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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
3362/3386

9

「どうした柚?」


 柚の様子がおかしいことを察して、蟻広が声をかける。


「いいや。何でも」


 柚は変装している真達から視線を外した。


(来ているな。しかし気付かなかった事にしておけば、危険に巻き込まれずに済む)


 そう判断して、柚は報告しなかった。


「気付かれなかった?」

 熱次郎が柚の後ろ姿を見て呟く。


「いや……柚姉、絶対こっちに気付いていたと思うぜィ」

「気付かなかった振りをしただけで、いきなり仕掛けてくるとか、報告するとか、そういう可能性も考慮した方がいいですね~」


 みどりと男治が言った。


「いきなり危険性が跳ね上がったが、計画はこのまま続行するぞ。後戻り出来るわけもないし」

「ふわぁ~、それってあまりよくない方策だよォ~。地獄に続く大穴に全員で突進する構図になりかねないんだよね。ま、真兄はそれが平常運転だから、みどりは驚かないけどさァ」


 真の方針を聞いて、苦笑いを浮かべるみどり。


「このまましばらく待機ですか~?」

 男治が尋ねる。


「そうなる。伽耶、麻耶、美香、綾音は面倒だが、この調子で、少しずつ連れてきてくれ」

「承知しました」

「了解」

「往復作業、確かにしんどい」

「見返りも期待せず馬車馬のように働く愛の奴隷」


 真に指示を出され、それぞれが答える。


 綾音達が球場の外へと去る。


「みどり、ガオケレナに念話で接触できるか?」

「ふえぇ~……そいつはやめた方がいいよぉ~。ガオケレナの方からはともかく、こっちから何か反応与えると、純姉に悟られる可能性あるぜィ」


 真の要求に、みどりは難色を示した。


「たは~、常にガオレケレナの状態をチェックしている術師か能力者も、いるかもですものね~」


 男治も否定的な見解を示した。


「あれを見てみろ。大木の下。当然のようにモニタリングされている」


 熱次郎が指した場所には、多くの白衣のスタッフが集まり、接地された機材をチェックしていた。


「僕達がガオレケレナと接触した際には、あんな機材置いてなかったな」


 と、真。


「向こうからの接触があった際に、ここの人達に知られちゃうとかはないのー?」

「有り得るけど、ガオケレナもその辺は警戒している……と思いたいよね。相手は人間じゃないから、常識的な思考を期待するのも危険かもだわさ」


 ツグミが口にした疑問に対し、みどりが答える。


「この間の接触具合からすると、十分思慮深いと感じたけど」

 熱次郎が言った。


「で、今から薬品を打ち込んでいいのか?」

「いいと思うぜィ。でももっとガオケレナに接近しないとさァ」


 真の確認に対し、みどりが言った。


「それもまたリスキーだな。伽耶と麻耶がいる間にやっておくべきだった。しくじった」


 後悔してうなだれる自分の姿を思い浮かべる真。


「過ぎたこと言ってもしゃーないのだー。頑張ってミッション達成させよー」


 ツグミが明るい声で促す。


「先程の四名が戻ってきてから、力を借りるのはどうです~?」


 男治が意見する。


「慎重にいくならその方がいい。でもその分、あいつらの負担が増えるし、兵の輸送も薬品の投与も時間がかかってしまう。どっちを取るべきかな」


 思案する真。


「今やるか」

 思案は数秒で終わった。


「慎重に近づこう。怪しまれて声をかけられたら、木を近くで見たくて近づいただけだと言い訳しよう」

「おお、ナイスアイディア」

「全然ナイスじゃないだろ。真らしい適当な言い訳だ」

「ふわ~、同感」


 真の案を聞いて、ツグミは表情を輝かせたが、熱次郎とみどりは顔を曇らせて居た。


 五人で合体木に接近する。魔術の変装効果だけは、術をかけた伽耶が離れてもなお残っている。しかしそれ以外の術の効果は切れている。


「面倒な奴がいる」

 真が警戒を促す。


 合体木の近くに、霧崎とワグナーとネコミミー博士の姿があった。


***


 伽耶、麻耶、美香、綾音は無事褥通りへと帰還した。


 次は来夢、克彦、エンジェル、怜奈、マリエのプルトニウム・ダンディーの面々に、鳥山正美を加えた五名を連れて行く事になった。


「一度に十人も平気か!?」

 美香が案ずる。


「十一人の天使ではないのか?」

「綾音さんに術はかけないので勘定に入れてない!」


 エンジェルの言葉に対して叫ぶ美香。


「こちらはぎりぎりって所」

「美香は平気?」


 伽耶と麻耶が言う。


「こちらもぎりぎりだが……次は少し減らした方がいいと思う!」

「それなら今減らした方がいいだろうさ」


 美香の言葉を聞いて、マリエが主張した。


「私女だけど言わせて。私もマリエさんに賛成。無理してそれで失敗とか目も当てられない。全部台無しになるし、慎重にいかないと」

「しかし回数を重ねれば、疲労もかさみ、危険度も増すという側面もある! どちらが正解かはわからないな!」

「どっちのぜんまいを巻くか、悩みどころだね」


 正美、美香、来夢がそれぞれ言った。


「今天使の天啓があった。このまま全員で行く方が吉だと」

「面倒だからそーしましょー」


 エンジェルの発言に怜奈が同意する。


「私が三人の術の力を増幅しますよ」

 そう申し出たのは黒柿島出身の妖である綿禍だ。


「そんなことが出来るのか! 助かる!」

 綿禍の方を向いて明るい顔で礼を述べる美香。


「オリジナル~、あたし達は~? 暇ー」

「まだだ! 順番だ! 大人しく待機してろ!」


 二号がダルそうな声をあげ、美香が怒鳴る。


「ミルク達が遅れておるのー」

「時間にルーズな糞猫なんてどうでもいいっス」


 チロンが言うと、史愉が悪態をつく。


「姫、黒柿島勢は一人を残して皆死んだらしいぜ」


 鬼の血脈である木島一族の枝野幹太郎が、綿禍を見て囁く。


「気の毒な事よ。然れど我等は断じて滅ぶまじく心がけん」


 木島一族の当主である木島樹が静かに気合いをいれる。


「デビルに殺されそうだ。私や姫の能力まで使っていたそうだぞ。能力コピーとは安易なものよ。これだから最近の若いのは……」


 林沢森造がぼやく。


 十一人で移動し、第二陣が球場へと向かう。


 球場の近くに来た所で、累、純子と遭遇した。全員に緊張が走る。


(よりによってここで純子が現れるなんて!)

(うわー……酷い展開になったもんだなあ)

(運命の神様の魔が差した? 悪戯のぜんまいを巻いた?)


 美香、克彦、来夢が声に出さずに呟く。


「どこに行っていたんです? 綾音。いえ……何をしているんです?」


 累が不審な顔になって声をかける。


「オキアミの反逆経由で、サイキック・オフェンダーの増員と案内を任された所です」


 綾音がポーカーフェイスで告げる。


(これ……誤魔化せられる相手じゃないような……)


 克彦が思う。伽耶と麻耶と美香の三人がかりとはいっても、純子と累の目を欺けられるとは、到底思えない。


***


 霧崎とワグナーとネコミミー博士の目を盗みながら、真達はガオケレナに近付く。


「これ以上は難しいな。横に回り込もう」


 真が言い、側面に回り込んだが、そこも木の根本には研究員が大勢たむろしていた。


「接近は無理だろ」

「ですね~。白衣の研究者ばかりですし、私達が近づいたら怪しまれますよ」


 熱次郎が言い、男治も同意する。


「念動力で薬品打ち込むとか、熱次郎の触手で打ち込むのはどうだろう?」

「駄目だって。念動力は悟られるよォ~」


 真が提案するも、みどりが即却下した。


「俺の触手か……サポートが欲しいな。真、見つかった際の対処も考えてくれよ」


 熱次郎は却下せずに努力してみる構えを見せる。


「わかった。みどり、ツグミ、男治、向こうが気付きそうだったら、あるいは何かあったら、軽くでいい。注意を逸らすような行動をしてくれ」


 真が指示を出す。


「オッケイ、真兄」

「がってんだー……いや、でも何をすればいいかまで私が考えるの? 私頭悪いのにー」


 みどりが頷き、ツグミが小首を傾げる。


「三人同時に気を引くんですか~? それはそれでまた問題な気もします」

「だね。あたし一人で十分だべー」


 男治の意見にみどりが同意し、もしもの時に気を惹く役目は緑一人という事になった。


 熱次郎が触手に薬品を持たせて、地面の中を移動させる。


「触手って穴掘っているんですか?」

「いや、物質を透過して移動できる」

「君から生えているわけでもないんですよね~?」

「ああ、触手だけが独立して動いている感じだな」


 男治の質問に答える熱次郎。


「つまり触手に持たせたものは、カシムみたいに透過できるのか」

「ある程度はな……。小さいものに限るよ」


 真の言葉に対し、熱次郎が頷く。


 ガオケレナの根元まで到着した触手が、地面の中からガオケレナの根に、注射器の針を刺して、薬品を投与する。


「上手くいったぞ……」


 緊張の面持ちで口元に微笑を浮かべ、熱次郎が報告した。


「よっしゃ」

 ツグミが拳を握りしめ、熱次郎の肩に手を置く。


「よくやった。でもこの先もずっと大変だ。少しずつ人員を送り込んで、この場を占拠、その後は防衛し続けなければならない」

「ずっと綱渡りだね~。そしてワンミスでも台無しになっちゃうなんて、鬼畜ハードだあ。寿命縮む~」


 真とツグミが言う。


「ツグミはそのうち不老化処理してもらおう」

「ええっ、何で~?」


 真の言葉に驚くツグミ。


「その方が都合がいい」

「それ、真兄にとっての都合のよさだよねえ……」

「ツグミは永久に真のパシリにされるわけか。おそらく伽耶と麻耶も一緒に」


 真の意図を汲み取り、呆れるみどりと熱次郎。


「永久パシリっ。永遠に魂が解放されない奴隷っ」

「可哀想にな」


 ムンクの叫びのポーズを取るツグミを見て、熱次郎が笑う。


「他人事じゃねーべ、熱次郎もだわさ」

「ええ~……」


 みどりの言葉を聞き、熱次郎が嫌そうな顔になった。

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