒服はくぐもった呻き声を漏らし、崩れ落ちた。


「ふう……結構ギリギリだった」

 胸を撫で下ろし、ステージ上を見る晃。


 ミサゴが銃を持った黒服達を次々と斃している。手助けはいらないように見えた。


「まだ生きているな」


 全ての敵を沈めたミサゴが、十夜が相手にしていた髭面黒服の元へとやってきて言う。


「この人は見逃してやってくれ。俺を殺す気がなかった。全く殺気が無かったし、急所を狙わずに腕を狙ってきたし」


 十夜がミサゴに言った。子供だからとでも思って手加減してきたのかもしれないが、自分を殺す気のない相手を十夜も殺せない。ミサゴはそれに応じるように無言で頷く。


 その後、舞台裏の控え室に拘束されていた人を助けだして、アリスイが亜空間トンネルへと保護する。


「ではさらばだ」

「こらこらこら、待った待った待った。残り二ヶ所だしちゃんと協力した方がいいだろ」


 すぐに立ち去ろうとするミサゴを呼び止める晃。


「僕は救出のみをしているに非ず。故に、僕が依頼した人物にも協力せねばならぬ」

 ミサゴが振り返り、言った。


「純子達に? 何をしなくちゃならないのさ」

 十夜が尋ねる。


「言う必要は無い。が、雪岡以外にも助けを求めてあるとだけ言っておこう。さらばだ」

「いやいやいや、だったら君がやろうとしている事も、僕達も手伝うよ。順番にやっていこうぜ。分担しなくちゃならない理由は無いだろ」


 つれなく立ち去ろうとするミサゴをさらに呼び止める晃。


「残りの二箇所のガードも固いと思うから、分散せずに戦力を固めた方がいいと思うんだ。ここだって、結構手強い敵だったし、ミサゴがいなかったら危なかったと思うしね」

「一理有る。従おう」


 十夜の言葉に、ミサゴも折れた。


「別行動を取りたがるのは、私達に気遣っているという部分もあるのでしょう?」


 ツツジが亜空間から顔だけ出し、ミサゴを見て言った。


「イーコとワリーコは交われない間柄ですからね」

「だーかーらさあ、今そんなこと言ってる場合? 掟だか思想だか知らないけど、目的は一緒だってのにそんなしょーもないことを妨げにして、助ける人が助からなくてもいいの? 確実にぃ、合理的に行こうぜぃ」

「はい。申し訳ありません」

「承知」


 やんちゃな笑みを広げて軽い口調で訴える晃に、ツツジは目を伏せて頭を下げ、ミサゴは少し間を置いてから軽く頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ