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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
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23

 少し時間は遡る。


 純子一人と、真、チロン、男治、史愉、ミルク、つくし、ミルク、綾音、黒斗が対峙している。しかし真は戦うつもりが無い。まずは様子見する事に決めた。


「私だけ転移能力使えるようになーれ」


 球場内に出現した大量の脳を意識しつつ、純子は声を発する。


「ぐぴゅ……こいつ何言ってんだ?」

『まさか……』


 史愉が訝る一方で、ミルクは純子の発言の意味が何を意味するか、全て察した。綾音と男治とチロンもすぐにわかっていた。


 純子の姿が消える。


「ぐぴゃあっ!」


 背後から後頭部に蹴りを入れられた史愉が、おかしな悲鳴をあげて前のめりに倒れた。


 黒斗が純子の方に向いて身構え、はっとした。得意の拡散転移攻撃は使えない。現在、球場内には空間操作封じの結界が張り巡らされている。


「悪魔のおじさん」

 純子が呟く。しかし何も起こらない。


「駄目かー。じゃあデビルの方で」


 純子の言葉に応じるかのように、純子の前に病的な青白い肌の美少年が現れる。


「いけたー。そっか。自分に馴染みのある方がいいみたいだね」


 純子が満足げに笑う。


「デビル……死んだはずだぞ。あたしが死体の一つを回収したし。クローンか?」


 現れたデビルを見て、史愉が訝る。


「イメージ体のようですね~。しかし相当な再現度です」


 男治が言った。男治も自分の生み出した妖怪限定で、イメージ体を作って操ることが出来る。しかし滅多にやることではない。作った妖怪なら、そのまま召喚すればいいのだから。


 デビルが無言で動き出す。背中や肩から無数の枝葉を出して光らせる。

 何枚もの光る葉より、一斉にビームが放たれる。複数のビームが、純子と対峙する者達に降り注ぐが、全員難無くかわしていく。


「悪因悪果大怨礼」


 チロンがデビルに向かって極太黒ビームで反撃すると、黒ビームはあっさりとデビルの上体を吹き飛ばした。下半身だけになったデビル。


「ええっ? あっさりやられちゃってるし……。性能悪ーい……」


 落胆の声をあげ、純子が転移する。直後、純子がいた場所とその周辺の椅子とコンクリートが粉々に吹き飛んだ。ミルクが念動力パンチを見舞ったのだ。


「人喰い蛍」

「エンジェルバリスタ」


 綾音が人喰い蛍を放ち、上空のつくしが光の矢を撃って、純子を攻撃する。転移後を狙った。連続転移は空間操作に余程長けた者でないと出来ないが故に、綾音は意図的にそのタイミングを狙った。そして純子はさほど空間操作に長けているわけでもない。


「ばりあー」


 純子が一言発すると、ドーム状の薄い膜が純子の周りに張り巡らされ、綾音とつくしの攻撃が全て防がれる。


「一度に攻撃されるのは厄介だから、綾音ちゃんとミルクとつくしはストップ」


 純子かがそんな台詞話口走ると、綾音とつくしの全身が硬直する。飛んでいたつくしは落下した。


『何だ、それは……』


 名指しされたミルクが、つくしと綾音を見やる。


「ミルクには効いてないかー。それに――」


 硬直していたつくしと綾音が、再び動き出した。それを見て純子は理解する。


「流石に相手に直接効果を及ぼすのは難しいかな。でも、一瞬は効いたね」


 一人納得する純子に向かって、チロンと黒斗が左右から飛びかかる。


 黒斗が突き出した拳の一撃をダッキングしてかわすと、純子は黒斗の懐へと飛び込み、腹部に掌を当てた。


 慌てて身を引く黒斗。純子が手で触れたものは、分子運動の変化や、原子分解といった、物質のコントロールを自在に可能で有る事を黒斗は知っていた。


 純子が黒斗を追撃しようとしたが、チロンが一回転して尻尾ビンタを見舞ってきたため、そちらに気をやらざるをえなかった。


 尻尾ビンタを回避したつもりであったが、尻尾から生じた妖気の放射を受け、よろめく純子。


「累君」

「はあっ!?」


 純子の言葉に応じて、目の前に刀を構えた累が出現したので、チロンは思わず声をあげてしまう。


 無表情の累が、闘気も殺気も感じさせず、機械のように刀を振るう。その動き、速度、太刀筋の鋭さ、癖、全てが累そのものと、チロンの目には映った。


「さっきから何なんじゃ……。こやつの力は」


 累の斬撃をかわしながら、チロンは純子を睨む。


「伽耶ちゃんと麻耶ちゃんとツグミちゃんの能力を、そのまま私が使える感じかな」


 純子のその言葉を聞いて、何人かは透明階段や空の川や寒色植物にある、大量の脳みそを見やる。この脳は転烙市にあった、伽耶と麻耶とツグミのクローン脳である。つまりそれらの力を、純子は引き出して使えるということだ。


「伽耶と麻耶の力はともかく、ツグミの力はあまり上手く使いこなせていないように見えるぞ」


 少し離れた場所で様子を伺っていた真が、思ったことを口にした。


「確かにね。ツグミちゃんの能力を使うにはコツがいるね。イメージを膨らませるっていう段取りや、願望そのものがこもっていないとね」


 真の指摘を認める純子。


 黒斗が背中より鋼鉄の翼とロケット噴射孔を生やし、至近距離から純子めがけて飛翔して突っ込んだ。


 強引なこの不意打ちを、純子は避けることが出来ずに、黒斗のタックルを食らった格好のまま、黒斗と共にしばらく水平飛行した後、スタンド席の中に激しく突っ込んで倒される。


「痛たたた……」


 コンクリートに激しく叩きつけられた純子は、何ヵ所も骨折し、体のあちこちから血を流していた。肋骨と背骨、頭蓋骨にも損傷がある。「痛たたた」で済ませられるダメージではない。黒斗のロケットタックルの威力は、猛スピードのダンプにはねられた以上の衝撃がある。


 距離が開いたせいか、累のイメージ体は消える。


「ぐぴゅーっ。勝手に移動しくさんなーっ。面倒臭ーっ」


 史愉が抗議の声をあげて走ってくる。つくしも飛んでくる。少し遅れて、チロン、男治、綾音、ミルク、そして真も移動してきた。


「あ……う……」


 黒斗が愕然とした面持ちで呻いている。両腕の肘から先が切断され、両脚も膝の辺りが破壊され、機械部分が露出している。

 コンクリートに激突するその間際まで、黒斗は純子の反撃を受ける事もなく、そのまま飛翔を続けていた。

 あろうことか、激突したその瞬間に、純子は反撃を行った。純子はそのタイミングを狙っていた。激突の衝撃で体のあちこちが砕けながらも、両手を動かし、黒斗の両腕両脚を破壊していた。


 純子は何事も無かったように立ち上がる。本来は再生能力の乏しい純子であるが、今は転烙市で吸い取った余剰エネルギーを利用して、即座に再生が出来る。


「殺生石バージョン3.7564。ダウングレード開始」


 男治が殺生石を呼び出す。先程の累との戦いでの消耗は、伽耶と麻耶に回復してもらってある。


「マギア・モーター」


 つくしが空から光弾を撃つ。つくしの手にはめられたボウガンから、放物線を描く軌道で光弾が射出され、純子がいた場所に着弾し、爆発を起こす。


『逃げろ! つくし!』


 ミルクがつくしの方を見上げて叫んだ。


「壊しても死なないけど動けなくなる駆動部分見せて」


 つくしの上方に転移した純子が呟く。


 純子の目には、つくしの体の数ヵ所が赤く光って見えた。胸、腹部、手足の付け根。その場所めがけて、素早く手刀を突き入れる。


 つくしがぐったりとして落下する。しかし地面に落ちる前に純子が空中でつくしの体をキャッチして、そのまま地面に着地した。


「この野郎! 純子のくせにーっ! 生意気だぞー!」

『やめろ! つくしにも当たる!』


 史愉が袖の下から無数の羽虫を飛ばし、ミルクが制止の叫びをあげる。もちろん史愉は聞き入れない。


「当たらんように気を付けて攻撃するわい。人喰い蛍」


 チロンが再び光滅を放つ。


「合わせます。人喰い蛍」


 綾音もチロンと同じ術を唱えた。二人分の人喰い蛍が純子めがけて殺到する。


「殺生石バージョン0。ダウングレード」


 男治が呟くと、殺生石が割れて、九尾の狐が勢いよく飛び出し、純子に向かって速攻で駆けていく。


 四人分の同時攻撃が純子に向かっていく。転移で避けても、これらの攻撃は転移先にも追尾してくると思われた。


「時間の体感速度、ゆっくりになれ」

 純子が呟く。


 周囲を見る。言葉通り、全ての動きがスローモーションになって見えた。


(何でも出来るわけじゃないけど――大抵のことが叶うとなると、逆に何したらいいかわからなくなっちゃうね。シチュエーションに会わせて、出来ないことを埋める。欲することを欲する。それならいいけど、作戦を組み立てるとなると、考える幅が広がりすぎちゃって)


 体感速度は変化しても、純子の体の動きまでもが速くなるわけではない。しかし思考の速度は増している。考える余裕がたっぷりと出来る。


「これはいけるかな? 私の空間操作能力、短時間でいいから向上して。連続で空間操作できるようになって」


 言葉で願いを紡ぎ、転移を行う。


 チロンの背後に転移する純子。しかしチロンはまだ反応していない。


 転移直後に空間操作を行い、チロンの周囲の空間を歪め、またすぐに転移する。


 今度は綾音の横に転移した。ここでもまた綾音の周囲の空間を歪めておく。そしてさらに転移を行う。


(この程度が限界かなあ)


 史愉の真正面に転移した所で、スローモーション化が解けた。


 スローモーション化している際、感覚と思考は高速化するが、体の動きまで速くなるわけではない。しかし、空間操作の能力を扱うのは一瞬だ。


「え?」

「なぬっ!?」


 綾音とチロンが驚きの声をあげて、体中のあちこちに斬撃を受け、血を噴き出しながら激しく回転して吹っ飛んでいった。どちらも、空間の歪によって生じた効果だ。


(よかった。純子。信じていたけど、それでもよかったと思う)


 圧倒的な力を見せつける様を純子に対し、真は安堵と誇らしさと高揚感を同時に覚える。


(そいつらをねじ伏せ、はねのけ、蹂躙できるほどの力を備えていて、正にラスボスらしい強さを備えてくれて、ありがとう。それでこそだよ。僕が打倒を掲げた相手として、最高に価値を高めてくれた。素晴らしいよ、お前)


 純子に対する感謝と敬愛の念が真の中で膨らんでいる。真から見て、純子の存在が最高に輝いている。


「ぐ、ぐぴゅ……め、眼鏡……眼鏡は……」


 史愉の目の前に現れた純子が、史愉の眼鏡をひょいと取り上げる。いつもの史愉とはまるで別人の、弱々しい声と表情になって、両手を顔の前で振り、首を左右に振り、狼狽える。


「やめて……お願い……返して……眼鏡返して……」

「すまんこ。ふみゅーちゃん、可哀想とは思うけど、戦闘中だし、敵だからねえ」


 今にも泣き出しそうな顔で懇願する史愉に、純子はにっこりと微笑むと、史愉の白衣の襟を片手で掴み、グラウンドに向かって投げ飛ばした。

 片手で放り投げられた史愉の体が宙を舞い、スタンド席からグラウンド席に頭から落下する。


「ううう……眼鏡……眼鏡……どこ……誰か……」


 史愉はうつ伏せになって、手探りでグラウンドをまさぐり、眼鏡を探し続けていた。

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