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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
3361/3386

8

 彼女は大きな志を掲げた。そして抱えた。


『私は師の偉大さを証明させるためにも、私達妖がこそこそ隠れて生きずに済むためにも、妖が支配権を持つ世界を創る。犠牲を出す事なく、無血でな』


 そう宣言したミルクを、同じ術師によって作られた黒猫エボニーは、冷めた目で見ていた。


『ゆめみんのもたいがいにしろにゃー。このばかねこがー。とっととめをさますにゃー』


 エボニーにそう言われ、その後ことあるごとに喧嘩するようになり、ついには所属していた組織であるオーマイレイプも離れた。


 独立したミルクは、公の場ではネット上でのみ現れる存在でありながらも、数々の功績を詰み、マッドサイエンティスト三狂の一人として数え上げられるに至る。

 ミルクは野心を忘れていない。歩みも止めていない。しかし自分の道程を省みるに、本当に正しかったとも言い切れない。現状にはとても満足がいかない。


 そして今の純子を意識する。自分と比較する。


(結局私は大した行動をしていない。純子はこれだけのことをやっているってのに。無血というのは確かに無理があったと思うけど、私は誰かを犠牲にしてまで理想を叶えたいなんて思えない。その時点でマッドサイエンティストと呼ばれるには適合していないが)


 現実と理想の相克を意識する。怒りが湧き、悔しさとやるせなさを覚え、自己憐憫に浸りそうになって、それがみじめと感じる。


(三狂なんて言われているが、好き勝手しまくりでルール無視しているだけで、霧崎も私も言う程マッドでもない。純子のアホだけだな。本当の意味でマッドサイエンティストっぽいのは)


 思考をそらして、ネガティブマインドを回避しようとするが、上手くはいかない。


(グリムペニスに入ったのは進展だと思う。人外も集めまくっている組織だしな。私の理想に少しずつ進んでいる。しかし……純子と比べるとどうしても劣っていると意識してしまうし、ここから先は……あまり進まないような気がしてならない)


 再び落ち込みそうになったので、気を紛らわせるために、勇気に電話をかける。


『調子はどうだ?』

『最悪だ。療養中だ。暇だ。戦力望んでいるなら期待するな。流石に首をはねられたのはキツかった。大鬼の癒しの力でも完治できていない』


 ひどくか細い声が返って来たので、ミルクは少し驚いた。


『そうか。お前の弱々しい声は新鮮だが、あまり聞きたいものでもないですね』

『猫、何か悩んでいるのか?』


 勇気の指摘に、ミルクはまた少し驚いた。


『そう……かもな』


 否定するのも格好が悪いと感じ、曖昧に答える。


『勇気、お前はいつまで支配者を続ける? それと、グリムペニスの頭を務め続ける?』

『そんなこと知るか。今すぐ辞めることはないと思うが、ずっと続ける保障も無い。未来の俺の気分なんて俺にもわからない』

『そうか……』

『お前を見放すことは無いぞ。情けない威張りん坊の猫め。慰めてほしければ俺の所まで来るんだな。撫でてやる』

『ふん……。純子の奴をぶっ飛ばしたら、祝勝に足を運んでやるですよ』


 勇気の言葉を聞いて、ミルクは元気が戻った。何のかんの言って、ミルクは勇気のことが気に入っている。声を聞いても、側に寄っても、撫でられていても、気分が落ち着く。


(行くとするか)


 ミルクは立ち上がり、倶楽部猫屋敷を見渡した。いるのはバイパーとつくしとナルだけだが、連れていくのは二人だけだ。


『バイパー、つくし、行くぞ』

「桜が置いてきぼりにされたことでぼやいてるぜ」

『知るか。土産にガムか飴でも買っていってやれ』


 バイパーの言葉を聞き、ミルクは鼻を鳴らして言い放った。


***


「はくしょんっ。うわ、出ちまった」


 くしゃみをしたはずみに、ガムを吐き出してしまう蟻広。


「噂をされているのか?」

 柚が微笑む。


「そーかねもな。勝手に人の噂した奴のポイントマイナス3だ」

「3も引くの? 結構大きいのね」


 蟻広の台詞話聞いて、柚が意外そうに言う。


「あとはガオケレナが種子を世界に撒くまで、ここを防衛しきるだけになる?」

「そうなるな」


 柚の確認に頷く蟻広。二人は安楽市民球場内部の警護をしていた。


「純子は勝つだろうか?」

 柚が案じる。


「優勢かつ順調だろ。目的達成のタイムリミットあと少しに迫ってるんだからよ。ま、最後の最後まで油断はできないけどな」

「こちらも沢山の犠牲が出たね。勤一と凡美も死んでしまった」


 うつむき加減になり、憂い顔で言う柚。


「蟻広、お前は死ぬなよ。いや、私が護る」

「な、何言ってんだ。突然」


 顔を上げ、決意を露わにする柚に、蟻広は動揺する。


「マイナスは許さない」

「減点はしないけどよ……。ま、柚の方が俺よりずっと強いんだから、そういう構図になるのも無理ねーけど、男が女に護ってもらうってのも、格好がつかねーもんだ」

「格好なんてどうでもいい。私はずっと蟻広の側にいると決めた」

「え……? そ、それは……死亡フラグっぽく……いや、そうじゃなくて……お前……」

「恥じなくてもいい。私がこの世で最も信じているのは君なのよ」


 たおやかな微笑をたたえて言い切る柚から、蟻広は視線を外す。


「二人称もころころ変化して世話無いな。マイナス0.4」


 蟻広が小声で言う。


「途方も無い長い年月封じられていた私を、君が解放してくれた。世界へと連れ出してくれた。私の大恩人だ。私が守護神となりて、側にいて尽くす」

「大真面目にそんな宣言するなよ……。どう返したらいいんだよ……」


 柚をちらちらと見やりながら、蟻広は顔が熱を帯びていることを感じていた。


「しかし一番いいのは、この戦いから抜ける事だね。危険度がどんどん増している」


 柚が笑みを消して言うと、蟻広の熱は急に冷めた。


「それは出来ない相談だろ。半年間、俺等は信じる道を歩いてきたんだ。途中で放り出したくないわ」


 蟻広がはっきりと告げると、柚小さくかぶりを振る。


「ごめん。私は君や純子に借りを返しているニュアンスが強かったから、そういうこだわりは無いぞ」

「んー……」


 柚の言い分もわからなくもないので、蟻広は弱ってしまう。


「わかったよ。ヤバくなったら命を優先しようぜ。でも……やっぱりここまでやってきたことを、安易に投げだしたくはない」

「そうか。なら付き合うまでだ。今も行った通り、私は君に尽くすし護る」


 蟻広の意思を聞いたうえで、柚は再度宣言した。


***


 綾音の手引き、伽耶と麻耶による変装と認識の誤魔化し、美香の運命操作術によるガードによって、何度にも分けて少人数を安楽市民球場の中へと運び込む作戦。第一陣は、真、みどり、熱次郎、男治、ツグミの五名だった。


 入口にいるサイキック・オフェンダーの兵士には、綾音が援軍だと告げた。それですんなり中に入れた。


「すごくあっさりと入れた」

「気付かれないものですね~。いえ、御三人の能力が凄いんですね~」


 意外そうに言う熱次郎と、感心する男治。


「二回目だしな。前回はカシムの協力があったが」

「今度はもっとシンプル」

「認識を狂わせて、私達を味方と認識するように見せている」


 真、伽耶、麻耶が言う。


「綾音もいるからやりやすいだろうな。綾音と一緒にいるという事で、味方という認識が余計に強くなる。そして美香の運命操作術の保険と底上げだ」


 これなら気付かれる可能性の方が低いと真は見なす。


「ふわぁ~、このまま何事も無ければいいねえ」


 みどりが言ったその時、見知っている者の存在を確認した。


(いざという時は、ガオケレナも協力して欲しい所だ。僕達を問答無用で転移するくらいの力はあるんだし)


 真は思う。


「真兄、あれ……」

 みどりが真の袖を引っ張り、ある人物を指差した。


「あいつは……」


 柚がこちらを真っすぐ見つめている。明らかに不審な目でこちらを見ている。


「三人がかりの術も効いていないのか!?」


 美香が思わず声をあげるが、その叫び声さえ、周囲にうじゃうじゃいるサイキック・オフェンダーには不審に思われない。


「イェア、あいつなら見破っても頷けるぜィ」

「かなりの力の持ち主のようですね」


 柚を見据え、みどりと綾音が緊張を高める。

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