表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
3370/3386

17

 政馬は一人うなだれていた。


「早まって空回りしちゃったなー。おかげでね、無用な犠牲も出しちゃったよね。それで成果無しだから救いが無いよね」

「思い付きだけで暴走するなって、小さい頃から何度も注意していたでしょー」


 ぼやく政馬に対し、渋面のアリスイが腕組みして言った。


「今回ばかりは反省してるよ。絶好のチャンスだと思ってから、つい動いちゃったんだ」

「何度もその台詞は聞いてるわ」


 しゅんとしている政馬に、険のある声で告げるツツジ。


「責任ある立場なんですから、慎重にならないと駄目ですし、そろそろ成長しないと駄目駄目ですよー」

「信じたのに裏切ってくれたわよね? 怒るって言ったよね?」

「ああ、すっかり忘れていましたよ。陰謀企まないと言ったのに、約束したのに、あっさりと裏切ってくれましたよねー?」


 その後、ツツジとアリスイの二人がかりで延々と説教が始まる。政馬は珍しく黙って聞いていた。


「戦闘員は死ぬことも覚悟のうえで臨んでいる。僕もね。とはいえ、無駄死にさせる事態は頂けない。僕のせいで無駄に死なせたようなものだ。今回は本当に反省している」


 政馬がこれまた珍しく、慎ましい言動を取る。実際かなり堪えていた。


「反省したなら同じ過ちは繰り返さないで。政馬の一番悪い所は、思い付きや勢いだけで滅茶苦茶やりだす所と、失敗を繰り返す所よ。ヨブの報酬の襲撃も、不意打ちが上手くいったからよかったけど、しくじたらかなり危なかったんじゃない?」

「わかってる」


 念を押すツツジに、政馬は真顔で頷く。


「しかしその衝動的に滅茶苦茶やってしまう所が、政馬の魅力でもあるんですけどねー。それによって大きな成果をあげることもありますしー」

「アリスイ、余計なこと言わないで」


 にこにこ笑って茶化すアリスイに、ツツジが一層険のある声で注意した。


***


「ちょっとー、勝手に入らないで!」


 次々と球場の中へと入って行くPO対策機構の兵士達を防ごうとして、空飛ぶカボチャの上に乗ったネコミミー博士が、ニンジンをミサイルのようにして何発も射出する。


「あぶっ、あぶば!」


 輝明と修の側に着弾したニンジンが爆発を起こす。修は余裕を持って、輝明は回避しそこねて、爆風を浴びて悲鳴をあげていた。


「厄介なガーディアンだ」


 バイパーが石を拾い、ネコミミー博士に向けて投げつける。


 ネコミミー博士はルーン文字が刻まれた大根で、石を打ち落とす。


「厄介なのは君達なんだよ」


 ネコミミー博士がバイパーを見下ろし、眉間にしわを寄せて言うと、ルーン文字が刻まれたトマトを大量に発生させ、バイパーに向かって射出する。


 トマトを受けたらどんな効果があるかわかったものではないので、バイパーは走り回って尽くかわしていく。


「敵が回復しまくってる。全体連続回復っていうか、強リジェネ持ち?」

「強リジェネ持ちの敵を連発するゲームは糞ゲー」


 伽耶が言うと、麻耶が心底忌々しげな顔になって断言した。


「全員、交戦は適当にしておけ。突入することを最優先しろ。今はその好機だ」


 真が告げたその時、PO対策機構の兵士達に異変が生じた。


「え? 引っ張られているっ」


 きょとんとした顔になる松本。球場の中へと見えざる力で体が引きずられている。


「引きずり込まれてるけど、これ平気なのか?」


 梅津が真の方を見て問う。PO対策機構の他の面々も、吸引されるかのような動きで、次々と球場内へと体が引っ張られている。


「こっちの手引きだと思う。雪岡達がこんな真似するはずがないし」


 真が答える。真の体も引きずられ始めている。


(多分、ガオレケレナの仕業だろうけど……いいのか? 雪岡にバレてしまうというのに)


 予期せぬ展開に、懸念を抱く真。


「ぐっぴゅっぴゅーっ。こっちは純子と戦っている最中なのに、余計なことすんじゃねーぞー」


 史愉が抗議の声をあげる。


「抗いがたい強大な力じゃの……相当な強者も数多くいるというのに、それをまとめてとは。これがあの木の力か?」


 チロンがガオケレナを見上げ、その力を脅威に感じる。


「強引に突入しようとしているのではなく、大きな力で引きずり込まれているように見えるな」


 やっと再生した霧崎が、PO対策機構の兵士達の様子を見て言った。


「んー? そういう力のある人が、すでに中にいるってことかな?」


 純子が訝る。純子はまだこの時点では、ガオケレナの仕業という発想には至らなかった。


「真の言動を聞いた限り、皆で中に入って球場を占拠するみたいだよ」


 カボチャに乗ったままのネコミミー博士が、純子の側にやってきて言った。


「占拠してどうするつもりなんだろ。ガオケレナの破壊は無理だと思うんだけどなあ」

「その方法があるかもしれないから、放ってはおけまい。ガオケレナにも微妙な変化が生じていたし、すでに何かをした後かもしれんぞ」

「そっかー」


 霧崎に言われ、純子もガオケレナの状態を探る。


 その時点で純子は、目の前で発生している現象の正体がわかった。ガオケレナから強いエネルギーが生じていたのだ。


「彼等を引きずり込んでいる者の正体がわかったよ。ガオケレナだ」

「何だと……」

「ガオケレナの意思? ガオケレナに自我が芽生えていて、しかも真君達に味方しているってこと?」


 純子の言葉を聞いて、霧崎とネコミミー博士が驚く。


「そう考えるのが自然だよ」


 ネコミミー博士の言葉に頷く純子。


 三人の元に、鯨化を解いたワグナーが、服を着ながらやってきた。


「球場内にいた兵士達が強制転移で追い出されています。空間操作封じの結界を突き抜けていますよ」


 ワグナーの報告を見て、純子達が周囲を見回すと、確かに中にいた兵士達が次々と球場周辺に現れている光景が、飛び込んできた。


「それもガオケレナの仕業っぽい?」

 ネコミミー博士が伺う。


「そうだろうねー。球場全体に外側から、空間操作封じの結界を強化しないと、こっちが突入してもまた追い出されちゃうし、時間かかるなあ」


 ガオケレナを見上げて、顎に手をあてて思案する純子。


「こっちも奥の手を出した方がよさそうだねー」

「悪魔の偽証罪かね?」

「それはラスト。奥の手の二つ目を出すと言った方がよかったかな。さっき一つ目は出したし」


 尋ねる霧崎に、純子が微笑んで答えると、累に電話をかけた。


「んー? 累君と連絡つかない……。やられたってことは無い……と思いたいけど」


 不穏に不穏が重なっているような、そんな気がしてくる。


(私の目から見ると、君の勝利は揺らぎそうにないが、あの子はどうするんだろうな? ただ成す術なく負けるだけか)


 唐突にヴァンダムが声をかけてきた。


(真君の方に勝ってほしいのー? ヴァンダムさん、私の守護霊なんだから私を応援してよー)


 肉声に出さずに、純子はヴァンダムとの会話に応じる。


(判官贔屓かもしれん)

(日本人でなくてもそういうのあるんだ)

(君とタッグを組んでいたあの子が、今やこうして君と争っている。私は、あの時私と戦っていた、君達二人組の方が好きだな)

(そっかー)


 真とタッグを組んでいる方がいいとヴァンダムに言われて、純子は嬉しくなった。


「この球場全体に空間操作封じの強化をするには、かなりの時間がかかるぞ。どれほど強化すればいいのかもわからん」

「悶仁郎さんがいればねー」


 霧崎が言い、ネコミミー博士がぼやく。


「しょうがないなあ。一応はその路線で。でも、陽が落ちてもその作業が終わる兆しを見せないなら、抵抗力の強そうな人達だけに絞って、突入しよう」


 純子が決定した。


「時間稼ぎをしたいたいがための、強引な突入と占拠だろうな」

「余裕がないからこそその強引な突入ですね」


 球場を見やりながら霧崎が言い、ワグナーが同意する。


「時間稼ぎをしているにしても、どの程度の時間が経過すれば不味いのか、わからないよねえ。でもさ、多分、真君達もよくわかっていないと思う」


 時間的な余裕がないというより、どれだけ余裕があるのかわからないからこそ、無理な突入をしたのではないかと、純子は見ていた。


***


 安楽市民球場内からは、転烙ガーディアンとオキアミの反逆の全ての兵士、全ての研究員がガオケレナによって追い出された。代わりに今、PO対策機構の兵士達が占拠している状態となっている。


「真先輩、目論見通りに出来たね」

「一応な。でもまだこれからが大変だ」


 ツグミが真に微笑みかけ、真はガオケレナに視線を向けたまま言った。


「ニーニー、入ったはいいが……これからどうするんだ?」


 輝明が新居に尋ねる。


「ここからは防衛メインらしい。このウドの大木が、アルラウネの種子を出さなくする薬を投与したが、効果が出るまで時間がかかるんだとよ」


 新居がガオケレナを一瞥し、皮肉めいた口調で言う。


「その効果時間までキープすれば、我々の勝ちというわけですね?」

「多分そうだぞー。それでも勝ちにならないなんて面倒臭いぞー」


 澤村が伺うと、史愉がもっともなこと口にする。


「逆に言えば、効果が出るまでに護れずに奪還されてしまえば、またどうなるかわからないというわけか」

「そうだな。雪岡なら薬の効果も打ち消してしまいそうだ」


 アドニスと真が言う。


「伽耶、麻耶、音木と男治を癒してくれ。他にも使い物になりそうな奴を優先して回復してくれ」

「ほいきた」

「回復は苦手なのに。とほほほ」

「悪いな。勇気がいないからその分働かせる事になる」

『いてもいなくてもいつもこき使われている』


 真に要請され、伽耶と麻耶は諦め顔で応じる。


 ふと、真がバーチャフォンを見る。ミニサイズでホログラフィー・ディスプレイを投影する。


「あいつらが来た。みどり、ガオケレナにあいつらを転移させて中に入れるよう促してくれ」

「オッケイ、真兄」


 真に促され、みどりはガオケレナに念話で伝える。


 真達の目の前に、十夜、晃、凛が入ってくる。


「いきなり強制転移されて驚いた」

 十夜が恐々として言った。


「やっほー、相沢先輩。待ったー?」

「別に」


 晃が嬉しそうに手をあげるも、真の対応は素っ気ない。


「やあ、先輩」

 ツグミが笑顔で声をかける。


「おー、ツグミもいたー。嵐の中で同族と再会~。同族よ~」


 晃がツグミに向かって手を上げるが、ツグミは応じなかった。


「今の僕は男の子モードだから、そのノリは無理かな」

「じゃあ早く女の子になるんだ」

「今はこのままでいたいんだ。ラストバトルだからね」


 晃が促すも、ツグミはやんわりと拒んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ