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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
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24

 九尾の狐が純子に迫る。

 純子は九尾の狐めがけて手をかざす。


「百合ちゃん、出てきてシールドになーれ」


 ツグミの力と伽耶と麻耶の力を足して発動させる。純子がかざした手の前に、優雅な微笑をたたえた百合が現れる。無論、本物ではなくイメージ体だ。その体には盾を持つための持ち手がついていて、純子は持ち手を持って、百合の体を盾の如く構える。


 九尾の狐がありたっけの妖力と共に、百合盾に激突した。その瞬間、百合盾から凄まじい勢いで白煙が噴き出し、九尾の狐を包み込んだ。

 激しく身悶えして、九尾の狐が後退する。頭部の左半分と左前足が、白蝋化していた。


 九尾の狐が妖気を凝縮した槍を続け様に放つ。合計で六本の槍が放たれ、それら全てが純子の体を貫いた。

 大量の血が噴き出した純子だが、すぐに血液が逆流して体内に戻る。傷口も閉じた。服の穴も閉じる。


「とほほほ、再生力……というか復元力も凄いですが、それを支えているのが本人の体力ではなく、転烙市で吸い取ったエネルギーというのが厄介ですね~。一体どれだけのエネルギーを削りきればいいのか、全くわかりませんし~」

『ああ……底が見えねーですよ』


 悲観的になる男治に、ミルクも口惜しげに同意する。


「おいおいおいおい、あっちヤバいぞ~。完全に押し負けてるしー」

「うっひゃあ……純姉どんだけパワーアップしてんのよォ~。純姉のやりたい放題になってるじゃんよ~」

「嘘だろ……あのメンツ相手に、純子一人で無双かよ……。どうなってんだよ」

「これは純子が完全にラスボスのぜんまい巻かれたね。自信満々に一人で現れただけはあるよ」


 二号、みどり、輝明、来夢がスタンド席を見上げ、それぞれ喋る。

 黒斗とつくしは戦闘不能になって倒れているし、史愉はグラウンドで眼鏡を探しているし、綾音とチロンの姿は無い。七人いた強者が、今や二人になってしまっている。


「あたしも行くわ。行ってもどーにもならないかもだけど」


 みどりがスタンド席に向かって駆け出す。


「僕の力も使ってやりたい放題か。何か凄く腹立ってくるよ」


 ツグミが苛立ちを込めて言い、みどりの後を追う。


「パクリで無双」「パクリで超強化」

「でもこの世界に、完全にオリジナルなものなんて無いのよ。少なくとも人間にはそういうものは作れない」


 伽耶と麻耶の言葉を聞いた凛が言った。


 九尾の狐が今度は大量の狐火を出して、純子に向けて放つ。

 ミルクも液体を噴射して純子を攻撃する。フルオロアンチモン酸だ。


「ミルクの出している酸、狐さんにかかれ」


 純子がぽつりと呟くと、ミルクが放射したフルオロアンチモン酸が軌道を変えて、九尾の狐に降りかかった。思わぬ所からの攻撃に、九尾の狐は反応しきれなかった。


 九尾の狐も狐火も消える。


『こいつぅぅぅっ!』

「あ~……私のキューちゃんが……。たは~……そんなのありですか~……」


 ミルクが歯を剥いてしゃーっと唸り、男治はがっくりと肩を落とす。


 と、純子のすぐ側に、累が現れた。


「あ、累君。来てくれたんだ」

 純子が累を見てにっこりと微笑む。


「純子……転烙魂命祭の余剰分エネルギーで僕も回復できますか? 連戦でぼろぼろです」

「いいよー」


 累の要望を疑うことなく受け入れ、回復してやる純子。


「ありがとうございます。おかげで元気になりました。それでは改めて……純子、僕は真の方に寝返ります。今から敵です」

「え~……」


 刀を抜いて笑顔で宣言する累に、純子は苦笑する。累が構える刀はいつもの黒い刀身の妖刀妾松では無かった。別の刀だ。


「あばばばば、御先祖様ァ、みどりも来たぜィ。久しぶりの雫野タッグで、純姉討伐だァ」


 みどりもスタンド席へと上がってくる。


「そっかー、君達まで敵に回るのかー。じゃあ……ちょっと本気出すかなあ」


 累とみどりが敵として立ち塞がる様を見ても、純子は怒りもしなければ嘆きもしない。むしろ楽しんでいる。


 純子が楽しそうな笑顔のまま、服の下腹部のボタンを外してめくった。純子の腹筋の割れ目とへそが見えたその直後――


「神蝕」


 純子の腹が爆発したかのように、増殖した臓腑と肉が、怒涛の勢いで噴き出した。


 それはたちまちスタンド席の片側にまで広がった。ミルクも男治も累もみどりも、飲み込まれまいとして必死に逃げる。途中でミルクが念動力で、動けないつくしと黒斗を拾って救出する。

 かつてないほどの巨大かつ長大な神蝕を見て、累は目を剥いた。純子の本体はどこにあるか、最早わからない。臓器が、筋線維が、脂肪が、骨が、機関、血管が、脳が、でたらめにこんがらがった状態で、多頭竜のように幾つも伸びている。その長さたるや、数10メートルにも及ぶ。


 増殖臓物の先端が累に迫る。累は刀で臓物を切り裂こうとしたが、累の目前に迫った所で臓物が二股に分かれ、そのまま累の左右を行き過ぎた。


(しまった……)


 次どうなるか、累には容易に想像がついた。普段なら転移して逃れる所だが、空間操作封じの結界が張られてしまっているので、それも出来ない。

 左右に分かれて累の側面を通過していく臓物が閉じて、間にいる累を押し潰して飲み込んだ。


 みどりにも神蝕の臓物群が襲いかかる。紐のように伸びた臓物群の先についた巨大肉塊が、夥しい数の細長い血管を伸ばして攻撃してくる。


「上っ等ッ! 黒いカーテン!」


 みどりが黒い布を広げ、伸びてくる血管を全て暗黒惑星へと送ろうとしたが――


 そもそも黒い布が出なかった。


(うっひゃあっ、あたし馬鹿だぁーっ! これも空間操作の術じゃんよ! 空間操作封じされてるってのにーっ!)


 ついうっかり無効な術をかけてしまい、自分の失敗と迂闊さを嘆きまくるみどり。


「痛たたたたっ!」


 体中に大量の血管を突き刺され、みどりが顔をしかめる。


『世話が焼かすなヴォケガ!』


 ミルクが念動力猫パンチで、みどりを突き刺す無数の血管を薙ぎ払い、みどりを救出した。


「さんきゅー、にゃんこ」


 みどりがミルクの方を向いて礼を述べ、にかっと歯を見せて笑う。


「みどり、下がれよ。手出ししなくていい」


 真が声をかける。みどりはむっとした顔になる。


(ヘーイ、真兄が戦いやすいように、少しでも削ってやってんだろがよォ~。それと、純姉の手口を少しでも見せるためにさァ)


 苛立ちを覚えながら、念話でそう返すみどり。


「俺達はあれと戦いに行かなくていいのか?」


 スタンド席の一角を占める神蝕を見て、アドニスが誰とはなしに伺う。


「言っても足手まといになるだけじゃない? ていうか一瞬で殺されちゃいそうだよ。私女だけど行きたくありません」

「あんなのどうしたらいいか、俺にはさっぱりわからん」


 正美と李磊が言った。


「もう私はピィィィポ君に変身できる力がありません……。すみません……」


 酒井が憔悴しきった声で謝罪する。ちなみにピィィィポ君の着ぐるみを着たままだ。


「正直、勝てる見込みがないように見えるよ。もう……どうにもならなくない?」

「私もだっ!」


 十夜が諦めきった口調で言い、美香が同意した。


「魔が差しても行かない方がいいね」

 と、来夢。


「そうかな?」

 悲観的な言葉を口にする一同だったが、晃の見方は違った。


「相沢先輩のあの顔さ……」

 晃は真を見ていた。


「どう見ても諦めた顔じゃない。まだ戦う気だよ、先輩は」

「そのようだな。そして勝算が無いわけでも、空元気ってわけでもねーようだぜ」


 晃の言葉を聞き、真の顔を見た新居がにやりと笑った。


 ミルクに向かって、臓物が無数の触手となって襲いかかる。ミルクは念動力猫パンチで撃退し続けているが、防戦一方だ。


 男治はというと、九尾の狐を出して再び力を使い果たして動けなくなった所を、神蝕に飲み込まれていた。


「虹蚯蚓」


 臓物の中に飲み込まれた累が、内部から術を放ち、七色のビームで神蝕の臓物を薙ぎ払い、復活する。


「土偶ママっ、ビニール魔人っ、悪魔のおじさんっ」


 ツグミが怪異を呼び出して神蝕と戦わせるが、どう見ても焼け石に水だった。


「ふぇ~……これ、パワーが違い過ぎる……っていうか……単純に質量すごすぎて、どうにもならないよォ~。純姉……やりすぎじゃね? いくら本気だからって……それにしたってここまでやらんでもいいべ~……はあ……」


 戦いながら泣き言を口にするみどり。


「真兄……こんなの勝てないよォ……。今の純姉は手に負えない……。いくら前世の力を引き出しても、これは絶対無理だよぉ……」

「そうでもない」


 いつの間にか移動して、戦闘している場所にまでやってきた真が、いつもと変わらないポーカーフェイスで言った。


「もういいよ。皆下がれ。あとは僕がするから」


 まだ戦っているミルクと累とみどりとツグミに、真が呼び掛ける。


『お前に何が出来るってんだヴォケガっ』

 ミルクが真に噛みつく。


「元々僕一人でやるつもりだったのに、お前達がしゃしゃり出てきた。これ以上お前達がやって勝てる見込みもないだろ? 下がれ。邪魔だ」

『こ……こいつ……』

「真先輩、言い方……」


 真のあまりにもにべもない物言いに、ミルクは絶句し、ツグミも憮然として言い返す。


「下がりましょう……。どうやら真には勝算があるようです」


 累が真を見て微笑み、他の三名を促した。


「イェアー、真兄、後でデリカシーの本、五十七冊、それぞれ五百五十回音読の刑なっ」


 みどりが吐き捨て、その場から離れた。ミルク、累、ツグミの三名も、みどりに続いて離脱する。


(転烙魂命祭の余剰分エネルギーが無尽蔵に力を与え、ツグミと伽耶と麻耶のクローン脳を使って、あいつらとほぼ同じ力を行使できる。そして究極運命操作術悪魔の偽証罪。ぼくのかんがえたさいきょうのらすぼす……を体現しているな、純子)


 真は声に出さずに純子に語りかけながら、頭の中で不敵に笑っていた。


「でも――運命は僕に味方してくれた。世界は僕の勝利を望んでいる」


 真が声に出して言い切り、現実の顔にも不敵な笑みを浮かべた。

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