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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
2 正義の味方と遊ぼう
35/3386

9

 美香に連れて来られる形で弓男と鷹彦が訪れたのは、どう見てもホームセンターと思われる建物だった。ちゃんと営業しているようで、客も出入りしている。


「表向きはホームセンターだが、その奥もしくは地下に、破竹の憩いの研究施設と工場があるらしい!」

「そこでレッドトーメンター改の精製が行われているわけですか。いやー、怖い話ですねえ。万が一にもウイルスが漏れたら、お客さん達が真っ赤っ赤になって御臨終しちゃうわけでしょ」


 おどけていたが、正直弓男は呆れきっていた。そんな危険なものを街中で、しかも一般人が激しく出入りする場所で製造しているということに。


「それを盲点とでも考えたんじゃねーか? あ、でもおかしいな。盲点と考えているわりには、あっさりとそのアジトを突き止められちまっているし」

「意図としてはそうだろう! だが破竹の憩いの構成員が頻繁に出入りしていれば嫌でもわかる! しかもナンバー2の柿沼喜一と、化学班チーフ福田重の出入りが頻繁だそうだ! どう考えてもここでレッドトーメンター改が作られているとしか思えない!」

「あー、そういうことか。何というか、随分と間抜けな組織だわー」


 美香の説明を受け、鷹彦は小さく笑う。


「ま、さっきの感じでも、あまり大した力を持つ組織とは思えないんですが、油断しちゃ駄目ですよねー。最後まで気を引き締めていきましょ」

「奴等にとって要とも言える場所だしな。でもお前さ、気を引き締めていくと言ってるわりに、言葉とは裏腹に気が抜けてんじゃね?」


 弓男の頭に鷹彦が手を乗せ、真顔で指摘する。流石付き合いが長いだけあって、自分の心境もお見通しかと、弓男は感心する。


「ええ……いまいち気持ちがのらないんですよねえ。もっと絶望的な状況で、命の危険がひしひしと感じられるような状況と相手でないと」


 どうも日本に来てからというもの、弓男はやる気が低下している。

 つい先日までバナラで毎日のように銃弾の中をかいくぐり、死と生の狭間に身を置いていたのだが、日本の平和な空気にあてられて、クールダウンも激しい。先程の銃撃戦も、バナラでの激しい攻防に比べるとおままごとのように思えてしまう。


 先程は正面から堂々と突入したが、今回は客を巻き込まないための配慮として、裏口からの進入となった。口にせずとも、全員それをわかったうえで自然と裏口に回る。

 雑貨が積み上げられ、裏通りの住人には見えないホームセンターの店員や職員とすれ違うが、破竹の憩いの構成員らしき者とは出くわさない。

 敵の出迎えは一切無いまま、立ち入り禁止と書かれた、やけに厳重で頑丈な扉の前にたどりつく。


「ここが怪しいね。うん、いかにも怪しげな扉」


 オートロックで、カードキーでもって開ける厚い鉄の扉を前にして、鷹彦はしゃがみこんで鞄の中をまさぐる。


「妙だ!」


 扉にプラスチック爆弾を仕掛ける鷹彦の後ろで、美香がいつも以上に鋭い声を発する。破竹の憩いの構成員が一人もいないというのは、いくらなんでもおかしい。


「妙なのはわかっているよ。何か罠にハメようとしてんじゃねーの? あるいは単純に、店員や客を巻き込むような場所で、ドンパチしたくないとかよー」


 鷹彦がリモコンのスイッチを押し、爆弾を起動させる。


 吹き飛ばされた扉をくぐり、その先にあった地下へと続く階段を下っていく三人。美香が先頭、鷹彦がしんがりを務める形だ。すでに三人とも銃を抜いている。

 階段を降りきった所は小部屋になっていて、先にはまた扉があった。小部屋は脱衣場のようで籠が幾つか並んでいる。

 扉を開けると、中は殺菌シャワー室になっているのが伺えた。さらにその先にも扉がある。それだけ見ても、ここがどういう施設であるのか一目瞭然だ。


「どんぴしゃだったが、どーするよ、これ……」

 鷹彦が親指で殺菌室を指す。


「俺らもシャワー浴びて入るか? いや……つーかよ、屋内だとウイルス使われたらやべーんじゃね? いや、絶対やばいって! 今更気がついた! やばいだろ! おい、揃いも揃って何で誰も気づかないんだよ!」


 狼狽して声を荒げる鷹彦。陽の光にも風にも弱いウイルス兵器であるが、屋内にはそのどちらもない。


「ウイルスを避ける間合いは、私達が一番よく知っているじゃないですか」

 言いつつ弓男は美香の方を向く。


「彼等がウイルス散布という手段をとってきた際にはね、私達の動きに合わせて間合いを取ってください。レッドトーメンター改は確かに空気感染しますが、空気中ではそう長続きはしません。すぐ消えます」

「なるほど! 了解!」


 弓男の教えを受け、わざわざ敬礼などしてみせる美香。


「そうでなけりゃ、俺らバナラで百回は死んでるよなー」

「ま、三回くらいは死んでいるかもしれませんね」

「屋内で適度な間合いを取る程度で防げるなら、兵器としてはいまいちではないか!?」


 軽口を叩きあう男二人に向かって、美香が疑問を口にする。


「ええ。おまけにすぐ霧散してしまいますしね。なので大量散布してくるのですよ。けれども屋内で大量散布しようものなら、相手も逃げ場がありません。まあ、古典的な罠で閉じ込められたうえで、ウイルスを散布されると不味いんですけれどねえ」

「だがそこまで考えていたら、何も行動はできない、か」


 弓男の言葉を継ぐようにして言ったのは、美香でも鷹彦でもなかった。殺菌室の先にある扉を開けて出てきた、制服姿の少年だ。背中には長く大きなバッグを背負っている。


「懐かしい匂いがする奴等だ……。戦場の匂い」


 少年は弓男と鷹彦を見据えて呟く。

 一方で弓男と鷹彦も一目で看破した。目の前の少年も、実際の戦場で戦った経験があることを。


「おやおや、こりゃまた随分と可愛い子がきましたね」


 自分よりさらに一回り背が低い美少年を目の当たりにして、思わず弓男はそんなことを口走る。弓男自身、やや背が低めなせいか、自分より背丈の低い者に対して好感を持つという妙な性癖があった。


「何? そういう趣味があったの? ヤベーなお前」

「そんなわけないでしょ。ていうか可愛いのは事実でしょ」


 大きくのけぞってオーバーアクションで引いている鷹彦に、弓男はむっとした顔になる。


「そう思っても、たとえ相手がガキでも、男が男見てそういうこと言うか? 普通」

「いやいや、何故可愛いのニュアンスを、性的な意味やアブノーマルな意味へと結びつけるんです? そっちのがおかしいでしょ」


 鷹彦と弓男がくだらないことを言い合う一方で、美香だけが緊張した面持ちになっていた。


「真、何故ここにいる……」

 美香が呻くような声で問う。


「おや、知り合いですか?」

「知らないのか!? 雪岡純子の殺人人形を!」


 弓男の問いに、驚いたような声をあげる美香。


 一方で弓男も多少驚いていた。自分に力を与え、その後の生き方まで変えてくれた人物の名を出されて。


「俺達五年前から海外で活動しているから、ここ最近の裏通り事情は全然知らねーんだわさ。有名な奴なの? 純子の方はよく知っているけどなー」

 軽い口調で尋ねる鷹彦。


「名は相沢真。雪岡純子の専属の殺し屋だ! 彼女にとって邪魔になった者を、たった一人でことごとく排除してきたとんでもない奴だ!」

「へーえ、私達が日本にいる間には、純子ちゃんが専属の殺し屋をもっているなんて話、聞きませんでしたけどねー」


 この少年も自分と同様に、雪岡純子の実験台となる条件と引き換えに、力を手に入れたのだろうと、弓男は推測する。そして彼女の専属の殺し屋というからには、かなり強力な力を授かったのであろう事も。


「つまり、破竹の憩いに純子がついているってわけか。よかったじゃん、弓男。これで少しは興奮して勃起できるだろ」

「鷹彦はねぇ、月那さんが下品なのは嫌いって言ったのに、わざとそういうこと言って嫌われたいわけですか? ていうか君、セクハラはしないって言ってたじゃないですか」


 茶化す鷹彦に、呆れ顔でたしなめる弓男。


「騒々しい連中だな。美香がいるせいで余計にって感じだが。そこの髭が言った通りだよ。チンケな組織なんで、あんたらを相手にするのはしんどいという理由で、僕の出番てわけさ。ここにいた連中は邪魔なんで退避してもらった」


 抑揚に乏しい声で告げると、真は背負っていたバッグを前に下ろす。


「ここだと狭すぎるな」


 バッグの中からサブマシンガンと、かなり大きなショットガンを取り出して、真は無菌室の中へと戻る。


「おーい、拳銃じゃなくてあんな銃持つなんていいの? 駄目だったんじゃなくね?」

 鷹彦が言った。


「雪岡純子は武器密売組織とパイプが太いからな! あれくらいは手に入れられるだろう!」

 と、美香。


「まあ三対一だからそんくらいのハンデやってもいいかー」


 まず鷹彦が足を踏み出し、真の後を追って無菌室へと入る。美香もそれに続く。


(まさか彼女が一枚噛んでいるなんてね……)


 少し遅れて、弓男は複雑な表情で二人の後を追う。


 どういう因果なのか、自分の運命を決定的に変えるきっかけとなった、あの可憐なマッドサイエンティストと、突然敵対することになろうとは、想定外すぎる展開だ。

 しかし全く繋がりの無い話でもない。レッドトーメンター改のオリジナルとも言える、レッドトーメンターを作ったのは純子である。その辺りから考えて、破竹の憩いと純子が繋がっている可能性は確かにあった。


 無菌室を抜けて、武器の製造とは明らかに異なる工房へと足を踏み入れる。小学生の時に社会科見学で見た、食品加工工場のそれに近いと感じられた。人はおらず、工場が稼動している様子も無い。

 ベルトコンベアーを挟んだ向かい側に、サブマシンガンを右手、ショットガンを左手にそれぞれ携え、弓男達三人と対峙した格好で佇む真。


「始めちゃっていいのかい?」

「いつでも」

 不敵な笑みを浮かべての鷹彦の問いに、銃口を下げたまま真が短く答える。


「あっそ。じゃ、可哀相だけど殺しちゃいますよっと」


 弓男が笑顔でそう言った直後、弓男、鷹彦が全く同じタイミングで拳銃を抜き、同じタイミングで撃った。

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