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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
3383/3386

30

 一夜が明けた。


 アルラウネの巨大合体木ガオケレナによる、全世界の人間に超常の力を付与する種子の散布は、未遂に終わった。ガオケレナに投与された薬品はそのまま効果を発揮し、ガオケレナの種子は消滅し、特殊な種子を育む力も失われた。


 転烙ガーディアンとオキアミの反逆は、それぞれ転烙市とぽっくり市へと帰還した。余計な争いを避けるために、PO対策機構は彼等の行動を一切不問にせざるを得なかった。首謀者である雪岡純子もその傘下の者達も、罪を咎められる事は無い。これまた不問にせざるを得ない。


「ほんの一部の大馬鹿野郎共が、何で首謀者を不問にするんだとかぬかしていたが、誰が裁けるんだとか、不服ならお前が裁けよと言われたら、あっさりだんまりだ」


 新居がけらけらと笑う。新居の前には、悦楽の十三階段の面々――沖田、弦螺、エボニー、真がいる。


「真はごくろうだったにゃー。これにていっけんらくちゃくにゃー。じごしょりもがんばるにゃー」

「事後処理も僕がやるのか?」

「まあ事後処理は我々が行うから、君はゆっくり休みたまえ」


 エボニーの台詞を聞いて、真は頭の中でしかめっ面になったが、笑いながら告げた沖田にほっとする。


「ガオケレナは今後どうするるる?」

「切り倒すわけにもいかない。あれは植物だけど、心を持った生物として扱わないと。そもそも切り倒す事も出来ない。危害を加えようとすると、ガオケレナも超常の力で反撃してくる。そしてガオケレナも最早無害な存在になった」


 弦螺の問いに、真が答える。


「無害だけど、安楽市民球場はもう使えねーな」

「野球は出来ないけど、ろくでもないイベントするだけのスペースはあるだろ」


 新居の言葉を受け、真が言った。


***


 魔術教団『コンプレックスデビル』日本支部の一室。


「竜二郎の死体は回収しておいたわ。はい、これ」


 導師のシャーリー・マクニールが、机の上に次々と触媒を置いていく。


「こっちは脳みそで作った護符。こっちは心臓を使ったディスク。これは脊髄を削った小杖。このゴブレットは頭蓋骨で加工」

「私は心臓と脳みそ」

「伽耶ズルい。心臓取るなら脳みそは私に譲ってよ」


 伽耶と麻耶で取り合いを始める。


 魔術師が死んだら、その亡骸は余すことなく触媒へと変えられる。そうした触媒は、親しい魔術師が受け取る事になっている。


「竜二郎には恵まれた才能があったのに……残念ね」

 シャーリーが悼む。


「生き死にをかけた世界に足を踏み入れた時点で仕方ない」


 伽耶が悲しげな顔で言った。


「竜二郎と伽耶の分まで、私は人生を楽しむ」

「私まで殺すな」


 麻耶があっけらかんと言い、伽耶が突っ込んだ。


「貴方達二人は経験を積んで、随分と逞しくなったように見えるわ」


 姉妹に向かって微笑みかけるシャーリー。


「修羅場に無理矢理付き合わされた」

 うなだれる伽耶。


「都合のいい女になった。もしくは召喚獣扱い」

 死んだ魚の目で麻耶。


「私は嫌だったんだけど、麻耶のせいで……」

「愛故に人は苦しまねばならぬって、何度も言ってるでしょ」

「麻耶には愛など要らぬ。ていうか、その愛は早く捨てて。どうせ真は麻耶のこと歯牙にもかけてないから」

「愛を疑うのは最も恥ずべき悪徳。伽耶は姉の愛さえ疑っている」

「黙れ下賤の妹。何度も言うけど私が姉だから」


 不毛な言い合いを続ける牛村姉妹を、シャーリーは微笑ましく見つめていた。


***


 安楽市絶好町繁華街の南にある公園『安楽大将の森』の中にある、土産屋兼喫茶店『弾痕の安らぎ』。

 累、綾音、蟻広、柚の四人が同じ席に着いている。隣の席には日葵がいた。日葵の連れている家畜は店の外で待機している。


「全て終わりましたね。お疲れさまです。蟻広」

「師匠……裏切り者だったんだってな」


 綾音が労うと、蟻広が半眼になって師を見た。


「ええ、とんだ裏切り者でした。僕が叱っておきました」


 累が冗談めかして言った。


「全て片付いたが、私達はどうするの? また転烙市に戻る?」

「いや、終わったんだからその必要は無いだろ」


 柚が伺うと、蟻広が大きく息を吐いて答えた。


「蟻広が死ななくてよかった。勤一と凡美が死んで……私の中には常に不吉な予感があったから」

「何であの二人と俺をそんな風に繋げるんだ。マイナス4な」


 柚の不安を聞き、蟻広は再度息を吐き、不機嫌そうに告げる。


「心配したらそんなにマイナスされることか?」

 心外だとして、抗議の視線を向ける柚。


「心配もそうだけど、あの二人と繋げる理由がわからないぜ」

「私達とあの二人と、何となく似ている気がしてね」

「似てないだろ。どこが似てる」

「男と女でいつも一緒にいる」

「いやいやいやいや……たったそれだけの共通点で……似ているわけないだろ。お前ちょっとおかしいって」


 柚の発言を聞いて、ピントが外れていると思いかけた蟻広であるが、よりにもよって綾音達の前で、いつも一緒にいるなどと言われて、そちらの方が気になって、誤魔化すように否定する。


「やれやれ、あんたらさっさと子作りしな」

「なっ……」


 日葵の直球な言葉を投げ付けられ、蟻広は顔が熱くなる。


「今時珍しくウブな子だねえ。さて、あたしゃ御久麗の森にまた戻るよ。たまには外に出てみるのもいいけど、やっぱりあたしはあそこが一番落ち着くよ。フィッフィッフィッ」


 そう言って日葵が席を立つ。


「私も里帰りしてみようかな」

 柚が言った。


「ふるさとって認識なのかよ。嫌じゃなかったのか?」

「忌まわしい牢獄であり、懐かしき故郷でもあるな。安心しろ。あそこで暮らすことはしないから」


 訝る蟻広に、柚はにっこりと笑ってみせる。


「父上も御久麗の森に来られてみては如何でしょうか? 御久麗の森に限らなくてもよろしいですが、父上程の術師が修行場に来られれば、歓迎されますよ」

「気晴らしにいいかもしれませんね。綾音も同行してくれるのでしたらいいですよ」


 綾音が提案すると、累はあっさりと了承した。


「何だよ、今ここにいた全員で御久麗の森に行くことになるのか」

「これも縁の導きね」


 蟻広が肩をすくめて笑うと、柚がにっこりと笑い返した。


(この子は段々と女の子らしい表情が増えてきましたね)


 柚の嬉しそうな笑顔を見て、綾音は思った。


***


 明時神社。


「あのさ、真面目な話があるんだ」


 鈴音が正座して、目を大きく見開いて凄まじい視線の圧を勇気にかけつつ、声をかけた。


「何だ?」

 鼻白みながらも応じる勇気。


「もう私、勇気の家来辞めたい」


 鈴音がきっぱりと告げる。勇気は何も言わず黙って聞いている。


「女の子として見て。女として扱って。勇気の彼女にして」


 さらに口にした鈴音の台詞を聞いて、勇気は憂いに満ちた表情でうつむき加減になる。


「どうやら……真面目に話さないといけない時が来たみたいだ」


 鈴音から視線を外して、勇気は告白する。


「俺は性に対して拒絶反応が出る。意識すると吐き気を催す」

「知ってる」


 鈴音が速攻で口にした台詞を聞いて、勇気は顔を上げた。知られていた事にわりとショックを受けていて、固まってしまっていた。


「知ってたのか……。鈴音のくせに生意気だが、まあそれは大目に見てやるとして、お前が俺とそういう関係になるとしたら――」

「私が勇気の心の傷を癒す努力する。頑張ってみる」


 勇気の言葉を遮り、力強く言い切る鈴音。


「そういうこと一切しないで付き合う……じゃダメなのか?」


 勇気が珍しく控えめな口調で伺うが、鈴音はぶんぶんと激しく首を横に振った。


「絶対駄目。勇気も知ってるかもしれないけど、私、性欲モンスターだよ。勇気のいない所でオナリまくってたし。もちろん勇気のこと考えて」

「知ってたよ……。おまけにマゾだ」

「えええええっ!? それは知られたくなかったのに! 知ってたの!?」


 鈴音が驚愕し、頭を抱えて大声をあげる。


「バレバレだったが……」

 勇気が嘆息する。


「も、もしかしてそんな私に合わせていつもサービスしてくれてた?」

「そんなわけあるか。調子に乗るな」


 伺え鈴音に、勇気が手を出して何かしようとしたが、鈴音は勇気の手首を握って制した。


「じゃあ勇気、訓練していこう。まずキスからね」

「まずにしてはハードル高いっ」

「高くないよ」

「高い。断固拒絶する」

「名前は勇気なのに、勇気の無い意気地なしな勇気」

「こ、こいつ……」


 ニタニタ笑ってからかう鈴音に、勇気が怒りのあまり歯ぎしりする。


(ああ……二人、とうとうそういう仲になっちゃうのか……)


 拝殿の外でこっそり会話を聞いていた政馬が、悲嘆に暮れていた。


(胸が張り裂けそうなくらいに痛い……。眩暈がする……。わかってはいたけど……辛い……)

「おや、政馬ではないか。何をしているんだ?」


 そこに星炭玉夫が現れ、声をかける。その声は明らかに拝殿の中にも届いていて、政馬が外にいた事もこれで伝わってしまった。


「ちょっと……今は声かけないでほしかった……」


 政馬が肩を落として言ったその時、拝殿の中から勇気が現れる。


「政馬……いいタイミングで来てくれたっ」


 勇気が助かったという感じの安堵の表情で声をかけるが、政馬はしょぼくれたままだった。

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