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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
3364/3386

11

 時間は少し遡る。

 褥通り。安楽市民球場内に潜入するために集められた、PO対策機構の精鋭達が待機している。


「弱者盾パワー委員会会長澤村聖人、遅ればせながら転烙市より帰還しました」

「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」


 新たに二人の人員が追加された。澤村聖人とカバディマンだ。カバディマンはぽっくり市でぽっくり連合に雇われていたが、PO対策機構へと鞍替えした。


「俺達、安楽市民球場襲撃部隊の方じゃなかったの?」


 李磊がシャルルに尋ねる。この二人も潜入班へと回された。


「それがねー、新居が急に配属替えして、俺達をこっちにしたんだよねー」


 シャルルが答える。


「ふーむ、新居の奴は何か予感しているのかもなあ。しかし何を考えているか、少しは明かしてくれればいいのに」

「そんな新居の悪い所、真が結構引き継いじゃっている感があるんだよねー」


 そんな李磊とシャルルの会話の当たり障りない会話に、耳を立てている者がいた。


「一番ニーニーの悪い所を引き継いだのはテルだよね」


 シャルルの台詞を聞いて、修が言う。


「ケッ、別に悪い所は引き継いでねーよ。いい所だけ引き継いだし。俺はあんなにアバウトな人間じゃねーわ」

「結構アバウトな所はある気がするけど」


 輝明が反発すると、ふくが突っ込む。


「すみません、皆さんっ」

 その時、十三号が大声をあげて呼びかけた。


「オリジナルから連絡がありました。球場に入る直前でバレて、純子さんと累君と転烙ガーディアンと戦闘になってしまったので、至急全員援軍に急行せよとのことです」

「第二陣で早々に失敗かよー。これで計画ぽしゃった?」


 十三号の報告を聞いて、皮肉げに笑う二号。


「展開としては難儀じゃが、ぽしゃったわけではあるまいよ。目的の薬品の投与も済ませたらしいしの」

「ぐぴゅ……それを実行したという連絡は来たっスか? 電波傍受されている可能性もあるし、安易に球場の潜入組と連絡取らない方がいいのに」


 チロンの台詞を聞き、史愉が危ぶむ。


「さっさと行きましょ。オリジナル達が危ない」

「ピンチに颯爽と惨状するにゃー」


 十一号と七号が駆け出す。他の面々も一斉に移動を開始する。


「ぐぴゅ。ミルクはまだか」

 移動しながら、史愉が呟いた。


***


 美香は来夢が二回目の重力弾の攻撃を行ったことを見てとり、それに合わせて自身も攻撃した。


「偶然の悪戯!」


 運命操作術を発動させながら銃を撃つ。狙いは純子の上方だ。


 銃弾は重力弾の影響を受け、軌道が強引に下方へと変えられた。それによって銃の速度も威力も損なわれ、あとはただ落下するだけだ。いや、普通ならそうなる。

 美香の運命操作術は、その普通であるはずの物理法則を捻じ曲げた。奇跡の現象へと変えた。銃弾はなお速度と威力を損なわず、純子の上方で直角に折れ曲がり、真上から純子に直撃した。


「これはとんだ跳弾だねえ」


 肩に弾を受けた純子が笑う。美香の攻撃によって純子の意識が逸らされる。


 純子は来夢の重力弾を消そうとしていたが、複数ある重力弾のうち、二つしか消せなかった。美香の銃撃が純子の力の発動を妨げた。


 純子の体がうつ伏せになって地面に押し付けられる。残った重力弾複数を受けてしまった。


「駄目だ……。潰れたカエルにしてやるつもりだったけど、頑丈で潰せない。いや、頑丈だけじゃなくて、同じ力で押し返されているんだ」


 純子が反重力を用いて重力弾を阻んでいる様を見て、来夢は眉をひそめる。


 純子がゆっくりと立ち上がる。


「それならばこれはどうです! ハシビロ魔眼!」


 怜奈が気合いたっぷりに叫び、ヘルムの目の部分を光らす。


「やっぱり抵抗されました~……」


 純子に効いた様子が見えず、一転して情けない声をあげる怜奈。


 エンジェルが銃を撃つ。当たりやすいように殺気は無い。純子そのものは狙わず行動予測した場所に狙いをつけて二発。どちらも低い場所――足を狙った。


 美香もエンジェルに続くように、エンジェルが打ち終えた直後に二発撃つ。こちらも純子は狙わずに行動予測して撃った。こちらは胴体を狙っている。


 純子はどちらも見切って動かない。


 さらにもう二発、エンジェルが追加で撃った。一発は行動予測。もう一発はそのまま純子の腹部を狙った。


 腹部を狙った弾が寸前で止まる。


「おかえし」


 純子が一言呟いて、顔の横で人差し指を弾く。純子のでこぴんの動作に合わせて、念動力が働き、空中で止まった銃弾がエンジェルめがけて撃ち返された。


 エンジェルは回避したつもりであったが、銃弾の軌道はエンジェルの行動予測先を狙っていた。エンジェルの足の付け根を銃弾が貫く。


「堕天使は目がいいのか。一筋縄ではいかないな」


 その場に蹲ったエンジェルが、脂汗を流しながら純子を見る。


「ハシビロフラーイ!」

 怜奈が叫び、高くジャンプする。


「ぐはっ!」


 純子が再びでこぴんを行うと、また念動力による攻撃が行われた。怜奈の体が大きく吹き飛ばされ、近くの建物の壁に激突した。


「あっという間に二人やられた……。俺も攻撃に出た方がいいのかな?」


 亜空間トンネルの中で待機していた克彦が迷う。もしもの時の防御係を務めるつもりでいたが、純子の攻撃が、克彦に味方をかばう暇を与えなかった。いや、もっと注意していれば、エンジェルを護る事はできたかもしれないが。


「こっちはさくっと終わった」

「加勢する」

「え? こっちはもう二人やられてるよ? 綾音と累はいい勝負しているみたいだけど」


 麻耶と伽耶と正美が言う。五人のサイキック・オフェンダーは労せず倒すことが出来た。


「おや、累君と綾音君がやりあっているではないか」

「純子さんも来ている。PO対策機構と戦闘中みたいだね」


 球場内から霧崎とネコミミー博士が現れる。サイキック・オフェンダー達も数人連れてきている。


「おかわりがきた」「敵のわんこそば」

 微苦笑を零す伽耶と麻耶。


「はいはい、あたしが相手しとくよ」


 マリエが敵そっくりの石像を敵の側に出現させる。


「ほう……私の石像は目立つな。自分の体型がこうも人と異なるものとは……」


 自分の石像と他者との石像を見比べて、複雑な気分になり、苦笑する霧崎であった。


「ふむ。敵襲にして敵の数少なめね?」

「少数精鋭で忍び込もうとして見つかったとかじゃないか? 間抜けな展開だしポイント6くらいは引くに値する」


 柚と蟻広も球場の中から出てくる。


「綾音が累と戦っているけど。もしかして綾音が寝返った?」


 柚に言われ、綾音と累が戦っている様を見て、蟻広は愕然とした。


「ふざけんなよ……どういうことだよっ! 師匠!」


 蟻広が怒鳴ったが、綾音は反応しない。一瞥すらしない。


「言われてますよ?」


 累が綾音に向かって剣を振りながら声をかけるが、綾音は答えない。先程から防戦一方に回っている。


 来夢が重力弾をさらに繰り出す。今度は一つ一つを小さくして、数を増やした。そして広範囲に散らした。


 来夢が美香に視線で合図を送る。純子にもその合図は気付かれるだろうが仕方が無い。


「偶然の悪戯!」


 美香が純子を狙って銃を三発撃ちつつ、運命操作術も用いる。純子そのものを狙っているのは一発だけだ。


 来夢が美香の銃撃に合わせて、散らした重力弾のタイミングをそれぞれずらして、純子のいる方に移動させる。


 純子は銃撃を避けた所で、重力弾に押し潰された。

 直後、純子の姿が消えた。転移したのだ。


「運命操作術、効いた?」


 周囲を見回し、どこに転移したのか探りつつ、来夢が美香に尋ねる。


「おそらく効いていない! 100%発動するわけでもない!」


 こちらも周囲を見回して答える美香。


「知ってる。だから確かめた」


 来夢が言ったその時、球場内から真とツグミが現れる姿が見えた。


「出てきたのか!」

「出ちゃいました!」


 美香が叫ぶと、ツグミが笑顔で叫び返す。


「真似するな!」

「真似しちゃいました!」


 美香が叫ぶと、ツグミが笑顔で叫び返す。


「あれれ、真君もいたんだねー」


 空間の扉が開き、純子が姿を現した。亜空間を作って、その中に潜んでいたのだ。


「ああ、ずっと隠れているつもりだったけど、お前が近くにいるから、居ても立ってもいられなくなって出てきたぞ」

「えっ……ええっ……?」


 真の台詞に、純子は動揺してうわずった声をあげる。


「麻耶、今の聞いた? 聞いた?」

 にやにや笑う伽耶。


「伽耶、純子、何勝ち誇ってるの? あんなの真の冗談に決まってる」

「その通り! 真はただ冗談を言っただけだ!」


 動じずに言い張る麻耶と美香。


「いや……私、別に勝ち誇ってないけど……」

 苦笑する純子。


「うん、まあ冗談だ。いや、オーバーに言ってみた」

「ええ~……嬉しかったのに……」


 真があっさりと言うと、純子は愕然とした。


「ほーれ見ろ! ほーれ見ろ!」

「やはりな! 信じていたぞ! 真! はははは!」


 表情を輝かせ、明るい声で叫ぶ麻耶と美香。


「二人して全力で勝ち誇ってるし……」

 亜空間トンネルの中で呆れる克彦。


「美香さんも麻耶さんも、いい加減諦めたらどうかなあ……?」

「私もそう思う。現実見ない振りは苦しいでしょ?」

「うん、傍から見ていても見苦しいよね」


 ツグミの台詞に、伽耶、来夢が同意した。


「糞……どうしたら……」


 一方、累との戦闘で明らかに劣勢に立っている綾音を見て、蟻広は苛立ちと動揺を同時に覚えていた。


「寝返って師につきたいのなら、私も蟻広についていくよ」


 柚が耳元で囁くが、蟻広は応じない。


「人も増えてきましたし、そろそろおしまいにしましょうか」


 綾音の匕首と鍔迫り合いをしながら、累が微笑をたたえて囁く。


 綾音の匕首から火が噴き出すが、累の体には届かない。累は素早く体を沈めてかわしていた。


 下方から逆袈裟で綾音を斬ろうとした累であったが、その行動には至らなかった。転移してその場から離れる。


 青緑色のトマトが、累がいた空間を横切っていた。


「えっへっへっ、何か騒々しいですし、暇なので遊びに来ちゃいました~」


 四つの青緑色のトマトでお手玉をしながら、球場の中から現れた男治がへらへらと笑う。


「伝説の魔人――妖怪造りの第一人者、男治遊蔵。貴方には興味がありました」


 男治を見据えて微笑む累。


「たは~、最強の妖術師と名高い、雫野累さんが私を御存知だったとは、とっても光栄ですね~。私も貴方にとっても興味あったんですよ」


 転移した累の方を向いて、男治が笑顔のまま闘気を滾らせる。

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