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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
3384/3386

31

 ツグミは久しぶりに、安楽二中に登校した。


「おはよー、画伯。凄く久しぶりって感じがする」

 通学路でスピカが声をかけてくる。


「おはよーさーん。やっと復学~」


 ツグミがスピカの方を向いて、片手を上げて元気よく挨拶を返すと、スピカの後方に、上美とアンジェリーナの姿も見えた。


「崖室さんっ、おかえりーっ」

「ジャーップ」


 上美とアンジェリーナも笑顔で迎える。アンジェリーナはいつも笑っているような顔だが、喜びのオーラが確かに見えた。


「ただいまんこーっ」

「崖室さん、雪岡先生の真似はやめた方がいいって」


 ツグミの挨拶を聞いて、上美が注意する。


「ジャップー」

「久しぶりにアンジェリーナさんのジャップも聞けて何よりだあ」


 アンジェリーナとハイタッチするツグミ。


「ジャップ!」


 アンジェリーナがツグミに向かって両手を差し出す。


「すまんこ、お土産は無いんだ~。ざーんねんしょー」

「ジャァァァァーップ!」


 両手をぐるぐる回して怒声をあげるアンジェリーナ。


「無事帰還したか、崖室。よかった」

 後方から野太い声がかかる。


「げげぇーっ! 鶴賀先生にバックとられた!」

「人聞きの悪い悲鳴をあげるな。教師が生徒のバックをとって何が悪いっ。何も問題は無い」

「そんなこと力説されても……」

「シチュエーションによっては問題かも……」


 憮然とした顔で力強く言い切る鶴賀に、スピカと上美が苦笑する。


「崖室、お前が自ら危険に飛び込んでいくことを、俺達は止められない。どんな道を選択するのもお前の自由だ。しかしお前がいなくなったら悲しむ人間も周囲にいる。助けになる者もいる。それを忘れるな」

「ジャップジャップ」


 鶴賀が真摯な口調で説き、アンジェリーナが腕組みしてうんうん頷く。


「わかってるよー。甘える時は甘えるべしの精神っ」


 上美、スピカ、アンジェリーナ、鶴賀をそれぞれ見やり、ツグミはにんまりと笑ってみせた。


***


 真、新居、オリガ、シャルル、李磊の五名は、墓地に訪れた。


「よー、サイモン。地獄で元気してるー?」


 墓石の一つに向かって笑いかけて、軽く片手を上げるシャルル。


「カマ野郎はどこの墓かわかったのか?」


 李磊が尋ねながら、墓石の前にビール瓶を置く。李磊と入れ替わりに、オリガが花を供えた。


「ああ、調べはついてある。この後行くぞ」


 一人何故かそっぽを向いている新居が言った。


「新居、ちゃんとお参りしなよ」

「お前に言われんでもするわ」


 オリガに促され、新居はうるさそうに顔をしかめながらサイモンの墓前と向き合う。


「サイモン、こっちはまた大仕事があったんだぜ。楽しかったぜー。お前は混ざれなくてざまあねーな。勝手にくたばるからだ」


 墓前に向かって、爽やかな笑顔で憎まれ口を叩く新居。


 ふと、オリガは気付いた。真が明らかに表情を出している。浮かない顔だ。しかしそれはサイモンを悼んでいるというわけでもなさそうだと察する。


「どうしたの? 真」


 オリガが真の顔を覗き込んで声をかける。


「あ、ああ……別に何でもない」


 珍しく動揺気味な真を見て、オリガは驚く。


「何でもあるでしょ? 心ここに非ずって感じの表情よ。貴方がそんな顔するなんて……」

「無表情とも微妙に違うよね。何か悩み事でもあるのかなー?」


 シャルルも真を案ずる。


「お前達に関係無い」

「あ? 心配してやってんのにその態度か。真の癖に生意気な。こいつは許せねーなー」

「あんたは心配してなかったでしょ」


 思いっきり不機嫌そうな顔になる新居に、オリガが突っ込んだ。


(皆でサイモンとアンドリューの墓参りだっていうのに、全然そっちに気持ちが向かない……)


 純子との戦いを終えて以来、真はずっと、あることに気を捉われていた。


(みどりとの精神リンクが切れて……この喪失感だ。そもそも何の前触れも無しにいきなりいなくなるなんて……)


 みどりは真達の前から姿を消していた。真との精神リンクも消えていた。電話にも出ない。メッセージを送っても既読マークすらつかない。完全に接触が断たれてしまっている。


(このままお別れだっていうのか?)


 全てを終わらせてハッピーエンドになるかと思いきや、みどりが姿を消したことで、全く喜べない真であった。不安と喪失感で、ずっと落ち込んでいた。


***


 星炭流妖術本家邸宅。居間。


「善治の様子はどう?」


 綺羅羅が輝明に尋ねる。同室には修とふくもいる。


「あいつは顔のわりにデリケートだからな。全部終わって、今はぬけがら状態だ」

「善治は修行でも仕事でもずっと良造さんと一緒だったから、その親父さんを失った衝撃ってのは、計り知れないと思うんだよね。こんな言い方するのはアレだけど、普通の親子よりずっと絆が強かったはずだよ」


 輝明と修が浮かない顔で答えた。


「ババアはどうなんだよ?」

「どうだかね……」


 輝明に質問され、今度は綺羅羅が沈んだ面持ちになる。


「ま、時間が解決するさ。身近な人間を失い続けるのは、その悲しみを何度も味あわされるのは、星炭の家系に生まれた者の宿命だ」


 輝明も何度も親しくなった者を失ったことがある。幼い頃には両親を失い、数年前には好きになった女の子を失った。


「テルって口悪いけど、ちゃんと当主様してるのね。星炭の術師達のこともこまめに気にかけているし」

「ケッ、今更かよ」


 感心するふくに、輝明は笑う。


「ババア、良造さん死んじゃったからって、ヤケクソでニーニーと繋がるのだけはやめてくれよ。良造さんも浮かばれないぜ」

「するか。ていうかこんな時にそんなくだらない冗談聞きたくない」


 茶化す輝明を綺羅羅が睨んだ。


「修行も仕事もずっと一緒の親子か……」

 遠い目をするふく。


(そう言えば私もあのどーしょーもないのと、何百年もずっと一緒だったのよね)


 ふくがそう思ったその時だった。


「ふく~、元気していますか~? 大仕事お疲れさまです~」


 星炭邸の庭に、喜悦満面の男治が現れ、縁側越しに声をかけてきた。


「お父さんもね。珍しく頑張ってた」


 輝明達に感化された事と、何のかんの言いつつ男治がよく働いていた事への労いを込めて、ふくは男治に笑顔を向けて、あえて父呼ばわりした。


「お、おおお、おっ、おっ、おっおっ、おおおっ、おっ」

「何でオットセイの真似してるの? この人」

「アシカじゃね?」

「トドかもしれない」


 驚愕の表情で同じ単語を連発する男治を見て、綺羅羅と輝明と修が口々に言う。


「お父さぁぁ~っん!? いきなりのお父さん呼びに、ン百年動き続けたこの心臓が危うく止まる所でした~っ! いや、そのまま止まっていれば、最高の死に方だったかもです~」

「離れろ馬鹿っ」


 感激して抱き着く男治を、ふくは憮然とした顔になって引っぺがす。


「何の用で来たのよ……。いや、用事あっても聞きたくないし、もう帰ってくんない?」


 珍しく快く男治を迎えたふくだが、人前で抱き着かれてあっという間に御機嫌斜めになった。


「え~、それはないですよ~。せっかく来たのに~。ふくも頑張ったから、御褒美にどこか遊びに連れていってあげようと思ってきたんですよ~」

「イラネ。今日は彼氏とデートの予定だから。ねー? 彼氏ー?」

「彼氏じゃねーって、しつけーっ」


 ふくがすげなく断り、輝明に身を寄せて腕を組む。輝明はふりほどこうとするが、ふくの力の方が強くて振りほどけない。


「そうですか~……もう、仕方ありませんね……。ふくもそろそろ大人ということですね……」


 いつもは泣きながら必死に喚く男治であったが、潔く引き下がる。


「星炭の当主殿、どうかうちの娘をよろしくお願いします。孫が出来るのを――孫を妖怪に改造するのを楽しみにしていますね~」

「あのさ……」

「ねーから、どっちも」


 涙をぬぐいながら、爽やかな笑みを広げて告げる男治であったが、ふくと輝明は渋い顔になっていた。


***


 雪岡研究所にチロンが訪れた。


「全て終わったようじゃし、そろそろ累と仲直りしたくて来た。ま……そっちにその気が無いなら、とっとと帰るがの」


 累の前で腕組みして仁王立ちになったチロンが、威丈高な口調で言い放つ。


「嬉しいです。僕はずっと前からよりを戻したいと思っていましたから」


 にこにこの笑顔で累がチロンを抱きしめる。


「累おにーちゃん、麗魅おねーちゃんと付き合っていたんじゃないの?」


 鉢植え少女のせつながジト目で突っ込む。


「セフレが二人いて何か問題が?」

 さらりと言ってのける累。


「みどりと純子はお出かけ中かの?」


 チロンが尋ねると、その場にいた累、熱次郎、毅、せつなは、揃って微妙な顔つきになった。真と青ニート君に表情の変化は無い。


「純子は出かけているだけですが、みどりは……あの日から……」


 累が言葉を濁す。


「みどりは行方不明だ。音信も不通だ」

 はっきりという真。


(あれは別れを示唆していたんだ。やっぱり)


 熱次郎は思い出す。みどりが自分の前で妙な言動を取っていた事を。


「みどりおねーちゃん、一体どうしちゃったんだろ……」

「何があったのでしょうか。気になりますね」


 せつなと毅が案ずる。


 青ニート君が無言で踊り出す。踊りで不安を訴えているつもりであった。研究所の面々からすると見慣れた風景なので、何とも思っていなかっだか、チロンは突然踊り出した青ニート君を、不気味そうに見ていた。


(真兄……ごめん、いきなりいなくなって)


 唐突にみどりからの念話が頭の中に響き、真は目を剥いて立ち上がった。


「どうした?」


 熱次郎が声をかける。一同、怪訝な目で真を見る。


(今からあたしが言う場所に、真兄だけで来て欲しい……。場所は……)


 一方的に場所だけ告げて、みどりとの精神リンクはまた切れた。真が心の中で呼びかけても、一切返事は無かった。

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