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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
3366/3386

13

 真が静かな佇まいで純子を見やる。意識の全てを純子に注ぐ。


 純子は戦いの手を完全に止めていた。こちらも真のことを真っすぐ見つめ、にこにこと嬉しそうに微笑んでいた。


 誰も純子に手出しをしようとしない。真に対してもだ。今戦っているのは累と男治だけだ。サイキック・オフェンダー達も、戦いを辞めて、異様な雰囲気の両者の行く末を見守っていた。


「約束は覚えているよな? 僕がお前の計画を潰したら、お前はマッドサイエンティスト廃業だ」

「もちろん覚えているよー。でも、私がこの計画を実行したら、真君はこの先ずっと、マッドサイエンティストの専属の殺し屋だよー? 何だったら助手になってくれても構わないけど」

「そうなったら僕の負けでいい。お前もずっとマッドサイエンティストしていればいい。僕は大人しく従うよ。負けないけどな」


 心なしか、うそぶくような響きで言い放つ真。


「ここで真君とデートしてもう何年になるかなあ?」


 純子が口にした台詞に、何名かが衝撃を受けた。


「えええっ、ここで二人でデートしたの!? 私もしたことあるけど! 相手は茜ちゃんだったけど! 世界の恋人占い展やってたけど!」

「うるさいぞツグミ! はしゃぎすぎだ!」


 嬉しそうに囃し立てるツグミに、美香が憤怒の形相で怒鳴る。


「聞いた麻耶? ねえ聞いた麻耶?」

「情けなや。敵味方の間柄であろうに、この二人は公衆の面前にて、浮かれ話に酔うつもりであるか。拙者は哀しいでござる」


 伽耶がにやにやして声をかける。麻耶はショックのあまり、虚ろな眼差しで武士言葉になっていた。


「伽耶、現実見ようね」

「ぐ……ガギギ……ゲごグが……ほんげ~」


 伽耶がさらに麻耶に声をかけると、麻耶は壊れた。


「この球場ではいつも変なイベントしてるけど、このイベントは僕が知る限り一番変だ」

「私主催のイベントだけど気に入らない?」


 純子の問いに、真が数秒沈黙する。


「気に入るわけがない」

「真君は千年前も今も、嘘が下手な嘘吐きだよねえ」


 真の返答を聞いて、純子はくすくすと笑う。


「復讐なんて馬鹿のすることだーって言って復讐否定しながら、ずっと復讐の機会伺って、しっかりと復讐を果たしたし。超常の力なんか借りなーいって主張しておいて、ちゃっかり身につけていたし。でもそれ、凄くわかりやすかったなあ」

「嘘鼠の魔法使いにはまんまと騙されていたくせに、そっちも否定するのか?」


 この台詞を口にするのは少し躊躇われたが、思い切って言ってみた。


「ウソネズミのまほーつかい?」

「言いづらいけど言霊を感じる」

「どういうネーミングセンス? と疑問を持つ一方で強い言霊がある」


 真の台詞にまず反応したのは、純子ではなくツグミと伽耶と麻耶だった。


「騙された? 私は騙されていたの? そうは受け取っていないけどなあ。嘘が下手な嘘吐きなんだから、騙されることはないよー。騙されたとも受け取ってないしね」


 純子は全く動揺せずに言ってのける。


「嘘だとわかっている言動とか、わりとわかりやすい嘘も多かったんだよ」

「そう言われると、少し救われるかな。でも……嘘鼠の魔法使いは――僕は、騙しているみたいで心苦しくもあった」


 真の言葉を聞いて、純子の顔から微笑が消えた。


「マスターのこと、自分視点で言っちゃうんだ?」


 意外そうに言いつつ、純子は少し危ぶんでいた。真の心に前世の影響が出て、変質してきたのではないかと。


「僕は前世の自分――嘘鼠の魔法使いは大嫌いだ。だけど、どんなに否定しても同じ魂、同じ人間だし、人格も目論見も違っても、気持ちが通っている部分は確かにある。それに――次第に一つになってきているような気もする」

「そっかー」


 純子が視線を外し、PO対策機構の面々――主に裏通りの知己やマウス達を見渡した。


「ちょっと話題変えようか。他の人達が話についてこられずに呆然としちゃってるし。真君だけじゃなくて、PO対策機構の人達皆に訊きたいんだけど、君達は私の計画を本当に悪いことだと思っているの?」

「そう思っているから君と相対しているんだ! 今更すぎる!」

「純子に全面的に反対しているわけじゃないけど、中枢提携組織だから逆らえない」


 純子の問いかけに、美香ははっきりと拒絶を示し、来夢はあっさりと答えた。


「美香ちゃん、治療不可能な難病を抱えている人も、子供の頃の私のように目が見えない人も、飢餓に苦しむ子も、全て救われる可能性があるのに、それを全てふいにしちゃっていいの?」

「そして犯罪も多発する世の中だ! この半年で思い知ったからな! 日本はまだましだったが、他の国々は悲惨な事になっただろう!」


 純子の問いかけに、美香はきっぱりと言い返す。


「ヨブの報酬が弱体化しちゃうほどだったしねえ。ま、代償やリスク無しってわけにはいかないよ」

「あのね、雪岡先生、その代償で死人ごろごろにするくらいなら、今のままがマシだよ」


 ツグミが口調を男のそれに変えて主張する。


「あれ? ツグミちゃん男の子化した? ていうか、服装もいつの間にか違う」

「最近急に変わる事が有るから、衣装早着替えのスキルも習得したんだ」


 驚く純子に、男装したツグミがにやりと笑う。


 その時、何台もの車が一斉にやってきて、安楽市民球場前に停まる。その中にはパトカーや覆面パトカーもあった。


「敵の増援?」

「いや、新居が手配した、安楽市民球場襲撃部隊だろう」


 身構える熱次郎に、真が告げる。パトカーが混じっている時点でそれは間違いないと、真は判断した。


「おっと、一斉に来たねー」

 純子が微笑み、空間の扉を開く。


 開かれた空間の門から、次々と様々な形状のバトルクリーチャーが飛び出してくる。


「着いた早々、手洗い歓迎だな」


 パトカーから降りた安楽警察署裏通り課の刑事、芦屋黒斗が笑う。他のパトカーからも、安楽市民警察署裏通り課の面々が降りてくる。


「サツの旦那と共闘かよ」

「警察は苦手か? 俺は苦手だ」


 裏通りの始末屋――樋口麗魅とアドニス・アダムスが現れて言った。


「あ、アドニスさんだけじゃなくてオンドレイさんも来た。これは超心強い。私は二人の実力を知っているからそう思う。大船に乗る」

「確かにオンドレイさんの守護神的感覚は凄い。この前はやられていたけど」

「やられていた記憶は速やかに消しておけ」


 超常殺しオンドレイ・マサリクの姿を見て、正美が明るい声をあげ、ツグミが同意する。そしてオンドレイ本人はツグミの方を向いて、むすっとした顔で言った。


「よう、丁度いいタイミングだったか?」


 真の側に停まった車の中から、新居が顔を出して笑いかける。


「まあまあ」

 どうでもよさそうに答える真。


「まあまあかよ。ま、くたばってなくて何よりだ。しかしここからが正念場だぜ」


 新居が言ったその時、全身から棘を生やしてカンガルーのようなバトルクリーチャーが、真の前へと降ってくる。


 直後、ピンクの光る刃が乱舞し、カンガルーもどきのバトルクリーチャーの全身が切り刻まれ、首もはねとばされた。

 ピンクの光る刃は、覆面パトカーから現れた女性の元に戻る。裏通り課の刑事、竹田香苗だ。


 戦いの火蓋が切って落とされる。PO対策機構と戦っているのは、純子の呼び出した大量のバトルクリーチャーだったが、転烙ガーディアン達も多少いる。しかし積極的に戦っているのはバトルクリーチャーで、転烙ガーディアンの兵は後方から消極的な戦いに留めていた。


「こっちの方が戦力不足感あるのは否めないな」


 裏通り課の梅津光器が、銃を撃ちながら言う。


「デビルとかいうのが大暴れして、PO対策機構は消耗しまくったらしいですしね~。いっそ軍隊動かせばいいのに、それもあれやれこれやの事情で出来ないとかですし」


 パトカーにもとれかかったまま、裏通り課刑事の松本完がぼやく。


「後ろ向きなこと言ったら負けよ。口より手を動かせ」


 露骨にさぼっている松本を、香苗が注意する。


「黒斗ちゃん、香苗ちゃん、松本君、補佐をお願いします」


 そう居て進み出たのは、安楽警察署署長の酒井清継だ。


 酒井の体がみるみるうちに膨れ上がる。体色も変化する。身体の形状も所々変化する。


『ピィィィポ君!?』

「何だいあれは……ピィィィポ君じゃないか。」

「巨大ピィィィポ君とはな……」

「酷い天使の降臨だな」


 酒井のことを知らない伽耶、麻耶、マリエ、オンドレイが呆然とした顔になって、巨大ピィィィポ君に変身した酒井を見上げる。エンジェルは知っていたため、余裕をもって皮肉っていた。


 巨大ピィィィポ君がバトルクリーチャーを片っ端から薙ぎ倒していく。


「真面目に相手をしなくていいぞ。とにかく突撃あるのみだ。球場の中に入れ」


 新居が呼びかける。


「ところで真、お前はここで何してんだ?」


 真は球場内が持ち場なのに、どうして出てきているのかという意味で、質問する新居。


「こっちの任務は済んだよ」

「任務? 済んだ?」


 真が答え、純子が訝る。


「いやいや、済んでねーし、純子達がいる前で何余計なこと言ってるんだ」

「思わせぶりに言っておいた方が、混乱すると思って」


 新居が苦笑すると、真は純子を見やりながら言う。


「メガトン・デイズ」


 上空から光の奔流が降り注ぎ、バトルクリーチャー数体を吹き飛ばす。


 空にスモッグ姿の園児が浮かんでいる。園児の右腕にはクロスボウが装着されている。ミルクが手掛けた最強のマウス、つくしの登場だ。


 純子はつくしを一瞥するや否や、その姿を消した。転移した。


 直後、純子がいた場所の地面が大きくへこむ。巨大な肉球の形にへこんでいる。


『相変わらず逃げ足は速いですねー。ま、再生力乏しいから無理もないか』


 現れるなり、問答無用で純子に襲いかかったミルクが、転移した先にいる純子に首を向けて揶揄する。バスケットの中ではなく、白猫の姿で現れている。


「おやおや、こんな大勢の前で堂々と姿を晒しちゃうんだ」


 純子が笑うが、ミルクが本体を晒している意味はわかっている。全力でこの戦いに臨むという事だ。


『グラス・デューでの借りを返してやるですよ』

「いいのかなあ? 連敗記録を更新するだけになるよー?」


 怒気を孕んだ声を発するミルクに、純子がからかい気味に言う。


「次々に来るな。俺達も行くぞ」

「待て」


 戦闘に参加しようとした蟻広を、柚が制した。


「私達は戦わない方がいい。強者同士の争いに巻き込まれては危険だ」

「何言ってるんだ……? ポイントマイナス2だ。俺が力不足だって言うんだろ? だからといって引っ込んでいられるか」


 柚の台詞にむっとして、聞く耳をもたない蟻広。


(今は、雪岡達はミルク達に任せるか)


 純子と向かい合うミルクを見て、真はツグミの側に移動する。


「ツグミ、累が弱った所で……」


 真がツグミに耳打ちすると、ツグミは何とも言えない微妙な表情になった。


「わかったけど真先輩、卑怯じゃない? 弱った所を狙うなんて。いや、セコくない?」

「戦いに卑怯も糞も無い」


 呆れ気味に言うツグミに、真は冷たく言い放った。

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