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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
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最後の終章

 二十二世紀前半。


「そーなんだけどねえ。中々上手くいかないよ。相性悪いのかなあ。百合ちゃんが私に教えてよ」


 白衣を纏った真紅の瞳の少女が、ソファーに腰掛けて長電話をしていた。少女の横には二歳か三歳ほどの幼女が座り、少女の太股にかぶりついて涎だらけにしている。

 少女の腹部は大きく膨らんでいる。隣の幼児がたまに手を伸ばし、膨らんだ腹部を撫でる。幼児の髪はプラチナブロンドで、瞳は緑色だった。


「じゃあねー、また」


 少女が電話を切り、幼児の頭を愛おしげに撫でる。


「サイモン君、楽しみだねー。初めての弟だもんねー。名前は宗徳君ていうんだよー。いつものことだけど、おとーさんが勝手に決めちゃったからねえ。おとーさんは私に子供の名前決めさせてくれないからねー」


 少女が幼児に話しかけている最中に、電話がかかってきた。


「もしもーし、こちら産む機械」

『あ、おかーさーん。ジョニーがうんこ漏らしちゃったの。どうしたらいい~? 私一人じゃ対処難しいよー』

「礼子ちゃん一人? 仁君は一緒じゃないのー?」

『優ねーちゃんと先に行っちゃってるしー』

「そっかー。マリアちゃんを助っ人に送っておくから、後は頑張ってー」

『ちょっ……!?』


 少女は電話を切った。


 ホログラフィー・ディスプレイを開き、何か面白い映画は無いかと探す。

 その中の一つのB級ホラー映画のサムネイルが、少女の目に止まる。


『ルイ・アシモフ監督最新作。「続・土星から帰ってきた償いのサイボーグゾンビが三度目の逆襲?」ついに解禁!』

(償い……)


 タイトルに書かれていた字の一つを見て、少女はふと思い出す。


『何万、何十万の命を奪ったかわからない大悪党だろうと、償いはできる』


 人生を大きく変える起点となったあの日、少女の最愛の存在が口にした台詞が、脳裏に焼き付いていた。


(あと何年かけて、何人産めば償いになるのかなー?)


 そんなことを考え、少女は微笑んでいた。


***


 安楽市絶好町にある、九階建てのビルの屋上。少年と少女が訪れる。


「懐かしいな。ここ」


 フェンスを見て、少年が呟く。以前来た時、フェンスの外に髪の長い少女がいた。


「真兄とやり取りとした、あの時のこと思い出して恥ずかしいけど、みどりはここ好きなんだよね。つーかさ、実はあたし、ここで何度も自殺してるんだわさ」


 以前フェンスの外にいた髪の長い少女が、はにかみながら言った。


「どうしてここにまた来たんだ?」

「ヘーイ、別に死ぬつもりじゃないから安心してよぉ。このビル、とうとう取り壊しになるっていうからさァ。それで最後に来てみただけだぜィ」


 少年――真の問いに、少女――みどりが笑顔で答える。


「あの夜……飛び降りた時、あたしは未練でいっぱいでさァ。あ、これ駄目だって思ったんだよね。術の効果を消せず、また転生しても記憶も力も引き継いじゃうって。それなら死ぬ事も無いなーと思って……。落ちた先で再生能力働かせちゃった。皆との約束破ったひでー奴になっちゃったけど、皆がみどりのこと怒るとも思えないし、これでいっかって。あばばばばば、あたしも適当なもんだァ」

「それでよかった。そもそも自殺しようとしていたのが、お前の独りよがりだからな」


 みどりの話を聞き、真は微笑みながら言った。


「でも僕は、絶対にみどりが途中で思い留まると信じていた。自殺姫が死にたくないと言った時点で、死なないだろうと思った。だからあの時、止めなかったよ」

「いや、わかんねーわ。何でそんな風に思ったん? 何で信じれたん?」

「長いこと精神をリンクさせていたからさ。それで確信していた」

「うっひゃあ……本当かよォ~」

「本当だよ。あの時、僕は凄く落ち着いていた。絶対に大丈夫だと思った。万が一にも、あのまま死ぬことはないって、信じきって安心していたよ」


 かつて無表情が常だった真が、柔和な笑みをたたえて言い切る。いつからか彼は、頭の中で自分の表情を描くのもやめて、気持ちを自然と顔に表すことが出来るようになっていた。


 ちなみに、大丈夫だとは思っていた真であるが、保険も用意していた。ビルの上という時点で、飛び降りるつもりだと見越して、伽耶と麻耶とツグミも呼んで、ビルの下に待機させておいたが、必要無かった。みどりは飛び降りた直後、すぐに再生していた。


「ところでさ。純姉にマッドサイエンティスト辞めさせる方法は、上手くいっているようだけど、いつまで続けるん?」

「いつまでも続けるさ」


 みどりの疑問に、真はあっけらかんと答える。


「マッドサイエンティストを辞めさせるどうこうなんて、所詮口約束に過ぎない。僕は女との約束なんて信じないし。女が約束を守ることを期待するのがそもそも間違いだ。女は力ずくで約束を守らせるしかない。それが正しい扱い方だ」

「ふぇ~……真兄、ヒネくれてんな~……。何か女に嫌な思い出でもあるん?」


 みどりが顔をしかめる。


「育児と出産続けていれば、マッドサイエンティストしているどころじゃないからな。これがマッドサイエンティストを辞めさせる方法だ。僕はマッドサイエンティストをやっつけたんだ。僕の夢も実現に向かっているし、一石二鳥だ。いや、これまで犯してきた罪の償いにもなって一石三鳥」

「あぶあぶあぶぶぶぶぶ、理には叶っているとは思うけど、何かすげー馬鹿馬鹿しく聞こえるよぉ~」

「しかしギネス入りまではまだまだ遠いな。一人一人ちんたら産んでないで、六連続で六つ子をドバドバ産むとか出来ないのかな? それでもたった三十六人だし」

「ふわ~……全くもってヤバい夢だわさ……。純姉もとんだ悪魔に惚れ込んじまったもんだなァ」


 苦笑するみどり。


「ところでさァ……今まで触れるのが怖かったけど……はっきりしたいから訊いちゃうけど……」


 みどりが言いにくそうに話題を変える。


「いっぱい子供いるけどさァ、緑色の目の子が混じってるよね? 金髪の子も……」

「そんなの、訊くまでも無くわかってるだろ。累の子だよ」


 みどりの疑問に、真はあっけらかんと答える。


「それって真兄……平気なん? 純姉と御先祖様が浮気して……」

「浮気じゃないぞ」


 恐々と尋ねるみどりであったが、真は涼やかな表情で即座に否定した。


「3Pしてる時に、ついうっかり累の方が――」

「あ、もういいわ。クッソ最低すぎる……。聞きたくねー。つーか訊いたみどりがアホだったわ……」


 あまりの爛れ具合に、みどりは苦虫を噛み潰したような顔になり、深く嘆息した。


***


 真とみどりがビルの上で会話を交わした、その半年後。


 真は公園で子供の一人と遊んでいた。まだ五歳か六歳くらいの男児だ。

 幼い子供は他に何人もいるが、研究所に置いてきている。それらの幼い子達は、すでに成長している子供達や、累とみどりと青ニート君に、面倒を見て貰っている。


 いつまで経っても少年の姿を維持している真は、人前で父親と名乗るには問題が多く、授業参観では兄の振りをしている。純子は姉設定だ。見た目の年齢だけなら、真と純子より年上に見える子も、何人もいる。


 息子にアルゼンチン・バックブリーカーをかけていた真だが、電話がかかってきたので、地面に下ろした。


『第十三回全世界裏社会会議はあれるよかんだにゃー。マコのやつがまたよけいなことして、ろしあのまふぃあどもがかんかんだにゃー』


 相手は裏通り中枢最高幹部『悦楽の十三階段』の一人、エボニーだった。


「いつもの事だ。原因が何だろうと、うちらは何かあったらマコにつくから、そのつもりでいろ」


 一方的に告げ、真は電話を切る。


 真は何十年も裏通りのトップとして君臨している。その間、数多の修羅場をくぐってきた。トップでありながら、現場の最前線に出る性質もそのまま変わっていない。


 純子はというと、マッドサイエンティストは辞めたが、育児の傍らの空いた時間で、研究者としての仕事はスローペースで続けている。

 その気になれば、真に隠れてこっそりヤバい実験をする事も出来たが、純子は真との約束を守っていた。あれだけ必死になった真を、裏切るような真似は一切したくなかったのだ。


 先程までアルゼンチン・バックブリーカーをかけられていた子供が、真の体を上り、背後からスリーパー・ホールドをかけにかかる。


「おかーさん、出てきたぞ」


 公園の向かいにある美容院から出てきた少女を見て、真は子供を引っぺがして地面に下ろす。


「おまたー」


 服装はいつもと変わらないが、ショートの髪型がかなり変化している純子を見て、真は驚いていた。


「かなりイメチェンしたなあ……」


 ツンツンショートになった純子を見て、真は微妙な表情になっていた。子供の方も呆れたように半眼になっている。


「似合ってるー?」


 純子は二人の反応をよく見ずに、上機嫌で尋ねる。


「背伸びしてる感が凄いというか。抵抗ある。はっきり言うと似合わないな。見る者の好みにもよると思うけどさ」

「凄く変。駄目。前の方がいいから前の頭に戻して。断固として却下」

「えええええ~……?」


 率直に否定的感想を述べる二人に、純子は心底がっかりする。


「じゃ、帰ろうか」


 純子が屈託の無い笑みを浮かべて、子供の手を取る。


「嫌だ。まだ帰らない。まだ遊ぶ」


 子供が不満げに訴え、束縛から逃れるようにして純子の手を振り払った。


「あれま。ちょっと、まぁくんっ」


 純子が声をかけるが、まぁくんと呼ばれた子供は勝手に走っていく。


 まぁくんが走っていった先で、曲がり角から出てきた子供とぶつかった。まぁくんより二つか三つ年上と思われる男の子だ。


「ごめん」


 まぁくんは一応謝罪したが、次の瞬間、相手の子供がまぁくんの頬を殴ってきた。


「こんにゃろー、何処見て歩いてんだよー。ごめんで済めば警察いらねーよー」


 半魚人を想起させるような容姿の男児が、高飛車に吐き捨てる。


「どーしたのー? きーちゃん」


 その男児の母親が曲がり角から出てきて尋ねた。一目で母親とわかる。同じ半魚人顔だ。


「こいつが走ってきて、俺にぶつかってきたんだ。凄く痛かった」

「ええっ? 大丈夫!? 怪我は無い!?」


 半魚人顔男児の言葉を聞いて、オーバーに驚く半魚人顔母親。


「多分怪我は無いけどムカつくー。こいつ、謝りもしなかったし」

(謝っただろ……)


 半魚人顔男児の言葉を聞いて、黒い炎を心に灯すまぁくん。


「危なっかしいわねえ。しかもぶつかって謝りもしないって、どういう教育受けてるのかしら。うちのきーちゃんが怪我したらどーすんのよ。親の顔が見たいわ~。どーせ低収入な家の子でしょーけど」


 半魚人顔母の言葉を聞いて、まぁくんは嬉しそうに微笑んだ。


 まぁくんの手が動く。


 半魚人顔男児の顔から頭頂部にかけて、まぁくんの手刀が貫いていた。


「は……?」


 あまりにも現実離れした、有り得ない出来事が目の前で起こったので、半魚人顔母は思考停止してぽかんと口を開いていた。


「きーちゃん?」


 呆けている半魚人顔母の前で、まぁくんは半魚人顔男児の頭の中身を引きずり出して、壁に向かって投げつけた。半分になった脳みそが壁に当たると、壁を汚しながらずり落ちる。頭と顔に割れ目が入った半魚人顔男児が仰向けに倒れる。


「いやああああっ! 誰か助けてぇぇぇ! うちのきぃちゃ――!」

「うるさい。金切り声」


 悲鳴をあげる半魚人顔母であったが、まぁくんが手を握る動作を行うと、声が途絶えた。念動力で発声器官を潰し、喋れなくしたのだ。


 さらにまぁくんが半魚人顔母に足払いをかける。両足を切断され、半魚人顔母は横向きに倒れる。


「ケーサ・ツー!」


 たまたま通りがかった通行人の禿げ頭の男が、警察を呼ぼうと電話をかけ始める。


 まぁくんが禿げ頭の男を見る。すると禿げ頭の全身が消滅する。否、両脚の膝から下だけが残っていた。


 まぁくんは倒れた半魚人顔母の頭を踏みつけて、足に力を込める。凄まじい力が加えられ、みしみしと頭蓋が軋む音が響き、半魚人顔母の顔が恐怖に歪む。


「もー、まぁくんってばー、帰るよー」

 そこに純子がやってきて声をかける。


「嫌だ」


 しかしまぁくんは、半魚人顔母の頭を踏みつける足に力を込めながら、帰宅を拒んだ。


「まだ遊び足りない」


 まぁくんが純子の方を向き、屈託の無い笑みを広げて告げると、頭蓋を脳みそごと踏み潰した。



 マッドサイエンティストと遊ぼう 終

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― 新着の感想 ―
ようやく読み終わりました〜 とてもおもしろかったです。 これからも執筆頑張ってください。
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