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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
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20

 PO対策機構の兵達は固唾を飲んで、スタンド席にいる純子と真の対峙を見守る。


「こんばんはー、いい夜だねえ。台風きてるけど」


 屈託の無い笑顔でぬけぬけと挨拶する純子だが、目の前にいる真はもちろん、誰も挨拶を返さない。


「皆して何ぼけーっとしていやがるんスか? 純子一人で来てるし、チャンスだし、とっとと袋叩きにすべきだぞー」

「まあまあ、ちょっと様子を伺いましょうよ~」


 不満げに訴える史愉を、男治がなだめる。


「一人で来たからには何かありそうだし、今は真に任せた方がいい!」

「本当かよ~? ただのその場のノリだけじゃねーの?」


 美香が叫ぶも、二号は懐疑的だった。


「ガオケレナの手引きだったんだね。やっぱり自我が芽生えていたんだねえ。そして私の目的に反対しているなんてさあ。あーあ……」


 わざとらしく落胆の声を出す純子だが、目は笑っている。この状況を楽しんでいる。


「雪岡、お前の最大の失敗は、砲台となるアルラウネの苗床の『教育』という、非常に大事な役目を、自分でやらなかった事だな。大丘なんていう、どこの馬の骨かもわからない奴にやらせてしまった。おかげでガオケレナは、お前の望むような無垢な存在にはならなかった。ノイズが入ってしまった」

「んー? どんなノイズ? 大丘さんは何をしたの?」


 真の話に興味を抱く純子。


「ガオケレナは異物、あるいは淀みと呼んでいたけどな。お前が望んだ苗床の人材は、純粋まっさらのそれだったが、大丘は彼等の純粋さを肯定する一方で、会話の中で、世の中の不条理も引き合いに出す事が多かったようだ。それはどうあっても不純と向き合うことになるだろ」


 皮肉なことに、それは純子の思想とも一致する。純子は人間が純粋であることを是としない。かつて政馬が完璧に純粋な世界を求めていた事に対し、純子は反発を覚えていた。世界は不純物だらけだから楽しいというのが、純子の考えだった。

 皮肉なことに、ガオケレナの苗床となる人材とは、政馬が求める人材が必要だった。そのため、純子の思想とは反する思想で、苗床達をマインドコントロールする必要があった。


「なるほどー。そのおかげで、ガオケレナは純粋性を失い、フツーに自我が芽生えてしまったうえに、ガオケレナの意思は私の理想を拒んでしまった。真君達を手助けしてしまった。確かに凄く間抜けな話だよねー。あははは。でもさあ、大丘さんがあんな人だとは知らなかったんだよ。テストの段階で、純粋な若者達の教育役を買って出て、それを見事にこなしているように見えたからさあ、それで全部お任せしちゃったんだよねえ。つまり、あれが私の精一杯だよ」


 そこまで話したところで、純子は肩をすくめて苦笑した。


「これだから私は、ガチガチの策とか好まないんだよ。そういう策を練ったつもりでも、どこかで見落としがあって、一気に崩れちゃう。ま、今回はガチガチでいってみたつもりだけど、やっぱり抜けていたってわけだね。人間てどうしてもミスをする生き物なんだ。だから私は普段から、陰謀企てる時は、それが失敗しても痛手にならないような、成功すればラッキー程度に留めるような、穴だらけの策で臨んでいたってわけ」

「それは前にも何度も聞いたし知ってる」

「でも今回は色々と用意してきたし、まだカードはあるんだよねえ。私達にしてみても、君達にとっても、まだ終わりじゃない」


 そこまで話したところで、純子は球場内のPO対策機構の精鋭達に目を走らせる。知った顔が多い。


「そうやって皆でガオレケレナを守護する態勢を整えているっていう事は、ガオケレナの砲台としての機能を無効化するには、時間が必要ってことなんだよね? 何をしたかは知らないけど、それも解析すれば済むことだし」


 純子が前に進み出る。


「行かせない」


 真が純子に向かって片手を突き出し、何時になく熱を帯びた声を発する。


「いや、行くけど?」

「ぐっぴゅ、行かせるはずないぞー。くだらねー話に付き合ってやるのもここまでだぞー」


 いつの間にか真の後方に移動してきた史愉が、陰気たっぷりの笑顔で告げる。

 史愉だけではない。男治、チロン、黒斗、ミルク、つくし、綾音もスタンド席にやってきて、純子の行く手を阻むように立ち塞がった。


 純子の足が止まる。


(あたしはまだ行かないよォ~)


 純子と、純子と対峙する面々を、離れた位置から見やるみどり。


『これだけの豪華メンバー相手に一人でやるとか、自惚れ過ぎじゃないですか?』


 ミルクが挑発気味に言うが、純子がたった一人でこの中に現れたからには、何かしらのとっておきの手があるのだろうと見ている。


「そうでもないんだよねー。転烙市で集めた生命エネルギーの余剰分はまだまだあるし、二つ目の奥の手もあるからねえ」


 純子が微笑みを張り付かせたまま、片手を上げて人差し指で頭上を指した。


 大勢の注目が、純子が指した方へと向く。無論、気を逸らすためだけの仕草という可能性もあるので、多くの者はすぐに純子や周囲にも視線を走らせて警戒するつもりだった。


 しかし警戒するつもりだった者の多くが、現れたそれに、目が釘付けになってしまう。


 転烙市にあった、透明の階段。転烙市やグラス・デューで見た、空の川。それらが安楽市民球場上空に出現したのである。

 さらには、球場内のあちこちに、転烙市やグラス・デューにあった寒色植物が、凄い勢いで生え始める。

 そして階段の中には脳みそが敷き詰められ、川の中を脳みそが流れ、寒色植物にもまるで実がなるように脳みそがくっついている。


 ツグミと牛村姉妹はそれを見て、顔をしかめている。


「これが二つ目の奥の手か?」

「うん」


 真の問いに、純子が頷いた。


「何がどう奥の手かわからないけど、取り敢えずいくか」

 黒斗が身構える。


「余剰エネルギーとやらがどれだけあるかじゃのー」

 と、チロン。


『純子は再生力が乏しいが、転烙市で得た余剰エネルギーとやらで、回復できちまうですよ。その力、かなーり余っているからこそ、堂々と一人で現れたんじゃないか?』

「となると~、相当なダメージを与えない限り、やっつけることはできないかもですね~。たは~」


 ミルクの推察を聞き、男治は帰りたい気分になった。


「この脳をこの場に出したという事は、純子はこれらの力を使いこなせるという事です。その点にも用心を」

「要警戒了解」


 綾音の言葉に頷いたつくしが、空高く飛翔する。


「俺達も加勢した方がいいのか?」

「彼等に任せた方がいい!」


 克彦が疑問を口にすると、美香が制した。特に力のある者達が前面に出ている中、それらに劣る者達は、余計な手出しは控えた方がいいと判断した。


「僕が雪岡の相手をしたいんだが……」


 やる気満々の一同を見て、真が頭の中で憮然とした自分の顔を描く。


「わっはっはっはっ、君の我儘なんか聞いてられないっス。確実にぶちのめす方法を取るまでだぞ」


 史愉が真の方を向いて笑い飛ばす。


「真、純子に執着する気持ちもわかるけど、今は適材適所だ」

「適材適所というと、それこそ僕があいつの担当をすることが適材適所なんだぞ」


 熱次郎が声をかけると、真が言い返す。


(まあいいか。こいつらには倒せない。僕にはわかる)


 真だけは確信していた。なので、ムキになって止める気にもなれなかった。


「あのメンツじゃ、いくら純子でも殺されかねなくねーか?」

「それなのに純子は余裕っぽい雰囲気なのが怖いね」

「転烙魂命祭の余剰エネルギーが有る分、そうそう死なないんじゃない?」


 輝明と修が、純子達のいるスタンド席を見上げて話す。


「余剰エネルギーも曲者だけど、それ以上に問題なのはあの脳だよ」


 怒気を帯びた瞳で純子を見つめながら、ツグミが発言する。


「あの脳は僕と伽耶さんと麻耶さんのクローンだ。多分雪岡先生は、あの脳を使いこなせるんだよ。つまり……」

「私達のパクリ」「私達の力を純子も使えるってことよね」


 ツグミの言葉を引き継ぎ、麻耶と伽耶が言った。


「おい、あっち」


 李磊が球場グラウンドの出入り口の方を指す。


 日葵、ミスター・マンジ、ネコミミー博士、霧崎、ワグナー、陽菜、エカチェリーナと、転烙ガーディアンとオキアミの反逆の兵士が大勢雪崩れ込んできた。


「イ~ヒッヒッヒッ、この台風の中、皆よーやるねー。宴もたけなわかい? いやいや、これからかい? 生き残ったらこの子達を御馳走してあげようかねえ。敵味方区別無くね。ウェ~ヘッヘヘッヘッ」


 今回も家畜を大量に引き連れた日葵が、アコーディオンを鳴らしながら不気味に笑う。


「ムッフッフッ、準備万端なようだね」


 球場内の寒色植物、上空の透明階段と空の川を見て、ミスター・マンジが泥鰌髭を捻りながら満足げに笑う。


「転烙市民から得た生命エネルギーの余剰分は私達も利用できるとして、脳の方はどうなのです?」

「残念だがあれは雪岡君専用だ」


 ワグナー教授の質問に、霧崎が答えた。


「暇にならなくてよかったじゃないか」


 グラウンドに現れたサイキック・オフェンダー達を見やり、梅津が皮肉げに笑う。


「暇なままでよかったけど」


 梅津の隣に座っていた香苗が溜息混じりに立ち上がる。


「こいつらとの戦いでガオケレナの力は借りれないの?」


 十一号が疑問を口にする。


「ふぇ~、期待しない方がいいよぉ~。できるだけガオレケレナには、ガオケレナだけが出来る事に専念してもらった方がいいぜィ」


 みどりが答えた。


「こいつらはこいつらでヤバそうだ。マリエ、固まっている今のうちに攪乱して」

「あいよ」


 来夢に指示されたマリエが頷くと、敵が固まっている中心に、大量の石像を出現させた。

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